StudyMed医師国家試験

炎症が癌を育てる―潰瘍性大腸炎と「炎症性発癌」の基本

第111回医師国家試験 I問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第19問

大腸疾患のうち大腸癌の発生母地となるのはどれか。

  1. a.憩室炎
  2. b.Crohn病
  3. c.虚血性腸炎
  4. d.巨大結腸症
  5. e.潰瘍性大腸炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、大腸のさまざまな病気のなかで「その病気自体が大腸癌の土壌になるもの」を選ぶ問題だ。カギになるのは、炎症が一時的なものか、長年続く慢性のものかという視点だよ。まず、大腸癌はふつうどうやってできるか覚えているかな。
医学生医学生
病理の講義で習ったadenoma-carcinoma sequenceです。腺腫にAPCやKRAS、p53の変異が積み重なって癌になる流れですよね。
ドクタードクター
その通り。ほかに、腺腫を経ずに平坦な粘膜から直接できるde novo癌もある。そしてもう一つ、粘膜の慢性炎症が長く続くことで「炎症→異形成→癌」と進む経路がある。これを炎症性発癌と呼び、こうしてできる癌をcolitis-associated cancerというんだ。
医学生医学生
炎症が続くと、粘膜が壊れては再生してを繰り返すので、そのたびに遺伝子変異が起こるチャンスが増える、というイメージでしょうか。
ドクタードクター
いいイメージだね。そう考えると、選択肢のなかで大腸粘膜に広く、長年にわたって慢性・反復性の炎症を起こす病気はどれだろう。
医学生医学生
潰瘍性大腸炎だと思います。でもCrohn病も慢性の炎症性腸疾患なので、少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのはもっともだ。正解は潰瘍性大腸炎。直腸から口側へ連続的に広がる粘膜主体の慢性炎症で、発症からおよそ8〜10年を過ぎると癌のリスクが上がり始める。罹患期間が長いほど、範囲が広いほど、特に全大腸炎型で、さらに炎症が強く続くほどリスクは高くなる。原発性硬化性胆管炎の合併もリスク因子だよ。
医学生医学生
Crohn病はなぜ選ばないんですか。癌ができないわけではないですよね。
ドクタードクター
そこは大事なところだね。Crohn病でも長期経過で癌は合併しうるし、大腸に広く病変がある例では大腸癌リスクも上がるとされる。ただ、日本でCrohn病に関連して特に問題になるのは痔瘻にできる痔瘻癌や直腸肛門部癌、それに小腸癌なんだ。大腸粘膜全体の慢性炎症を背景にした発癌の代表として確立し、サーベイランス体系が整っているのは潰瘍性大腸炎だから、一つ選ぶならこちらになる。
医学生医学生
憩室炎はどうでしょう。消化器内科の実習で、憩室炎の入院患者さんを受け持ちました。
ドクタードクター
憩室は筋層の弱いところから粘膜が袋状に飛び出したもので、そこに便がたまって起こる急性炎症が憩室炎だ。抗菌薬や腸管安静で治ることが多く、癌の母地になるという関連は示されていない。ただ、S状結腸の憩室炎は壁肥厚や狭窄が癌と紛らわしいことがあるから、炎症が落ち着いたあと内視鏡で癌を除外しておくのが勧められるよ。
医学生医学生
虚血性腸炎も、高齢者の突然の腹痛と下血で一過性に治るイメージなので、癌とは関係なさそうですね。
ドクタードクター
そう、多くは1〜2週間ほどで治る一過性の病態で、慢性炎症が続くわけではない。逆に、癌による狭窄の口側に虚血性の病変が起こる閉塞性大腸炎というものがある。これは癌が原因で虚血が起こる、因果が逆の関係だね。
医学生医学生
巨大結腸症はHirschsprung病のことでしょうか。
ドクタードクター
Hirschsprung病は原因の一つだけど、巨大結腸症は結腸が異常に拡張した「状態」の総称なんだ。Chagas病や慢性偽性腸閉塞、潰瘍性大腸炎に伴う中毒性巨大結腸症などいろいろな原因がある。拡張そのものが癌を生むわけではなく、背景の原疾患が癌リスクをもつかどうかで考えることになる。
医学生医学生
つまり、一過性や限局的な病気ではなく、長年続く広範囲の粘膜炎症が癌の土壌になる、と整理すればいいんですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。発展として、潰瘍性大腸炎に関連した癌の特徴も押さえておこう。通常の大腸癌より若い年齢で起こりやすく、平坦・陥凹型で境界がはっきりせず、炎症粘膜と見分けにくい。多発しやすく、低分化腺癌や粘液癌の割合も比較的高い。遺伝子的にはp53の異常が早い段階で起こり、APCの異常は遅れるとされていて、通常の腺腫経路とは順序が違うんだ。
医学生医学生
見つけにくいから、定期的な内視鏡が大事になるわけですね。
ドクタードクター
そう。長期罹患例では色素内視鏡や拡大観察、狙撃生検を組み合わせたサーベイランスを行い、高度異形成や癌が見つかれば大腸全摘術の適応となる。ついでに、遺伝性の大腸癌リスクとしてAPC遺伝子変異による家族性大腸腺腫症や、ミスマッチ修復遺伝子変異によるLynch症候群もセットで覚えておくと、CBTから国試まで役に立つよ。

まとめ

大腸癌の多くは腺腫を経るadenoma-carcinoma sequenceやde novo経路で生じますが、粘膜の慢性炎症が長期間続くと「炎症→異形成→癌」と進む炎症性発癌が起こり、その代表が潰瘍性大腸炎です。リスクは発症後8〜10年ほどから上昇し、罹患期間の長さ、全大腸炎型などの病変範囲の広さ、炎症の持続、原発性硬化性胆管炎の合併で高まるため、長期罹患例では定期的な内視鏡サーベイランスが推奨されます。Crohn病も癌を合併しうるものの、日本では痔瘻癌や小腸癌が特徴的で、憩室炎や虚血性腸炎は一過性・限局的な病態として癌の母地とはみなされず、巨大結腸症は拡張状態の総称にすぎません。潰瘍性大腸炎関連癌は若年・平坦・多発で見つけにくく、p53異常が早期に起こる点で通常の大腸癌と異なります。「慢性炎症が癌を育てる」という視点は、家族性大腸腺腫症やLynch症候群などの遺伝性リスクと合わせて、大腸癌のリスク評価と検診戦略を考える基礎になります。

解答・解説

正解はeです

大腸癌の大部分は、腺腫(良性の腫瘍性ポリープ)が遺伝子変異を積み重ねて癌化する経路(adenoma-carcinoma sequence)や、腺腫を経ずに平坦な粘膜から直接癌が生じる経路(de novo癌)によって発生する。これとは別に、粘膜の慢性炎症が長期間続くことで、炎症→異形成(dysplasia)→癌と進む経路があり、これを炎症性発癌という。こうして生じる癌は colitis-associated cancer(炎症性腸疾患関連大腸癌)と呼ばれる。 本問は「疾患そのものが大腸癌の発生母地となる」ものを問うている。選択肢のうち、大腸粘膜に広範囲で慢性・反復性の炎症を起こし、罹患期間と炎症範囲に応じて大腸癌リスクが上がることが確立しているのは潰瘍性大腸炎である。憩室炎や虚血性腸炎は一過性あるいは限局的な病態で、癌の母地とはみなされない。巨大結腸症は腸管の拡張状態を指す総称であり、それ自体が癌を生むわけではない。Crohn病でも癌の合併はありうるが、大腸癌の発生母地として最も代表的で試験上も確立しているのは潰瘍性大腸炎である。

選択肢考察

  1. ×a.  憩室炎

    大腸憩室は腸管壁の筋層の弱い部分から粘膜が外へ袋状に突出したもので(筋層を欠く仮性憩室)、日本では右側結腸、高齢者ではS状結腸に多い。憩室炎は憩室内に糞便が貯留するなどして起こる急性炎症で、抗菌薬や腸管安静で軽快することが多い。憩室や憩室炎が大腸癌の発生母地になるという関連は示されていない。ただし、S状結腸の憩室炎では炎症による壁肥厚・狭窄が癌と紛らわしいことがあるため、炎症が落ち着いた後に大腸内視鏡で癌を除外することが勧められる。

  2. ×b.  Crohn病

    Crohn病は口腔から肛門までの消化管のどこにでも、非連続性(skip lesion)に全層性の肉芽腫性炎症を起こす炎症性腸疾患である。長期経過例では癌の合併が報告されており、日本では特に痔瘻に発生する癌(痔瘻癌)や直腸肛門部癌が問題となり、小腸癌のリスクも上昇する。大腸に広く病変をもつ例では大腸癌リスクも高まるとされる。しかし、大腸粘膜全体の慢性炎症を背景とした大腸癌の発生母地として確立し、サーベイランスの体系が整っている代表疾患は潰瘍性大腸炎であり、本問で一つ選ぶなら潰瘍性大腸炎となる。

  3. ×c.  虚血性腸炎

    虚血性腸炎は主幹動脈の明らかな閉塞を伴わずに大腸の血流が一時的に低下して生じる粘膜傷害で、高齢者や便秘のある人に多く、左側結腸(下行結腸〜S状結腸)が好発部位である。突然の腹痛に続く下痢・下血で発症し、多くは保存的治療で1〜2週間程度で治癒する一過性型である。慢性炎症が持続する病態ではなく、大腸癌の発生母地となるという関連は知られていない。なお、癌による狭窄の口側で虚血性病変が起こること(閉塞性大腸炎)はあるが、これは癌が原因で虚血が生じるという逆の関係である。

  4. ×d.  巨大結腸症

    巨大結腸症は結腸が異常に拡張した状態の総称で、先天性のHirschsprung病(腸管神経節細胞の欠如)、Chagas病、慢性の偽性腸閉塞、潰瘍性大腸炎などに伴う中毒性巨大結腸症など、さまざまな原因で起こる。拡張状態そのものが大腸癌の発生母地になるという知見はない。ただし、背景にある原疾患(例えば潰瘍性大腸炎)が癌リスクをもつ場合があるので、その点は原疾患に応じて考える必要がある。

  5. ○e.  潰瘍性大腸炎

    潰瘍性大腸炎は直腸から口側へ連続性に広がる、粘膜を主座とした慢性炎症性疾患である。炎症と再生を長年繰り返すことで粘膜に異形成が生じ、そこから癌が発生する(colitis-associated cancer)。癌のリスクは発症から約8〜10年を過ぎると上昇し、罹患期間が長いほど、病変範囲が広いほど(全大腸炎型で最も高い)、炎症が強く持続するほど高くなる。原発性硬化性胆管炎の合併や大腸癌の家族歴もリスクを高める。このため、長期罹患例では定期的な大腸内視鏡によるサーベイランスが推奨されている。

潰瘍性大腸炎関連大腸癌の特徴

・発症年齢が通常の大腸癌より若い傾向がある。 ・平坦・陥凹型で境界が不明瞭な病変が多く、炎症粘膜と区別しにくいため内視鏡で見つけにくい。 ・多発しやすく、低分化腺癌や粘液癌の割合が比較的高い。 ・発癌過程では、通常の腺腫経路とは異なり、p53遺伝子の異常が早期から起こり、APC遺伝子の異常は遅れて起こるとされる。 ・サーベイランスでは色素内視鏡や拡大観察、狙撃生検を組み合わせる。高度異形成や癌が見つかった場合は大腸全摘術の適応となる。

大腸癌の主なリスク因子

・腺腫性ポリープ(adenoma-carcinoma sequence) ・家族性大腸腺腫症(家族性腺腫性ポリポーシス、FAP):APC遺伝子の生殖細胞系列変異による常染色体顕性(優性)遺伝で、大腸に多数の腺腫が生じ、放置するとほぼ全例で大腸癌になるため、予防的大腸全摘術が行われる。 ・Lynch症候群:ミスマッチ修復遺伝子(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2など)の生殖細胞系列変異による常染色体顕性(優性)遺伝で、若年発症・多発・右側結腸に多い大腸癌のほか、子宮内膜癌などの他臓器癌も起こしやすい。 ・炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、大腸型Crohn病) ・生活習慣:赤肉・加工肉の摂取、飲酒、喫煙、肥満、運動不足

Crohn病と癌

日本では痔瘻癌(直腸肛門部癌)が特徴的で、痔瘻の長期経過例で疼痛や分泌物の性状変化があれば癌を疑う。小腸癌も増加する。

POINT

・慢性炎症を背景に大腸癌(colitis-associated cancer)が発生する代表疾患は潰瘍性大腸炎。 ・リスクは罹患期間(約8〜10年以上)、病変範囲(全大腸炎型)、炎症の持続、原発性硬化性胆管炎の合併で高まる → 定期的な内視鏡サーベイランス。 ・Crohn病では痔瘻癌・小腸癌に注意。 ・憩室炎・虚血性腸炎は癌の母地ではない。 ・遺伝性の大腸癌リスク:家族性大腸腺腫症(APC)、Lynch症候群(ミスマッチ修復遺伝子)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。