「義務」か「推奨」か―食品のアレルギー表示を分ける境界線
第111回医師国家試験 B問題 第39問
国試問題にチャレンジ
食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかになった食品のうち,加工食品に表示が義務付けられている特定原材料はどれか。3つ選べ。
- a.卵
- b.小麦
- c.そば
- d.大豆
- e.ゼラチン
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
加工食品のアレルギー表示は、表示が義務の「特定原材料」と、推奨にとどまる「特定原材料に準ずるもの」に分かれます。特定原材料は発症数が多いか重篤化しやすい食品から選ばれ、現在はえび・かに・くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生の8品目(くるみは2023年追加)で、卵・小麦は患者数の多さ、そば・落花生は重篤性の高さが主な理由です。大豆やゼラチン、ごま、カシューナッツなど20品目は準ずるものとして表示が推奨されるにとどまります。制度は2002年に食品衛生法で始まり現在は食品表示法に基づきますが、量り売りや外食は義務の対象外です。この線引きを理解することは、国家試験対策だけでなく、食物アレルギー患者への生活指導や誤食予防に直結します。
解答・解説
正解はa, b, cです
本問は、食物アレルギーの原因となる食品のうち、加工食品への表示が法令で「義務」とされている特定原材料を問う知識問題である。
アレルギー表示制度の枠組み
アレルギー物質を含む加工食品による健康被害を防ぐため、2002(平成14)年4月から食品衛生法に基づくアレルギー表示が始まった。現在は2015(平成27)年4月施行の食品表示法と食品表示基準に引き継がれている。表示の対象となる品目は、法的な拘束力の強さによって次の2群に分かれる。 ・特定原材料(表示義務): 発症数が多い食品、または重篤な症状(アナフィラキシーなど)を起こしやすい食品。現在はえび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)の8品目である。 ・特定原材料に準ずるもの(表示推奨): 発症例は一定数あるが、特定原材料ほど多くない、または重篤例が少ない食品。大豆やゼラチンなど20品目があり、表示は「可能な限り努める」とされる。
解き方
選択肢のうち、卵・小麦・そばの3つが特定原材料、大豆とゼラチンは特定原材料に準ずるもの(推奨表示)に入る。「義務」と「推奨」の線引きを覚えていれば解ける。なお、出題当時の特定原材料は7品目(くるみ追加前)だったが、本問の正解は変わらない。
選択肢考察
- ○a. 卵
鶏卵は乳幼児の即時型食物アレルギーの原因として最も多く、患者数が非常に多いため特定原材料として表示が義務付けられている。主な抗原は卵白のオボアルブミン(加熱で抗原性が下がりやすい)やオボムコイド(加熱に強い)である。成長とともに耐性を獲得して食べられるようになる例が多い。
- ○b. 小麦
小麦は乳幼児期の主要な原因食物であり、学童期以降や成人でも原因となる。成人では、小麦を食べた後に運動して起こる食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)の原因として代表的である(主な抗原はω-5グリアジン)。発症数が多く重篤化もしうるため、特定原材料として表示義務の対象である。
- ○c. そば
そばは発症数こそ卵・乳・小麦より少ないが、ごく微量でもアナフィラキシーショックなどの重篤な症状を起こしやすく、耐性獲得もしにくい。幼児から成人まで原因となる。重症度の高さを理由に、特定原材料として表示が義務付けられている。
- ×d. 大豆
大豆は「特定原材料に準ずるもの」に分類され、表示は推奨にとどまり義務ではない。シラカバなどカバノキ科花粉症の患者では、花粉抗原(Bet v 1)と交差反応する大豆タンパク(Gly m 4)により、豆乳の摂取で口腔アレルギー症候群や時にアナフィラキシーを生じることがある。一方、味噌・醤油など発酵加工品は抗原性が低下しており、摂取できる場合も多い。
- ×e. ゼラチン
ゼラチンも「特定原材料に準ずるもの」であり、表示は推奨で義務ではない。食品中のゼラチンで初めて感作されることはまれである。かつて麻疹・風疹・水痘などの生ワクチンに安定剤として含まれていたゼラチンによる感作やアレルギー反応が問題となったが、その後ワクチンのゼラチン除去・低減が進められた。
特定原材料(表示義務)8品目
えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ) ・くるみは患者数の増加を受けて2023(令和5)年に追加された(2025年3月末までの経過措置期間を経て完全義務化)。それ以前は7品目であった。
特定原材料に準ずるもの(表示推奨)20品目
アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、マカダミアナッツ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン
表示の原則
・アレルゲンは原則として原材料ごとに「(一部に卵・小麦を含む)」のように個別表示する。複数をまとめて記載する一括表示は例外的な扱いとなっている(2015年の食品表示基準で原則が整理された)。 ・容器包装された加工食品が対象であり、店頭で量り売りする惣菜や外食は表示義務の対象外である。
原因食物の年齢による変化
・乳幼児期: 鶏卵、牛乳、小麦が多い。近年は木の実類(特にくるみ)が増えている。 ・学童期以降〜成人: 甲殻類、小麦、果物、魚類、そば、落花生などの比重が高まる。 ・鶏卵・牛乳・小麦は年齢とともに耐性を獲得しやすいが、そば・落花生・甲殻類・木の実類は耐性を獲得しにくい。
POINT
・表示義務のある特定原材料は、えび・かに・くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生の8品目(くるみは2023年追加)。 ・大豆、ゼラチン、ごま、カシューナッツ、牛肉などは「特定原材料に準ずるもの」で表示は推奨(任意)。 ・選定の根拠は「発症数が多い」または「重篤になりやすい」こと。そば・落花生は後者の代表。 ・法的根拠は2002年の食品衛生法に始まり、現在は食品表示法(2015年施行)。
