StudyMed医師国家試験

飲みすぎた夜の鮮血―Mallory-Weiss症候群は「縦に浅く裂けて、自然に治る」

第112回医師国家試験 A問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第112回 A問題 第5問

Mallory-Weiss症候群について正しいのはどれか。

  1. a.自然治癒する。
  2. b.裂創は横走する。
  3. c.病変は壁全層に及ぶ。
  4. d.胃大彎側に好発する。
  5. e.十二指腸にも病変が存在する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、激しい嘔吐のあとに吐血をきたす代表的な疾患、Mallory-Weiss症候群の基本知識を問う問題だ。着眼点は「どこが」「どの向きに」「どの深さまで」裂けるのか、そしてその結果どんな経過をたどるのか、の4つ。まず、どんな場面で起こる病気か覚えているかな。
医学生医学生
飲み会のあとに何度も吐いて、最後に血を吐いた、というのが典型だと消化器内科の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。最初は胃の内容物だけだったのに、繰り返すうちに鮮血が混じる、という経過がポイントだね。飲酒以外にも、つわり、乗り物酔い、抗癌薬による悪心、さらには上部消化管内視鏡検査中の嘔吐反射でも起こりうる。では、なぜ嘔吐で粘膜が裂けるのだろう。
医学生医学生
吐くときにお腹に力が入って、胃の中の圧が急に上がるからでしょうか。
ドクタードクター
いいね。腹圧と胃内圧が急上昇すると、噴門部が食道側へ押し上げられるようにして、食道胃接合部の粘膜が長軸方向に強く引き伸ばされる。だから裂創は食道胃接合部から胃噴門部、特に小彎側にでき、形は縦に走る線状になるんだ。
医学生医学生
縦に引っ張られるのに、裂け目も縦なんですか。紙を引っ張ると引っ張った方向と直角に破れるイメージがあって、横に裂けるのかと思っていました。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。ただ、内視鏡で実際に見える裂創は消化管の長軸に沿った縦走の線状裂創で、これは知識として押さえておこう。1本のことが多いけれど、複数本みられることもある。したがって「横走する」は誤りだ。
医学生医学生
好発部位も小彎側なので、胃大彎側というのは違いますね。十二指腸にも病変があるというのも、伸展がかかるのは接合部付近だけだから考えにくいです。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。病変は食道胃接合部付近に限られる。吐血の原因で十二指腸といえば、むしろ十二指腸潰瘍を思い浮かべてほしい。では深さはどうだろう。
医学生医学生
吐血が主体ということは、壁全体が裂けるわけではない、ということでしょうか。
ドクタードクター
そう。裂創は粘膜から粘膜下層までの浅い損傷にとどまる。壁の全層が裂けて縦隔や胸腔に穿孔するのは特発性食道破裂、いわゆるBoerhaave症候群で、ここが両者の最大の違いなんだ。
医学生医学生
なるほど。浅い傷だから、正解は「自然治癒する」ですね。
ドクタードクター
正解。おおむね8〜9割は自然に止血して、数日から1週間ほどで治癒する。治療は絶食・輸液と、プロトンポンプ阻害薬などの酸分泌抑制薬による保存的治療が基本。内視鏡で活動性の出血や露出血管があれば、クリップ法などで内視鏡的止血を行う。外科手術が必要になることはまれだよ。
医学生医学生
Boerhaave症候群は同じように嘔吐がきっかけなのに、全然違う病気なんですね。CBTの問題で胸痛と縦隔気腫が出てきた記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。Boerhaave症候群は下部食道の左側壁に好発し、激しい胸痛・背部痛、呼吸困難、ショック、皮下気腫をきたす。画像では縦隔気腫や左胸水、気胸がみられ、水溶性造影剤による食道造影やCTで漏出を確認する。内視鏡は送気で悪化させるおそれがあるので慎重に、そして原則は緊急手術だ。
医学生医学生
嘔吐のあとに「血を吐いた」ならMallory-Weiss、「胸が激しく痛い」ならBoerhaaveを考える、という切り分けですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点も。吐血の患者を診たら、まずバイタルサインを確認して静脈路を確保し、輸液や必要に応じた輸血で循環を安定させてから緊急内視鏡で出血源を探す。上部消化管出血の原因は消化性潰瘍が最も多く、ほかに食道・胃静脈瘤、急性胃粘膜病変、胃癌なども鑑別に挙がる。特に飲酒歴のある人では静脈瘤破裂との見極めが重要だ。
医学生医学生
救急外来の実習で、吐血の患者さんにまずルートを2本取っていたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
そう、診断より先に循環の安定。そのうえで内視鏡で原因を確かめる、という順番を身につけておこう。

まとめ

Mallory-Weiss症候群は、飲酒後などの激しい嘔吐によって腹圧・胃内圧が急上昇し、食道胃接合部から胃噴門部(特に小彎側)の粘膜に縦走する線状裂創が生じて吐血をきたす疾患です。裂創は粘膜〜粘膜下層までの浅いものであるため、多くは自然に止血・治癒し、治療は絶食・輸液・酸分泌抑制薬による保存的治療が基本で、活動性出血にはクリップ法などの内視鏡的止血を行います。一方、同じく嘔吐を契機としながら食道壁全層が破裂するのが特発性食道破裂(Boerhaave症候群)で、下部食道左側壁に好発し、胸痛・縦隔気腫・胸水を伴い緊急手術を要します。病変の部位・向き・深さを病態から理解しておくと、両者の鑑別や吐血患者の初期対応を筋道立てて考えられるようになります。

解答・解説

正解はaです

問われていること

Mallory-Weiss症候群の病態・好発部位・病変の深さ・経過についての基本知識を問う問題である。

病態の要点

Mallory-Weiss症候群は、激しい嘔吐やむかつき(嘔吐反射)を繰り返したときに、食道胃接合部付近の粘膜が裂けて出血する疾患である。典型例は、飲酒後に何度も嘔吐し、はじめは胃内容物だけだったのが、その後に鮮血を吐く、という経過をとる。飲酒のほか、つわり(妊娠悪阻)、乗り物酔い、抗癌薬の副作用、上部消化管内視鏡検査中の嘔吐反射なども誘因となる。 機序としては、嘔吐の際に腹圧と胃内圧が急に上がり、胃の噴門部が食道側へ押し上げられるようにして、食道胃接合部の粘膜が縦方向に強く引き伸ばされる。その結果、 ・部位:食道胃接合部から胃噴門部、特に小彎側 ・形:長軸方向(縦)に走る線状の裂創 ・深さ:粘膜〜粘膜下層までの浅い裂創(全層には及ばない) という特徴をもつ病変ができる。

経過と治療

裂創は浅いため、多くの例(おおむね8〜9割)は自然に止血し、数日〜1週間程度で治癒する。治療は絶食・輸液と酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬など)による保存的治療が基本で、内視鏡で活動性の出血や露出血管を認める場合には、クリップ法などの内視鏡的止血術を行う。 これらを踏まえると、正しいのは「自然治癒する」である。

選択肢考察

  1. ○a.  自然治癒する。

    正しい。裂創が粘膜〜粘膜下層までの浅いものであるため、大部分は保存的治療のみで自然に止血し、数日から1週間程度で上皮が再生して治癒する。出血が持続する場合や内視鏡で噴出性出血・露出血管がみられる場合はクリップによる止血を行うが、外科手術が必要になることはまれである。

  2. ×b.  裂創は横走する。

    誤り。嘔吐時の急激な内圧上昇で食道胃接合部が長軸方向に引き伸ばされるため、裂創は消化管の長軸に沿って縦に走る線状の形をとる(縦走裂創)。1本のことが多いが、複数本みられることもある。

  3. ×c.  病変は壁全層に及ぶ。

    誤り。Mallory-Weiss症候群の裂創は粘膜から粘膜下層までにとどまる浅い損傷である。食道壁の全層が裂けて縦隔や胸腔に穿孔するのは特発性食道破裂(Boerhaave症候群)であり、両者の最大の違いが病変の深さである。全層性の破裂では縦隔気腫・胸水・縦隔炎を起こし、緊急手術が必要な重篤な病態となる。

  4. ×d.  胃大彎側に好発する。

    誤り。好発部位は食道胃接合部から胃噴門部にかけてで、特に小彎側に多い。胃の大彎側(胃体部の外側のカーブ)は嘔吐時の伸展による裂創の好発部位ではない。

  5. ×e.  十二指腸にも病変が存在する。

    誤り。病変は嘔吐時に強い伸展力がかかる食道胃接合部付近に限られ、十二指腸に裂創を生じる疾患ではない。吐血をきたす十二指腸病変としては十二指腸潰瘍が代表的であり、吐血の原因検索ではこれらを内視鏡で鑑別する。

Mallory-Weiss症候群と特発性食道破裂(Boerhaave症候群)の比較

・共通点:いずれも激しい嘔吐(飲酒後が多い)を契機に起こる ・損傷の深さ:Mallory-Weiss症候群は粘膜〜粘膜下層の裂創、Boerhaave症候群は食道壁全層の破裂 ・好発部位:Mallory-Weiss症候群は食道胃接合部〜胃噴門部小彎側、Boerhaave症候群は下部食道の左側壁(左後壁) ・主症状:Mallory-Weiss症候群は吐血(鮮血)、Boerhaave症候群は激しい胸痛・背部痛、呼吸困難、ショック、皮下気腫 ・画像:Boerhaave症候群では縦隔気腫・左胸水・気胸を認め、水溶性造影剤による食道造影やCTで漏出を確認する(内視鏡は送気で悪化させるおそれがあり慎重に) ・治療:Mallory-Weiss症候群は保存的治療(必要時に内視鏡的止血)、Boerhaave症候群は原則として緊急手術

上部消化管出血への初期対応

吐血・下血の患者では、まずバイタルサインを確認し、静脈路を確保して輸液・必要に応じ輸血で循環を安定させてから、緊急上部消化管内視鏡検査で出血源の診断と止血処置を行う。上部消化管出血の原因としては消化性潰瘍が最も多く、そのほか食道・胃静脈瘤、Mallory-Weiss症候群、急性胃粘膜病変、胃癌などがある。

POINT

・Mallory-Weiss症候群:激しい嘔吐(特に飲酒後)→ 食道胃接合部〜胃噴門部(小彎側)に縦走する浅い裂創 → 鮮血の吐血 ・裂創は粘膜〜粘膜下層まで。多くは自然止血・自然治癒し、保存的治療が基本、活動性出血には内視鏡的止血(クリップ法) ・全層性の破裂は特発性食道破裂(Boerhaave症候群):下部食道左側壁、胸痛・縦隔気腫・胸水、緊急手術

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。