夜になると脚がむずむず―動かすと楽になる不眠の正体とドパミン
第112回医師国家試験 A問題 第26問
国試問題にチャレンジ
67歳の女性。不眠を主訴に来院した。1か月前から夜になると両足に虫が這うような不快な感覚を自覚していた。この不快感は安静にしていると増強するが,足を動かすことで軽減する。かかりつけ医からは経過をみるように言われたが良くならず,足を動かしたい欲求が強く寝つけなくなり受診した。四肢の筋トーヌスは正常で筋力低下を認めない。腱反射は正常で,Babinski徴候は陰性である。感覚障害と小脳性運動失調とを認めない。歩行に支障はなく,日常生活動作にも問題はない。血液生化学検査では血清フェリチンを含めて異常を認めない。 適切な治療薬はどれか。
- a.β遮断薬
- b.筋弛緩薬
- c.抗コリン薬
- d.ドパミン受容体作動薬
- e.アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
脚を動かしたい強い衝動と下肢の不快な異常感覚が、安静で増悪し、運動で軽快し、夕方から夜間に強まる場合はむずむず脚症候群を考えます。神経学的所見が正常であれば末梢神経障害や脊髄疾患、Parkinson病は否定的で、血清フェリチンを確認して鉄欠乏があればまず鉄補充、なければドパミン受容体作動薬(プラミペキソール、ロチゴチン)やα2δリガンドで治療します。β遮断薬や筋弛緩薬は病態に作用せず、抗コリン薬は有効性が確立しておらず高齢者では副作用が問題となり、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬はコリン優位に傾けるためむしろ不利です。ドパミン受容体作動薬の長期使用ではaugmentationに注意し、抗精神病薬やメトクロプラミド、抗ヒスタミン薬などの増悪因子も確認します。不眠の訴えの背景にある疾患を見抜き、病態に基づいて薬を選ぶ姿勢は、睡眠診療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・67歳女性、主訴は不眠(入眠困難)。 ・1か月前から、夜間に両下肢へ「虫が這うような」不快な異常感覚が出現する。 ・その不快感は安静で増悪し、脚を動かすと軽くなる。脚を動かしたいという強い衝動のために寝つけない。 ・神経学的診察では、筋トーヌス・筋力・腱反射は正常、Babinski徴候陰性、感覚障害や小脳性運動失調もなく、歩行・日常生活動作(ADL)にも支障はない。 ・血清フェリチンを含め血液生化学検査に異常はない。
診断へのプロセス
下肢の異常感覚とともに「脚を動かしたい衝動」があり、①安静時に出現・増悪する、②動かすと軽快する、③夕方から夜間に強い、という3つの特徴がそろっている。これは国際RLS研究グループ(IRLSSG)の必須診断基準そのものであり、むずむず脚症候群(restless legs syndrome:RLS、Willis-Ekbom病)と診断できる。 鑑別として、末梢神経障害(感覚障害を伴う)、脊髄疾患(錐体路徴候を伴う)、Parkinson病(筋強剛・無動を伴う)、こむら返りや静脈うっ滞などがあるが、本例では神経学的所見がすべて正常であり否定的である。また、二次性RLSの代表的原因である鉄欠乏は、血清フェリチン正常で否定され、腎不全などを示唆する検査異常もない。したがって特発性(一次性)RLSと考えられる。
治療の考え方
RLSの病態には、脳内(特に黒質線条体系・間脳脊髄路など)のドパミン神経機能の低下と、ドパミン合成の補酵素である鉄の脳内での不足が関与すると考えられている。そのため、 ・鉄欠乏(血清フェリチン低値)があれば、まず鉄剤で補充する。 ・鉄欠乏がない場合は、ドパミン受容体作動薬(ドパミンアゴニスト)や、α2δリガンド(ガバペンチン エナカルビルなど)による薬物療法を行う。 本例はフェリチンが正常で、症状のために入眠障害をきたしており薬物療法の適応がある。選択肢の中で適切なのはドパミン受容体作動薬である。
選択肢考察
- ×a. β遮断薬
β遮断薬は高血圧・頻脈性不整脈・狭心症や本態性振戦などに用いられる薬である。RLSの病態であるドパミン神経機能低下を改善する作用はなく、治療薬としての有効性は示されていない。むしろβ遮断薬は悪夢や不眠を誘発することがあり、本例の主訴である不眠の改善にもつながらない。
- ×b. 筋弛緩薬
筋弛緩薬は筋緊張の亢進(痙縮や筋けいれん、腰痛に伴う筋緊張など)を緩める薬である。RLSは筋そのものの緊張異常ではなく、中枢のドパミン系の機能異常に基づく感覚・運動衝動の障害であり、本例でも筋トーヌスは正常である。筋弛緩薬は治療の対象となる病態に作用せず、適切でない。
- ×c. 抗コリン薬
抗コリン薬は、線条体でドパミンが不足し相対的にアセチルコリン作用が優位になったParkinson病や、薬剤性Parkinson症候群の振戦などに用いられる。ドパミン受容体を直接刺激する薬ではなく、RLSに対する有効性は確立していない。さらに高齢者では口渇・便秘・尿閉・せん妄・認知機能低下などの副作用が問題となり、67歳の本例に用いる理由はない。
- ○d. ドパミン受容体作動薬
RLSでは中枢のドパミン神経系の機能低下が病態の中心と考えられており、ドパミン受容体作動薬はこれを補って症状を速やかに改善する。わが国ではプラミペキソール(内服、就寝前に少量)とロチゴチン(貼付剤)がRLSに保険適用をもつ。鉄欠乏のない特発性RLSで、症状により睡眠が障害されている本例では適切な選択である。ただし長期使用では、症状が早い時間帯から出現したり上肢へ広がったりする「augmentation(症状促進現象)」が問題となるため、低用量で用いることが原則である。
- ×e. アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)はアセチルコリンの分解を抑えてコリン作動性の作用を強める薬で、Alzheimer型認知症やLewy小体型認知症、重症筋無力症(ピリドスチグミンなど)に用いられる。脳内でドパミンとアセチルコリンのバランスをコリン優位に傾けるため、ドパミン系の機能低下が関与するRLSにはむしろ不利であり、治療薬として不適切である。
むずむず脚症候群(RLS)の概要
・主に下肢に「むずむずする」「虫が這う」「火照る」などと表現される不快な異常感覚が生じ、脚を動かしたい強い衝動を伴う疾患である。睡眠関連運動障害に分類され、入眠困難や中途覚醒の原因となる。 ・有病率は欧米で数%、日本では数%程度と報告され、中高年・女性に多い。
診断基準(IRLSSGの必須項目)
1. 脚を動かしたい強い衝動があり、通常は不快な下肢の異常感覚を伴う。 2. 安静時(横になる・座っているとき)に始まる、または増悪する。 3. 歩く・伸ばすなどの運動で部分的または完全に軽快する。 4. 夕方から夜間に出現・増悪する(日内変動)。 5. 上記が他の疾患や習慣(こむら返り、体位による不快感、筋痛、静脈うっ滞、下肢浮腫、関節炎など)だけで説明できない。 DSM-5では、これに加えて症状が週3回以上、3か月以上持続し、社会的・職業的機能などに支障をきたすことを求めている。
一次性と二次性
・一次性(特発性):家族歴を伴うことが多く、若年発症もある。 ・二次性:鉄欠乏(血清フェリチン低値)、慢性腎臓病・透析、妊娠(特に後期)、末梢神経障害、Parkinson病などに伴う。また、ドパミン受容体遮断薬(抗精神病薬、メトクロプラミドなど)、抗ヒスタミン薬、一部の抗うつ薬が症状を誘発・増悪させることがある。
関連疾患:周期性四肢運動障害(PLMD)
睡眠中に下肢(足関節の背屈や母趾の伸展など)が周期的に不随意運動を繰り返し、睡眠が分断される疾患である。RLS患者の多くに睡眠中の周期性四肢運動を合併する。終夜睡眠ポリグラフ検査で確認する。
治療
・非薬物療法:カフェイン・アルコール・喫煙を控える、規則正しい睡眠習慣、就寝前の軽い運動やマッサージ、症状を悪化させる薬剤の中止・変更。 ・鉄補充:血清フェリチン低値(目安としておおむね75 ng/mL以下)では鉄剤を投与する。 ・薬物療法:ドパミン受容体作動薬(プラミペキソール、ロチゴチン)、α2δリガンド(ガバペンチン エナカルビル)が保険適用をもつ。ベンゾジアゼピン系のクロナゼパムが補助的に使われることもある。近年は、ドパミン受容体作動薬の長期使用で生じるaugmentationが問題視され、海外の新しい指針ではα2δリガンドを優先する考え方も示されている。
POINT
・「脚を動かしたい衝動」「安静で増悪・運動で軽快」「夕方〜夜間に増悪」の3点がそろえばむずむず脚症候群(RLS)を考える。 ・まず血清フェリチンを確認し、低値なら鉄補充を行う。 ・鉄欠乏がなければドパミン受容体作動薬(プラミペキソール、ロチゴチン)やα2δリガンド(ガバペンチン エナカルビル)で治療する。 ・ドパミン受容体遮断薬(抗精神病薬、メトクロプラミドなど)は症状を悪化させる。 ・ドパミン受容体作動薬の長期使用ではaugmentation(症状促進現象)に注意する。
