StudyMed医師国家試験

白い胸水を止める3つの手―乳び胸の治療は「抜く・減らす・塞ぐ」

第111回医師国家試験 D問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第111回 D問題 第18問

乳び胸の治療はどれか。3つ選べ。

  1. a.胸管結紮術
  2. b.利尿薬の投与
  3. c.抗菌薬の投与
  4. d.胸腔ドレナージ
  5. e.絶食とし中心静脈栄養

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は乳び胸の治療を選ぶ問題だ。治療法を丸暗記するより、「乳びとは何で、どこから漏れているのか」という病態から考えると、正解も誤りも自然に見えてくる。まず、乳びとはどんな液体だったかな。
医学生医学生
腸で吸収された脂肪がカイロミクロンになって流れるリンパ液ですよね。だから白く濁っている、と生理学で習いました。
ドクタードクター
その通り。長鎖脂肪酸はカイロミクロンとして腸のリンパ管に入り、乳び槽から胸管を通って運ばれる。胸管は大動脈裂孔から胸部に入って椎体の右前方を上行し、第4〜6胸椎あたりで左へ移って、左静脈角で静脈に注ぐ。この胸管が傷ついたり塞がったりして乳びが胸腔にたまるのが乳び胸だ。
医学生医学生
だから下のほうで傷つくと右側、上のほうだと左側に乳び胸ができやすいんですね。原因として多いのは何ですか。
ドクタードクター
最も多いのは手術による損傷で、食道癌手術や肺癌手術のリンパ節郭清、心臓・大血管の手術などが代表だ。ほかに悪性リンパ腫による胸管の閉塞やリンパ脈管筋腫症なども原因になる。では治療を考えよう。治療は「たまった乳びを抜く」「流れる乳びを減らす」「それでも駄目なら漏れ口を塞ぐ」の3段階で整理するとわかりやすい。
医学生医学生
まず抜く、というのは胸腔ドレナージですね。呼吸器外科を回ったとき、術後のドレーンバッグに牛乳みたいな排液がたまっていた患者さんがいました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。胸腔ドレナージは、肺の圧迫を取って呼吸困難を和らげるだけでなく、肺を再び膨らませて胸膜同士を密着させ、漏出部が閉じやすくなるという意味もある。さらに1日の排液量を測れば、治療が効いているか、手術に進むべきかの判断材料にもなるんだ。
医学生医学生
次の「減らす」が、絶食と中心静脈栄養ですか。食べると脂肪が吸収されて乳びが増えるから、ということでしょうか。
ドクタードクター
そのとおり。絶食にして栄養を中心静脈から入れれば胸管を流れる乳びが減り、漏れている部位が自然に塞がるのを待てる。これが保存的治療の中心だ。経口摂取を続ける場合は、中鎖脂肪酸を中心にした低脂肪食にする。
医学生医学生
中鎖脂肪酸ならリンパ管を通らないんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。中鎖脂肪酸はカイロミクロンを作らず、門脈から直接吸収されるから乳びを増やしにくい。ソマトスタチンアナログのオクトレオチドを併用することもある。そして保存的治療を続けても排液が減らない場合や、排液量がとても多い場合には、3段階目として胸管結紮術を行う。成人で1日1Lを超えるような大量の漏出が、ひとつの目安とされているよ。
医学生医学生
でも胸管を縛ってしまったら、リンパが流れなくなって困りませんか。
ドクタードクター
自然な疑問だね。実際には胸管以外にもリンパ管と静脈の交通、つまり側副路があるから、リンパの流れは保たれる。多くは横隔膜の直上で胸管を結紮する。最近はリンパ管造影に続けて行う経皮的な胸管塞栓術も選択肢になっているよ。
医学生医学生
では利尿薬はどうでしょう。胸水を減らす、というイメージで一瞬迷いました。
ドクタードクター
そこが引っかけポイントだ。利尿薬が効くのは、心不全や低アルブミン血症など体液が過剰になって起こる漏出性胸水の場合。乳び胸は胸管という「管」の破綻が原因だから、体液量を減らしても漏れは止まらない。
医学生医学生
抗菌薬は、白く濁っているから膿胸と混同させる狙いですね。
ドクタードクター
その通り。乳びはもともと無菌で、リンパ球が多く静菌作用もあるので感染は起こりにくい。だから乳び胸そのものの治療として抗菌薬を使う意味はないんだ。ちなみに膿胸との見分け方として、乳びは遠心分離しても上清が白いままという特徴がある。
医学生医学生
診断で押さえておくべき検査値はありますか。CBTで胸水の検査は何度も出てきました。
ドクタードクター
胸水中のトリグリセリドが110 mg/dL以上なら乳び胸の可能性が高く、50 mg/dL未満ならほぼ否定できる。中間なら、リポ蛋白電気泳動でカイロミクロンを確かめる。また、結核性胸膜炎や関節リウマチで長く胸水がたまって起こる偽性乳び胸は、コレステロールが高い一方でカイロミクロンを含まず、胸管とは無関係なので区別しておこう。
医学生医学生
ドレナージを長く続けるときに注意することはありますか。
ドクタードクター
大事な点だね。排液とともにリンパ球、蛋白、脂肪、電解質が失われるから、栄養状態の悪化、免疫力の低下、脱水に注意して補充が必要になる。また悪性リンパ腫などが原因の場合は、原疾患の化学療法や放射線療法が治療の基本になることも覚えておこう。
医学生医学生
抜いて、減らして、駄目なら塞ぐ。そして病態に関係ない利尿薬と抗菌薬は外す、ですね。
ドクタードクター
完璧だ。病態から治療を組み立てる考え方は、ほかの胸水疾患にもそのまま応用できるよ。

まとめ

乳び胸は、胸管の損傷や閉塞によりカイロミクロンを含むリンパ液が胸腔にたまる状態で、食道癌や肺癌の手術後に起こることが多い疾患です。治療は、胸腔ドレナージで乳びを抜き、絶食と中心静脈栄養(またはMCT食)で胸管を流れる乳びを減らして自然閉鎖を待ち、保存的治療が効かない場合や大量の漏出が続く場合に胸管結紮術(または胸管塞栓術)を行う、という段階的な流れで整理できます。乳びは無菌で静菌作用もあるため抗菌薬は不要であり、体液過剰による漏出性胸水ではないため利尿薬も効きません。診断では胸水トリグリセリド110 mg/dL以上が目安となり、コレステロールが高い偽性乳び胸との鑑別も重要です。病態から治療を組み立てる視点は、術後管理や胸水診療全般の理解につながります。

解答・解説

正解はa, d, eです

乳び胸とは

乳び胸は、胸管が傷ついたりふさがったりして、乳び(腸で吸収された脂肪をカイロミクロンとして多く含む、白く濁ったリンパ液)が胸腔にたまった状態である。胸管は腹部の乳び槽から始まり、横隔膜の大動脈裂孔を通って胸部へ入る。椎体の右前方を上行し、第4〜6胸椎の高さで正中を越えて左側へ移り、左静脈角(左内頸静脈と左鎖骨下静脈の合流部)で静脈に注ぐ。このため、胸管が下部で損傷すると右側に、上部で損傷すると左側に乳び胸が起こりやすい。

病態から治療を考える

乳び胸の治療は次の3段階で整理すると理解しやすい。 1. たまった乳びを抜いて、肺の圧迫を取り除く → 胸腔穿刺・胸腔ドレナージ 2. 胸管を流れる乳びの量を減らし、漏れている部位が自然に閉じるのを待つ → 絶食と中心静脈栄養、または中鎖脂肪酸(MCT)を中心にした低脂肪食、オクトレオチドなど 3. 保存的治療が効かないとき、漏れる量が多いとき → 胸管結紮術(胸管塞栓術)、胸膜癒着術など 乳びは本来無菌で、静菌作用もあるため感染は起こりにくい。また心不全のような漏出性胸水ではないので、利尿薬の効果も期待できない。病態と関係しない治療を選択肢から外せばよい。

選択肢考察

  1. ○a.  胸管結紮術

    保存的治療を1〜2週間ほど続けても乳びの排液が減らない場合や、排液量が多い場合(成人で1日1L以上が目安とされる)には外科的治療を行う。その代表が胸管結紮術である。リンパ管造影や、術前に脂肪(牛乳・クリームなど)を摂取させて漏れている部位を見えやすくする方法で損傷部を確かめる。そのうえで、損傷部やそれより中枢側(多くは横隔膜の直上)で胸管を結紮する。胸管を結紮しても、ほかのリンパ管と静脈の交通(側副路)があるため、リンパの流れは保たれる。近年は、リンパ管造影に続けて行う経皮的な胸管塞栓術も選択肢となっている。

  2. ×b.  利尿薬の投与

    利尿薬は、心不全や腎不全、低アルブミン血症などによる漏出性胸水で、体液が過剰になっている状態を改善するために使う。乳び胸は胸管という「管」から乳びが漏れることが原因で、体液量の過剰によるものではない。そのため利尿薬で漏出は止まらず、治療にならない。

  3. ×c.  抗菌薬の投与

    抗菌薬は、細菌性胸膜炎や膿胸のような感染による胸水の治療に使う。乳びはもともと無菌で、リンパ球を多く含み静菌作用もあるため、乳び胸は感染を起こしにくい。乳び胸そのものの治療として抗菌薬を使う意味はない。

  4. ○d.  胸腔ドレナージ

    たまった乳びが肺を圧迫して起こる呼吸困難を和らげるため、まず胸腔穿刺や胸腔ドレナージで排液する。ドレナージには、肺を再び膨らませて臓側胸膜と壁側胸膜を密着させ、漏出部が閉じやすくなるようにする意味もある。さらに、1日の排液量を測れば治療効果の判定や外科治療に進むかどうかの判断材料にもなる。排液を続けるとリンパ球(主にT細胞)、蛋白、脂肪、電解質が失われる。このため栄養状態の悪化や免疫力の低下、脱水に注意して補充を行う。

  5. ○e.  絶食とし中心静脈栄養

    保存的治療の中心である。腸で吸収された長鎖脂肪酸はカイロミクロンになってリンパ管から胸管へ流れるため、食事、特に脂肪を摂ると胸管を流れる乳びが増える。絶食にして栄養を中心静脈栄養(経静脈栄養)で補えば乳びの流量が減り、漏れている部位が自然にふさがりやすくなる。経口摂取を続ける場合は、長鎖脂肪酸を除いて中鎖脂肪酸(MCT)を中心にした低脂肪食とする。中鎖脂肪酸はリンパ管を通らず、門脈から直接吸収されるためである。ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド)でリンパ液の産生を減らす方法も併用されることがある。

乳び胸の原因

・外傷性:食道切除術、肺癌手術でのリンパ節郭清、心臓・大血管の手術、縦隔の手術などによる胸管損傷(最も多い)。胸部外傷、中心静脈カテーテルの挿入によるものもある ・非外傷性:悪性リンパ腫などの悪性腫瘍による胸管の閉塞・浸潤、リンパ脈管筋腫症(LAM)、結核、静脈血栓症、Gorham病など ・特発性:新生児の先天性乳び胸など

診断

・胸水の外観は乳白色で、遠心分離をしても上清は白いまま(膿胸の混濁とは異なり、上清が透明にならない) ・胸水中のトリグリセリドが110 mg/dL以上なら乳び胸の可能性が高く、50 mg/dL未満ならほぼ否定できる。中間の値では、リポ蛋白電気泳動でカイロミクロンを検出して確定する ・胸水中のリンパ球が多い ・偽性乳び胸(コレステロール胸水)との鑑別が大切である。偽性乳び胸は結核性胸膜炎や関節リウマチなどで長く胸水がたまった結果起こり、コレステロールが高い(200 mg/dL以上など)一方、カイロミクロンを含まず、胸管の損傷とは関係しない

治療の流れ

胸腔ドレナージ+食事療法(絶食・中心静脈栄養、またはMCT食)±オクトレオチド → 改善しなければ胸管結紮術・胸管塞栓術、胸膜癒着術、胸腔腹腔シャントなど。悪性腫瘍による場合は、原疾患の治療(化学療法、放射線療法)が基本となる。

POINT

・乳び胸=胸管の損傷・閉塞により、カイロミクロンを含むリンパ液が胸腔にたまった状態。原因は術後(食道癌・肺癌手術など)が多い ・胸水は乳白色で、トリグリセリドが110 mg/dL以上 ・治療:胸腔ドレナージ → 絶食・中心静脈栄養(またはMCT食) → 効かなければ胸管結紮術 ・乳びは無菌なので抗菌薬は不要。漏出性胸水ではないので利尿薬も効かない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。