塗った薬はどこまで届く?―角層・部位・密封で決まる経皮吸収
第111回医師国家試験 B問題 第15問
国試問題にチャレンジ
外用剤の経皮吸収について正しいのはどれか。
- a.毛孔からは経皮吸収は起きない。
- b.角層が厚いほど経皮吸収は高まる。
- c.陰嚢の経皮吸収は掌蹠に比べて低い。
- d.分子量が小さい物質は経皮吸収が低い。
- e.閉鎖密封法〈ODT〉は経皮吸収を高める。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
外用剤の経皮吸収の最大の障壁は角層であり、角層が薄い部位ほど吸収がよく、陰嚢や顔面は高く、手掌や足底は低くなります。吸収経路には表皮を直接通る経表皮経路のほか、毛孔や汗孔を経由する経付属器経路もあり、薬剤側では分子量が小さいほど吸収されやすくなります。閉鎖密封法(ODT)は角層を水和・膨潤させてバリアを弱め、皮膚温も上げることで吸収を数倍以上に高めますが、副作用も強まるため使用範囲や期間に注意が必要です。さらにバリア障害のある皮膚、間擦部、乳幼児では吸収が亢進し、ステロイド外用薬では局所性・全身性の副作用に配慮が求められます。吸収を左右する因子を皮膚側と薬剤側に分けて理解しておくことは、部位や患者に応じた適切な外用薬の選択と安全な処方の基盤となります。
解答・解説
正解はeです
テーマ
外用剤(皮膚に塗る薬)が皮膚を通って体内に取り込まれる「経皮吸収」の経路と、吸収の程度を左右する因子を問う問題である。
経皮吸収の経路
(1) 経表皮経路:角層 → 顆粒層 → 有棘層 → 基底層 → 真皮へと、表皮を直接通過する経路。主たる経路である。 (2) 経付属器経路:毛孔(毛包の開口部)や汗孔などの皮膚付属器を経由して真皮に達する経路。表面積は小さいが、吸収の初期や大きな分子・イオン性物質では寄与が大きくなる。
吸収を左右する因子
経皮吸収の最大の障壁は最外層の角層である。そのため、因子は次の2つに分けて整理するとよい。 ・生体(皮膚)側の因子:角層の厚さ(部位差)、皮膚の水和状態、皮膚のバリア障害(湿疹・びらん・熱傷など)、皮膚温・血流、年齢(乳幼児・高齢者で吸収されやすい) ・薬剤側の因子:分子量(小さいほど吸収されやすい)、脂溶性と水溶性のバランス、濃度、基剤の種類、塗布方法(閉鎖密封法など) これらを踏まえると、角層を水分で膨潤させてバリアを弱める閉鎖密封法(ODT)が吸収を高めるという記述が正しい。
選択肢考察
- ×a. 毛孔からは経皮吸収は起きない。
誤り。経皮吸収には表皮を直接通過する経路のほかに、毛孔や汗孔といった皮膚付属器を経由する経路がある。毛包の開口部では角層によるバリアが相対的に弱く、薬剤が毛包内に入り込んで吸収される。毛包が密な頭部や顔面で吸収がよい一因でもある。
- ×b. 角層が厚いほど経皮吸収は高まる。
誤り。角層は経皮吸収の最大の障壁であり、厚いほど吸収は低下する。手掌・足底のように角層が厚い部位は吸収が悪く、顔面・陰部のように角層が薄い部位は吸収がよい。また、湿疹やびらんなどで角層が障害されていると吸収は高まる。
- ×c. 陰嚢の経皮吸収は掌蹠に比べて低い。
誤り。陰嚢は角層が非常に薄く、体表で最も経皮吸収のよい部位の一つである。ヒドロコルチゾンの吸収を前腕屈側を1として比較した古典的研究では、陰嚢は約40倍と極めて高く、足底は0.1倍台、手掌もそれ以下と低い。したがって陰嚢の吸収は掌蹠よりはるかに高い。このため陰部や顔面にステロイド外用薬を使う際は、局所性副作用(皮膚萎縮など)に特に注意が必要である。
- ×d. 分子量が小さい物質は経皮吸収が低い。
誤り。分子量が小さい物質ほど角層を通過しやすく、経皮吸収は高い。一般に分子量がおおむね500を超えると吸収は低下し始め、1,000を超えるとほとんど吸収されなくなる。経皮吸収型製剤(貼付剤)として用いられる薬物の多くが低分子であるのはこのためである。
- ○e. 閉鎖密封法〈ODT〉は経皮吸収を高める。
正しい。閉鎖密封法(occlusive dressing technique:ODT)は、外用薬を塗布した上をポリエチレンフィルムなどで覆って密封する方法である。皮膚からの水分の蒸散が妨げられて角層が水和・膨潤し、バリア機能が低下すること、さらに皮膚温が上昇することなどにより、単純塗布に比べて吸収が数倍から十倍程度に高まる。乾癬や慢性湿疹の厚い病変などに用いられるが、効果と同時に副作用も強まるため、使用範囲や期間に注意が必要である。
部位による経皮吸収の違い(ヒドロコルチゾン、前腕屈側を1とした目安)
・陰嚢:約40 ・下顎:約13 ・前額:約6 ・頭皮:約3.5 ・前腕屈側:1 ・手掌:1未満 ・足底:約0.1 角層の薄い部位ほど、また毛包の多い部位ほど吸収がよい。
基剤と吸収
・軟膏(油脂性基剤)は皮膚を覆って水分蒸散を防ぐため、角層の水和を通じて吸収を高めやすく、刺激も少ない。 ・クリーム(乳剤性基剤)は浸透性が高いが、びらん面には刺激となりうる。 ・ローションは有毛部(頭皮など)に塗りやすい。
吸収が高まる状態
・皮膚のバリア障害(アトピー性皮膚炎、湿疹、熱傷、びらん) ・乳幼児(体重あたりの体表面積が大きく、角層も未熟)や高齢者 ・閉鎖密封法、間擦部(腋窩・鼠径部など、皮膚どうしが接して自然に密封状態となる部位) 吸収が高まる状況では、ステロイド外用薬による全身性副作用(副腎抑制など)にも注意を要する。
POINT
・経皮吸収の主な障壁は角層。角層が薄いほど吸収されやすい(陰嚢・顔面>前腕>掌蹠)。 ・経路は経表皮経路と経付属器経路(毛孔・汗孔)の2つ。 ・分子量が小さいほど吸収されやすい(約500以下が目安)。 ・閉鎖密封法(ODT)は角層を水和させて吸収を数倍以上に高める。 ・バリア障害のある皮膚、乳幼児では吸収が亢進する。
