StudyMed医師国家試験

「なる前に防ぐ」のが一次予防―ストレスチェックで学ぶ精神保健の3段階予防

第111回医師国家試験 B問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第111回 B問題 第12問

精神障害の一次予防はどれか。

  1. a.職場のストレスチェック
  2. b.統合失調症に対する就労支援
  3. c.アルコール依存症に対する認知療法
  4. d.うつ病性障害寛解後の薬物療法の継続
  5. e.不安性障害の状況依存的不安に対する抗不安薬投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、精神障害に対する取り組みを一次・二次・三次予防に分類する問題だ。着眼点は「その介入が、病気の自然史のどの段階にいる人を対象にしているか」。まずは予防の3段階をおさらいしよう。どう覚えているかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、一次予防が発症予防、二次予防が早期発見・早期治療、三次予防がリハビリと習いました。
ドクタードクター
その通り。LeavellとClarkの考え方で、一次予防はまだ病気になっていない人を対象に、健康増進や予防接種などで発症そのものを防ぐ。二次予防は健診や検診で早く見つけて早く治療し、重症化を防ぐ。三次予防はすでに病気をもつ人の再発や機能低下を防ぎ、社会復帰を支えるものだ。
医学生医学生
精神障害に当てはめると、一次予防は「心の不調が起きないようにする」取り組みになりますね。
ドクタードクター
そう。ストレスへの気づきと対処、職場環境の改善、精神保健の啓発などがそれに当たる。では選択肢を見てみよう。まだ発症していない人を対象にしたものはどれかな。
医学生医学生
職場のストレスチェックは労働者全員が対象なので、一次予防だと思います。でも、高ストレス者を医師の面接につなげるなら早期発見で二次予防にも見えて、少し迷いました。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。確かに高ストレス者への医師の面接指導という仕組みも含まれている。ただ、ストレスチェック制度の主眼は、労働者自身が自分のストレス状態に気づいてセルフケアにつなげることと、集団分析で職場環境を改善することにある。つまり不調を未然に防ぐ発生予防が目的で、一次予防に位置付けられるんだ。これが正解。
医学生医学生
制度の目的で判断するということですね。統合失調症の就労支援はどうでしょう。精神科の臨床実習で、デイケアに通いながら就労移行支援を受けている患者さんを見ました。
ドクタードクター
いい経験だね。統合失調症では陰性症状や認知機能障害が残りやすく、就労移行支援やデイケア、援助付き雇用で生活機能の回復を図る。すでに発症した人の社会復帰支援だから三次予防だ。
医学生医学生
アルコール依存症に対する認知療法は、治療なので二次予防ですか。
ドクタードクター
発症した疾患への治療的介入という意味では二次予防に位置付けられる。一方で、断酒の継続や再飲酒防止、社会生活の回復を目指すリハビリテーションの側面に注目すれば三次予防の要素もある。いずれにせよ、一次予防ではないことは明らかだね。
医学生医学生
うつ病が寛解した後も薬を続けるのは、もう症状がないので一次予防のように思えてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかかりやすいところだ。寛解していても、その人はすでにうつ病を発症している。うつ病は再燃・再発しやすいので、寛解後もしばらく抗うつ薬を継続する維持療法が推奨されている。目的は再発予防だから三次予防になるんだ。
医学生医学生
「今症状があるか」ではなく「発症したことがあるか」で考えるわけですね。不安障害への抗不安薬投与は、発症した人の症状に対する治療なので二次予防でしょうか。
ドクタードクター
その通り。補足すると、ベンゾジアゼピン系抗不安薬は依存や耐性の問題があるので、不安障害の治療の中心はSSRIや認知行動療法で、抗不安薬は頓用など限定的に使うのが望ましいとされている。国試でも臨床でも大事なポイントだよ。
医学生医学生
ストレスチェックは何人以上の職場で義務なんでしたっけ。
ドクタードクター
労働安全衛生法の改正で2015年12月に導入され、常時50人以上の労働者を使用する事業場に年1回の実施が義務付けられた。その後の法改正で50人未満の事業場にも義務化が予定されている。結果は本人に直接通知され、本人の同意なしに事業者へ提供されないことも押さえておこう。集団分析とその結果を職場環境の改善に生かすことは努力義務だ。
医学生医学生
職場のメンタルヘルス対策には「4つのケア」というのもありましたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。労働者自身によるセルフケア、管理監督者によるラインによるケア、産業医や保健師など事業場内産業保健スタッフ等によるケア、外部の医療機関などの事業場外資源によるケアの4つだ。これらを継続的・計画的に行うことが求められている。将来、産業医として職場に関わる人もいるだろうから、ぜひ覚えておいてほしい。

まとめ

疾病予防は、発症前の人を対象に発症を防ぐ一次予防、早期発見・早期治療で重症化を防ぐ二次予防、発症後の再発予防や社会復帰を支える三次予防の3段階に分けられます。職場のストレスチェックは、労働者自身のストレスへの気づきと集団分析による職場環境の改善を通じて、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを主目的とする一次予防です。統合失調症の就労支援やうつ病寛解後の維持療法は三次予防、不安障害への薬物治療やアルコール依存症への認知療法など発症後の治療は主に二次予防に当たります。分類の際は「現在症状があるか」ではなく「すでに発症しているか」と「介入の主目的」に注目するのがコツです。この考え方は精神保健だけでなく、生活習慣病やがん対策など公衆衛生全般の理解の基盤になります。

解答・解説

正解はaです

疾病予防は、病気の自然史(発症前 → 発症 → 進行・慢性化)のどの段階に働きかけるかによって、一次予防・二次予防・三次予防の3段階に分けられる(Leavell と Clark の考え方)。 ・一次予防:まだ病気になっていない人を対象に、発症そのものを防ぐ。健康増進(生活習慣の改善、健康教育、ストレス対策など)と特異的予防(予防接種、事故防止など)からなる。 ・二次予防:病気を早期に発見し、早期に治療して重症化を防ぐ。健康診断、がん検診、発症した疾患への適切な治療がこれに当たる。 ・三次予防:すでに病気をもつ人の機能障害の進行や再発を防ぎ、社会生活への復帰を支援する。リハビリテーション、社会復帰支援、再発予防などである。 精神障害に当てはめると、一次予防はメンタルヘルス不調の発生を防ぐ取り組み(ストレスへの気づきと対処、職場環境の改善、精神保健に関する啓発など)、二次予防は精神障害の早期発見・早期治療、三次予防は症状が落ち着いた後の再発予防や就労・社会復帰支援に相当する。 選択肢のうち、まだ発症していない労働者全体を対象として不調を未然に防ぐことを主目的とするのは、職場のストレスチェックである。

選択肢考察

  1. ○a.  職場のストレスチェック

    ストレスチェック制度は労働安全衛生法の改正により2015年12月から導入された制度で、常時50人以上の労働者を使用する事業場に年1回の実施が義務付けられている(その後の法改正で50人未満の事業場にも義務化が予定されている)。労働者が自分のストレス状態に気づいてセルフケアにつなげること、集団分析の結果をもとに職場環境を改善することで、うつ病などのメンタルヘルス不調を未然に防ぐことを主な目的としており、一次予防に位置付けられる。高ストレス者を医師の面接指導につなげる仕組みも含まれるが、制度の主眼は早期発見ではなく発生予防にある。

  2. ×b.  統合失調症に対する就労支援

    すでに統合失調症を発症した患者に対し、職業リハビリテーションを通じて社会参加・社会復帰を支援するものであり、三次予防に当たる。統合失調症では陰性症状や認知機能障害が残りやすく、就労移行支援、デイケア、援助付き雇用などで生活機能の回復を図る。

  3. ×c.  アルコール依存症に対する認知療法

    すでに発症したアルコール依存症への治療的介入であるため、一次予防ではない。飲酒に結びつく考え方や行動パターンを修正する治療として二次予防に位置付けられ、断酒の継続や再飲酒防止、社会生活の回復を目指すリハビリテーションとしての側面に注目すれば三次予防の要素も含む。

  4. ×d.  うつ病性障害寛解後の薬物療法の継続

    うつ病は再燃・再発しやすく、寛解後もしばらく(一般に少なくとも数か月以上)抗うつ薬を同じ用量で継続することが推奨されている。これはすでに発症した疾患の再燃・再発を防ぐための維持療法であり、三次予防に当たる。

  5. ×e.  不安性障害の状況依存的不安に対する抗不安薬投与

    すでに発症した不安障害の症状(特定の状況で生じる不安)に対する薬物治療であり、二次予防に当たる。なお、ベンゾジアゼピン系抗不安薬は依存や耐性の問題があるため、不安障害の治療では選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や認知行動療法が中心となり、抗不安薬は頓用などの限定的な使用が望ましいとされる。

一次・二次・三次予防の具体例

・一次予防:禁煙指導、減塩などの生活習慣改善、予防接種、職場環境の改善、ストレスチェック、メンタルヘルス教育 ・二次予防:特定健康診査、がん検診、新生児マススクリーニング、精神障害の早期発見と早期治療 ・三次予防:リハビリテーション、再発予防、就労支援、デイケア、社会復帰施設の利用

職場のメンタルヘルス対策

厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、セルフケア(労働者自身による対処)、ラインによるケア(管理監督者による対応)、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアの「4つのケア」を継続的・計画的に行うことが示されている。

ストレスチェック制度の流れ

(1) 質問票(職業性ストレス簡易調査票など)で、仕事のストレス要因、心身のストレス反応、周囲のサポートを評価する。 (2) 結果は本人に直接通知され、本人の同意なしに事業者へ提供されない。 (3) 高ストレスと判定され本人が申し出た場合、医師による面接指導を行い、必要に応じて就業上の措置を講じる。 (4) 集団分析を行い、職場環境の改善に役立てる(努力義務)。

POINT

・一次予防=発症予防(健康増進・特異的予防)、二次予防=早期発見・早期治療、三次予防=再発予防・リハビリテーション・社会復帰。 ・職場のストレスチェックは、メンタルヘルス不調の未然防止を主目的とする一次予防。 ・就労支援、寛解後の維持療法は三次予防。発症後の治療は二次予防。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。