夜更かしは楽、早起きはつらい―体内時計の「くせ」から読み解くサーカディアンリズム
第111回医師国家試験 B問題 第38問
国試問題にチャレンジ
ヒトのサーカディアンリズムについて正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.高照度光によって変化する。
- b.深部体温の日内変動が指標となる。
- c.成人における周期は約27時間である。
- d.加齢によって後退し睡眠時間帯が遅くなる。
- e.時差への適応は,後退よりも前進させる方が容易である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ヒトのサーカディアンリズムは視床下部の視交叉上核にある中枢時計が刻み、本来の周期は24時間よりやや長い(古典的には約25時間、現在は約24.2時間とされる)ため、約27時間という大きなずれはありません。このずれは主に光、特に朝の高照度光によって毎日リセットされ、朝の光は位相を前進、夜の光は後退させます。リズムの位相は直接測れないため、明け方に最低となる深部体温やメラトニン分泌開始時刻が指標として使われます。本来の周期が長めであることからリズムは後退させる方が容易で、東向き飛行の時差ぼけの方が重く、加齢では逆に位相が前進して早寝早起きになります。これらの原理は、概日リズム睡眠・覚醒障害に対する高照度光療法やメラトニン受容体作動薬の使い方を理解する土台になります。
解答・解説
正解はa, bです
サーカディアンリズム(概日リズム)とは、睡眠・覚醒、体温、ホルモン分泌などにみられる約1日周期のリズムであり、外界の手がかりがなくても体内時計によって自律的に刻まれる。ヒトの主時計(中枢時計)は視床下部の視交叉上核にあり、時計遺伝子(Clock、Bmal1、Per、Cryなど)の転写・翻訳のフィードバックループによって周期が作られている。 本問では次の4点を整理しておくとよい。 1. 周期:ヒト本来の周期(フリーラン周期)は24時間よりわずかに長い。 2. 同調:体内時計は毎日、主に光(特に朝の高照度光)によって24時間にリセット(同調)される。光は網膜の特殊な神経節細胞(メラノプシンを含む)から網膜視床下部路を経て視交叉上核に伝わる。 3. 指標:体内時計そのものは直接測れないため、深部体温の日内変動やメラトニン分泌のリズムなど、外から測定できる生体リズムを指標(マーカー)として用いる。 4. 位相の動きやすさ:本来の周期が24時間より長いため、リズムは遅らせる(後退)ほうが早める(前進)より容易である。加齢では逆に位相が前進し、早寝早起きになる。 これらを踏まえて各選択肢を判断する。
選択肢考察
- ○a. 高照度光によって変化する。
光は体内時計を外界の24時間に合わせる最も強力な同調因子である。光の効果はあたる時刻によって異なり、深部体温が最も低くなる時刻(明け方)より後、つまり朝に高照度光を浴びるとリズムは前進(早まる)し、それより前、つまり夜遅くに光を浴びると後退(遅れる)する。この性質を利用して、睡眠・覚醒相後退障害(極端な夜型)や季節性感情障害(冬季うつ病)の治療に、2,500〜10,000ルクス程度の高照度光療法が用いられる。よって正しい。
- ○b. 深部体温の日内変動が指標となる。
直腸温などで測る深部体温は、体内時計の支配を受けて1日の中で約1℃の幅で変動する。通常、夜間の睡眠後半から明け方(起床の約2時間前、午前4〜6時頃)に最低となり、夕方から夜の早い時間帯にかけて最高となる。この最低点の時刻は、血中・唾液中メラトニンの分泌開始時刻と並んで、サーカディアンリズムの位相を評価する代表的な指標である。よって正しい。
- ×c. 成人における周期は約27時間である。
時刻の手がかりをなくした環境(隔離実験室など)で生活させると、ヒトのリズムは24時間より少し長い周期で自走(フリーラン)する。初期の隔離実験では約25時間と報告され、その後の厳密な実験方法(強制脱同調法)では平均約24.2時間とされている。いずれにしても24時間よりやや長い程度であり、約27時間という大きなずれはない。
- ×d. 加齢によって後退し睡眠時間帯が遅くなる。
加齢に伴ってサーカディアンリズムの位相は前進し、寝る時刻も起きる時刻も早くなる(高齢者の早寝早起き・早朝覚醒)。さらに高齢者では睡眠が浅く中途覚醒が増え、リズムの振幅も小さくなる。逆に思春期〜青年期では位相が後退して夜型になりやすい。したがって「加齢で後退し、睡眠時間帯が遅くなる」は誤りである。
- ×e. 時差への適応は,後退よりも前進させる方が容易である。
ヒト本来の周期は24時間より長いため、体内時計はもともと遅れる方向(後退)に動きやすく、早める方向(前進)へは動きにくい。前進させるとは「まだ眠くない時刻に寝て、早く起きる」ことであり、生理的に難しい。日本から米国など東へ向かう飛行ではリズムを前進させる必要があるため時差ぼけが重く長引きやすく、ヨーロッパなど西へ向かう飛行では後退で済むため比較的適応しやすい。夜更かしは簡単でも早起きはつらい、という日常の経験とも一致する。よって後退の方が容易であり、記述は誤りである。
体内時計の仕組み
・中枢時計:視床下部の視交叉上核。全身の末梢時計(肝臓・心臓など各臓器)を統率する。 ・同調因子:最も強いのは光。ほかに食事のタイミング、運動、社会的活動なども同調因子となる。 ・光の伝達経路:網膜(メラノプシン含有神経節細胞)→網膜視床下部路→視交叉上核→(交感神経経路)→松果体。
メラトニン
・松果体から夜間に分泌され、光で強く抑制される。 ・薄暗い環境での分泌開始時刻(DLMO)はリズムの位相を示す指標として使われる。 ・メラトニン受容体作動薬(ラメルテオンなど)は不眠症に用いられる。
光の位相反応
・深部体温最低点より後(朝)の光→位相前進(早寝早起き方向) ・深部体温最低点より前(夜)の光→位相後退(夜型方向)
概日リズム睡眠・覚醒障害の主な型
・睡眠・覚醒相後退型:入眠・起床が極端に遅い。思春期・若年者に多い。朝の高照度光療法、夕方のメラトニン受容体作動薬などで治療する。 ・睡眠・覚醒相前進型:入眠・起床が極端に早い。高齢者に多い。夕方の高照度光が有効とされる。 ・非24時間睡眠・覚醒型:毎日少しずつ睡眠時間帯がずれていく。全盲の人に多い(光で同調できないため)。 ・不規則睡眠・覚醒型:認知症などでみられる。 ・時差型(時差障害)、交代勤務型。
その他の日内変動
・コルチゾール:早朝(起床前後)に最高、深夜に最低。 ・成長ホルモン:入眠直後の深いノンレム睡眠で多く分泌される。
POINT
・ヒトのフリーラン周期は24時間よりやや長い(古典的には約25時間、現在は約24.2時間とされる)。 ・体内時計は主に朝の高照度光で24時間に同調する。中枢は視交叉上核。 ・リズムの指標は深部体温(明け方に最低)とメラトニン。 ・加齢でリズムは前進(早寝早起き)、若年では後退(夜型)。 ・リズムは後退させる方が前進させるより容易であり、東向き飛行の時差ぼけの方が重い。
