StudyMed医師国家試験

首は靱帯、腰は椎間板、境目は骨折―「負荷のかかり方」で読み解く脊椎の加齢性変化

第111回医師国家試験 B問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第111回 B問題 第16問

脊椎の加齢性変化について正しいのはどれか。

  1. a.椎間板変性は胸椎に多い。
  2. b.後縦靱帯骨化は頸椎に多い。
  3. c.骨粗鬆症の頻度に性差はない。
  4. d.最も多い症状は間欠性跛行である。
  5. e.脊椎圧迫骨折が多いのは第5腰椎である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は脊椎の加齢性変化を横断的に整理する問題だ。椎間板変性、靱帯骨化、骨粗鬆症と椎体骨折について、「どの高さに多いか」「誰に多いか」「どんな症状が多いか」を押さえているかが問われている。ポイントは、好発部位の多くが力学的な負荷のかかり方で説明できることだよ。
医学生医学生
丸暗記しかけていましたが、理屈で考えられるんですね。まず椎間板変性ですが、胸椎は違う気がします。
ドクタードクター
その感覚で合っている。胸椎は肋骨と胸郭に支えられていて、ほとんど動かない。椎間板変性が多いのは、体重がかかって動きも大きい下位腰椎、具体的にはL4/5やL5/S1、次いでよく動く中下位頸椎のC5/6あたりだ。胸椎の椎間板ヘルニアがまれなのも同じ理由だね。
医学生医学生
臨床実習の整形外科で見たヘルニアのMRIも、ほとんどがL4/5でした。
ドクタードクター
そうだろうね。では靱帯骨化はどうかな。
医学生医学生
後縦靱帯骨化症は頸椎に多いと講義で習いました。これが正解でしょうか。
ドクタードクター
正解だ。後縦靱帯は椎体の後面を縦に走る靱帯で、これが骨化すると脊柱管が狭くなり、脊髄や神経根が圧迫される。頸椎に最も多く、全体の7割ほどを占めるとされる。日本人を含む東アジア人、中年以降の男性に多く、糖尿病や肥満との関連も知られていて、指定難病になっているんだ。
医学生医学生
似た名前で黄色靱帯骨化症もありましたよね。こちらも頸椎ですか。
ドクタードクター
そこはよく混同されるところだね。黄色靱帯骨化症は下位胸椎に多い。「後縦靱帯は頸椎、黄色靱帯は下位胸椎」と対にして覚えておくといい。胸椎の脊髄症を見たら黄色靱帯骨化も疑う、という使い方ができるよ。
医学生医学生
骨粗鬆症の頻度に性差がない、というのは明らかにおかしいですよね。閉経後の女性に多いはずです。
ドクタードクター
その通り。わが国の患者数は女性が男性のおよそ3倍と推計されている。エストロゲンには破骨細胞による骨吸収を抑える働きがあるから、閉経でそれが急に減ると骨吸収が進んで骨量が落ちる。もともと女性は最大骨量が男性より少ないことも関係している。
医学生医学生
生理学の講義で、エストロゲンが骨にも作用すると聞いて意外に思ったのを覚えています。では圧迫骨折は、一番下の第5腰椎に体重がかかるから多いのかと思ったんですが。
ドクタードクター
いい落とし穴にはまってくれたね。実際に多いのは胸腰椎移行部、Th11からL2、特に第12胸椎と第1腰椎だ。動かない胸椎と、よく動く腰椎の境目に応力が集中するからなんだ。次いで中位胸椎にも多い。第5腰椎は好発部位ではないよ。
医学生医学生
硬い部分と動く部分の継ぎ目が折れやすい、と考えればいいんですね。最後に症状ですが、間欠性跛行が一番多いとは言えないでしょうか。
ドクタードクター
間欠性跛行は腰部脊柱管狭窄症に特徴的な症状だけれど、頻度で最も多いのは腰痛だ。国民生活基礎調査でも腰痛は有訴者率の上位、男性では第1位にある。しかも腰痛の大部分は画像で原因を特定できない非特異的腰痛で、背景に椎間板変性などの退行性変化があることが多い。
医学生医学生
「特徴的な症状」と「最も多い症状」は別物、ということですね。
ドクタードクター
その区別は試験でも臨床でも大切だよ。ついでに間欠性跛行の鑑別も確認しておこう。腰部脊柱管狭窄症による神経性のものは、前かがみや座ると楽になり、足背動脈の拍動は保たれる。閉塞性動脈硬化症などの血管性では、立ち止まるだけで改善し、足背動脈の拍動が弱くなる。
医学生医学生
OSCEの練習で足背動脈を触れる意味がやっとつながりました。骨粗鬆症の椎体骨折で注意することはありますか。
ドクタードクター
椎体骨折の多くは、はっきりした外傷や痛みの自覚がない「いつの間にか骨折」なんだ。骨折が重なると身長が縮み、背中が丸くなり、慢性的な腰背部痛につながる。高齢者の身長低下や円背に気づいたら、骨折を見逃さずに骨粗鬆症の評価と治療につなげることが、次の骨折を防ぐ第一歩になる。

まとめ

脊椎の加齢性変化の好発部位は、力学的な負荷の分布でおおむね理解できます。椎間板変性は負荷と可動性の大きい下位腰椎(L4/5、L5/S1)や中下位頸椎に多く胸椎には少ない一方、骨粗鬆症性の椎体圧迫骨折は胸椎と腰椎の境目である胸腰椎移行部(Th12、L1)に好発します。後縦靱帯骨化症は頸椎に多く、中年以降の男性や東アジア人に多い指定難病であり、黄色靱帯骨化症が下位胸椎に多いことと対比して覚えると整理しやすくなります。骨粗鬆症はエストロゲン低下を背景に閉経後女性に多く、脊椎の退行性変化で最も多い症状は間欠性跛行ではなく腰痛です。「どこに・誰に・どんな症状が多いか」を理屈で整理しておくことは、高齢者の腰背部痛や脊髄症を診るうえでの基礎になります。

解答・解説

正解はbです

テーマ

加齢に伴う脊椎の変化(退行性変化)として、椎間板変性、靱帯骨化、骨粗鬆症とそれに伴う椎体圧迫骨折が代表的である。それぞれについて「どの高位に多いか」「誰に多いか」「どんな症状が多いか」を整理しておくことが問われている。

好発部位を決める考え方

脊椎の退行性変化の好発部位は、主に力学的な負荷のかかり方で説明できる。 ・椎間板変性:体重負荷と運動量の大きい下位腰椎(L4/5、L5/S1)や、可動性の大きい中下位頸椎(C5/6など)に多い。胸椎は肋骨・胸郭に支えられて動きが小さいため少ない。 ・椎体圧迫骨折:動きの少ない胸椎と動きの大きい腰椎の境目である胸腰椎移行部(Th11〜L2、特にTh12・L1)に応力が集中するため多い。 ・靱帯骨化:後縦靱帯骨化は頸椎、黄色靱帯骨化は下位胸椎に多いという特徴的な分布をとる。 これらの知識から、後縦靱帯骨化が頸椎に多いという記述が正しいと判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  椎間板変性は胸椎に多い。

    誤り。椎間板変性は力学的負荷が最も大きい下位腰椎(L4/5、L5/S1)に最も多く、次いで可動性の大きい中下位頸椎に多い。胸椎は胸郭により固定され可動域が小さいため、椎間板変性や椎間板ヘルニアの頻度は低い。

  2. ○b.  後縦靱帯骨化は頸椎に多い。

    正しい。後縦靱帯骨化症(OPLL:ossification of the posterior longitudinal ligament)は、椎体の後面を縦に走る後縦靱帯が骨化し、脊柱管を狭めて脊髄や神経根を圧迫する疾患である。頸椎に最も多く(全体の約7割)、胸椎・腰椎にも生じる。日本人を含む東アジア人に多く、中年以降の男性に多い(男女比は約2:1)。糖尿病や肥満との関連が知られ、国の指定難病である。なお、黄色靱帯骨化症は下位胸椎に好発する点と対比して覚えるとよい。

  3. ×c.  骨粗鬆症の頻度に性差はない。

    誤り。骨粗鬆症は女性に圧倒的に多く、わが国の患者数は女性が男性の約3倍と推計されている。エストロゲン(女性ホルモン)には破骨細胞による骨吸収を抑える作用があるため、閉経によりエストロゲンが急減すると骨吸収が亢進し、骨量が急速に減少する。もともと女性は男性より最大骨量が少ないことも一因である。

  4. ×d.  最も多い症状は間欠性跛行である。

    誤り。脊椎の加齢性変化に伴って最も多くみられる症状は腰痛である。国民生活基礎調査でも、腰痛は有訴者率の最上位(男性で第1位、女性で肩こりに次ぐ第2位)に位置する。腰痛の大部分(約85%)は、画像などで原因を特定できない非特異的腰痛であり、椎間板変性などの退行性変化が背景にあることが多い。間欠性跛行(歩行で下肢の痛み・しびれが出現し、休むと改善する症状)は腰部脊柱管狭窄症に特徴的な症状であるが、頻度として最多ではない。

  5. ×e.  脊椎圧迫骨折が多いのは第5腰椎である。

    誤り。骨粗鬆症に伴う椎体圧迫骨折は、胸腰椎移行部(Th11〜L2、特に第12胸椎と第1腰椎)に最も多い。胸郭で固定され可動性の小さい胸椎と、可動性の大きい腰椎との接合部に応力が集中するためである。次いで中位胸椎にも多い。第5腰椎は好発部位ではない。

脊椎の主な加齢性変化と好発部位

・椎間板変性・椎間板ヘルニア:下位腰椎(L4/5、L5/S1)>中下位頸椎(C5/6、C6/7) ・変形性脊椎症(骨棘形成など):頸椎・腰椎 ・後縦靱帯骨化症(OPLL):頸椎に最多。中年以降の男性、東アジア人に多い。指定難病。 ・黄色靱帯骨化症(OYL):下位胸椎に多い。 ・腰部脊柱管狭窄症:L4/5に多い。神経性間欠性跛行が特徴。 ・骨粗鬆症性椎体骨折:胸腰椎移行部(Th12、L1)に最多。

骨粗鬆症の要点

・閉経後女性に多い(患者数は女性が男性の約3倍)。 ・骨折しなければ無症状のことが多く、椎体骨折の約3分の2は明らかな外傷や痛みの自覚がない「いつの間にか骨折」とされる。 ・椎体骨折が重なると身長低下、脊柱後弯(円背)、腰背部痛をきたす。

間欠性跛行の鑑別

・神経性(腰部脊柱管狭窄症):前かがみや座位で改善する。足背動脈の拍動は保たれる。 ・血管性(閉塞性動脈硬化症など):立ち止まるだけで改善する。足背動脈の拍動が減弱・消失する。

POINT

・後縦靱帯骨化症は頸椎、黄色靱帯骨化症は下位胸椎に多い。 ・椎間板変性は下位腰椎(L4/5、L5/S1)に多く、胸椎には少ない。 ・骨粗鬆症は閉経後女性に多い(エストロゲン低下による骨吸収亢進)。 ・骨粗鬆症性椎体圧迫骨折は胸腰椎移行部(Th12、L1)に好発。 ・脊椎の加齢性変化で最も多い症状は腰痛(大部分が非特異的腰痛)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。