「高」か「低」か、その一文字が分かれ目―続発性無月経の原因をホルモン軸で整理する
第111回医師国家試験 D問題 第12問
国試問題にチャレンジ
続発性無月経の原因となりにくいのはどれか。
- a.過度の体重増加
- b.全身放射線照射
- c.全身性消耗性疾患
- d.低プロラクチン血症
- e.過度のスポーツトレーニング
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
続発性無月経は、これまであった月経が3か月以上停止した状態で、視床下部―下垂体―卵巣―子宮のどこが障害されるかで整理すると理解しやすくなります。最も多いのは視床下部性で、全身性消耗性疾患や過度のスポーツトレーニングではエネルギー不足とストレスによりGnRH分泌が抑制されます。全身放射線照射は卵胞を失わせて高ゴナドトロピン性の卵巣性無月経を起こし、肥満もインスリン抵抗性やアンドロゲン過剰、非周期性エストロゲンによって排卵障害の原因となります。一方、無月経を起こすのは「高」プロラクチン血症であり、低プロラクチン血症それ自体は月経を止めません。ホルモン軸に沿って原因を分類する考え方は、無月経の診断手順や女性アスリートの健康管理など、実臨床の判断にもそのまま活かせます。
解答・解説
正解はdです
続発性無月経とは、これまであった月経が3か月以上停止した状態をいう(妊娠・授乳・閉経などの生理的無月経を除く)。本問は「原因となりにくいもの」を選ぶ問題であり、4つは続発性無月経を起こしうる病態、1つだけが起こしにくい病態である。
考え方
月経は、視床下部(GnRH)→下垂体(FSH・LH)→卵巣(エストロゲン・プロゲステロン)→子宮内膜という軸が正常に働いて初めて周期的に起こる。したがって無月経の原因は、どの部位が障害されるかで視床下部性・下垂体性・卵巣性・子宮性に分けて考えると整理しやすい。 ・視床下部性:体重減少、過度の運動、精神的ストレス、全身性消耗性疾患など。エネルギー不足や強いストレスで、生殖よりも生命維持を優先するためにGnRHの拍動的分泌が抑えられる。続発性無月経の原因として最も多い。 ・下垂体性:高プロラクチン血症、シーハン症候群、下垂体腫瘍など。 ・卵巣性:放射線照射、抗癌薬、早発卵巣不全など。卵胞が失われる。 ・その他:肥満・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、甲状腺機能異常など。 プロラクチンについては、過剰(高プロラクチン血症)になるとGnRH分泌が抑制されて無月経となるが、低プロラクチン血症それ自体が排卵や月経を止めることはない。この方向の取り違えを狙った選択肢である。
選択肢考察
- ×a. 過度の体重増加
原因となりうる。肥満ではインスリン抵抗性による高インスリン血症が卵巣の莢膜細胞を刺激してアンドロゲン産生を増やし、卵胞の発育が障害されて排卵が起こりにくくなる。また脂肪組織のアロマターゼがアンドロゲンをエストロゲン(主にエストロン)に変換するため、周期性を欠いたエストロゲンが持続的に存在し、視床下部・下垂体へのフィードバックが乱れてゴナドトロピンの周期的分泌(LHサージなど)が障害される。これらにより月経不順から続発性無月経に至りうる。PCOSの病態とも重なり、減量によって排卵が回復することが多い。
- ×b. 全身放射線照射
原因となりうる。卵巣の卵胞(卵母細胞)は放射線感受性が高く、造血幹細胞移植の前処置などで行われる全身放射線照射では卵胞が大量に失われ、卵巣は線維化して機能を失う。その結果、エストロゲンが低下し、ネガティブフィードバックが外れてFSH・LHが高値となる卵巣性無月経(高ゴナドトロピン性無月経、医原性の早発卵巣不全)を呈する。照射量が多いほど、また年齢が高く卵胞数が少ないほど起こりやすい。
- ×c. 全身性消耗性疾患
原因となりうる。悪性腫瘍、結核などの慢性感染症、重症の慢性疾患など全身の消耗を伴う疾患では、栄養状態の悪化と体重減少、身体的ストレスにより、視床下部からのGnRH分泌が抑制される。生体はエネルギーが乏しい状況で生殖機能より生命維持を優先するためであり、低ゴナドトロピン性の視床下部性無月経となる。
- ○d. 低プロラクチン血症
原因となりにくい(正解)。無月経の原因となるのは高プロラクチン血症である。プロラクチンが過剰になると視床下部のGnRH拍動的分泌が抑えられ、ゴナドトロピンが低下して排卵が止まり、乳汁漏出を伴う無月経(乳汁漏出性無月経)となる。原因にはプロラクチノーマ、ドパミン拮抗作用をもつ薬剤(抗精神病薬、スルピリド、メトクロプラミドなど)、原発性甲状腺機能低下症などがある。一方、プロラクチンが低くても月経周期は維持されうる。分娩時大量出血後のシーハン症候群のように低プロラクチン血症(産褥期の乳汁分泌不全)と無月経が併存することはあるが、その無月経はゴナドトロピンなど他の下垂体ホルモンの欠乏によるもので、低プロラクチン自体が原因ではない。
- ×e. 過度のスポーツトレーニング
原因となりうる。激しい運動を続けると、消費エネルギーに見合う摂取ができず利用可能エネルギーが不足し(体重減少を伴うことが多い)、身体的・精神的ストレスも加わって視床下部のGnRH分泌が抑制される(運動性無月経、視床下部性無月経)。長距離走、体操、バレエなど体重管理が求められる競技で多い。低エストロゲン状態が続くと骨密度が低下し、疲労骨折の原因となる。利用可能エネルギー不足・無月経・骨粗鬆症は女性アスリートの三主徴(female athlete triad)と呼ばれる。
無月経の定義
・原発性無月経:満15歳以上になっても初経が起こらないもの(日本産科婦人科学会は2018年に従来の「満18歳」から変更した)。 ・続発性無月経:これまであった月経が3か月以上停止したもの。
続発性無月経の診断の流れ
1. まず妊娠を否定する(妊娠反応)。 2. 血中ホルモン測定:プロラクチン、FSH・LH、エストラジオール、甲状腺ホルモン(TSH)など。 3. 消退出血の有無で程度を評価する。 ・プロゲスチン投与で出血あり → 第1度無月経(ある程度のエストロゲン分泌が保たれている)。 ・プロゲスチンで出血せず、エストロゲン+プロゲスチン投与で出血 → 第2度無月経(エストロゲン分泌が乏しい)。 ・両者で出血しない → 子宮性無月経(アッシャーマン症候群など)を疑う。 4. ゴナドトロピンの値で部位を推定する。 ・FSH・LH高値 → 卵巣性(早発卵巣不全、放射線・抗癌薬後など)。 ・FSH・LH低値〜正常 → 視床下部性・下垂体性。LH-RH(GnRH)負荷試験で反応があれば視床下部性、なければ下垂体性と考える。 ・LH高値でFSH正常(LH/FSH比上昇)→ PCOSを疑う。
高プロラクチン血症の主な原因
プロラクチノーマ、薬剤性(ドパミン受容体拮抗薬など)、原発性甲状腺機能低下症(TRH増加によるプロラクチン分泌刺激)、視床下部・下垂体茎病変(ドパミンによる抑制の途絶)。治療はドパミン作動薬(カベルゴリン、ブロモクリプチン)が中心である。
POINT
・続発性無月経=3か月以上の月経停止。最多は視床下部性(体重減少、過度の運動、ストレス、消耗性疾患)。 ・無月経の原因となるのは「高」プロラクチン血症(GnRH抑制)。低プロラクチン血症は原因とならない。 ・放射線照射・抗癌薬は卵巣性(高ゴナドトロピン性)無月経を起こす。 ・肥満もインスリン抵抗性・アンドロゲン過剰・非周期性エストロゲンにより無月経の原因となる。 ・過度の運動では女性アスリートの三主徴(利用可能エネルギー不足・無月経・骨粗鬆症)に注意する。
