「やめると体が叫ぶ」薬はどれ?―精神依存と身体依存を分けて考える
第111回医師国家試験 D問題 第3問
国試問題にチャレンジ
身体依存が最も形成されやすいのはどれか。
- a.覚醒剤
- b.ニコチン
- c.有機溶剤
- d.オピオイド
- e.カフェイン
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
薬物依存は、渇望によって使用を制御できなくなる精神依存と、中止によって離脱症状が出る身体依存に分けて考えます。強い身体依存を形成するのはオピオイド、アルコール、バルビツール酸系・ベンゾジアゼピン系などの中枢抑制薬で、なかでもオピオイドは精神依存・身体依存・耐性のすべてが強く、中止すると流涙、鼻漏、散瞳、立毛、下痢などの激しい自律神経症状が出ます。覚醒剤や有機溶剤は精神依存が主体で身体依存はほぼなく、ニコチンやカフェインの離脱症状は比較的軽いと整理できます。疼痛患者への適正なオピオイド使用では精神依存は起こりにくい一方で身体依存や耐性は生じうるため、中止時の漸減が重要です。依存の種類を区別して理解することは、緩和医療や精神科診療で薬物を安全に使う基礎になります。
解答・解説
正解はdです
薬物依存は「精神依存」と「身体依存」に分けて理解する。
精神依存
薬物の効果を求めて、その薬物を使いたいという強い欲求(渇望)が生じ、自分で使用をコントロールできなくなる状態である。脳内報酬系(中脳腹側被蓋野から側坐核へ向かうドパミン神経系)の活性化が中心的な機序で、依存性薬物の多くに共通してみられる。
身体依存
薬物が体内にあることに身体が適応し、その状態が「平常」となってしまったため、薬物の減量・中止によって離脱症状(退薬症状)と呼ばれる身体的な症状が出現する状態である。身体依存はしばしば耐性(同じ効果を得るために必要な量が増えていくこと)を伴う。
強い身体依存を形成する薬物
古典的に強い身体依存を形成する代表は、①オピオイド(モルヒネ、ヘロイン、コデインなど)、②アルコール、③バルビツール酸系やベンゾジアゼピン系などの鎮静催眠薬(アルコールと同じく中枢抑制薬に属する)である。いずれも中枢神経系を抑制する薬物で、中止すると反動として自律神経系や中枢神経系の過剰興奮が生じる。一方、覚醒剤、コカイン、有機溶剤、大麻、幻覚薬などは精神依存が中心で、身体依存は認めないか軽度とされる。 選択肢の中で、身体依存が最も強く形成されやすいのはオピオイドである。
選択肢考察
- ×a. 覚醒剤
誤り。覚醒剤(アンフェタミン、メタンフェタミン)はドパミンなどのモノアミン放出を促進する中枢刺激薬で、きわめて強い精神依存と耐性を形成する。しかし古典的な分類では身体依存はほとんど形成されないとされる。中止後には強い疲労感、過眠、抑うつ気分、食欲亢進などの反動がみられるが、オピオイドやアルコールのような激しい身体的離脱症状とは異なる。長期使用では幻覚・妄想を主とする覚醒剤精神病を来し、断薬後も少量の再使用やストレスで症状が再燃しやすい(フラッシュバック)。
- ×b. ニコチン
誤り。ニコチンは精神依存が強く、耐性も形成し、身体依存も一定程度ある。禁煙後数時間から数日にかけて、いらいら、不安、集中困難、落ち着きのなさ、食欲亢進、不眠などの離脱症状が現れ、DSM-5(米国精神医学会の診断基準 第5版)でもタバコ使用障害およびタバコ離脱として取り上げられている。ただし身体的な離脱症状の程度はオピオイドより軽く、選択肢中で最も強いとはいえない。
- ×c. 有機溶剤
誤り。シンナーやトルエンなどの有機溶剤の吸入(いわゆるシンナー遊び)は、精神依存と耐性を形成するが、身体依存はないか、あってもごく軽いとされる。慢性使用では無動機症候群(意欲低下、無気力)、幻覚・妄想などの精神病症状、小脳失調や末梢神経障害、大脳白質障害などを来すのが問題となる。
- ○d. オピオイド
正しい。モルヒネ、ヘロイン、コデインなどのオピオイドは、精神依存・身体依存・耐性のいずれも強く形成する、身体依存の代表的な薬物である。中止すると、あくび、流涙、鼻漏、発汗、散瞳、立毛(鳥肌)、悪寒、筋肉痛、腹痛、下痢、嘔吐、頻脈・血圧上昇、不安・焦燥、不眠などが出現し、自律神経症状が激しく現れることから「自律神経の嵐」とも表現される。なお、がん性疼痛などの痛みがある患者に医学的管理下で適切に使用する場合は、精神依存は生じにくいとされる。これは、疼痛によって内因性オピオイド系(κ受容体を介するダイノルフィン系など)が活性化し、報酬系のドパミン放出が抑えられるためと考えられている。ただし身体依存と耐性は疼痛患者でも生じうるため、中止時には漸減が必要である。
- ×e. カフェイン
誤り。カフェインはアデノシン受容体の遮断作用をもつ中枢刺激物質で、常用者が急にやめると頭痛、眠気・倦怠感、集中困難、抑うつ気分などの離脱症状が出ることがあり、DSM-5でもカフェイン離脱が診断名として記載されている。しかし症状は比較的軽く、数日で軽快することが多い。また使用の制御困難など依存症としての問題は通常目立たず、カフェイン使用障害はDSM-5では正式な診断ではなく今後の研究のための病態に位置づけられている。身体依存の強さはオピオイドに遠く及ばない。
主な依存性薬物の特徴(古典的な整理)
・オピオイド(モルヒネ型):精神依存 強い/身体依存 強い/耐性 強い ・アルコール、バルビツール酸系・ベンゾジアゼピン系:精神依存 あり/身体依存 強い/耐性 あり ・覚醒剤(アンフェタミン型):精神依存 強い/身体依存 ほぼなし/耐性 あり ・コカイン:精神依存 強い/身体依存 ほぼなし/耐性 はっきりしない ・大麻:精神依存 あり/身体依存 ほぼなし(軽い離脱はありうる) ・幻覚薬(LSDなど):精神依存 あり/身体依存 なし/耐性 あり ・有機溶剤:精神依存 あり/身体依存 ほぼなし/耐性 あり ・ニコチン:精神依存 強い/身体依存 あり(比較的軽い)/耐性 あり
離脱症状の特徴
・オピオイド:あくび、流涙、鼻漏、発汗、散瞳、立毛、腹痛、下痢、嘔吐、筋肉痛など。苦痛は強いが、一般に生命に直接関わることは少ない。 ・アルコール:手指振戦、発汗、不眠、不安、けいれん発作、振戦せん妄(幻視、意識障害、自律神経の過活動)など。重症では生命に関わる。 ・ベンゾジアゼピン系・バルビツール酸系:不安、不眠、振戦、けいれん発作、せん妄など。急な中止は避け、漸減する。
オピオイドの急性中毒
縮瞳(針先瞳孔)、呼吸抑制、意識障害が三徴であり、拮抗薬のナロキソンで治療する。離脱では逆に散瞳する点が対照的である。
POINT
・身体依存=薬物の中止で離脱(退薬)症状が出る状態。精神依存=渇望によって使用を制御できない状態。 ・強い身体依存を作るのはオピオイド、アルコール、鎮静催眠薬(バルビツール酸系・ベンゾジアゼピン系)=いずれも中枢抑制薬。 ・覚醒剤、コカイン、有機溶剤、幻覚薬は精神依存が主体で、身体依存はほぼない。 ・オピオイド離脱:あくび、流涙、鼻漏、散瞳、立毛、下痢など自律神経症状が著明。 ・疼痛患者に適正に使うオピオイドでは精神依存は起こりにくいが、身体依存・耐性は生じうる。
