ペンライトで光る陰嚢―「様子を見ましょう」が正解になる小児の陰嚢水腫
第112回医師国家試験 A問題 第34問
国試問題にチャレンジ
2歳の男児。入浴中に左右の陰嚢の大きさが違うのに気付いた母親に連れられて来院した。痛がることはないという。外陰部の外観と右陰嚢にペンライトを当てたときの写真を別に示す。 母親に対する説明で正しいのはどれか。

- a.「陰嚢の左右差は多くは自然になくなります」
- b.「陰嚢に針を刺して内容物を確認しましょう」
- c.「腫瘍が疑われるので詳しく調べます」
- d.「陰嚢内に腸管が出ています」
- e.「緊急手術が必要です」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
小児の無痛性陰嚢腫大で、ペンライトを当てて透光性陽性なら、液体がたまった陰嚢水腫(精巣水瘤)と考えます。原因は鼠径ヘルニアと同じく腹膜鞘状突起の閉鎖不全ですが、乳幼児では生後も閉鎖が進むため多くが自然に消退し、経過観察が基本です。透光性陰性なら鼠径ヘルニアや精巣腫瘍を考え、穿刺は出血・感染や腸管損傷の危険があるため行いません。緊急手術が必要なのは嵌頓ヘルニアや精巣捻転であり、遷延例や交通性の水腫は待機的に鞘状突起の高位結紮を行います。透光試験という簡便な診察で病態を見極め、保護者に見通しを正しく伝えることは、小児診療の基本的な力として重要です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・2歳の男児で、母親が入浴中に陰嚢の左右差に気付いた。 ・本人は痛がっていない(無痛性の陰嚢腫大)。 ・写真では右陰嚢が腫大しており、ペンライトを当てると陰嚢全体が明るく赤く透けて見える(透光性陽性)。
診断へのプロセス
小児の無痛性陰嚢腫大の鑑別としては、陰嚢水腫(精巣水瘤)、鼠径ヘルニア、精巣腫瘍(卵黄嚢腫瘍、奇形腫など)、白血病の精巣浸潤、精巣上体の嚢胞などが挙がる。痛みを伴う急性陰嚢症(精巣捻転、精巣上体炎など)は、無痛であることから考えにくい。 鑑別に最も役立つのが透光試験(トランスイルミネーション)である。暗い部屋で陰嚢の背側からペンライトを当て、光が透けるかどうかを見る。内容が漿液(さらさらした液体)であれば光が通り透光性陽性となる。一方、腸管・大網などが脱出した鼠径ヘルニアや、充実性の精巣腫瘍では光が遮られ、透光性は陰性となる。 本例は透光性陽性であり、無痛性で、年齢も小児期に多い時期に一致することから、陰嚢水腫と診断できる。
設問の考え方
乳幼児の陰嚢水腫は、精巣の下降に伴ってできた腹膜鞘状突起が出生後もしばらく閉じ切っていないことによって生じる。鞘状突起の閉鎖は生後も進むため、多くの例は経過観察だけで自然に消退する。したがって、まず保護者には「多くは自然に治る」ことを伝え、不要な穿刺や緊急手術を避けて経過を見るのが適切な説明となる。
選択肢考察
- ○a. 「陰嚢の左右差は多くは自然になくなります」
小児の陰嚢水腫は、腹膜鞘状突起が出生後も引き続き閉鎖していくことで、2〜3歳頃(遅くとも4歳頃)までに自然に消える例が多く、全体の約8割が自然軽快するとされる。痛みもなく、嵌頓のような重篤な合併症の危険もないため、まず経過観察とするのが原則である。保護者への説明として適切である。
- ×b. 「陰嚢に針を刺して内容物を確認しましょう」
診断は透光試験や超音波検査で非侵襲的に行える。穿刺は出血や感染の危険があり、水を抜いても鞘状突起が開いている限りすぐに再貯留するため治療効果もない。さらに、もし鼠径ヘルニアであった場合には脱出した腸管(女児なら卵巣)を損傷するおそれがある。小児で行うべき対応ではない。
- ×c. 「腫瘍が疑われるので詳しく調べます」
精巣腫瘍は充実性の腫瘤であり、光を通さないため透光性は陰性となる。本例は透光性陽性で内容が液体と考えられるため、腫瘍を第一に疑う所見ではない。不必要に保護者の不安をあおる説明になる。
- ×d. 「陰嚢内に腸管が出ています」
これは鼠径ヘルニア(陰嚢ヘルニア)の説明である。鼠径ヘルニアは陰嚢水腫と同じく鞘状突起の開存が原因だが、腸管などの臓器が脱出するため透光性は陰性となり、泣いたりいきんだりすると膨らみ、押すと腹腔内に戻る(還納性)という特徴をもつ。透光性陽性の本例には当てはまらない。
- ×e. 「緊急手術が必要です」
緊急手術が必要になるのは、鼠径ヘルニアが嵌頓して用手整復できない場合や、精巣捻転などである。陰嚢水腫は自然消退が期待でき、放置しても血流障害などを起こす病態ではないため緊急手術の適応はない。手術を考慮するのは、年長になっても消退しない場合や、大きさが変動する交通性のものなどで、その場合も待機的に行う。
陰嚢水腫(精巣水瘤)の成因
胎生期、精巣は腹腔内から陰嚢へ下降し、その際に腹膜が袋状に伸びた腹膜鞘状突起ができる。通常、鞘状突起は出生前後に閉鎖し、精巣周囲の部分だけが精巣鞘膜として残る。鞘状突起の閉鎖が不完全だと、腹腔から液体や臓器が入り込む。 ・液体だけが貯留する → 陰嚢水腫(精巣水瘤)。腹腔との交通が残るものを交通性陰嚢水腫といい、朝は小さく夕方に大きくなるなど大きさが変動する。 ・腸管や大網が脱出する → 鼠径ヘルニア。 ・精索の途中に液体がたまる → 精索水瘤。
陰嚢水腫と鼠径ヘルニアの比較
・透光性:水腫は陽性、ヘルニアは陰性。 ・還納性:ヘルニアは用手的に腹腔内へ戻せる。交通性水腫は圧迫でゆっくり縮小することがある。 ・腫瘤上縁:非交通性の陰嚢水腫は陰嚢内に限局するため、腫瘤の上縁(その上に正常な精索を触れる)を確認できる。鼠径ヘルニアは腫瘤が鼠径管内へ連続するため、腫瘤の上縁を触れることができない。ただし交通性陰嚢水腫では液体の通り道が鼠径部へ続くため、上縁がはっきりしないことがある。 ・合併症:ヘルニアは嵌頓の危険があり、診断されれば待機的手術を予定する。水腫は経過観察が基本。 確定には超音波検査が有用で、内部が無エコーの液体であることや、腸管の有無、精巣自体の異常の有無を確認できる。
治療
乳幼児の陰嚢水腫は経過観察が原則で、多くは自然消退する。年長になっても残る例や交通性のものには、鞘状突起を内鞘状突起の高位で結紮する手術(Potts法など)を行う。近年は腹腔鏡下経皮的腹膜外ヘルニア閉鎖術(LPEC法)も広く行われている。成人の陰嚢水腫は自然消退しにくく、症状に応じて手術を行う。
その他の小児の陰嚢腫大
頻度は低いが、精巣腫瘍、白血病の精巣浸潤(再発部位として重要)、リンパ管腫なども鑑別に入る。これらは透光性陰性の充実性腫瘤として触れることが多い。
POINT
・小児の無痛性陰嚢腫大で透光性陽性 → 陰嚢水腫(精巣水瘤)。 ・透光性陰性なら鼠径ヘルニアや精巣腫瘍を考える。 ・成因は腹膜鞘状突起の閉鎖不全で、鼠径ヘルニアと同じ。 ・乳幼児の陰嚢水腫は多くが自然消退するため経過観察が基本。穿刺は行わない。 ・遷延例や交通性のものは待機的に鞘状突起の高位結紮(LPEC法を含む)を行う。 ・緊急手術が必要なのは嵌頓ヘルニアや精巣捻転である。
