StudyMed医師国家試験

英文の手紙が命綱―旅先で倒れた21-水酸化酵素欠損症、副腎クリーゼに打つべき二つの手

第111回医師国家試験 H問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第111回 H問題 第24問

観光旅行中に倒れたという外国人女性が救急車で搬入された。大きく呼びかけるとかすかに目を開くが意思の疎通は取れない。同行の友人によると持病があるとのことで,女性のかかりつけ医から預かった手紙を差し出した。 To whom it may concern: This is to inform you that Ms.●●(Birth Date 3/14/1998) has 21-hydroxylase deficiency. Her condition has been well-controlled with 9 alpha-fludrocortisone and hydrocortisone. Although she does not experience any problems during her daily activities, there is a small but certain possibility that she falls into a state of adrenal failure, especially if she is confronted with severe stress on her week-long trip to Japan. If she complains of severe fatigue, fever, anorexia, or is found unconscious, please give her intravenous hydrocortisone and sodium-containing fluid, and contact an endocrinologist immediately. Thank you for your cooperation. ●●, M.D. ●● Clinic  まず行うべき処置はどれか。

第111回 H問題 第24問の問題画像
  1. a.副腎皮質ステロイドの静注と乳酸リンゲル液の点滴静注
  2. b.副腎皮質ステロイドの静注と5%ブドウ糖液の点滴静注
  3. c.20%ブドウ糖液の静注と5%ブドウ糖液の点滴静注
  4. d.アドレナリンの皮下注と生理食塩液の点滴静注
  5. e.アドレナリンの筋注と生理食塩液の点滴静注

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、持病のある外国人旅行者の意識障害に対して、まず何をするかを問う問題だ。カギは主治医からの英文の手紙。病名、普段の治療内容、そして緊急時の指示まで書いてある。これを正しく読み解けるかがポイントになるよ。
医学生医学生
21-hydroxylase deficiencyは21-水酸化酵素欠損症、つまり先天性副腎皮質過形成ですね。生化学の講義でステロイド合成経路の図を何度も描かされました。
ドクタードクター
いいね。21-水酸化酵素は、コルチゾール系とアルドステロン系の両方の合成に必要な酵素だ。これが欠けるとコルチゾールが作れず、ACTHが上がって副腎皮質が過形成になる。行き場を失った前駆体は副腎アンドロゲンへ流れ、女児では外性器の男性化が起こる。塩類喪失型ではアルドステロンも不足するんだ。
医学生医学生
だから手紙にある9α-フルドロコルチゾンとヒドロコルチゾンの両方で補充しているわけですね。鉱質コルチコイドと糖質コルチコイドの補充です。
ドクタードクター
その通り。では、そんな患者さんが1週間の旅行中に倒れた。何が起こったと考える?
医学生医学生
意識障害の鑑別は多いので、低血糖や脳血管障害、てんかんなども考えて検査を進めたくなります。
ドクタードクター
普通の意識障害ならその姿勢は正しい。でもこの人は、自前でコルチゾールを増やせない人だ。旅行という身体的・精神的ストレスでコルチゾールの需要が急に増えると、いつもの補充量では相対的に足りなくなる。手紙でも主治医がまさにその危険を指摘しているよね。まず疑うべきは急性副腎不全、いわゆる副腎クリーゼだ。
医学生医学生
副腎クリーゼでは、なぜ意識障害やショックになるんでしょうか。
ドクタードクター
二つの機序がある。一つはコルチゾール欠乏で血管のカテコラミンに対する反応性が落ち、血圧が保てなくなること。もう一つはアルドステロン欠乏で腎臓からNaが失われ、脱水が進むこと。この二つが重なってショックに至り、放置すれば死亡しうる。だから治療の柱も、糖質コルチコイドの静注と、Naを含む等張性輸液による細胞外液の補充の二つになるんだ。
医学生医学生
手紙の最後にも、intravenous hydrocortisoneとsodium-containing fluidと書いてありますね。指示そのものだ。
ドクタードクター
そう、英文が読めればほぼ答えが書いてある。ステロイドの静注と乳酸リンゲル液の組み合わせが正解だ。乳酸リンゲル液はNaを約130mEq/L含む等張性の細胞外液補充液だから、塩類喪失と脱水を補正できる。実臨床では生理食塩液、必要ならブドウ糖を加えたものが第一選択とされることが多いけれど、選択肢の中で二つの条件を満たすのはこれだけだ。
医学生医学生
ステロイドと5%ブドウ糖液の組み合わせも惜しい気がしました。低血糖を起こすこともありますよね。
ドクタードクター
ステロイドは良いけれど、5%ブドウ糖液はNaを含まない。ブドウ糖が代謝されると実質的に自由水を入れたことになり、細胞外液の補充になりにくいうえ、副腎不全でよくみられる低Na血症を悪化させるおそれがある。糖が必要なら、Na含有輸液に加える形で補うのが筋だね。
医学生医学生
20%ブドウ糖液の静注は、低血糖による意識障害を想定した処置ですね。
ドクタードクター
そう。糖の補充自体が役立つ場面はあるけれど、肝心のステロイドもNaも入っていないから、ショックや塩類喪失は是正できない。
医学生医学生
アドレナリンの二つは、アナフィラキシーの治療ですよね。救急の講義で、大腿外側に筋注と習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。筋注と生理食塩液の組み合わせはアナフィラキシーの標準的な初期治療で、皮下注は推奨されていない。生理食塩液自体はNaを含んで適切だけど、どちらもステロイドが欠けている。コルチゾールが足りない状態では昇圧薬への反応も悪いし、そもそもアレルゲン曝露や皮膚・呼吸器症状のようなアナフィラキシーを示す情報もない。
医学生医学生
確定診断のために血中コルチゾールやACTHを測ってから治療、ではいけないんですか。
ドクタードクター
採血はしておいていいけれど、結果を待たずに治療を始めるのが鉄則だ。成人ではヒドロコルチゾン100mgを静注し、以後24時間で200mg程度を投与、生理食塩液などを最初の1時間で約1L入れて、循環をみながら続ける。並行して感染症などの誘因を探すことも忘れずに。
医学生医学生
患者さんが自分で防ぐ方法もあるんでしょうか。
ドクタードクター
ステロイド補充中の患者さんには、発熱や体調不良のときに内服量を2〜3倍に増やすシックデイルールと、病名と緊急時の対応を書いたカードや手紙の携帯を指導する。今回の手紙はまさにその実例で、言葉が通じない状況でも医療者に必要な情報を届ける命綱になったわけだ。
医学生医学生
小児科の実習で、新生児マススクリーニングの対象疾患として17-OHP高値を習いました。子どものころに見つかった病気を、大人になってもこうして管理し続けているんですね。
ドクタードクター
そう、治療は生涯続く。だからこそストレス時の副腎クリーゼは、この病気の人にとっていつでも起こりうる緊急事態だと覚えておこう。

まとめ

ステロイド補充療法中の副腎皮質機能低下患者が、旅行や感染などのストレス下で意識障害やショックを起こしたら、まず急性副腎不全(副腎クリーゼ)を考えます。コルチゾール欠乏による血管反応性の低下とアルドステロン欠乏によるNa喪失・脱水が病態の中心であり、治療はヒドロコルチゾンの静注とNaを含む等張性輸液(生理食塩液、乳酸リンゲル液など)を、検査結果を待たずに開始します。5%ブドウ糖液はNaを含まず細胞外液補充にならず、アドレナリン筋注はアナフィラキシーの治療で副腎不全には効果が乏しい点が鑑別のポイントです。21-水酸化酵素欠損症は先天性副腎皮質過形成の約90%を占め、17-OHP高値、女性の男性化、塩類喪失型での低Na・高K血症が特徴です。シックデイルールや緊急時カードの指導まで含めて理解しておくことが、命に関わるクリーゼを防ぎ、適切に対処する力につながります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

旅行中に倒れて搬送された若年女性で、呼びかけにわずかに開眼するのみで意思疎通ができない(JCS II-30程度の意識障害)。主治医からの英文の手紙には次の内容が書かれている。 ・21-水酸化酵素欠損症(21-hydroxylase deficiency)がある。 ・9α-フルドロコルチゾン(鉱質コルチコイド製剤)とヒドロコルチゾン(糖質コルチコイド製剤)の補充で良好に管理されている。 ・日常生活に支障はないが、1週間の日本旅行という強いストレスで副腎不全に陥る可能性は低いながら確かにある。 ・強い倦怠感、発熱、食欲不振を訴えた場合、または意識のない状態で発見された場合は、ヒドロコルチゾンの静注とナトリウムを含む輸液を行い、直ちに内分泌専門医に連絡してほしい。

診断へのプロセス

意識障害の原因には脳血管障害、頭部外傷、てんかん、心原性失神、低血糖、電解質異常、感染症など多くのものがあり、通常は血糖・電解質・心電図・頭部CTなどで幅広く評価する。しかし本例では、ステロイド補充療法中の副腎皮質ホルモン欠乏症患者が、旅行という身体的・精神的ストレス下で意識障害を起こしている。ストレス時にはコルチゾール需要が急増するが、本症の患者は自前で増やせないため、補充量が相対的に不足して急性副腎不全(副腎クリーゼ、adrenal crisis)に陥りやすい。まず最も疑うべきは急性副腎不全である。

設問の考え方

急性副腎不全は、コルチゾール欠乏による循環不全(血管のカテコラミン反応性低下)と、アルドステロン欠乏による腎からのNa喪失・脱水によってショックに至り、放置すれば死亡しうる緊急疾患である。治療の柱は、(1)糖質コルチコイド(ヒドロコルチゾン)の速やかな静注、(2)Naを含む等張性輸液による細胞外液の補充、の二つであり、手紙の指示とも一致する。確定診断のための検査(血中コルチゾール・ACTH)の採血は行ってよいが、結果を待たずに治療を開始する。この二条件を満たす組み合わせを選べばよい。

選択肢考察

  1. ○a.  副腎皮質ステロイドの静注と乳酸リンゲル液の点滴静注

    副腎皮質ステロイド(ヒドロコルチゾン)の静注で欠乏したコルチゾールを補い、血管の昇圧物質への反応性と循環を回復させる。乳酸リンゲル液はNaを約130mEq/L含む等張性の細胞外液補充液であり、アルドステロン欠乏による塩類喪失と脱水を補正できる。手紙の「ヒドロコルチゾンとナトリウムを含む輸液」という指示を満たす唯一の選択肢である。なお実臨床では生理食塩液(必要に応じブドウ糖を加える)が第一選択として推奨されることが多いが、選択肢の中ではこれが最適である。

  2. ×b.  副腎皮質ステロイドの静注と5%ブドウ糖液の点滴静注

    ステロイドの静注は適切だが、5%ブドウ糖液はNaを含まない。体内でブドウ糖が代謝されると実質的に自由水を投与したことになり、細胞外液量の補充効果が乏しいうえ、急性副腎不全でみられる低Na血症を悪化させるおそれがある。Na含有輸液という条件を満たさないため不適切である。

  3. ×c.  20%ブドウ糖液の静注と5%ブドウ糖液の点滴静注

    低血糖による意識障害を想定した処置である。急性副腎不全では低血糖を合併することがあるため糖の補充自体は有用な場合があるが、治療の核心である副腎皮質ステロイドが含まれておらず、Naを含む輸液もない。これではショックや塩類喪失を是正できない。

  4. ×d.  アドレナリンの皮下注と生理食塩液の点滴静注

    生理食塩液はNaを含み適切だが、副腎皮質ステロイドが投与されていない。アドレナリンは主にアナフィラキシーや心停止で用いる薬剤であり、急性副腎不全の原因治療にはならない。コルチゾールが欠乏した状態ではカテコラミンへの血管反応性も低下しており、昇圧薬だけでは循環は安定しにくい。さらにアナフィラキシーでもアドレナリンは皮下注ではなく筋注が推奨される。

  5. ×e.  アドレナリンの筋注と生理食塩液の点滴静注

    アナフィラキシーショックに対する標準的な初期治療(大腿外側への筋注)の組み合わせである。生理食塩液の投与は適切であるが、急性副腎不全で不可欠な副腎皮質ステロイドが欠けている。本例はアレルゲン曝露や皮膚・呼吸器症状などアナフィラキシーを示す情報もなく、不適切である。

21-水酸化酵素欠損症

先天性副腎皮質過形成(congenital adrenal hyperplasia:CAH)の約90%を占める常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。21-水酸化酵素(CYP21A2)は、プロゲステロンを11-デオキシコルチコステロン(アルドステロン系)へ、17α-ヒドロキシプロゲステロンを11-デオキシコルチゾール(コルチゾール系)へ変換する。この酵素が欠損すると以下が起こる。 ・コルチゾール低下 → 負のフィードバックが外れACTH上昇 → 副腎皮質が過形成となる。 ・上流の17α-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)が蓄積し、行き場を失った前駆体が副腎アンドロゲン合成へ流れる → 女児の外性器男性化、小児期の急速な成長と骨端線早期閉鎖など。 ・塩類喪失型ではアルドステロンも低下 → 新生児期から低Na血症、高K血症、脱水、ショック(副腎クリーゼ)。 診断には血中17-OHP高値が重要で、日本では新生児マススクリーニングの対象疾患である。治療はヒドロコルチゾン(糖質コルチコイド補充とACTH抑制による過剰アンドロゲン抑制)と、塩類喪失型ではフルドロコルチゾン(鉱質コルチコイド補充)を生涯継続する。

急性副腎不全(副腎クリーゼ)

誘因:感染症、手術、外傷、脱水、精神的ストレス、ステロイドの自己中断など。 症状:強い倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、腹痛、発熱、意識障害、ショック。 検査所見:低Na血症、高K血症(原発性の場合)、低血糖、好酸球増多など。 治療:成人ではヒドロコルチゾン100mgを静注し、以後24時間で200mg程度を持続または分割投与する。等張性のNa含有輸液(生理食塩液など)を最初の1時間で約1L投与し、その後も循環動態をみながら継続する。低血糖があればブドウ糖を補う。誘因(感染症など)の検索と治療も並行して行う。

シックデイ対策

ステロイド補充中の患者には、発熱や体調不良時に内服量を2〜3倍に増やす「シックデイルール」と、緊急時に医療者へ病名と対応を伝えるカード(または本例のような手紙)の携帯を指導する。

POINT

・ステロイド補充中の副腎不全患者がストレス下で意識障害・ショックを起こしたら急性副腎不全を考える。 ・治療はヒドロコルチゾン静注+Naを含む等張性輸液(生理食塩液、乳酸リンゲル液など)。検査結果を待たずに開始する。 ・5%ブドウ糖液はNaを含まず細胞外液の補充にならない。 ・アドレナリン筋注はアナフィラキシーの治療であり、副腎不全には効果が乏しい。 ・21-水酸化酵素欠損症:CAHの約90%、17-OHP高値、女性の男性化、塩類喪失型では低Na・高K。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。