「何となく元気がない」は最大の警報―生後1か月の発熱にひそむ重症感染症
第111回医師国家試験 E問題 第54問
国試問題にチャレンジ
1か月の乳児。発熱を主訴に両親に連れられて来院した。本日から38℃台の発熱を認めたため夜間の救急外来を受診した。咳や鼻汁などの気道症状はなく,嘔吐や下痢もない。しかし,何となく元気がなく泣き声も弱々しい。哺乳量も普段の半分程度であるという。在胎39週,2,980gで出生した。昨日までは機嫌がよく,母乳栄養で体重増加は良好であった。咽頭は発赤を認めず,心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。大泉門は平坦である。体温38.5℃。脈拍140/分,整。呼吸数40/分。血液所見:赤血球380万,Hb 12.6g/dL,白血球3,500,血小板25万。血液生化学所見:総ビリルビン5.3mg/dL,直接ビリルビン0.2mg/dL,AST 48U/L,ALT 44U/L,LD 697U/L(基準314~737),ALP 836U/L(基準413~1,080),尿素窒素10mg/dL,クレアチニン0.2mg/dL,血糖64mg/dL,Na 138mEq/L,K 4.3mEq/L,Cl 105mEq/L。CRP 0.3mg/dL。 両親に対する説明として適切なのはどれか。
- a.「明日の外来を受診してください」
- b.「重症感染症の疑いがあります」
- c.「解熱薬を使用しましょう」
- d.「肝機能異常があります」
- e.「光線療法が必要です」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクターまとめ
生後3か月未満、特に生後1か月前後の乳児の発熱は、明らかな感染巣がなくても敗血症・細菌性髄膜炎・尿路感染症などの重症細菌感染症を第一に考えて対応します。この月齢では「何となく元気がない」「泣き声が弱い」「哺乳不良」といった非特異的な変化が重要なサインであり、白血球減少は重症化の徴候となりうるうえ、発症早期にはCRPが上昇していないことも多いため低値でも否定できません。両親には重症感染症の疑いを伝え、入院のうえ血液・尿・髄液の培養を採取し、結果を待たずに経験的抗菌薬を開始する方針を説明します。翌日受診や解熱薬による対症療法は不適切で、間接ビリルビン優位の軽度黄疸や軽度の肝酵素上昇は優先すべき異常ではありません。目立つ検査値に惑わされず、月齢と全身状態から緊急度を判断する姿勢は、小児救急で命を守るための基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・生後1か月の乳児の38℃台の発熱(受診時38.5℃)。 ・咳・鼻汁などの気道症状、嘔吐・下痢などの消化器症状がなく、発熱の原因となる局所症状(フォーカス)がはっきりしない。 ・昨日まで機嫌がよかったのに、本日は「何となく元気がない」「泣き声が弱々しい」「哺乳量が普段の半分程度」と、全身状態の悪化を示す変化がある。 ・身体所見では咽頭発赤なし、心音・呼吸音正常、腹部所見正常、大泉門は平坦(膨隆なし)で、明らかな異常所見を欠く。脈拍140/分、呼吸数40/分は月齢としてほぼ許容範囲である。 ・検査では白血球3,500/μLと、この月齢としては明らかに低い。CRPは0.3mg/dLと低値。 ・総ビリルビン5.3mg/dL(ほぼ間接ビリルビン)、AST・ALTは軽度高値程度、そのほかの生化学検査に大きな異常はない。
考え方
生後3か月未満、特に生後1か月前後の乳児の発熱は、それだけで重症細菌感染症(敗血症、細菌性髄膜炎、尿路感染症など)を強く疑って対応すべき状態である。この時期の乳児は免疫機能が未熟で、感染が急速に進行しやすい一方、特徴的な症状や所見が出にくい。「何となく元気がない」「泣き声が弱い」「哺乳不良」といった非特異的な変化は、重症感染症の重要な手がかりである。 本例ではさらに白血球減少がみられる。乳児の重症細菌感染症では、白血球が増加するとは限らず、むしろ減少(好中球の消費や骨髄抑制)が重症例の徴候となることがある。発症初期にはCRPがまだ上昇していないことも多く、CRPが低いことで重症感染症を否定してはならない。 したがって、両親には重症感染症が疑われることをはっきり伝え、入院のうえで血液培養・尿培養(カテーテル採尿)・髄液検査などの全身精査(敗血症ワークアップ)を行い、培養結果を待たずに経験的な抗菌薬投与を開始する方針を説明するのが適切である。 なお、ビリルビンや肝酵素の値は、本例で優先して対応すべき異常ではない。
選択肢考察
- ×a. 「明日の外来を受診してください」
生後1か月の乳児の発熱で、しかも活気低下・弱々しい泣き声・哺乳量半減と全身状態が悪化しており、白血球減少も伴っている。この月齢の重症細菌感染症は数時間単位で敗血症性ショックや髄膜炎へ進行しうるため、帰宅させて翌日の外来を待たせるのは危険である。入院させて精査・治療を直ちに開始すべきである。
- ○b. 「重症感染症の疑いがあります」
生後3か月未満の発熱であること、明らかな感染巣がないこと、活気低下・哺乳不良といった全身状態の悪化、さらに白血球減少(3,500/μL)がみられることから、敗血症や細菌性髄膜炎、尿路感染症などの重症細菌感染症を最優先に考えるべきである。CRPが低値でも発症早期であれば否定できない。両親に重症感染症の可能性をしっかり伝え、入院・各種培養・髄液検査・経験的抗菌薬投与の必要性を説明することが適切な対応である。
- ×c. 「解熱薬を使用しましょう」
解熱薬は発熱の原因を治療するものではなく、熱による不快感を和らげる対症療法にすぎない。本例で優先すべきは発熱の原因となっている感染症の検索と治療である。また、生後3か月未満の乳児では解熱薬の安全性が十分に確立していないため、一般に積極的には使われず、使用すると熱型が修飾されて重症度や治療効果の判断を誤らせるおそれもある。
- ×d. 「肝機能異常があります」
AST 48U/L、ALT 44U/Lはごく軽度の上昇にとどまり、乳児では感染症や採血時の溶血でもこの程度の変動はみられる。直接ビリルビンは0.2mg/dLと正常で胆汁うっ滞はなく、LDやALPも基準範囲内である。肝機能障害として両親に説明すべき所見ではなく、ここに注目して重症感染症の説明を後回しにするのは適切でない。
- ×e. 「光線療法が必要です」
総ビリルビン5.3mg/dLのほとんどは間接ビリルビンであり、生後1か月の母乳栄養児にみられる母乳性黄疸として説明可能な程度である。この値は光線療法の適応となる基準を大きく下回っている。また光線療法は間接ビリルビンを減らす治療であり、発熱や全身状態の悪化に対する治療ではない。
生後3か月未満の乳児の発熱
・重症細菌感染症(SBI:serious bacterial infection)の頻度が高い年齢層である。代表は尿路感染症(最多)、菌血症・敗血症、細菌性髄膜炎。 ・主な起炎菌:B群溶血性レンサ球菌(GBS)、大腸菌、リステリアなど。ウイルスでは単純ヘルペスウイルス(新生児ヘルペス)やエンテロウイルスも重要である。 ・症状が非特異的で、「なんとなく元気がない(not doing well)」「哺乳不良」「泣き声が弱い」「顔色不良」などが唯一の手がかりとなることがある。 ・特に生後1か月(28日)以内の発熱は、全身状態が良くても入院のうえ精査・治療を行うのが原則とされる。
初期対応(敗血症ワークアップ)
・血液培養、尿検査・尿培養(カテーテル採尿または膀胱穿刺)、髄液検査を行う。必要に応じて胸部X線撮影なども行う。 ・培養結果を待たずに、想定される起炎菌をカバーする経験的抗菌薬(例:アンピシリン+第3世代セフェム系など)を静脈内投与する。新生児ヘルペスが疑われればアシクロビルを加える。
乳児の検査値の読み方
・白血球数:乳児期早期の基準はおおむね5,000〜15,000/μL程度で、5,000/μL未満の減少や著明な増加は重症細菌感染症のリスク因子となる。 ・CRP:細菌感染の発症から上昇までに半日程度の遅れがあり、発症早期は低値のことがある。プロカルシトニンはより早期に上昇する。 ・ビリルビン:母乳栄養児では生後1〜2か月まで間接ビリルビン優位の軽度黄疸(母乳性黄疸)が続くことがある。一方、直接ビリルビンの上昇(目安として1.0mg/dL以上、または総ビリルビンの20%以上)は胆道閉鎖症などの胆汁うっ滞を疑う所見であり、見逃してはならない。
POINT
・生後3か月未満(特に1か月前後)の発熱は重症細菌感染症を第一に考え、入院して精査する。 ・「何となく元気がない」「泣き声が弱い」「哺乳不良」は乳児の重症感染症の重要なサインである。 ・乳児の重症感染症では白血球が減少することがあり、発症早期にはCRPが上昇していないこともある。 ・血液・尿・髄液の培養を採取し、結果を待たずに経験的抗菌薬を開始する。 ・この月齢では解熱薬による対症療法より原因検索が優先される。
