首すじの「a波」が消えるとき―頸静脈波で読み解く心房の収縮
第111回医師国家試験 H問題 第2問
国試問題にチャレンジ
心電図と同期させた頸静脈波の模式図を示す。 矢印で示す波が消失するのはどれか。

- a.心房細動
- b.房室解離
- c.左房粘液腫
- d.肺高血圧症
- e.Ⅰ度房室ブロック
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
頸静脈波は右心房の圧変化を反映し、心電図のP波の直後に現れる最初の陽性波であるa波は右心房の収縮によって生じます。心房細動では心房が無秩序に興奮してまとまった収縮が失われるため、P波の消失とともにa波も消失します。房室解離やⅠ度房室ブロックでは心房収縮そのものは保たれるためa波は消えず、房室解離では心室収縮期に心房が収縮することで不規則なcannon a波が出現し、肺高血圧症などの右室肥大や三尖弁狭窄症ではa波が増高します。さらに三尖弁閉鎖不全症ではv波の増高、収縮性心膜炎ではy谷の急峻化がみられます。各波の成り立ちを心周期と結びつけて理解しておくと、ベッドサイドの頸静脈の観察から右心系の異常を推測する力が身につきます。
解答・解説
正解はaです
図の読み取り
頸静脈波は右心房の圧変化が上大静脈を経て内頸静脈に伝わったもので、右心系の圧の動きをほぼそのまま反映する。正常の頸静脈波は、陽性波である a 波・c 波・v 波と、陰性波(谷)である x 谷・y 谷から構成される。 矢印の波は心電図の P 波の直後、QRS 波より前に現れる最初の陽性波であり、これは a 波(atrial wave)である。P 波は心房の電気的興奮(脱分極)を示し、それに少し遅れて心房筋が機械的に収縮する。右心房が収縮すると右房圧が一過性に上昇し、その圧が頸静脈へ逆行性に伝わって a 波となる。
考え方
したがって、a 波が消失するのは「右心房の有効な収縮がなくなる状態」である。心房が細かく無秩序に興奮して、まとまった収縮をしなくなる心房細動がその代表である。 一方、房室伝導の異常(房室解離、房室ブロック)では、心房と心室の収縮のタイミングがずれるだけで心房自体は収縮するため、a 波は消失しない。むしろタイミングや高さが変化する(巨大 a 波、cannon a 波など)ことが特徴となる。右室の拡張を妨げる病態(肺高血圧症など)でも心房収縮は残り、a 波はむしろ高くなる。
選択肢考察
- ○a. 心房細動
心房細動では心房内を毎分 350〜600 回程度の無秩序な電気的興奮が旋回し、心房筋は細かく震えるだけで、まとまった収縮(atrial kick)が起こらない。心電図でも P 波が消失して基線が細かく揺れる f 波となる。右心房の有効な収縮がないため、それによって生じる頸静脈波の a 波は消失し、x 谷も不明瞭となる。したがって正しい。
- ×b. 房室解離
房室解離は、心房と心室がそれぞれ別のペースメーカで独立して興奮している状態(完全房室ブロックや心室頻拍などでみられる)である。心房と心室の収縮の時間関係はばらばらになるが、心房そのものは収縮しているので a 波は消失しない。右心房の収縮がたまたま三尖弁が閉じている心室収縮期と重なると、血液が行き場を失って頸静脈へ強く逆流し、非常に高い a 波(cannon a 波)が不規則に出現するのが特徴である。
- ×c. 左房粘液腫
左房粘液腫は左心房内に発生する心臓の原発性良性腫瘍で最も多いものであり、僧帽弁口を間欠的に塞いで僧帽弁狭窄に似た血行動態や塞栓症を起こす。頸静脈波は右心系の圧を反映するものであり、左房の腫瘍によって右心房の収縮が失われることはないため a 波は消失しない。なお右心房に発生した粘液腫では三尖弁口の通過障害によって a 波がむしろ増高しうる。
- ×d. 肺高血圧症
肺高血圧症では右心室に圧負荷がかかって右室肥大が生じ、右室のコンプライアンス(伸展性)が低下する。このため拡張末期には、硬くなった右室へ血液を押し込むために右心房がより強く収縮する必要があり、その結果 a 波はむしろ増高(巨大 a 波)する。心房収縮は保たれており a 波が消失することはない。
- ×e. Ⅰ度房室ブロック
Ⅰ度房室ブロックは、心房から心室への興奮伝導が遅れて PR 間隔が 0.20 秒を超えて延長するが、すべての P 波の後に QRS 波が続く状態である。心房の興奮と収縮は正常に起こるため a 波は保たれる。PR 間隔が延長するぶん a 波と c 波の間隔が開き、a 波が独立して明瞭にみえることがあるが、消失はしない。
頸静脈波の各成分と心周期との対応
・a 波:右心房の収縮による圧上昇。心電図の P 波の直後に出現する。 ・c 波:心室収縮の開始時に、閉じた三尖弁が右心房側へ膨隆すること(および近接する頸動脈拍動の影響)による小さな陽性波。QRS 波の直後に出現する。 ・x 谷:心房の弛緩と、心室収縮に伴って三尖弁輪が心尖方向へ引き下げられることによる右房圧の低下。 ・v 波:心室収縮期に、三尖弁が閉じたまま右心房に静脈血が充満していくことによる圧上昇。心電図の T 波の後ろ付近に頂点をもつ。 ・y 谷:三尖弁が開放して右心房の血液が右心室へ流入することによる圧低下。
波形の異常と主な原因
・a 波の消失:心房細動(心房の有効な収縮がない)。 ・a 波の増高(巨大 a 波):三尖弁狭窄症、右房粘液腫、肺高血圧症・肺動脈弁狭窄症などによる右室肥大(右室コンプライアンス低下)。 ・cannon a 波:房室解離(完全房室ブロック、心室頻拍など)で、心房収縮が三尖弁閉鎖中に起こったとき。不規則に出現する。 ・v 波の増高:三尖弁閉鎖不全症。右室収縮時に血液が右房へ逆流するため、収縮期に頸静脈が拍動性に膨隆する(陽性頸静脈拍動)。 ・y 谷の急峻化:収縮性心膜炎(Friedreich 徴候)。
臨床での観察
頸静脈波形は右心カテーテルによる右房圧曲線として記録されるほか、ベッドサイドでは内頸静脈の拍動を視診することで右心系の異常をある程度推測できる。内頸静脈は右心房とほぼ一直線につながり、弁がないため右房圧をよく反映する。
POINT
・頸静脈波の a 波は右心房の収縮を反映し、心電図の P 波の直後に出現する。 ・a 波が消失する代表疾患は心房細動である。 ・房室解離・完全房室ブロックでは cannon a 波(巨大な a 波が不規則に出現)がみられる。 ・三尖弁狭窄症や右室肥大(肺高血圧症など)では a 波が増高する。 ・三尖弁閉鎖不全症では v 波が増高する。
