StudyMed医師国家試験

ごっくんの0.5秒―喉頭は「前上方」へ逃げて気道を守る

第111回医師国家試験 B問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第111回 B問題 第6問

舌根と喉頭の協調運動によって喉頭蓋が傾いて誤嚥を防止する。  この協調運動において喉頭が移動する方向はどれか。

  1. a.前上方
  2. b.前方
  3. c.前下方
  4. d.後方
  5. e.後下方

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は嚥下の咽頭期、つまり食べ物が喉を通る一瞬に、喉頭がどちらへ動くかを問う問題だ。ポイントは「気道の入口と食道の入口の位置関係」と「喉頭蓋がどうやって倒れるか」の2つ。まず、喉の中で空気と食べ物の通り道はどう配置されているかな。
医学生医学生
解剖学の講義では、喉頭が前で、食道はその後ろ、頸椎の前を通っていると習いました。
ドクタードクター
その通り。咽頭は空気の道と食物の道が交差する場所なんだ。食塊は後ろ側の食道へ行きたいのに、そのすぐ前に気道の入口が開いている。だから飲み込む瞬間に、気道を確実に閉じて食道の入口を開く仕組みが必要になる。
医学生医学生
喉頭蓋がふたになるんですよね。だとすると、喉頭も喉頭蓋と一緒に後ろへ倒れ込むような動きをするのでしょうか。
ドクタードクター
そこが一番の引っかけどころだね。後下方へ倒れるのは喉頭蓋であって、喉頭そのものではない。喉頭本体は舌骨と一緒に前上方へ持ち上がるんだ。これを喉頭挙上という。
医学生医学生
喉頭が上がるのに喉頭蓋が下に倒れる、というのがちょっとイメージしにくいです。
ドクタードクター
舌根を天井だと思ってごらん。喉頭が前上方へ引き上げられて舌根の下に潜り込むと、喉頭蓋が舌根に押されて後下方へ反転し、喉頭口をふさぐ。喉頭の上昇と舌根の押し下げの協調で、ふたが閉まる仕組みなんだ。
医学生医学生
なるほど、喉頭が上がるからこそ喉頭蓋が倒れるんですね。引き上げるのはどの筋ですか。
ドクタードクター
顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋、顎二腹筋前腹などの舌骨上筋群が舌骨を前上方へ引き、甲状舌骨筋が甲状軟骨を舌骨に引き寄せる。こうして喉頭全体が前上方へ移動する。では、前方だけ、前下方、後方、後下方がなぜ違うか考えてみよう。
医学生医学生
前方だけだと舌根の下に入り込めないので、喉頭蓋が倒れませんね。前下方だと舌根から離れてしまって、むしろ喉頭口が開いたままになりそうです。
ドクタードクター
完璧だ。なお嚥下が終わると喉頭は元の位置へ下がるけれど、それは誤嚥を防ぐ動きではない。では後ろ向きの2つは?
医学生医学生
後ろには食塊の通り道があるので、気道の入口がそこへ近づいてしまい、かえって誤嚥しやすくなると思います。
ドクタードクター
その通り。さらに前方への移動にはもう一つ大事な意味がある。食道入口部、つまり上部食道括約筋は輪状軟骨の後ろに付いているから、喉頭が前へ引かれると食道入口部も前に引っぱられて開きやすくなるんだ。
医学生医学生
前上方への動きで、気道を食塊から遠ざけて、喉頭蓋を倒して、食道の入口も開く。一石三鳥ですね。
ドクタードクター
いいまとめだ。ほかにも軟口蓋の挙上による鼻咽腔閉鎖、声門や仮声帯の閉鎖、嚥下性無呼吸が重なって、気道は多重に守られている。
医学生医学生
臨床実習で神経内科を回ったとき、脳卒中後の患者さんに反復唾液嚥下テストをしていました。のど仏に指を当てて数えていたのは、この喉頭挙上だったんですね。
ドクタードクター
そう。30秒間に喉頭が指を乗り越えて挙上する回数を数え、3回未満なら異常と判断する。喉頭挙上が弱いと喉頭蓋の反転も食道入口部の開大も不十分になり、誤嚥や喉頭蓋谷・梨状陥凹への咽頭残留が起こりやすい。高齢者や脳卒中後の嚥下障害でよくみられるね。
医学生医学生
挙上を鍛えるリハビリもあるんですか。
ドクタードクター
あるよ。仰臥位で頭を持ち上げて舌骨上筋群を鍛える頭部挙上訓練(シャキア訓練)や、喉頭が上がった位置を意識的に数秒保つメンデルソン手技などが代表的だ。解剖の「方向」が、そのままリハビリの考え方につながっているんだよ。

まとめ

嚥下の咽頭期には、舌骨上筋群と甲状舌骨筋の働きで舌骨と喉頭が前上方へ挙上します。喉頭が舌根の下に潜り込むことで喉頭蓋が舌根に押されて後下方へ反転し喉頭口を閉鎖するとともに、気道入口が後方の食塊の通り道から遠ざかり、前方への牽引で食道入口部も開大します。後下方へ倒れるのは喉頭蓋であり喉頭そのものではない点が典型的な混同ポイントです。軟口蓋挙上、声門閉鎖、嚥下性無呼吸も加わって気道は多重に守られています。喉頭挙上は反復唾液嚥下テストで触知でき、その低下は誤嚥や咽頭残留の原因となるため、正常な嚥下の動きを理解することが嚥下障害の評価やリハビリの基盤になります。

解答・解説

正解はaです

本問は、嚥下の咽頭期に起こる喉頭挙上の方向を問う解剖・生理の問題である。 咽頭は空気の通り道(鼻腔・口腔→喉頭→気管)と食物の通り道(口腔→咽頭→食道)が交差する場所である。気道の入口である喉頭は前方に、食道の入口は喉頭の後方(頸椎の前)に位置する。食塊が咽頭を通過する一瞬のあいだに、気道を確実に閉じ、同時に食道入口部を開く必要がある。 このとき起こるのが喉頭挙上である。舌骨上筋群(顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋、顎二腹筋前腹など)が収縮して舌骨を前上方へ引き、甲状舌骨筋が甲状軟骨を舌骨へ引き寄せることで、喉頭全体が前上方へ移動する。喉頭が舌根の下に潜り込むように持ち上がると、舌根に押されて喉頭蓋が後下方へ倒れ(反転し)、喉頭口をふたのように覆う。さらに声門や仮声帯も閉じ、気道は多重に保護される。 加えて、喉頭が前方へ引き出されると、喉頭(輪状軟骨)の後ろに付着する食道入口部(上部食道括約筋)が前方へ引っぱられて開きやすくなる。つまり前上方への移動は、気道を食塊の通り道から遠ざける・喉頭蓋を倒す・食道入口部を開く、という三つの役割を同時に果たしている。以上より、喉頭の移動方向は前上方である。

選択肢考察

  1. ○a.  前上方

    正しい。嚥下の咽頭期には、舌骨上筋群と甲状舌骨筋の働きで舌骨と喉頭が前上方へ挙上する。これにより喉頭が舌根の下に入り込んで喉頭蓋が倒れ、喉頭口が閉鎖される。同時に、後方を通る食塊の経路から気道入口が遠ざかり、前方への牽引で食道入口部が開大するため、誤嚥が防がれ食塊が食道へ送り込まれる。喉頭挙上は頸部の甲状軟骨(のど仏)に指を当てて嚥下させると触知でき、ベッドサイドでの嚥下評価にも用いられる。

  2. ×b.  前方

    誤り。前方への移動成分は含まれるが、それだけでは喉頭が舌根の下に入り込まず、喉頭蓋を倒して喉頭口を閉鎖する動きが生じない。上方への挙上を伴うことが必須である。

  3. ×c.  前下方

    誤り。喉頭が下がると舌根から離れ、喉頭蓋が倒れにくくなるうえ喉頭口が開いたまま咽頭腔にさらされる。嚥下時の喉頭は挙上するのであって下降はしない。嚥下後に喉頭が元の位置に戻る(下降する)動きはあるが、それは誤嚥を防ぐ協調運動ではない。

  4. ×d.  後方

    誤り。喉頭の後方には食塊が通る咽頭後壁と食道入口部がある。喉頭が後方へ動けば気道入口が食塊の通り道に近づき、むしろ誤嚥を招く。また食道入口部を前方へ引いて開く作用も得られない。

  5. ×e.  後下方

    誤り。後下方は食道の存在する方向であり、喉頭がこの向きに動くと気道入口が食塊の経路に重なり、誤嚥の危険が高まる。なお、嚥下時に後下方へ倒れるのは喉頭蓋であって、喉頭そのものではない。両者を混同しないよう注意する。

嚥下の5期モデル

・先行期(認知期):食物を認識し、口へ運ぶ。 ・準備期(咀嚼期):咀嚼して唾液と混ぜ、食塊を形成する。 ・口腔期:舌が食塊を咽頭へ送り込む。随意運動である。 ・咽頭期:嚥下反射により食塊が咽頭を通過し食道へ入る。不随意運動で、0.5秒程度の短時間に起こる。 ・食道期:蠕動運動により食塊が胃へ運ばれる。 (口腔期・咽頭期・食道期の3期に分けることもある。)

咽頭期の気道防御機構

・軟口蓋の挙上:鼻咽腔を閉鎖し、鼻腔への逆流を防ぐ。 ・舌骨・喉頭の前上方挙上 ・喉頭蓋の反転(後下方へ倒れる)による喉頭口の閉鎖 ・仮声帯・声帯(声門)の閉鎖 ・呼吸の一時停止(嚥下性無呼吸) ・上部食道括約筋(輪状咽頭筋)の弛緩と、喉頭の前方牽引による食道入口部の開大

臨床との関連

・喉頭挙上が不十分になると、喉頭蓋の反転や食道入口部の開大が不十分となり、誤嚥や咽頭残留(喉頭蓋谷・梨状陥凹への残留)が起こる。高齢者や脳卒中後の嚥下障害でみられる。 ・反復唾液嚥下テスト(RSST)では、喉頭隆起に指を当て、30秒間に喉頭が指を乗り越えて挙上する回数を数え、3回未満を異常とする。 ・喉頭挙上を改善する訓練として、頭部挙上訓練(シャキア訓練)やメンデルソン手技がある。

POINT

・嚥下咽頭期に喉頭(と舌骨)は前上方へ挙上する。 ・喉頭挙上に伴い、舌根に押されて喉頭蓋が後下方へ倒れ、喉頭口を閉鎖する。 ・前方への牽引は食道入口部の開大にも寄与する。 ・後下方へ動くのは喉頭蓋であり、喉頭ではない点に注意。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。