日齢3の「ぐったり」を見逃すな―ビリルビン脳症は筋緊張低下から始まる
第111回医師国家試験 E問題 第43問
国試問題にチャレンジ
日齢3の新生児。哺乳不良と傾眠傾向とのため産科診療所から救急車でNICUに搬入された。在胎40週,3,200g,Apgarスコア9点(1分)で出生した。生後6時間から皮膚と眼球結膜との黄染を認めていた。体温37.0℃。心拍数120/分,整。呼吸数40/分。SpO2 98%(room air)。血液所見:赤血球380万,Hb 13.0g/dL,白血球12,000,血小板23万。血液生化学所見:総ビリルビン30.0mg/dL,直接ビリルビン1.8mg/dL,AST 15U/L,ALT 18U/L,LD 650U/L(基準335~666)。 この患児にみられる可能性が高い所見はどれか。
- a.注視麻痺
- b.後弓反張
- c.大泉門膨隆
- d.アテトーゼ
- e.筋トーヌス低下
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
生後24時間以内に出現する早発黄疸は病的であり、血液型不適合などの溶血性疾患をまず考えます。間接ビリルビン、とくにアルブミンと結合していない遊離ビリルビンは血液脳関門を通過し、大脳基底核や脳幹の神経核に沈着してビリルビン脳症を起こします。Praagh分類では、第1期に筋緊張低下・嗜眠・哺乳力低下、第2期に筋緊張亢進・後弓反張・発熱・けいれん、第4期にアテトーゼ型脳性麻痺・感音難聴・上方注視麻痺などの後遺症が現れるため、傾眠と哺乳不良を呈する発症初期には筋トーヌス低下が最も考えられます。この段階で光線療法に加え交換輸血などにより速やかにビリルビンを下げることが後遺症予防の鍵であり、症状の時間的推移を理解しておくことは新生児診療で重症化のサインを見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・出生時:在胎40週、3,200gの正期産・適正体重児で、Apgarスコア9点(1分)と出生時の状態は良好である。 ・経過:生後6時間という非常に早い時期から皮膚と眼球結膜の黄染があり、日齢3で哺乳不良と傾眠傾向が現れた。 ・バイタル:体温、心拍数、呼吸数、SpO2はいずれも正常範囲で、呼吸循環は安定している。 ・検査:総ビリルビン30.0mg/dLと著明に高く、直接ビリルビンは1.8mg/dLにとどまるため、大部分は間接(非抱合型)ビリルビンである。AST・ALTは正常で肝障害はない。Hb 13.0g/dLは新生児としては低め(正期産児の出生時は16〜20g/dL程度が多い)で、LDは基準範囲内だが上限に近い。
診断へのプロセス
生後24時間以内に出現する黄疸は早発黄疸と呼ばれ、生理的黄疸(日齢2〜3ごろに出現)では説明できない。Rh式やABO式の血液型不適合などによる溶血性疾患をまず考える状況であり、Hbがやや低いことも溶血を疑わせる。いずれにしても、総ビリルビン30mg/dLという値は交換輸血を考慮すべき水準を大きく超えている。 間接ビリルビンは脂溶性で、アルブミンと結合していない遊離ビリルビン(アンバウンドビリルビン)は血液脳関門を通過し、大脳基底核(特に淡蒼球)、視床下核、海馬、脳幹の眼球運動神経核や聴覚神経核などに沈着して神経細胞を傷害する。これをビリルビン脳症と呼び、病理学的に神経核が黄色に染まった状態を核黄疸という。本例の哺乳不良と傾眠傾向は、ビリルビン脳症の初期(Praagh分類第1期)の症状と考えられる。
設問の考え方
ビリルビン脳症の症状は時期によって変化する。Praagh分類では、第1期に筋緊張低下、嗜眠、哺乳力(吸啜反射)の低下、Moro反射の減弱がみられ、第2期に筋緊張亢進、後弓反張、甲高い泣き声、発熱、けいれん、落陽現象が現れる。第3期には筋緊張亢進が一時的に目立たなくなり、第4期(慢性期)にアテトーゼ型脳性麻痺、感音難聴、上方注視麻痺(凝視麻痺)、歯のエナメル質形成不全などの後遺症が明らかになる。本例は傾眠と哺乳不良がみられる発症初期であり、同じ時期に現れる筋トーヌス低下が最も考えられる。
選択肢考察
- ×a. 注視麻痺
誤り。注視麻痺は、両眼を同じ方向にそろえて動かす共同運動が障害された状態である。ビリルビン脳症では、特に上方への注視麻痺(Praagh分類では凝視麻痺と記載される)が慢性期の後遺症(第4期)としてみられる。眼球運動にかかわる脳幹の神経核の傷害によるもので、日齢3の発症初期にみられる所見ではない。
- ×b. 後弓反張
誤り。後弓反張は、頸部や体幹の伸筋の緊張が高まり、頭と下肢を後方へ反らせて体が弓なりになる姿勢である。ビリルビン脳症ではPraagh分類第2期に、筋緊張亢進、甲高い泣き声、発熱、けいれんとともに現れる。本例は傾眠と哺乳不良がみられる段階であり、筋緊張はまだ低下している時期と考えられる。
- ×c. 大泉門膨隆
誤り。大泉門膨隆は頭蓋内圧亢進のサインで、細菌性髄膜炎、水頭症、頭蓋内出血などでみられる。ビリルビン脳症は神経核へのビリルビン沈着による神経細胞障害であり、通常は頭蓋内圧亢進をきたさない。本例は発熱もなく、髄膜炎や頭蓋内出血を疑わせる所見もない。
- ×d. アテトーゼ
誤り。アテトーゼは、手指や四肢がゆっくりとねじれるように動く不随意運動である。大脳基底核(淡蒼球など)の傷害によって生じ、ビリルビン脳症の慢性期(Praagh分類第4期)にアテトーゼ型脳性麻痺として明らかになる後遺症である。日齢3の急性期初期にみられる所見ではない。
- ○e. 筋トーヌス低下
正しい。筋トーヌス低下(筋緊張低下)は、ビリルビン脳症の最初の段階(Praagh分類第1期)にみられる症状で、嗜眠(傾眠)、哺乳力低下、Moro反射の減弱とともに現れる。本例は著明な間接ビリルビン優位の高ビリルビン血症に、傾眠傾向と哺乳不良を伴っており、発症初期にあたるため、筋トーヌス低下がみられる可能性が最も高い。この段階で交換輸血などによりビリルビンを速やかに下げることが、後遺症を防ぐうえで重要である。
ビリルビン脳症のPraagh分類
・第1期(発症初期):筋緊張低下、嗜眠、哺乳力(吸啜反射)低下、Moro反射の減弱・消失 ・第2期:筋緊張亢進、後弓反張、甲高い泣き声、発熱、けいれん、落陽現象 ・第3期:筋緊張亢進が軽減し、症状が一見落ち着く時期 ・第4期(慢性期・後遺症期):アテトーゼ型脳性麻痺、感音難聴、上方注視麻痺、歯のエナメル質形成不全、知的障害 第1期の段階で治療できれば後遺症を残さずに済む可能性があるが、第2期以降に進むと神経学的後遺症を残すことが多い。
新生児の病的黄疸を疑う状況
・生後24時間以内に出現する黄疸(早発黄疸) ・総ビリルビン値が日齢や出生体重に応じた基準を超えて高い ・直接ビリルビンの上昇(胆道閉鎖症などを考える) ・黄疸が長く続く(遷延性黄疸) 早発黄疸の原因としては、Rh式やABO式の血液型不適合による溶血性疾患が代表的で、そのほか遺伝性球状赤血球症、G6PD欠損症などの赤血球の異常がある。直接Coombs試験や母児の血液型の確認を行う。
ビリルビン脳症の危険因子
早産、低出生体重、低アルブミン血症(遊離ビリルビンが増える)、アシドーシス、低酸素、低体温、感染症、溶血性疾患、アルブミンとの結合でビリルビンと競合する薬剤(スルホンアミドなど)。
治療
・光線療法:皮膚に光を当て、ビリルビンを水に溶けやすい異性体に変えて胆汁や尿から排泄させる。 ・交換輸血:ビリルビン値が非常に高い場合や、ビリルビン脳症の症状がある場合に行い、ビリルビンを直接取り除くとともに、溶血性疾患では感作された赤血球や抗体も除去する。 ・治療開始基準は、出生体重(または在胎週数)、日齢、危険因子の有無によって定められた基準に従って判断する。
POINT
・生後24時間以内の黄疸(早発黄疸)は病的であり、血液型不適合などの溶血性疾患を考える。 ・間接ビリルビン(特にアルブミンと結合していない遊離ビリルビン)は血液脳関門を通過し、大脳基底核などに沈着してビリルビン脳症を起こす。 ・Praagh分類:第1期は筋緊張低下・嗜眠・哺乳力低下、第2期は筋緊張亢進・後弓反張・発熱・けいれん、第4期はアテトーゼ・感音難聴・上方注視麻痺・歯のエナメル質形成不全。 ・初期に交換輸血などで速やかに治療すれば後遺症を防げる可能性がある。
