バイト中の指のけがは誰が払う?―「業務上か業務外か」で決まる保険の使い分け
第112回医師国家試験 B問題 第37問
国試問題にチャレンジ
21歳の男性。左示指の切創を主訴に来院した。飲食店のアルバイトをしている際に受傷した。 適用となる保険はどれか。
- a.傷害保険
- b.協会けんぽ
- c.国民健康保険
- d.組合管掌健康保険
- e.労働者災害補償保険
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
業務中や通勤中に生じた負傷・疾病は労働災害として扱われ、患者がどの医療保険に加入しているかにかかわらず、労働者災害補償保険(労災保険)が適用されます。労災保険はアルバイトやパートを含め雇用形態を問わず労働者を対象とし、保険料は全額事業主負担で、療養補償給付に患者の自己負担はありません。協会けんぽ・組合管掌健康保険・国民健康保険はいずれも業務外の傷病を対象とする公的医療保険であり、傷害保険は任意加入の民間保険であるため、本例には該当しません。労災の認定では業務遂行性と業務起因性が判断基準となり、療養のほか休業・障害・遺族への給付も行われます。受傷状況を問診で確認することは、適切な保険制度で患者を支えるという臨床医の実務にも直結します。
解答・解説
正解はeです
状況の整理
・21歳男性が、飲食店でアルバイトとして働いている最中に左示指を切った。 ・つまり、事業主に雇われて働いている労働者が、業務に従事している間に負傷した事例である。
考え方
仕事中(業務上)や通勤途中の負傷・疾病は「労働災害」と呼ばれ、その治療費や休業中の所得補償は、労働者災害補償保険(労災保険)から給付される。労災保険は、労働者を一人でも雇用する事業所に原則として加入が義務づけられた国の制度で、保険料は全額事業主が負担する。対象となる「労働者」には、正社員だけでなくアルバイト、パートタイマー、日雇いなど、雇用形態や勤務時間を問わず賃金を受けて働く人すべてが含まれる。 一方、健康保険(協会けんぽ・組合健保)や国民健康保険などの公的医療保険は、業務外の病気やけがを対象とする制度であり、業務上の災害には原則として使えない。したがって本例で適用されるのは労災保険であり、患者がどの医療保険に加入しているかは問題にならない。医療機関の窓口でも、業務中・通勤中の受傷であれば健康保険証ではなく労災として扱い、患者の自己負担は生じない。
選択肢考察
- ×a. 傷害保険
傷害保険は、急激かつ偶然な外来の事故によるけがに備えて、個人や団体が任意で民間保険会社などと契約する保険であり、公的な制度ではない。本患者が加入しているかどうかは不明で、仮に加入していても契約に基づいて保険金が支払われるにとどまる。業務中の負傷に対して制度として適用されるのは労災保険である。
- ×b. 協会けんぽ
協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)は、主に中小企業の被用者とその被扶養者が加入する公的医療保険である。健康保険は業務外の疾病・負傷を対象とする制度であり、業務中に起きた本例の切創には適用されない。
- ×c. 国民健康保険
国民健康保険は、市町村(特別区を含む)と都道府県、または国民健康保険組合が運営し、自営業者、農林漁業者、無職者、被用者保険の加入条件を満たさない短時間労働者などが加入する公的医療保険である。アルバイトの若者が加入していることも多いが、業務上の負傷は労災保険で扱うため、本例には適用されない。
- ×d. 組合管掌健康保険
組合管掌健康保険(組合健保)は、主に大企業や同業種の企業が設立した健康保険組合が運営する被用者向けの公的医療保険である。協会けんぽと同様に業務外の傷病が対象であり、業務中の受傷である本例には適用されない。
- ○e. 労働者災害補償保険
労災保険は、業務上の事由または通勤による労働者の負傷・疾病・障害・死亡に対して、療養(補償)給付や休業(補償)給付などを行う公的保険である。アルバイトも雇用形態にかかわらず「労働者」に含まれ、飲食店での勤務中の切創は業務災害にあたる。したがって本例ではこの保険が適用され、治療費の自己負担はない。
日本の主な公的医療保険
・被用者保険(職域保険) 協会けんぽ:中小企業の被用者が中心。全国健康保険協会が保険者。 組合管掌健康保険:大企業などが設立した健康保険組合が保険者。 共済組合:国家公務員、地方公務員、私立学校教職員など。 船員保険:船員。 ・地域保険 国民健康保険:自営業者、無職者、被用者保険に加入しない人など。 ・後期高齢者医療制度:75歳以上(一定の障害がある65歳以上を含む)。 これらはいずれも業務外の傷病を対象とし、医療費の一部(原則1~3割)を窓口で自己負担する。
労働者災害補償保険(労災保険)の要点
・根拠法:労働者災害補償保険法。所管は厚生労働省、窓口は労働基準監督署。 ・対象:業務災害(業務が原因の負傷・疾病)と通勤災害。 ・適用:労働者を一人でも使用する事業は原則として強制適用。正社員・アルバイト・パートなど雇用形態を問わない。 ・保険料:全額事業主負担(労働者の負担なし)。 ・主な給付:療養(補償)給付(治療費、自己負担なし)、休業(補償)給付、障害(補償)給付、遺族(補償)給付など。 ・業務災害の認定では、業務遂行性(事業主の支配下にあったか)と業務起因性(業務と傷病に因果関係があるか)が判断基準となる。
民間保険との違い
傷害保険や生命保険などの民間保険は任意加入の契約であり、公的保険とは別に、契約内容に従って支払われる。
POINT
・業務中や通勤中のけが・病気には労災保険が適用され、健康保険・国民健康保険は使わない。 ・アルバイトやパートも労災保険の対象となる労働者である。 ・労災保険の保険料は全額事業主負担で、療養給付に患者の自己負担はない。 ・協会けんぽ・組合健保・国民健康保険は業務外の傷病に対する公的医療保険である。
