尿は増えるか、減るか―乏尿と多尿を機序で見分ける
第111回医師国家試験 F問題 第15問
国試問題にチャレンジ
乏尿をきたすのはどれか。
- a.糖尿病
- b.SIADH
- c.急性腎不全
- d.低カリウム血症
- e.高カルシウム血症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乏尿は1日尿量400 mL以下、無尿は100 mL以下と定義され、400 mLという値は1日の老廃物を最大濃縮尿で排泄するのに必要な最低量に由来します。乏尿の代表的な原因は急性腎不全(急性腎障害)で、腎前性・腎性・腎後性に分けて評価し、FENaや超音波検査が鑑別に役立ちます。一方、糖尿病は浸透圧利尿、低カリウム血症と高カルシウム血症は尿濃縮障害によって多尿をきたし、SIADHは濃縮尿と低ナトリウム血症が特徴で乏尿にはなりません。尿が出ないときはまず尿閉を除外することも大切です。各病態が尿量を増やすか減らすかを機序から理解しておくと、病棟での尿量評価やAKIの早期発見に直結します。
解答・解説
正解はcです
尿量の異常は、1日尿量によって次のように定義される。成人の1日尿量は通常およそ1,000〜1,500 mL程度である。 ・乏尿:1日尿量400 mL以下 ・無尿:1日尿量100 mL以下 ・多尿:1日尿量がおおむね2,500〜3,000 mL以上(定義には幅がある) 乏尿の基準が400 mLとされるのは、1日に体内で作られる老廃物(溶質、約600 mOsm)を、腎臓が最大限に濃縮した尿(約1,200 mOsm/kg)で排出するのに最低限必要な量がおよそ400〜500 mLだからである。これを下回ると老廃物を出しきれず、体内にたまり始める。 乏尿の原因は、腎臓への血流が減る腎前性(脱水、出血、ショック、心不全など)、腎臓そのものが障害される腎性(急性尿細管壊死、急速進行性糸球体腎炎など)、尿路が閉塞する腎後性(両側尿管閉塞など)に分けて考える。これらはいずれも急性腎不全(現在は急性腎障害:AKIと呼ぶことが多い)の原因分類と重なる。 一方、選択肢には多尿をきたす代表的な病態(糖尿病、低カリウム血症、高カルシウム血症)が並んでいる。高血糖による浸透圧利尿や、電解質異常による尿濃縮障害(腎臓が尿を濃くできない状態)では尿量はむしろ増える。各病態が尿量を増やすのか減らすのかを、機序とともに整理しておくことが本問の要点である。
選択肢考察
- ×a. 糖尿病
誤り。高血糖で血糖値が腎臓の再吸収能力の限界(腎の糖排泄閾値、おおむね160〜180 mg/dL)を超えると、尿中にブドウ糖が出る。尿細管内のブドウ糖が浸透圧物質として水を引き込み、水の再吸収が妨げられるため(浸透圧利尿)、多尿となる。その結果、体液が失われて口渇・多飲が生じる。乏尿ではなく多尿の原因である。ただし、高度の脱水が進んで腎前性腎不全に陥った場合や、長期経過で糖尿病性腎症による末期腎不全となった場合には尿量が減ることがある。
- ×b. SIADH
誤り。SIADH(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone:抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)は、血漿浸透圧が低いにもかかわらず抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)が分泌され続ける病態である。腎集合管で水が過剰に再吸収されて体内の水が増え、希釈性の低ナトリウム血症となる。尿は濃縮され尿浸透圧は血漿浸透圧より高く、尿中ナトリウム排泄は保たれる。体液量はわずかに増える程度で浮腫や脱水は目立たず、腎機能自体は正常であるため、乏尿をきたす病態とはいえない。
- ○c. 急性腎不全
正しい。急性腎不全(急性腎障害:AKI)は、数時間〜数日の単位で腎機能が急に低下し、血清クレアチニンや尿素窒素(BUN)が上昇する病態であり、多くの場合に乏尿を伴う(乏尿性急性腎不全)。腎前性では腎血流の低下により糸球体濾過量が減り、腎性では尿細管の障害や糸球体の炎症で尿が作られにくくなり、腎後性では尿路の閉塞で尿が流れ出なくなる。なお、尿量が保たれたまま腎機能が低下する非乏尿性急性腎不全もあり、こちらは一般に予後が比較的よいとされる。現在のKDIGO(国際的な腎臓病ガイドライン作成組織)の診断基準では、血清クレアチニンの上昇に加えて、尿量0.5 mL/kg/時未満が6時間以上続くことも診断項目に含まれ、尿量の減少はAKIを見つける重要な手がかりとされている。
- ×d. 低カリウム血症
誤り。低カリウム血症が続くと、腎集合管でADHに対する反応が低下し、尿を濃縮できなくなる(腎性尿崩症に似た状態)。そのため多尿・多飲を呈し、ときに脱水をきたす。長期に及ぶと尿細管や間質が障害される(低カリウム性腎症)こともあるが、低カリウム血症そのものが乏尿の原因になることはない。
- ×e. 高カルシウム血症
誤り。高カルシウム血症では、ヘンレ係蹄上行脚でのナトリウム再吸収が抑えられて髄質の浸透圧勾配が弱まることや、集合管でのADHの作用が妨げられることにより、尿濃縮力が低下する。その結果、薄い尿が大量に出る(低張性多尿)。多尿は脱水を招き、さらに高カルシウム血症を悪化させるという悪循環に陥りやすい。著しい高カルシウム血症では、脱水による腎前性の要因や腎血管の収縮などから急性腎障害に進み、二次的に尿量が減ることもあるが、高カルシウム血症自体の典型的な尿所見は多尿である。原因としては原発性副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍が多い。
尿量異常の定義
・乏尿:400 mL/日以下 ・無尿:100 mL/日以下 ・多尿:おおむね2,500〜3,000 mL/日以上 ※尿閉は、膀胱に尿がたまっているのに排出できない状態であり、腎臓で尿が作られない無尿とは区別する。両者の鑑別には膀胱の超音波検査や導尿が役立つ。
乏尿の原因(急性腎障害の分類)
・腎前性:脱水、出血、ショック、心不全、肝腎症候群など。尿は濃縮され、尿中ナトリウム濃度やナトリウム排泄分画(FENa)は低い(FENa<1%が目安)。 ・腎性:急性尿細管壊死(虚血、薬剤、造影剤、横紋筋融解症など)、急速進行性糸球体腎炎、急性間質性腎炎など。尿細管の再吸収が障害されるため、FENaは高くなる(>2%が目安)。 ・腎後性:両側尿管の閉塞、前立腺肥大症、骨盤内腫瘍など。超音波検査で水腎症を確認する。
多尿の原因
・水利尿(薄い尿が大量に出る):中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲 ・浸透圧利尿:高血糖(糖尿病)、マンニトール投与、尿素の増加(高タンパク食や急性腎不全の回復期の利尿期)など ・電解質異常による尿濃縮障害:低カリウム血症、高カルシウム血症 ・ループ利尿薬などの利尿薬の使用
急性腎障害(AKI)のKDIGO診断基準
以下のいずれかを満たす。 ・48時間以内に血清クレアチニンが0.3 mg/dL以上上昇 ・7日以内に血清クレアチニンが基礎値の1.5倍以上に上昇 ・尿量0.5 mL/kg/時未満が6時間以上持続
POINT
・乏尿は1日尿量400 mL以下、無尿は100 mL以下。尿閉とは区別する。 ・乏尿の代表的な原因は急性腎不全(急性腎障害)で、腎前性・腎性・腎後性に分けて考える。 ・糖尿病(浸透圧利尿)、低カリウム血症・高カルシウム血症(尿濃縮障害)は多尿の原因である。 ・SIADHは低ナトリウム血症と濃縮尿が特徴で、乏尿はきたさない。
