StudyMed医師国家試験

産後3日目の涙―マタニティ・ブルーズを「時期・重さ・長さ」で見抜く

第111回医師国家試験 H問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第111回 H問題 第3問

マタニティ・ブルーズについて正しいのはどれか。

  1. a.症状は2か月以上続く。
  2. b.産褥3~10日頃に発症する。
  3. c.大半は産後うつ病に移行する。
  4. d.症状として幻聴が特徴的である。
  5. e.我が国の発症率は欧米よりも高い。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、産後にみられる精神状態のうち、最も頻度の高いマタニティ・ブルーズの特徴を問う問題だ。ポイントは「いつ始まり」「どのくらい重く」「どれだけ続くか」の3つ。これを産後うつ病や産褥精神病と比べながら整理すると、迷わず解けるよ。まず、マタニティ・ブルーズと聞いてどんな状態を思い浮かべるかな。
医学生医学生
出産後に気分が落ち込む状態、というイメージです。でも産後うつ病との違いを聞かれると、正直あいまいです。
ドクタードクター
そこを今日はっきりさせよう。マタニティ・ブルーズは、分娩後まもなく現れる一過性で軽い情緒不安定のことだ。病気というより、出産後の急激な変化に対する生理的な反応に近いと考えられている。
医学生医学生
急激な変化というのは、ホルモンのことでしょうか。産婦人科の講義で、胎盤が出るとエストロゲンとプロゲステロンが一気に下がると習いました。
ドクタードクター
その通り。胎盤娩出によるエストロゲン・プロゲステロンの急減に、分娩の疲れ、睡眠不足、授乳や育児の始まりといった心理社会的な負担が重なる。これが集中するのが産後数日のころなんだ。だから発症は産褥3〜10日頃、特に3〜5日目前後が多い。今回の正解はこの発症時期の記述だね。
医学生医学生
臨床実習で産科病棟を回ったとき、産後3日目くらいのお母さんが理由もなく泣いてしまうと助産師さんが話していました。あれがそうなんですね。
ドクタードクター
まさに典型例だ。症状で最も特徴的なのは涙もろさで、ほかに軽い抑うつ気分、不安、焦り、集中力の低下、眠れなさなどがみられる。では、症状が2か月以上続くという記述はどうだろう。
医学生医学生
一過性ということなら、そんなに長くは続かないはずですよね。
ドクタードクター
そう。通常は数時間から数日で、長くても2週間程度で自然に軽快する。逆に言えば、2週間を超えて続く、あるいは悪化していく場合は、マタニティ・ブルーズではなく産後うつ病を疑って評価し直す必要があるんだ。
医学生医学生
では、大半が産後うつ病に移行するというのも違いますか。経験した人はうつ病になりやすいと聞いた気がして、少し迷いました。
ドクタードクター
その記憶は半分正しいよ。マタニティ・ブルーズを経験した人は産後うつ病のリスクがやや高いとされる。ただし移行するのは一部、約5%程度とする報告がある程度で、大部分は休息と周囲の支えだけで自然に良くなる。「リスクが上がる」と「大半が移行する」は別物だから注意しよう。
医学生医学生
幻聴が特徴的、というのも違和感があります。精神科の講義では、幻聴は統合失調症のような精神病症状の代表だと習いました。
ドクタードクター
いい感覚だね。マタニティ・ブルーズは軽い情緒の揺れにとどまり、幻覚や妄想は出ない。産後に幻聴や妄想、錯乱が現れたら、産褥精神病を考えなければならない。頻度は0.1〜0.2%程度とまれだけれど、多くは産後2週間以内に急激に発症し、入院を含む緊急の精神科治療が必要になる。双極性障害との関連も強いとされているよ。
医学生医学生
最後の発症率の比較はどうでしょう。日本人のほうが我慢しがちで、むしろ多そうな気もしますが。
ドクタードクター
イメージとは逆で、報告では欧米が50〜80%程度と高いのに対し、我が国では30%前後、報告によって10〜30%程度と低めなんだ。だから日本のほうが高いというのは誤り。数字に幅はあるけれど、「欧米のほうが多い」という大小関係は押さえておこう。
医学生医学生
整理すると、マタニティ・ブルーズは産後数日で始まり、涙もろさ中心の軽い症状で、2週間以内に自然に治る。長引けば産後うつ病、幻覚や妄想があれば産褥精神病、ということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。最後に臨床での注意点を補足しておこう。産後うつ病は頻度が10〜15%程度と決して珍しくなく、多くは産後数週から数か月以内に発症する。2週間以上続く抑うつ気分や興味の喪失、育児への自信喪失、自責感、希死念慮などがみられ、重症例では虐待や母子心中のリスクもあるから早期発見が重要なんだ。
医学生医学生
早期発見のために、何か使える道具はありますか。
ドクタードクター
エジンバラ産後うつ病質問票、いわゆるEPDSが広くスクリーニングに使われている。産後健診などで活用されているよ。そしてマタニティ・ブルーズそのものに対しては、薬ではなく、休息や睡眠の確保、家族の協力、話をよく聴いて「よくあることで自然に治まる」と説明することが支援の中心になる。安心を与えつつ、経過を見守る姿勢が大切だね。

まとめ

マタニティ・ブルーズは、胎盤娩出後のエストロゲン・プロゲステロンの急減に分娩の疲労や育児開始の負担が重なって生じる一過性の情緒不安定で、産褥3〜10日頃に発症します。涙もろさを中心に軽い抑うつ、不安、集中力低下などがみられますが、幻覚・妄想は伴わず、数時間〜数日、長くても2週間以内に自然軽快し、治療は原則不要です。発症率は我が国で30%前後と欧米(50〜80%)より低く、産後うつ病へ移行するのは一部にとどまります。症状が2週間以上続けば産後うつ病(EPDSでスクリーニング)、幻覚・妄想が出れば緊急対応を要する産褥精神病を考えます。「発症時期・重症度・持続期間」の3軸で産後の精神状態を整理することは、母子の安全を守る周産期医療の基本となります。

解答・解説

正解はbです

テーマ

マタニティ・ブルーズは、分娩後まもなくの産褥婦にみられる一過性で軽度の気分・情緒の不安定な状態である。疾患というよりも、分娩後の急激なホルモン変化(エストロゲン・プロゲステロンの急減)や分娩・育児開始に伴う心身の負担を背景とした生理的反応に近いものと位置づけられる。

正解を導く考え方

マタニティ・ブルーズの特徴は「発症が早い(産褥3〜10日頃)」「症状が軽い(涙もろさ、軽い抑うつ、不安、集中力低下)」「持続が短い(数時間〜数日、長くても2週間以内)」「自然に軽快する」の4点に集約される。これを、産後うつ病(より遅く発症し、持続が長く、治療を要する)や産褥精神病(幻覚・妄想を伴う重症の精神病状態)と対比させて整理すると、各選択肢の正誤を判断しやすい。発症時期を正しく述べているのは b のみである。

選択肢考察

  1. ×a.  症状は2か月以上続く。

    マタニティ・ブルーズの症状は通常数時間から数日間で、長くても2週間程度で自然に消える一過性のものである。2か月以上も続くことはない。症状が2週間を超えて続く場合や、かえって悪化する場合は、マタニティ・ブルーズではなく産後うつ病を疑って評価する必要がある。

  2. ○b.  産褥3~10日頃に発症する。

    マタニティ・ブルーズは分娩後3〜10日頃、特に3〜5日目前後に発症することが多い。この時期は胎盤の娩出によりエストロゲンやプロゲステロンが急激に低下し、加えて分娩による疲労、睡眠不足、授乳・育児の開始といった心身の負担が重なる時期にあたる。発症時期の記述として正しい。

  3. ×c.  大半は産後うつ病に移行する。

    マタニティ・ブルーズの大部分は治療を必要とせず、周囲の支援や休息のみで自然に軽快する。産後うつ病へ移行するのは一部(約5%程度とする報告がある)にとどまり、大半が移行するわけではない。ただし、マタニティ・ブルーズを経験した人は産後うつ病の発症リスクがやや高いとされるため、経過を見守ることは重要である。

  4. ×d.  症状として幻聴が特徴的である。

    マタニティ・ブルーズの症状は、涙もろさ(最も特徴的)、軽い抑うつ気分、不安、焦燥、集中力の低下、睡眠障害、情緒不安定などの軽いものであり、幻聴などの精神病症状はみられない。産後に幻覚や妄想が出現した場合は、産褥精神病(産後精神病)を考え、早急な精神科的対応を要する。幻聴は統合失調症、薬剤性精神障害などでみられる症状である。

  5. ×e.  我が国の発症率は欧米よりも高い。

    マタニティ・ブルーズの発症率は欧米で50〜80%程度と高く報告されているのに対し、我が国では30%前後(報告により10〜30%程度)と低い。したがって、我が国の発症率は欧米よりも低い。

産褥期にみられる主な精神状態の比較

・マタニティ・ブルーズ:頻度は高い(我が国で約30%前後、欧米で50〜80%)。産褥3〜10日頃に発症し、数時間〜数日、長くても2週間以内に自然軽快する。涙もろさ、軽い抑うつ、不安、集中力低下などが主症状。治療は原則不要で、休息・睡眠の確保、家族の協力、傾聴や説明による支援を行う。 ・産後うつ病:頻度は約10〜15%。多くは産後数週〜数か月以内(典型的には産後1か月前後まで)に発症し、2週間以上持続する抑うつ気分、興味・喜びの喪失、自責感、育児への自信喪失、希死念慮などを呈する。うつ病の診断基準を満たし、心理社会的支援や薬物療法などの治療を要する。重症例では母子心中や虐待のリスクがあるため早期発見が重要である。スクリーニングにはエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS: Edinburgh Postnatal Depression Scale)が広く用いられる。 ・産褥精神病:頻度は約0.1〜0.2%とまれ。多くは産後2週間以内に急激に発症し、幻覚・妄想、錯乱、著しい気分の変動などを呈する。双極性障害との関連が強い。入院を含む緊急の精神科治療を要する。

マタニティ・ブルーズの背景

分娩後のエストロゲン・プロゲステロンの急激な低下などの内分泌変化に、分娩の疲労、睡眠不足、育児開始に伴う不安や役割の変化などの心理社会的要因が加わって生じると考えられている。

POINT

・マタニティ・ブルーズは産褥3〜10日頃に発症する一過性の軽い情緒不安定である。 ・主症状は涙もろさで、ほかに軽い抑うつ、不安、集中力低下など。幻覚・妄想はみられない。 ・数時間〜数日、長くても2週間以内に自然軽快し、治療は原則不要。 ・2週間以上続くときは産後うつ病への移行を疑う(移行は一部のみ)。 ・発症率は我が国(約30%前後)より欧米(50〜80%)の方が高い。 ・産後に幻覚・妄想が出たら産褥精神病を考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。