StudyMed医師国家試験

大きな赤血球はDNAのSOS―MCVから読み解く巨赤芽球性貧血

第111回医師国家試験 I問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第36問

大球性貧血となるのはどれか。3つ選べ。

  1. a.悪性貧血
  2. b.サラセミア
  3. c.鉄欠乏性貧血
  4. d.葉酸欠乏性貧血
  5. e.blind loop症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は大球性貧血をきたす疾患を選ぶ問題だ。貧血の鑑別の入り口は、平均赤血球容積、つまりMCVで赤血球の大きさを見ること。大きさの異常がどんな仕組みで起こるかを押さえれば、選択肢はすっきり整理できるよ。まず、MCVで貧血をどう分けるか覚えているかな。
医学生医学生
だいたい80fL未満が小球性、100fLを超えると大球性、その間が正球性でしたね。CBTの前に必死で覚えました。
ドクタードクター
その通り。小球性はヘモグロビン合成の障害、大球性の代表はDNA合成の障害と、背景の仕組みがまったく違う。では、なぜDNA合成が障害されると赤血球が大きくなると思う?
医学生医学生
うーん、細胞分裂が進まないから、分裂できずに大きいまま残る……という感じでしょうか。
ドクタードクター
いいイメージだね。ビタミンB12と葉酸はどちらもDNA合成に必要な補酵素で、欠乏すると細胞質は成熟するのに核の成熟が追いつかない。この核と細胞質の成熟の解離によって大型の赤芽球、つまり巨赤芽球が出現する。これが巨赤芽球性貧血だ。
医学生医学生
ということは、葉酸欠乏性貧血は大球性ですね。悪性貧血もB12欠乏だから同じでしょうか。
ドクタードクター
どちらも正解。悪性貧血は自己免疫性の萎縮性胃炎で胃の壁細胞が障害され、抗内因子抗体も加わって内因子が欠乏する。B12は内因子と結合して回腸末端で吸収されるから、内因子がなければ吸収できない。MCVが120fLを超えることもあるほどだ。
医学生医学生
名前に「悪性」とつくのに、がんではないんですね。消化器の講義で、胃全摘後にも同じことが起こると習いました。
ドクタードクター
そう、昔は治療法がなく致死的だった名残の名前なんだ。胃全摘後も内因子がなくなるけれど、B12は体内に数年分貯蔵されているから、術後数年たってから発症するのがポイントだね。では、blind loop症候群はどうかな。
医学生医学生
正直、名前しか知りません。腸の病気ですよね。
ドクタードクター
盲係蹄症候群とも呼ばれる。胃切除後のBillroth II法再建の輸入脚や腸管吻合後の盲端、憩室や狭窄などで腸内容が停滞すると、そこで腸内細菌が異常に増える。増えた細菌がビタミンB12を横取りして消費してしまうから、B12欠乏による大球性貧血になるんだ。
医学生医学生
細菌がB12を食べてしまうんですね。それなら葉酸も減りそうですが。
ドクタードクター
そこが面白いところで、細菌はむしろ葉酸を作るから、血清葉酸は高値になりやすい。B12低値と葉酸高値の組み合わせは、細菌の異常増殖を疑う手がかりになる。さらに細菌が胆汁酸を脱抱合するので、脂肪便や脂溶性ビタミン欠乏も起こるよ。
医学生医学生
残りの鉄欠乏性貧血とサラセミアは、ヘモグロビンの材料不足なので小球性ですね。
ドクタードクター
その通り。鉄欠乏性貧血は鉄が足りずヘムが作れない、最も多い貧血で、血清鉄やフェリチンが下がり、総鉄結合能は上がる。サラセミアはグロビン鎖の合成が遺伝的に低下する病気で、こちらも小球性低色素性。鉄欠乏と違ってフェリチンは下がらず、標的赤血球が出て、貧血の割に赤血球数が保たれるのが鑑別のポイントだ。
医学生医学生
ヘモグロビンの材料不足なら小さく、DNAの材料不足なら大きく、と整理すればいいんですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。臨床で大事な注意点も伝えておこう。B12欠乏では舌炎や、後索・側索が障害される亜急性連合性脊髄変性症などの神経症状が出るけれど、葉酸欠乏では起こりにくい。もしB12欠乏を見逃して葉酸だけを補充すると、貧血は改善しても神経障害が進むことがある。必ず両方を測るのが原則だ。
医学生医学生
内科の実習で、大球性貧血の患者さんにビタミンB12と葉酸を一緒に提出していたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
そうなんだ。それから、大球性貧血は巨赤芽球性だけではない。アルコール多飲や肝疾患、甲状腺機能低下症、骨髄異形成症候群、網赤血球が著しく増えた状態でもMCVは上がる。巨赤芽球性貧血では好中球の過分葉や、無効造血によるLDや間接ビリルビンの上昇も手がかりになるから、末梢血塗抹と生化学もあわせて見ていこう。

まとめ

貧血の鑑別はMCVから始まり、小球性はヘモグロビン合成障害(鉄欠乏性貧血、サラセミアなど)、大球性の代表はDNA合成障害による巨赤芽球性貧血です。巨赤芽球性貧血の原因はビタミンB12欠乏と葉酸欠乏で、B12欠乏は内因子が欠乏する悪性貧血や胃全摘後、腸内細菌がB12を消費するblind loop症候群などで起こります。blind loop症候群では細菌が葉酸を産生するため血清葉酸がむしろ高値となりうる点も特徴です。B12欠乏では亜急性連合性脊髄変性症などの神経症状を伴うため、葉酸のみの補充で神経障害を進行させないよう、両者を確認してから治療することが重要です。赤血球の大きさから背景の病態を推測する思考は、日常診療で最も頻繁に出会う貧血の評価の基本となります。

解答・解説

正解はa, d, eです

貧血を赤血球の大きさで分類し、大球性貧血をきたす疾患を選ぶ問題である。 貧血の鑑別ではまず平均赤血球容積(MCV: mean corpuscular volume、基準はおよそ80〜100fL)を見る。 ・小球性(MCV<80fL): ヘモグロビン合成の障害。ヘモグロビンの材料である鉄(鉄欠乏性貧血)、グロビン鎖(サラセミア)、ヘム(鉄芽球性貧血の一部)の不足、および慢性炎症に伴う貧血の一部。 ・正球性(80〜100fL): 溶血性貧血、出血直後、再生不良性貧血、腎性貧血など。 ・大球性(MCV>100fL): DNA合成の障害による巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏・葉酸欠乏)が代表。そのほか肝疾患、アルコール多飲、甲状腺機能低下症、骨髄異形成症候群、網赤血球の著増などでも大球性となる。 ビタミンB12と葉酸はどちらもDNA合成に必要な補酵素であり、欠乏すると細胞質は成熟するのに核の成熟が遅れる「核と細胞質の成熟の解離」が起こり、大型の赤芽球(巨赤芽球)が出現する。本問では、悪性貧血(B12の吸収障害)、葉酸欠乏、blind loop症候群(腸内細菌によるB12の消費)がいずれも巨赤芽球性貧血として大球性になる。

選択肢考察

  1. ○a.  悪性貧血

    ビタミンB12は胃の壁細胞から分泌される内因子と結合し、回腸末端で吸収される。悪性貧血は自己免疫性萎縮性胃炎(A型胃炎)により、抗壁細胞抗体・抗内因子抗体を介して内因子が欠乏し、B12が吸収できなくなる疾患である。B12欠乏によるDNA合成障害で巨赤芽球性貧血となり、MCVは大きく上昇する(120fLを超えることもある)。無効造血(骨髄内で赤芽球が壊れる)のため間接ビリルビンやLDの上昇がみられ、Hunter舌炎、亜急性連合性脊髄変性症(深部感覚障害など)といったB12欠乏特有の症状も伴う。

  2. ×b.  サラセミア

    サラセミアはグロビン鎖(α鎖またはβ鎖)の合成量が遺伝的に低下する疾患で、ヘモグロビンが十分に作れないため小球性低色素性貧血となる。α鎖とβ鎖の不均衡で余った鎖が沈着して赤血球が壊れやすくなり、溶血も伴う。鉄欠乏性貧血と異なり血清鉄・フェリチンは低下せず(むしろ増加しうる)、標的赤血球の出現、貧血の程度に比して赤血球数が保たれる(MCVの低下が著しい)ことが鑑別点となる。

  3. ×c.  鉄欠乏性貧血

    鉄欠乏性貧血は最も頻度の高い貧血で、ヘム合成に必要な鉄が不足するためヘモグロビン合成が低下し、小球性低色素性貧血(MCV低下、MCH・MCHC低下)となる。検査では血清鉄・フェリチンの低下、総鉄結合能(TIBC)・UIBCの上昇がみられる。原因として月経過多、消化管出血、偏食、成長期・妊娠に伴う需要増大などがある。

  4. ○d.  葉酸欠乏性貧血

    葉酸はDNA合成(チミジル酸の合成)に必要であり、欠乏するとB12欠乏と同様に巨赤芽球性貧血となり大球性を呈する。体内の貯蔵量が少なく、摂取不足になると数か月で欠乏しうる。原因として、偏食・アルコール多飲(摂取不足と吸収・代謝の障害)、妊娠や溶血性貧血による需要増大、メトトレキサートなど葉酸代謝を阻害する薬剤などがある。B12欠乏と異なり神経症状は起こりにくいことが鑑別点であり、B12欠乏を見逃したまま葉酸だけを補充すると神経障害が進行しうる点に注意する。

  5. ○e.  blind loop症候群

    blind loop症候群(盲係蹄症候群)は、胃切除後の再建(Billroth Ⅱ法の輸入脚など)や腸管吻合術後に生じた盲端状の腸管、あるいは憩室・狭窄などで腸内容が停滞し、そこで腸内細菌が異常増殖する状態である(小腸内細菌異常増殖)。増殖した細菌が腸管内のビタミンB12を消費してしまうため、B12欠乏による巨赤芽球性貧血(大球性貧血)となる。さらに細菌による胆汁酸の脱抱合で脂肪の吸収が障害され、脂肪便や脂溶性ビタミン欠乏も起こる。なお細菌は葉酸を産生するため、血清葉酸はむしろ高値となりやすい。

ビタミンB12欠乏の原因

・摂取不足: 厳格な菜食主義(B12は主に動物性食品に含まれる) ・内因子の欠乏: 悪性貧血、胃全摘術後(術後数年経過して貯蔵が尽きてから発症する) ・回腸末端での吸収障害: 回腸切除、Crohn病 ・腸管内での消費: blind loop症候群(細菌の異常増殖)、広節裂頭条虫症 ・薬剤: メトホルミン、プロトンポンプ阻害薬などの長期使用

葉酸欠乏の原因

・摂取不足: 偏食、アルコール多飲 ・需要増大: 妊娠、授乳、溶血性貧血 ・吸収障害: セリアック病など小腸疾患 ・薬剤: メトトレキサート、ST合剤(トリメトプリム)、フェニトイン

巨赤芽球性貧血の特徴的所見

・末梢血: MCV上昇、好中球の過分葉(核が6分葉以上)、汎血球減少をきたすこともある ・無効造血: 間接ビリルビン上昇、LD著増、ハプトグロビン低下 ・骨髄: 巨赤芽球の出現、過形成 ・B12欠乏に特有: Hunter舌炎、亜急性連合性脊髄変性症(後索・側索障害)、認知機能低下 ・悪性貧血では抗内因子抗体・抗壁細胞抗体陽性、高ガストリン血症、胃癌・胃神経内分泌腫瘍のリスク上昇

巨赤芽球性貧血以外の大球性貧血

アルコール多飲・肝疾患(赤血球膜の脂質変化)、甲状腺機能低下症、骨髄異形成症候群、網赤血球増加(溶血や出血後の回復期。網赤血球は成熟赤血球より大きい)

POINT

・貧血の鑑別はMCVから。小球性(<80fL)=鉄欠乏、サラセミア、鉄芽球性など。大球性(>100fL)=巨赤芽球性貧血が代表。 ・巨赤芽球性貧血の原因はビタミンB12欠乏と葉酸欠乏(DNA合成障害)。 ・B12欠乏の原因: 悪性貧血(内因子欠乏)、胃全摘後、回腸末端切除、blind loop症候群(細菌による消費)、菜食主義。 ・B12欠乏では神経症状(亜急性連合性脊髄変性症)を伴うが、葉酸欠乏では伴いにくい。 ・blind loop症候群では細菌が葉酸を作るため血清葉酸はむしろ高値になりうる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。