内視鏡で止まらない潰瘍出血―血管の内側から「詰めて」止めるIVRの道具とは
第111回医師国家試験 B問題 第11問
国試問題にチャレンジ
内視鏡による止血が困難であった十二指腸潰瘍出血に対するインターベンショナルラジオロジー〈IVR〉で使用するのはどれか。
- a.エタノール
- b.クリップ
- c.コイル
- d.ステント
- e.フィルター
対話形式の解説
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ドクターまとめ
消化性潰瘍出血の止血は、全身管理のうえで内視鏡的止血術が第一選択であり、困難な場合はIVRによる経カテーテル動脈塞栓術(TAE)、それも無効なら外科手術へと進みます。TAEでは血管造影で造影剤の血管外漏出などから出血源を同定し、マイクロカテーテルから塞栓物質を詰めて止血します。代表的な塞栓物質は金属コイルで、ほかにゼラチンスポンジやNBCAが用いられ、十二指腸球部後壁潰瘍では胃十二指腸動脈が出血源となりやすく、側副血行路を考慮して出血点の前後を塞栓することがあります。クリップやエタノール局注は内視鏡的止血の手段、ステントは狭窄の拡張、下大静脈フィルターは肺血栓塞栓症の予防に用いるもので、目的が異なります。道具を「広げる・詰める・受け止める」という目的で整理しておくと、IVR全般の理解と救急での治療選択に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
上部消化管出血(消化性潰瘍出血など)に対する止血の第一選択は内視鏡的止血術である。しかし、出血量が多く視野が確保できない、出血点が内視鏡で到達しにくい位置にある、再出血を繰り返すなどの理由で内視鏡による止血が困難な場合には、インターベンショナルラジオロジー(interventional radiology:IVR、画像下治療)による経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)が行われる。これも無効な場合や全身状態が許さない場合には外科手術を考える。 TAEの流れは次のとおりである。大腿動脈などからカテーテルを挿入し、腹腔動脈や上腸間膜動脈を造影して、造影剤の血管外漏出像(extravasation)や仮性動脈瘤などの出血源を同定する。十二指腸潰瘍、特に球部後壁の潰瘍では、潰瘍底を走る胃十二指腸動脈やその分枝が出血源となることが多い。出血している動脈まで細いカテーテル(マイクロカテーテル)を進め、塞栓物質を詰めて血流を遮断する。 塞栓物質として代表的なものが金属コイル(プラチナ製など)であり、ほかにゼラチンスポンジ、n-ブチル-2-シアノアクリレート(NBCA、液体の接着剤)なども用いられる。したがって、本問のIVRで使用するのはコイルである。
選択肢考察
- ×a. エタノール
無水エタノールは強い組織壊死作用をもつ薬剤である。消化性潰瘍出血に対しては、内視鏡下に出血点周囲へ局注して止血する目的(内視鏡的局注法)で用いられることがあり、また肝嚢胞・腎嚢胞の硬化療法、肝細胞癌に対する経皮的エタノール注入療法(PEI)、血管奇形の硬化療法などにも使われる。しかし、消化管を栄養する動脈にカテーテルから注入すると、末梢の毛細血管まで閉塞させて腸管壊死を招く危険が高いため、消化管出血に対するTAEの塞栓物質としては用いない。
- ×b. クリップ
クリップ(止血クリップ)は内視鏡の鉗子口から挿入し、露出血管を物理的に挟んで止血する器具であり、内視鏡的止血術で頻用される。本問は内視鏡による止血が困難であった症例に対するIVRを問うており、血管内から操作するIVRでクリップは使用しない。
- ○c. コイル
金属コイルは消化管出血に対するTAEで最も多く用いられる塞栓物質である。マイクロカテーテルを通して出血動脈内に留置すると、コイルの周囲に血栓が形成されて血管が永久的に閉塞する。狙った位置に正確に留置でき、X線で視認できる利点がある。十二指腸領域は膵十二指腸動脈アーケードなど側副血行路が豊富なため、出血点を挟んで末梢側と中枢側の両方を塞栓する方法(isolation法)がとられることが多い。
- ×d. ステント
ステントは筒状の金属メッシュなどで、狭窄した管腔を内側から押し広げて開存させる器具である。冠動脈や末梢動脈の狭窄、胆管や消化管の悪性狭窄などに用いられ、血管を閉塞させることで止血を図る潰瘍出血のTAEで用いるものではない。
- ×e. フィルター
IVRで用いるフィルターの代表は下大静脈(IVC)フィルターである。深部静脈血栓症の患者で抗凝固療法が行えない場合などに下大静脈へ留置し、下肢・骨盤の静脈から遊離した血栓が肺動脈へ流れて肺血栓塞栓症を起こすのを防ぐ。止血とは目的が異なる。
消化性潰瘍出血の止血治療の順序
(1) 全身管理:輸液・輸血による循環の安定化、プロトンポンプ阻害薬の投与。 (2) 内視鏡的止血術:クリップ法、熱凝固法(ヒータープローブ、高周波凝固)、局注法(高張ナトリウム・エピネフリン液、純エタノールなど)。第一選択である。 (3) IVR(TAE):内視鏡で止血できない場合や再出血例に行う。 (4) 外科手術:TAEでも止血できない場合など。
主な塞栓物質の特徴
・金属コイル:永久塞栓。比較的太い血管を狙った位置で閉塞できる。消化管出血、動脈瘤、動静脈奇形などに用いる。 ・ゼラチンスポンジ:一時的塞栓物質で、数週間で再開通しうる。肝細胞癌のTACE(肝動脈化学塞栓療法)や外傷性出血などで用いる。 ・NBCA(シアノアクリレート系液体塞栓物質):血液に触れると速やかに重合して固まる。凝固障害がある患者の出血でも効果を得やすい。 ・無水エタノール:末梢まで浸透して組織を壊死させる。腫瘍や血管奇形の治療などに限られ、消化管の動脈には通常用いない。
IVRで用いる主な器具とその目的
・バルーン、ステント:狭窄の拡張・開存(PTA、冠動脈インターベンションなど)。 ・コイル、塞栓物質:血管の閉塞(止血、動脈瘤、腫瘍の栄養血管の遮断)。 ・IVCフィルター:肺血栓塞栓症の予防。 ・カテーテルからの薬剤注入:血栓溶解療法、動注化学療法など。
POINT
・消化性潰瘍出血の止血は「内視鏡的止血 → 困難ならIVR(TAE)→ 無効なら手術」。 ・TAEの塞栓物質の代表はコイル。ほかにゼラチンスポンジ、NBCAなど。 ・クリップ、エタノール局注は内視鏡的止血で使う。 ・ステントは狭窄の拡張、IVCフィルターは肺血栓塞栓症の予防に用いる。 ・十二指腸球部後壁潰瘍の出血源は胃十二指腸動脈が多い。
