造影CT後にクレアチニンが急上昇―「待つ」が正解になる造影剤腎症の見守り方
第112回医師国家試験 A問題 第39問
国試問題にチャレンジ
56歳の男性。肝臓の腫瘤性病変の精査のため入院中である。C型肝炎の経過観察中に行った腹部超音波検査で肝臓に腫瘤性病変が見つかったため入院した。入院後に腹部造影CTを施行したところ,入院時1.1mg/dLであった血清クレアチニン値が造影検査後2日目に3.0mg/dLに上昇した。入院後に新たな薬剤投与はなく,食事は毎日全量摂取できており,体重は安定していた。体温,脈拍,血圧,呼吸数ともに正常範囲で,排尿回数も5,6回/日で変わらなかった。 造影検査後2日目の検査所見:尿所見:蛋白(-),糖(-),潜血(-),沈渣に赤血球1~4/1視野,白血球1~4/1視野。血液所見:赤血球302万,Hb 10.4g/dL,Ht 31%,白血球4,600,血小板16万。血液生化学所見:総ビリルビン1.4mg/dL,直接ビリルビン0.8mg/dL,AST 45U/L,ALT 62U/L,LD 360U/L(基準176~353),ALP 380U/L(基準115~359),γ-GTP 110U/L(基準8~50),尿素窒素43mg/dL,クレアチニン3.0mg/dL,尿酸8.8mg/dL,Na 136mEq/L,K 5.2mEq/L,Cl 100mEq/L,Ca 8.2mg/dL,P 6.2mg/dL。CRP 0.3mg/dL。腹部超音波検査では両腎に水腎症を認めない。 対応として正しいのはどれか。
- a.緊急血液透析
- b.経時的な腎機能評価
- c.尿道カテーテル留置
- d.腹部造影CTの再施行
- e.動静脈シャント造設術の準備
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ヨード造影剤の投与後24〜72時間で血清クレアチニンが上昇し、腎前性(脱水・循環不全)や腎後性(尿路閉塞)、糸球体腎炎や薬剤性などの原因が見当たらなければ造影剤腎症を考えます。造影剤腎症の多くは非乏尿性で可逆的であり、クレアチニンは3〜5日でピーク、1〜2週間で回復することが多いため、体液量を保ち腎毒性薬を避けながら、腎機能・電解質・尿量を経時的に評価するのが基本の対応です。緊急透析は、治療抵抗性の高カリウム血症や代謝性アシドーシス、体液過剰、尿毒症症状がある場合に限られ、造影剤の再投与は腎障害を悪化させるおそれがあるため避けます。予防には検査前後の等張輸液、造影剤の減量、NSAIDsの中止やメトホルミンの休薬検討が重要です。AKIを3分類で整理し、透析適応を冷静に判断する考え方は、どの診療科でも役立つ基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・C型肝炎で経過観察中の56歳男性。肝腫瘤の精査(肝細胞癌の疑い)のため入院し、腹部造影CTを受けた。 ・血清クレアチニン(Cr)は入院時1.1mg/dLだったが、造影後2日目に3.0mg/dLへ上がった。約2.7倍の上昇である。尿素窒素(BUN)も43mg/dLに上がっている。 ・入院後に新しい薬は使っていない。食事は全部摂れており、体重も安定している。バイタルサインは正常で、排尿回数(5〜6回/日)も変わっていない。 ・尿所見では、蛋白(-)、潜血(-)で、沈渣にも明らかな異常はない。 ・腹部超音波で両腎に水腎症はない。 ・電解質などは、K 5.2mEq/Lと軽い上昇、P 6.2mg/dL、尿酸8.8mg/dLである。いずれも腎機能の低下で説明できる範囲であり、危険な値ではない。Na-Cl=36は正常範囲で、強い代謝性アシドーシスを示す所見もない。
診断のプロセス
短期間にCrが急に上がっており、急性腎障害(AKI)である。KDIGO(国際的な腎臓病診療ガイドライン団体)の基準では、Crが基礎値の2.0〜2.9倍に上がった状態はステージ2にあたる。AKIは原因によって、腎前性、腎性、腎後性に分けて考える。 ・腎前性:脱水、出血、心不全などで腎臓への血流が減って起こる。本例は食事を全量摂取でき、体重も血圧も安定しており、考えにくい。 ・腎後性:尿路が詰まって起こる。水腎症がなく、排尿回数も変わらないことから否定的である。 ・腎性:腎臓そのものが傷んで起こる。このうち糸球体腎炎は、蛋白尿・血尿がないので考えにくい。新しい薬がないので、薬剤性腎障害も考えにくい。 ヨード造影剤を使った後、24〜72時間以内にCrが上がっており、ほかに原因が見当たらない。したがって造影剤腎症(造影剤による急性腎障害、CI-AKI)と診断できる。なお、入院時のCr 1.1mg/dLは、この年齢の男性ではeGFR(推算糸球体濾過量)がおよそ55mL/分/1.73m²にあたる。もともと腎機能が軽く低下していた可能性があり、これは造影剤腎症を起こしやすくする危険因子である。
設問の考え方
造影剤腎症の多くは非乏尿性で、自然に回復する。Crは造影後3〜5日でピークになり、1〜2週間ほどで元の値に戻ることが多い。すでに起きた造影剤腎症に効く特別な治療はない。体液量を適切に保ち、腎臓に負担をかける薬剤を避けながら、Cr、尿量、電解質を経時的に追うことが基本の対応になる。現時点では、緊急で透析をすべき状況(後述)にはあたらない。
選択肢考察
- ×a. 緊急血液透析
AKIで緊急透析が必要になるのは、次のような場合である。 ・薬で治療しても改善しない高カリウム血症(目安:おおむね6.5mEq/L以上、または心電図変化を伴う) ・薬で治療しても改善しない重い代謝性アシドーシス ・利尿薬が効かない体液過剰や肺水腫 ・尿毒症による症状(意識障害、心膜炎など) 本例はKが5.2mEq/Lと軽い上昇にとどまり、尿量も保たれていて、バイタルサインも安定している。いずれの適応にも当たらない。また、造影剤腎症を予防する目的で造影後に透析をしても効果はなく、推奨されていない。
- ○b. 経時的な腎機能評価
造影剤腎症の多くは可逆的である。Crは3〜5日でピークになり、1〜2週間で元に戻ることが多い。この時期には、Cr、BUN、電解質(特にK)、尿量、体重を経時的に測る。そして、次の点を確認していく。 ・腎機能が回復していく経過をたどるか ・高カリウム血症や乏尿など、透析が必要になる状況が出てこないか その間は、脱水を避けて体液量を適切に保ち、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などの腎臓に負担をかける薬剤を使わない。以上から、この対応が正しい。
- ×c. 尿道カテーテル留置
尿道カテーテルを入れるのは、前立腺肥大症などで尿閉が起き、腎後性腎不全になっている場合の対応である。本例は排尿回数が変わっておらず、超音波でも水腎症はない。尿路の閉塞は否定的である。不要なカテーテル留置は、尿路感染症の危険を増やすだけである。
- ×d. 腹部造影CTの再施行
造影剤腎症が起きている最中に、もう一度ヨード造影剤を使うと、腎障害がさらに悪くなるおそれがある。命に関わる緊急の病気を診断する場合など、どうしても必要な場合を除いて避けるべきである。肝腫瘤をさらに詳しく調べるなら、腎機能が回復するのを待つ。あるいは、ヨード造影剤を使わない検査(単純MRIや超音波検査など)を検討する。ただし、ガドリニウム造影剤には、高度の腎機能低下があると腎性全身性線維症という合併症を起こす危険がある。このため、ガドリニウムを使うかどうかも腎機能を見て判断する。
- ×e. 動静脈シャント造設術の準備
動静脈シャント(内シャント)は、長く維持透析を続けるために作る血管の通り道である。準備を始めるのは、回復の見込みがない末期腎不全へ進んでいくことが予想される場合である。造影剤腎症は、通常は可逆的な急性腎障害である。現時点で、維持透析を前提にした準備は必要ない。
造影剤腎症(CI-AKI:contrast-induced acute kidney injury)
・定義:日本のガイドラインでは、ヨード造影剤の投与後72時間以内に、血清Crが前値から0.5mg/dL以上、または25%以上上がったものとされる。近年はKDIGOのAKI基準で評価することも多い。 ・機序:造影剤が腎臓の血管を収縮させ、髄質が虚血になる。これに加えて、造影剤が尿細管上皮を直接傷つける。 ・危険因子:もともとの腎機能低下(特にeGFR 30〜45未満)、糖尿病性腎症、脱水、心不全、高齢、造影剤の大量使用、腎臓に負担をかける薬剤(NSAIDs、アミノグリコシド系など)の併用がある。 ・経過:多くは非乏尿性で、Crは3〜5日でピークになり、1〜2週間で回復する。まれに透析が必要になることがある。 ・予防:検査前後に等張の輸液(生理食塩水など)を行う。造影剤はできるだけ少なくする。NSAIDsなど腎臓に負担をかける薬剤は一時中止する。ビグアナイド系糖尿病薬(メトホルミンなど)は乳酸アシドーシス予防のため一時休薬を検討する。 ・予防として効果がはっきりしないもの:N-アセチルシステインの投与や、造影後の予防的な血液透析は、有効性が示されておらず推奨されない。
AKIの原因の鑑別
・腎前性:脱水、出血、心不全などで腎臓への血流が減る。尿中Na排泄が低い(FENa<1%)こと、BUN/Cr比が高い(20以上)ことが手がかりになる。 ・腎性:急性尿細管壊死(虚血、造影剤、薬剤)、急性間質性腎炎、糸球体腎炎などがある。 ・腎後性:尿路の閉塞によって起こる。水腎症の有無を超音波で確認する。
AKIの緊急透析の適応
薬で治療しても改善しない高カリウム血症、代謝性アシドーシス、体液過剰・肺水腫と、尿毒症による症状(意識障害、心膜炎など)である。
POINT
・ヨード造影剤の投与後24〜72時間でCrが上がり、ほかに原因がなければ造影剤腎症を考える。 ・造影剤腎症の多くは非乏尿性で、可逆的である(Crは3〜5日でピーク、1〜2週間で回復)。 ・対応の基本は、体液管理と腎臓に負担をかける薬剤の回避、そして経時的な腎機能のモニタリングである。 ・緊急透析が必要になるのは、薬で治療しても改善しない高カリウム血症・代謝性アシドーシス・体液過剰と、尿毒症症状がある場合である。 ・予防の柱は、検査前後の等張輸液と造影剤の減量である。
