カルシウム拮抗薬が効かない高血圧クリーゼ―褐色細胞腫で「まずα遮断」が鉄則な理由
第112回医師国家試験 A問題 第47問
国試問題にチャレンジ
25歳の男性。激しい頭痛のために救急車で搬入された。3年前から短時間の動悸を1日2,3回自覚するようになった。半年前,健診で血圧高値を指摘され,その頃から動悸が頻回に出現するようになり,頭痛,前胸部痛および手指の蒼白を伴うようになった。今朝から激しい頭痛があったため救急車を要請した。既往歴に特記すべきことはない。喫煙歴はなく,飲酒は機会飲酒。家族歴として母親に甲状腺髄様癌の罹患歴がある。身長174cm,体重52kg。体温37.5℃。心拍数120/分,整。血圧240/124mmHg。四肢の冷感を認める。項部硬直やjolt accentuationを認めない。腹部超音波検査で左側腹部に径12cmの腫瘤影を認める。心エコー検査と頭部CTとに異常を認めない。高血圧緊急症を疑い,カルシウム拮抗薬の点滴静注を行ったが,その後も頭痛と収縮期血圧が200mmHg以上の高血圧および頻脈が持続している。 この時点の対応として正しいのはどれか。
- a.経過観察
- b.α遮断薬投与
- c.β遮断薬投与
- d.アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬投与
- e.非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
若年者が発作性の頭痛・動悸を繰り返し、著明な高血圧、頻脈、末梢の蒼白・冷感、やせを示し、副腎領域に腫瘤がある場合は褐色細胞腫を疑います。甲状腺髄様癌の家族歴はRET遺伝子変異によるMEN2を示唆し、褐色細胞腫の存在をさらに裏付けます。カテコールアミンのα1受容体刺激による血管収縮が高血圧の本態であるため、降圧はα遮断薬が第一選択で、クリーゼではフェントラミンを静注します。β遮断薬を先行投与するとunopposed αにより血圧がかえって上昇するため禁忌であり、頻脈への使用は十分なα遮断の後に限られます。術前のα遮断と循環血漿量の補充、針生検の回避、MEN2では甲状腺より先に褐色細胞腫を処置することも含め、病態から薬剤を選ぶ考え方は救急・内分泌診療の両方で欠かせません。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・25歳の若年男性に、3年前から短時間の動悸発作がある。半年前から高血圧を指摘され、発作の頻度が増えて頭痛・前胸部痛・手指の蒼白を伴うようになった。 ・家族歴:母親に甲状腺髄様癌。 ・身長174 cm・体重52 kg(BMI 約17)とやせ型で、体温37.5℃の微熱がある。 ・心拍数120/分の頻脈、血圧240/124 mmHgの著明な高血圧、四肢の冷感がある。 ・項部硬直やjolt accentuation(頭を左右に振ると頭痛が増強する所見)はなく、頭部CTも正常で、くも膜下出血・髄膜炎は否定的である。心エコーも正常である。 ・腹部超音波で左側腹部に径12 cmの腫瘤がある。 ・カルシウム拮抗薬の点滴静注で血圧と頻脈が改善しない。
診断へのプロセス
若年者の高血圧ではまず二次性高血圧を考える。発作性の頭痛・動悸・発汗は褐色細胞腫の三徴として知られ、本例では頭痛と動悸の発作に加え、カテコールアミンによる末梢血管収縮(手指蒼白・四肢冷感)、代謝亢進(やせ・微熱)、頻脈がみられ、いずれも褐色細胞腫で説明できる。左側腹部の大きな腫瘤は副腎由来の腫瘍として矛盾しない。さらに母親の甲状腺髄様癌は多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)を示唆し、褐色細胞腫はその主要な構成病変である。 以上から、本例は褐色細胞腫によるカテコールアミン過剰を原因とする高血圧緊急症(高血圧クリーゼ)と考えられる。
この時点の対応
褐色細胞腫の高血圧は、主にノルアドレナリンがα1受容体を刺激して起こる強い血管収縮による。したがって、まずα遮断薬で血管収縮を解除することが降圧の基本である。急性期にはフェントラミン(非選択的α遮断薬)の静注・持続静注を用い、待機的な治療や術前管理ではドキサゾシンなどの選択的α1遮断薬の内服を用いる。頻脈が残る場合は、α遮断を十分に行ったうえでβ遮断薬を追加する。順序を誤ってβ遮断薬を先に投与すると、血圧がさらに上昇する危険がある。
選択肢考察
- ×a. 経過観察
収縮期血圧200 mmHg以上が持続し、激しい頭痛と頻脈を伴う高血圧緊急症である。放置すれば高血圧性脳症・脳出血・急性心不全・急性冠症候群・大動脈解離・急性腎障害などの急性臓器障害に進む危険が高く、経過観察は許されない。カルシウム拮抗薬が効かない以上、原因(カテコールアミン過剰)に応じた降圧薬にただちに切り替える必要がある。
- ○b. α遮断薬投与
褐色細胞腫の高血圧は、過剰なカテコールアミンによるα1受容体を介した末梢血管収縮が主な原因である。α遮断薬はこの機序を直接遮断するため第一選択薬となる。高血圧クリーゼではフェントラミンの静注(必要に応じ持続静注)で速やかに降圧する。手術前には選択的α1遮断薬(ドキサゾシンなど)の内服で血圧を管理し、あわせて循環血漿量の回復を図る。
- ×c. β遮断薬投与
褐色細胞腫でα遮断薬を使わずにβ遮断薬を単独で先行投与することは禁忌である。β2受容体を介した骨格筋血管などの拡張作用が失われ、α受容体刺激による血管収縮だけが残る(unopposed α作用)ため、血圧がかえって急上昇する。また、心収縮力が低下し、高い後負荷と重なって急性心不全・肺水腫を招くおそれもある。頻脈の制御にβ遮断薬を使うのは、十分なα遮断を行った後に限られる。
- ×d. アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬投与
ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)はレニン-アンジオテンシン系を抑える降圧薬である。しかし本例の高血圧はカテコールアミンによるα受容体刺激が主な原因であり、ARBでは病態の中心を是正できない。経口薬で効果の発現も遅いため、高血圧緊急症の急性期治療として用いる薬ではない。
- ×e. 非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉投与
本例の頭痛は著しい血圧上昇によるものであり、鎮痛薬で症状を抑えても原因は解決しない。NSAIDsには降圧作用がなく、むしろプロスタグランジン産生を抑えてナトリウム・水の貯留を起こし、血圧を上げる方向に働く。高血圧緊急症への対応として不適切である。
褐色細胞腫の概要
・副腎髄質のクロム親和性細胞から発生し、カテコールアミン(主にノルアドレナリン、アドレナリン)を過剰に産生する腫瘍である。副腎外の交感神経節などから発生するものはパラガングリオーマと呼び、両者をまとめて褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)と総称する。 ・臨床症状は、高血圧(持続型・発作型)、頭痛、動悸、発汗過多、代謝亢進(体重減少・微熱)、高血糖などである。いわゆる「5H」(hypertension, headache, hyperhidrosis, hypermetabolism, hyperglycemia)としてまとめられる。発作は腹部の圧迫、体位変換、排便、運動、一部の薬剤などで誘発される。 ・かつては「10%病」(両側性・副腎外性・悪性・家族性がそれぞれ約10%)と呼ばれたが、現在は遺伝子変異を伴う例がより多く(約30〜40%)、転移しうる腫瘍として扱うことがわかってきており、この呼び方は使われなくなりつつある。
診断
・血中・尿中カテコールアミン、尿中メタネフリン・ノルメタネフリン(またはその血中遊離体)の高値でカテコールアミン過剰を確認する。 ・画像診断は、腫瘍の局在をCT・MRI(T2強調像で高信号)で確認し、機能的な画像として123I-MIBGシンチグラフィを用いる。 ・腫瘍への針生検はクリーゼを誘発するため行わない。
治療
・根治治療は腫瘍の外科的切除(腹腔鏡下副腎摘出術など)である。 ・術前は、α遮断薬(ドキサゾシンなど)の内服で血圧を管理し、十分な塩分・水分の補給で循環血漿量を回復させる。これにより、摘出後の急激な血圧低下を防ぐ。頻脈があればα遮断のうえでβ遮断薬を追加する。カテコールアミン合成阻害薬のメチロシンを用いることもある。 ・高血圧クリーゼではフェントラミンを静注する。
クリーゼを誘発しうるため避けるもの
α遮断を行わずにβ遮断薬を単独投与すること、腹部の強い触診・圧迫、グルカゴン、メトクロプラミドなどのドパミンD2受容体拮抗薬、腫瘍の針生検など。ヨード造影剤も、かつては使用を避けるべきとされてきたため、使用には注意を要する。
多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)
・RET遺伝子の生殖細胞系列変異による常染色体顕性(優性)遺伝の疾患である。 ・MEN2A:甲状腺髄様癌、褐色細胞腫(両側性が多い)、原発性副甲状腺機能亢進症。 ・MEN2B:甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、粘膜神経腫、Marfan症候群様の体型。 ・甲状腺髄様癌と褐色細胞腫が併存する場合は、甲状腺の手術より先に褐色細胞腫を処置する(先に甲状腺の手術を行うと、術中にクリーゼを起こす危険があるため)。 ・本例は母親に甲状腺髄様癌があるため、本人の甲状腺の評価(カルシトニン、CEA)とRET遺伝子検査を検討すべきである。
POINT
・若年者で発作性の頭痛・動悸・発汗、著明な高血圧、頻脈がみられたら褐色細胞腫を疑う。 ・褐色細胞腫の降圧はα遮断薬が第一選択である(クリーゼではフェントラミン静注、内服ではドキサゾシン)。 ・β遮断薬は必ずα遮断薬の後に追加する。単独で先行投与するのは禁忌である(α作用だけが残って血圧が上昇する)。 ・甲状腺髄様癌の家族歴があればMEN2(RET遺伝子変異)を考える。 ・術前管理の基本は、α遮断と循環血漿量の補充である。
