大きな赤血球はDNAのSOS―MCVから読み解く巨赤芽球性貧血
第111回医師国家試験 I問題 第36問
国試問題にチャレンジ
大球性貧血となるのはどれか。3つ選べ。
- a.悪性貧血
- b.サラセミア
- c.鉄欠乏性貧血
- d.葉酸欠乏性貧血
- e.blind loop症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
貧血の鑑別はMCVから始まり、小球性はヘモグロビン合成障害(鉄欠乏性貧血、サラセミアなど)、大球性の代表はDNA合成障害による巨赤芽球性貧血です。巨赤芽球性貧血の原因はビタミンB12欠乏と葉酸欠乏で、B12欠乏は内因子が欠乏する悪性貧血や胃全摘後、腸内細菌がB12を消費するblind loop症候群などで起こります。blind loop症候群では細菌が葉酸を産生するため血清葉酸がむしろ高値となりうる点も特徴です。B12欠乏では亜急性連合性脊髄変性症などの神経症状を伴うため、葉酸のみの補充で神経障害を進行させないよう、両者を確認してから治療することが重要です。赤血球の大きさから背景の病態を推測する思考は、日常診療で最も頻繁に出会う貧血の評価の基本となります。
解答・解説
正解はa, d, eです
貧血を赤血球の大きさで分類し、大球性貧血をきたす疾患を選ぶ問題である。 貧血の鑑別ではまず平均赤血球容積(MCV: mean corpuscular volume、基準はおよそ80〜100fL)を見る。 ・小球性(MCV<80fL): ヘモグロビン合成の障害。ヘモグロビンの材料である鉄(鉄欠乏性貧血)、グロビン鎖(サラセミア)、ヘム(鉄芽球性貧血の一部)の不足、および慢性炎症に伴う貧血の一部。 ・正球性(80〜100fL): 溶血性貧血、出血直後、再生不良性貧血、腎性貧血など。 ・大球性(MCV>100fL): DNA合成の障害による巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏・葉酸欠乏)が代表。そのほか肝疾患、アルコール多飲、甲状腺機能低下症、骨髄異形成症候群、網赤血球の著増などでも大球性となる。 ビタミンB12と葉酸はどちらもDNA合成に必要な補酵素であり、欠乏すると細胞質は成熟するのに核の成熟が遅れる「核と細胞質の成熟の解離」が起こり、大型の赤芽球(巨赤芽球)が出現する。本問では、悪性貧血(B12の吸収障害)、葉酸欠乏、blind loop症候群(腸内細菌によるB12の消費)がいずれも巨赤芽球性貧血として大球性になる。
選択肢考察
- ○a. 悪性貧血
ビタミンB12は胃の壁細胞から分泌される内因子と結合し、回腸末端で吸収される。悪性貧血は自己免疫性萎縮性胃炎(A型胃炎)により、抗壁細胞抗体・抗内因子抗体を介して内因子が欠乏し、B12が吸収できなくなる疾患である。B12欠乏によるDNA合成障害で巨赤芽球性貧血となり、MCVは大きく上昇する(120fLを超えることもある)。無効造血(骨髄内で赤芽球が壊れる)のため間接ビリルビンやLDの上昇がみられ、Hunter舌炎、亜急性連合性脊髄変性症(深部感覚障害など)といったB12欠乏特有の症状も伴う。
- ×b. サラセミア
サラセミアはグロビン鎖(α鎖またはβ鎖)の合成量が遺伝的に低下する疾患で、ヘモグロビンが十分に作れないため小球性低色素性貧血となる。α鎖とβ鎖の不均衡で余った鎖が沈着して赤血球が壊れやすくなり、溶血も伴う。鉄欠乏性貧血と異なり血清鉄・フェリチンは低下せず(むしろ増加しうる)、標的赤血球の出現、貧血の程度に比して赤血球数が保たれる(MCVの低下が著しい)ことが鑑別点となる。
- ×c. 鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血は最も頻度の高い貧血で、ヘム合成に必要な鉄が不足するためヘモグロビン合成が低下し、小球性低色素性貧血(MCV低下、MCH・MCHC低下)となる。検査では血清鉄・フェリチンの低下、総鉄結合能(TIBC)・UIBCの上昇がみられる。原因として月経過多、消化管出血、偏食、成長期・妊娠に伴う需要増大などがある。
- ○d. 葉酸欠乏性貧血
葉酸はDNA合成(チミジル酸の合成)に必要であり、欠乏するとB12欠乏と同様に巨赤芽球性貧血となり大球性を呈する。体内の貯蔵量が少なく、摂取不足になると数か月で欠乏しうる。原因として、偏食・アルコール多飲(摂取不足と吸収・代謝の障害)、妊娠や溶血性貧血による需要増大、メトトレキサートなど葉酸代謝を阻害する薬剤などがある。B12欠乏と異なり神経症状は起こりにくいことが鑑別点であり、B12欠乏を見逃したまま葉酸だけを補充すると神経障害が進行しうる点に注意する。
- ○e. blind loop症候群
blind loop症候群(盲係蹄症候群)は、胃切除後の再建(Billroth Ⅱ法の輸入脚など)や腸管吻合術後に生じた盲端状の腸管、あるいは憩室・狭窄などで腸内容が停滞し、そこで腸内細菌が異常増殖する状態である(小腸内細菌異常増殖)。増殖した細菌が腸管内のビタミンB12を消費してしまうため、B12欠乏による巨赤芽球性貧血(大球性貧血)となる。さらに細菌による胆汁酸の脱抱合で脂肪の吸収が障害され、脂肪便や脂溶性ビタミン欠乏も起こる。なお細菌は葉酸を産生するため、血清葉酸はむしろ高値となりやすい。
ビタミンB12欠乏の原因
・摂取不足: 厳格な菜食主義(B12は主に動物性食品に含まれる) ・内因子の欠乏: 悪性貧血、胃全摘術後(術後数年経過して貯蔵が尽きてから発症する) ・回腸末端での吸収障害: 回腸切除、Crohn病 ・腸管内での消費: blind loop症候群(細菌の異常増殖)、広節裂頭条虫症 ・薬剤: メトホルミン、プロトンポンプ阻害薬などの長期使用
葉酸欠乏の原因
・摂取不足: 偏食、アルコール多飲 ・需要増大: 妊娠、授乳、溶血性貧血 ・吸収障害: セリアック病など小腸疾患 ・薬剤: メトトレキサート、ST合剤(トリメトプリム)、フェニトイン
巨赤芽球性貧血の特徴的所見
・末梢血: MCV上昇、好中球の過分葉(核が6分葉以上)、汎血球減少をきたすこともある ・無効造血: 間接ビリルビン上昇、LD著増、ハプトグロビン低下 ・骨髄: 巨赤芽球の出現、過形成 ・B12欠乏に特有: Hunter舌炎、亜急性連合性脊髄変性症(後索・側索障害)、認知機能低下 ・悪性貧血では抗内因子抗体・抗壁細胞抗体陽性、高ガストリン血症、胃癌・胃神経内分泌腫瘍のリスク上昇
巨赤芽球性貧血以外の大球性貧血
アルコール多飲・肝疾患(赤血球膜の脂質変化)、甲状腺機能低下症、骨髄異形成症候群、網赤血球増加(溶血や出血後の回復期。網赤血球は成熟赤血球より大きい)
POINT
・貧血の鑑別はMCVから。小球性(<80fL)=鉄欠乏、サラセミア、鉄芽球性など。大球性(>100fL)=巨赤芽球性貧血が代表。 ・巨赤芽球性貧血の原因はビタミンB12欠乏と葉酸欠乏(DNA合成障害)。 ・B12欠乏の原因: 悪性貧血(内因子欠乏)、胃全摘後、回腸末端切除、blind loop症候群(細菌による消費)、菜食主義。 ・B12欠乏では神経症状(亜急性連合性脊髄変性症)を伴うが、葉酸欠乏では伴いにくい。 ・blind loop症候群では細菌が葉酸を作るため血清葉酸はむしろ高値になりうる。
