犯人はどの皿か―オッズ比で食中毒の原因食品を突き止める
第111回医師国家試験 I問題 第71問
国試問題にチャレンジ
保健所に「本日の昼食会に参加した複数の者が腹痛,嘔吐,下痢を訴えている」と通報があった。保健所が参加者全員に行った喫食調査の結果を示す。 原因と考えられるのはどれか。 症状あり(100人) 症状なし(50人) 食品 摂取した 摂取せず摂取した 摂取せず ハンバーグ 95 5 7 43 付合せ野菜 60 40 10 40 煮豆 51 49 12 38 米飯 100 0 50 0 果物 43 57 21 29
- a.ハンバーグ
- b.付合せ野菜
- c.煮豆
- d.米飯
- e.果物
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
集団食中毒の原因食品は、食品ごとに有症者と無症者の摂取状況を2×2表にまとめ、オッズ比や発症率の比で摂取と発症の関連の強さを比べて推定します。本問ではハンバーグのオッズ比が約117、発症率の比が約9倍と他を大きく上回り、原因食品と考えられます。全員が食べた米飯は比較群がないため評価できず、付合せ野菜や煮豆のやや高い値はハンバーグとの同時摂取による交絡や二次汚染で説明できます。参加者全員を調べた場合は後ろ向きコホート研究として相対危険度も使え、有症者と無症者を選んで比べる症例対照研究ではオッズ比を用いるという区別も重要です。食中毒を診断した医師には保健所への届出義務があり、こうした疫学的な考え方が原因究明と再発防止の土台になります。
解答・解説
正解はaです
状況の整理
同じ昼食会の参加者に、同日中に腹痛・嘔吐・下痢が集団発生している。共通の食事が原因と考えられる食中毒(集団発生)であり、保健所は参加者全員150人(有症者100人、無症者50人)について、どの食品を食べたかを調べた。原因食品を推定するには、「その食品を食べたこと(曝露)」と「発症」との関連の強さを食品ごとに比べればよい。
指標の求め方
食品ごとに次の2×2表を作る。 有症者 無症者 摂取した A B 摂取せず C D オッズ比=(A×D)÷(B×C)である。有症者の中で「食べた人÷食べなかった人」のオッズ(A/C)を、無症者の同じオッズ(B/D)で割った値であり、1より大きいほどその食品の摂取と発症の関連が強い。
計算
・ハンバーグ:(95×43)÷(7×5)=4085÷35≒116.7 ・付合せ野菜:(60×40)÷(10×40)=2400÷400=6 ・煮豆:(51×38)÷(12×49)=1938÷588≒3.3 ・米飯:全員が摂取しており、「摂取せず」が0人なので比較ができない ・果物:(43×29)÷(21×57)=1247÷1197≒1.04 本問では参加者全員を調査しているので、食品ごとに摂取者・非摂取者の発症率(発病率、attack rate)も計算できる。 ・ハンバーグ:摂取者102人中95人(93.1%)、非摂取者48人中5人(10.4%)、比は約9.0 ・付合せ野菜:摂取者70人中60人(85.7%)、非摂取者80人中40人(50.0%)、比は約1.7 ・煮豆:摂取者63人中51人(81.0%)、非摂取者87人中49人(56.3%)、比は約1.4 ・果物:摂取者64人中43人(67.2%)、非摂取者86人中57人(66.3%)、比は約1.0 どちらの指標でもハンバーグが他を大きく引き離しており、原因食品として最も疑わしい。付合せ野菜や煮豆もやや高い値を示すが、これらはハンバーグと同じ皿に盛られたり一緒に食べられたりすることが多く、ハンバーグ摂取の影響が重なった見かけ上の関連(交絡)や、調理・盛り付け時の二次汚染として説明できる。ハンバーグを食べていない有症者5人も、同様の二次汚染などで説明しうる。
選択肢考察
- ○a. ハンバーグ
オッズ比は(95×43)÷(7×5)≒116.7と極めて大きい。摂取者の発症率は93.1%、非摂取者は10.4%で、発症率の比も約9倍である。有症者のほとんど(95/100)が摂取し、無症者の多く(43/50)が摂取していないという明確な差があり、原因食品と考えられる。ひき肉を用いた料理は中心部まで加熱が不十分になりやすく、腸管出血性大腸菌やサルモネラ属菌、ウェルシュ菌などの食中毒の原因として典型的な食品でもある。
- ×b. 付合せ野菜
オッズ比は(60×40)÷(10×40)=6で、発症率の比は約1.7(85.7%対50.0%)である。ある程度の関連はみられるが、ハンバーグと比べるとはるかに弱い。ハンバーグの付合せであるため、ハンバーグを食べた人が野菜も食べていることが多く、ハンバーグの影響が反映された見かけ上の関連、あるいは盛り付け時の二次汚染によるものと考えられる。
- ×c. 煮豆
オッズ比は(51×38)÷(12×49)≒3.3で、発症率の比は約1.4(81.0%対56.3%)にとどまる。関連は弱く、ハンバーグ摂取との重なりで説明できる程度であり、原因食品とは考えにくい。
- ×d. 米飯
有症者も無症者も全員が摂取しており、「摂取しなかった群」が存在しないためオッズ比も発症率の比も計算できない。全員が食べていながら無症者が50人いることからも、米飯の摂取だけで発症の有無を説明することはできない。比較対象がない以上、本調査から原因と判断する根拠はない。
- ×e. 果物
オッズ比は(43×29)÷(21×57)≒1.04で、摂取者の発症率67.2%と非摂取者の66.3%はほぼ同じである。摂取の有無と発症との間に関連はなく、原因食品ではない。
オッズ比と相対危険度
・相対危険度(リスク比)=曝露群の発症率÷非曝露群の発症率。発症率を直接求められるコホート研究で用いる。 ・オッズ比=(A×D)÷(B×C)。症例対照研究(ケース・コントロール研究)では、症例と対照の人数を研究者が決めるため発症率を求められず、オッズ比で関連の強さを評価する。疾患がまれな場合、オッズ比は相対危険度の近似値となる。 ・どちらも1なら関連なし、1より大きければ曝露が危険因子、1より小さければ予防的に働く可能性を示す。
食中毒調査における研究デザイン
本問のように参加者が確定した集団(昼食会参加者)全員を対象に、過去にさかのぼって喫食状況と発症を調べる方法は、後ろ向きコホート研究にあたり、食品ごとの発症率と相対危険度を計算できる。参加者全員を把握できない場合は、有症者と無症者を選んで比較する症例対照研究となり、オッズ比を用いる。試験では「有症者と無症者の摂食状況の比較」としてオッズ比を求める問題が多い。
食中毒の原因菌と潜伏期の目安
・黄色ブドウ球菌(毒素型):約1~6時間、嘔吐が主体。おにぎりなど手作業を経た食品。 ・セレウス菌嘔吐型:約1~6時間。チャーハンなど米飯。 ・ウェルシュ菌:約6~18時間、下痢・腹痛。大量調理したカレーやシチューなど。 ・サルモネラ属菌:約6~72時間、発熱を伴う胃腸炎。鶏卵、食肉。 ・腸炎ビブリオ:約8~24時間。魚介類。 ・カンピロバクター:2~7日。鶏肉。 ・腸管出血性大腸菌:3~8日程度。牛肉(特にひき肉)、生野菜。 ・ノロウイルス:24~48時間。二枚貝、調理従事者からの汚染。 本問の情報だけでは病原体は特定できないが、同日中に発症していることから潜伏期の短い食中毒が想定される。
食中毒の届出
食品衛生法により、食中毒患者(疑いを含む)を診断した医師は、直ちに最寄りの保健所長に届け出なければならない。
POINT
・原因食品の推定は、食品ごとに摂取と発症の関連の強さ(オッズ比、または発症率の比)を比べ、最大のものを選ぶ。 ・オッズ比=(有症・摂取×無症・非摂取)÷(無症・摂取×有症・非摂取)。 ・全員が摂取した食品は比較群がなく、関連を評価できない。 ・付合せなど一緒に食べられる食品は、見かけ上の関連(交絡)や二次汚染で値が上がることがある。
