メトトレキサートで抑えきれない関節リウマチ―次の一手は「破壊を止める」生物学的製剤
第112回医師国家試験 C問題 第42問
国試問題にチャレンジ
45歳の女性。関節痛の増悪を主訴に来院した。5年前に両手指関節,両手関節および両肘関節の痛みが出現した。関節リウマチと診断され,サラゾスルファピリジン,非ステロイド性抗炎症薬および少量の副腎皮質ステロイドが処方された。2年前から関節痛が強くなったため,メトトレキサートの投与が開始され痛みは軽減したが,3か月前から増悪し,メトトレキサートが増量されたが効果は不十分で,日常の動作も困難となったため受診した。心音と呼吸音とに異常を認めない。両側の示指,中指,環指の中手指節関節〈MP関節〉と両手関節および両肘関節の腫脹と圧痛とを認める。血液所見:赤血球420万,Hb 12.9g/dL,Ht 39%,白血球7,200。血液生化学所見:AST 16U/L,ALT 20U/L,尿素窒素12mg/dL,クレアチニン0.5mg/dL。免疫血清学所見:CRP 2.8mg/dL,リウマトイド因子〈RF〉122IU/mL(基準20未満),抗CCP抗体86U/mL(基準4.5未満)。HBs抗原,HBs抗体,HBc抗体,HCV抗体および結核菌特異的全血インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉は陰性である。 次に投与する薬剤として適切なのはどれか。
- a.アスピリン
- b.コルヒチン
- c.抗TNF-α抗体製剤
- d.シクロホスファミド
- e.免疫グロブリン製剤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
関節リウマチの治療目標は痛みの緩和ではなく、滑膜炎を抑えて関節破壊を防ぎ、寛解または低疾患活動性に到達することです。メトトレキサートを中心とした従来型抗リウマチ薬で目標に届かず、リウマトイド因子・抗CCP抗体の高値や高い疾患活動性といった予後不良因子があれば、抗TNF-α抗体製剤などの生物学的製剤やJAK阻害薬を追加します。投与前には潜在性結核(IGRA・胸部画像)とB型肝炎ウイルス(HBs抗原・HBs抗体・HBc抗体)のスクリーニングが必須で、問題文の陰性結果はその確認を示しています。NSAIDsは対症療法にとどまり、コルヒチンは痛風など、シクロホスファミドは重症膠原病や血管炎、免疫グロブリンは川崎病やITPなどに用いる薬です。治療段階・予後不良因子・投与前スクリーニングをセットで理解することが、実臨床での安全なリウマチ診療につながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・45歳女性。5年前から両側の手指・手関節・肘関節に多発関節炎があり、関節リウマチ(RA:rheumatoid arthritis)と診断されている。 ・サラゾスルファピリジン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、少量の副腎皮質ステロイドで治療されたが増悪し、2年前からメトトレキサート(MTX)が開始された。一時は効果がみられたが、3か月前から再燃し、増量しても効果不十分で日常生活動作が困難になっている。 ・身体所見では両側の示指〜環指のMP関節、両手関節、両肘関節に腫脹と圧痛があり、左右対称性の滑膜炎が持続している。 ・CRP 2.8mg/dLと炎症反応が上昇しており、リウマトイド因子(RF)122IU/mL、抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)86U/mLはいずれも高値陽性である。 ・肝機能・腎機能は正常で、HBs抗原・HBs抗体・HBc抗体・HCV抗体はすべて陰性、結核菌特異的全血インターフェロンγ遊離測定法(IGRA)も陰性である。
病態の判断
以上から、本例は「MTXを十分量使用しても疾患活動性が高いまま残る関節リウマチ」である。RF・抗CCP抗体の高値陽性、高い疾患活動性は、関節破壊が進行しやすい予後不良因子とされる。関節リウマチでは、発症早期から滑膜炎を抑えて骨・軟骨の破壊を防ぐことが治療の目標であり、痛みを和らげるだけの治療では不十分である。
治療方針の考え方
関節リウマチの治療は、寛解(またはそれが難しい場合は低疾患活動性)を目標に、3〜6か月ごとに疾患活動性を評価して治療を強化していく(Treat to Target)。 ・第1段階:MTXを中心とする従来型合成抗リウマチ薬(csDMARD)で開始する(MTXが使えなければ他のcsDMARD)。 ・第2段階:目標に達しない場合、予後不良因子があれば生物学的製剤(bDMARD)またはJAK阻害薬を追加する。予後不良因子がなければ別のcsDMARDへの変更・併用も選択肢となる。 本例はMTX効果不十分で予後不良因子もあり、生物学的製剤の追加が妥当な段階である。生物学的製剤は感染症、とくに結核の再燃とB型肝炎ウイルス(HBV)の再活性化に注意を要するため、投与前にIGRAや胸部画像による結核の評価、HBs抗原・HBs抗体・HBc抗体による肝炎ウイルスの評価を行う。本例ではこれらがすべて陰性で、腎機能・肝機能・血球数にも問題はなく、生物学的製剤を開始できる条件が整っている。選択肢の中では抗TNF-α抗体製剤がこれに該当する。
選択肢考察
- ×a. アスピリン
アスピリンはNSAIDsの一つで、関節の痛みやこわばりを和らげる対症療法にはなるが、滑膜炎の進行や関節破壊を抑える作用はない。かつては大量のアスピリンが関節リウマチ治療の中心だった時代もあるが、現在は疾患をコントロールする薬としては用いない。本例ではすでにNSAIDsが投与されており、さらにNSAIDsを追加しても疾患活動性の改善は期待できない。加えて、NSAIDsはMTXの腎排泄を低下させて副作用を強めることがあり、消化性潰瘍のリスクも増すため、次の一手として不適切である。
- ×b. コルヒチン
コルヒチンは好中球の微小管重合を阻害して遊走・活性化を抑える薬で、痛風発作の予防や前兆期の頓用、家族性地中海熱、Behçet病などに用いられる。関節リウマチの滑膜炎を抑えたり関節破壊を防いだりする効果は確立しておらず、適応はない。
- ○c. 抗TNF-α抗体製剤
TNF-α(腫瘍壊死因子α)は関節リウマチの滑膜炎の中心となる炎症性サイトカインで、滑膜の増殖、破骨細胞の活性化による骨びらん、軟骨破壊に深く関わる。抗TNF-α抗体製剤(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブ ペゴルなど)はこれを中和し、炎症を抑えるだけでなく関節破壊の進行を強く抑制する。MTX効果不十分で予後不良因子(RF・抗CCP抗体の高値陽性、高い疾患活動性)をもつ本例は生物学的製剤の追加が推奨される段階である。投与前に必要な結核(IGRA)とHBV・HCVのスクリーニングがすべて陰性で、投与を妨げる因子もないため、次に投与する薬剤として適切である。なお、インフリキシマブはMTXとの併用が必須であり、他の抗TNF製剤もMTXと併用したほうが効果が高い。
- ×d. シクロホスファミド
シクロホスファミドはアルキル化薬に属する強力な免疫抑制薬で、ループス腎炎などの重症全身性エリテマトーデス、ANCA関連血管炎、膠原病に伴う重症間質性肺炎などに用いられる。関節リウマチでも、血管炎を合併した悪性関節リウマチ(リウマトイド血管炎)では使用されることがある。しかし関節炎そのものの治療薬ではなく、本例には血管炎を示す所見もないため、骨髄抑制・出血性膀胱炎・性腺障害・発癌などの重い副作用を考えると適応とならない。
- ×e. 免疫グロブリン製剤
免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)は、川崎病、免疫性血小板減少症(ITP)、Guillain-Barré症候群、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)、原発性免疫不全症などに用いられる。関節リウマチに対する有効性は示されておらず、適応はない。
関節リウマチの治療薬の分類
・従来型合成抗リウマチ薬(csDMARD):MTX(アンカードラッグ=治療の中心となる薬)、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、レフルノミド、イグラチモド、タクロリムスなど ・生物学的製剤(bDMARD) - TNF阻害薬:インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブ ペゴル(以上は抗体製剤)、エタネルセプト(受容体融合蛋白) - IL-6受容体阻害薬:トシリズマブ、サリルマブ - T細胞共刺激阻害薬:アバタセプト(CTLA4-Ig) ・分子標的型合成抗リウマチ薬(tsDMARD):JAK阻害薬(トファシチニブ、バリシチニブ、ウパダシチニブ、フィルゴチニブなど) ・補助的な薬:NSAIDs(疼痛緩和)、少量の副腎皮質ステロイド(短期間の橋渡し的使用にとどめ、できるだけ早く減量・中止する)
MTXの注意点
・腎排泄のため、腎機能障害では減量または禁忌となる。 ・副作用:骨髄抑制、肝障害、間質性肺炎、口内炎、感染症など。副作用予防に葉酸を併用する。 ・妊娠中は禁忌であり、妊娠を希望する場合は休薬が必要である。
生物学的製剤・JAK阻害薬を始める前のスクリーニング
・結核:問診、IGRAまたはツベルクリン反応、胸部X線(必要に応じてCT)。潜在性結核感染があればイソニアジドの予防内服を行う。 ・B型肝炎:HBs抗原が陽性ならHBV-DNAを測定し、核酸アナログ投与を考慮する。HBs抗原陰性でもHBs抗体またはHBc抗体が陽性であれば既往感染であり、肝細胞内にHBVが潜んでいるため、免疫抑制下で再活性化(de novo B型肝炎)を起こしうる。HBV-DNAを定期的に監視する。 ・その他:C型肝炎、ニューモシスチス肺炎のリスク評価(β-D-グルカン、胸部画像)、間質性肺炎の有無、心不全(TNF阻害薬は重症心不全で禁忌)、脱髄疾患の既往の確認など。
疾患活動性の評価
DAS28(28関節の圧痛・腫脹関節数、赤沈またはCRP、患者全般評価から算出)、SDAI、CDAIなどの指標を用い、寛解または低疾患活動性を目標に治療を調整する。
POINT
・関節リウマチの治療の中心(アンカードラッグ)はMTXである。 ・MTXで目標(寛解・低疾患活動性)に達せず、予後不良因子(RF・抗CCP抗体高値、高疾患活動性、早期の骨びらん)があれば、生物学的製剤またはJAK阻害薬を追加する。 ・生物学的製剤の投与前には結核(IGRA・胸部画像)とB型肝炎(HBs抗原・HBs抗体・HBc抗体)のスクリーニングが必須である。 ・NSAIDsは対症療法で関節破壊を抑えない。コルヒチンは痛風・家族性地中海熱、シクロホスファミドは重症の膠原病・血管炎、免疫グロブリンは川崎病・ITP・Guillain-Barré症候群などに用いる。
