StudyMed医師国家試験

「詰められる出血」と「詰められない出血」―経動脈的塞栓術の適応を見抜く一本の物差し

第109回医師国家試験 D問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第109回 D問題 第8問

経動脈的塞栓術の適応でないのはどれか。

  1. a.出血性腸炎
  2. b.出血性胃潰瘍
  3. c.肝細胞癌の破裂
  4. d.出血性大腸血管異形成
  5. e.小腸動静脈奇形からの出血

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、経動脈的塞栓術、いわゆるTAEの適応を問う問題だ。並んでいる5つはどれも「出血」だけど、カテーテルで血管を詰めて止められる出血と、そうでない出血がある。その違いを分ける物差しを一緒に見つけていこう。まず、TAEがどんな治療か説明できるかな。
医学生医学生
大腿動脈からカテーテルを入れて、出血している血管まで進めて、コイルなどで詰める治療ですよね。放射線科の講義でIVRの代表として習いました。
ドクタードクター
その通り。塞栓物質にはゼラチンスポンジや金属コイル、NBCAのような液体塞栓物質がある。開腹せずに止血できるから、侵襲が小さいのが大きな利点だ。では、TAEがうまくいくための条件は何だと思う?
医学生医学生
出血している場所が血管造影で見えること、でしょうか。
ドクタードクター
それが1つ目。出血源が特定の動脈やその分枝に限局していて、造影剤の血管外漏出や異常血管として捉えられること。2つ目は、その動脈を詰めても側副血行があって臓器が広範な虚血や壊死に陥らないこと。この2つを満たす「限局した動脈性の出血」が適応になるんだ。
医学生医学生
そうすると、出血源を一本の血管に絞れないものが答えになりそうですね。出血性腸炎は粘膜全体からじわじわ出血するイメージです。
ドクタードクター
いい推論だね。正解は出血性腸炎。抗菌薬投与後の急性出血性大腸炎や、腸管出血性大腸菌による感染性腸炎などで起こり、突然の腹痛と血性下痢が特徴だ。病変は粘膜のびまん性の炎症・びらんで、特定の動脈が破れているわけではない。血管造影で出血点を同定できないし、無理に広く詰めれば腸管虚血を招いてしまう。治療は原因薬剤の中止や絶食・補液といった保存的治療で、多くは数日で改善するよ。
医学生医学生
抗菌薬起因性のものは右側結腸に多いんでしたっけ。CBTの問題で見た気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。横行結腸から右側結腸に好発し、Klebsiella oxytocaの関与が示唆されている。では残りの4つを確認しよう。出血性胃潰瘍はどうかな。
医学生医学生
消化器内科の実習で緊急内視鏡に入ったとき、クリップで止血していました。TAEは使わないのでは?
ドクタードクター
第一選択が内視鏡的止血なのはその通り。クリップ法、エピネフリン加高張食塩水の局注、熱凝固法などだね。ただ、内視鏡で止まらない場合や再出血を繰り返す場合には、左胃動脈や胃十二指腸動脈などの責任動脈にTAEを行う。胃は複数の動脈から血流を受けていて側副路が豊富だから、詰めても虚血を起こしにくいんだ。
医学生医学生
なるほど、第一選択でなくても適応には入るんですね。肝細胞癌の破裂は、TACEのイメージがあるのでTAEと相性がよさそうです。
ドクタードクター
まさに。肝細胞癌は血流豊富な腫瘍で、肝表面の腫瘍が破裂すると腹腔内出血でショックになりうる。背景に肝硬変があって緊急手術のリスクが高い人が多いから、肝動脈造影で出血部位を確かめてTAEで止血するのが第一選択だ。肝臓は門脈と肝動脈の二重支配で、正常肝は主に門脈、癌は主に肝動脈から栄養されるから、肝動脈を詰めても正常肝への影響が比較的小さい。
医学生医学生
二重血流は解剖学で習った知識がそのまま生きるんですね。大腸の血管異形成と小腸の動静脈奇形はどうでしょう。
ドクタードクター
どちらも「異常血管」という形のある出血源があるから適応になる。血管異形成は高齢者の右側結腸に多い拡張血管の集まりで、普段はアルゴンプラズマ凝固などの内視鏡治療が基本だけど、大量出血で内視鏡が難しいときは超選択的なTAEを行う。小腸の動静脈奇形は内視鏡で見つけにくい原因不明の消化管出血の代表で、血管造影では流入動脈の拡張や早期に描出される静脈として捉えられ、流入動脈を選択的に塞栓できる。
医学生医学生
腸は胃や肝臓に比べて虚血になりやすいので、できるだけ末梢を狙うということですか。
ドクタードクター
その通り。小腸・大腸では辺縁動脈より末梢を過度に詰めると壊死を起こしうるから、できるだけ末梢で超選択的に塞栓する。小腸病変では後日切除を加えることもあるよ。
医学生医学生
整理すると、出血源を一本に絞れて、詰めても臓器が生き残るならTAE、びまん性の粘膜出血なら適応外、ですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、消化管出血の流れも押さえておこう。まず輸液・輸血で循環を安定させ、造影CTで出血部位を推定し、内視鏡的止血を試みる。困難ならTAE、それでも止まらなければ外科手術だ。なお、血管造影で出血を捉えるには、おおむね毎分0.5〜1 mL以上の出血速度が必要とされる。間欠的な出血だと造影のタイミングで見えないこともある点は臨床で注意したい。
医学生医学生
TAEは消化管以外にも、外傷や分娩後の出血でも使われますよね。
ドクタードクター
そう。肝・脾・腎損傷や骨盤骨折に伴う出血、分娩後異常出血に対する子宮動脈塞栓術、喀血に対する気管支動脈塞栓術、内臓動脈瘤なども代表的な適応だ。救急の現場では、IVRが止血戦略の大きな柱になっているんだよ。一方で、虚血性腸炎や炎症性腸疾患のようなびまん性の粘膜出血は原則として適応にならない。今回の出血性腸炎と同じ理屈だね。

まとめ

経動脈的塞栓術(TAE)は、カテーテルで責任動脈を塞栓して止血する低侵襲な血管内治療で、出血源が限局した動脈性出血であること、塞栓後に臓器が広範な虚血に陥らないことが適応の条件です。出血性胃潰瘍(内視鏡止血困難例)、肝細胞癌の破裂、大腸血管異形成、小腸動静脈奇形などは責任血管や異常血管を同定でき、TAEの適応となります。一方、出血性腸炎は粘膜のびまん性炎症からの出血で責任血管を特定できず、原因薬剤の中止や絶食・補液などの保存的治療が基本です。消化管出血は循環安定化→造影CT→内視鏡的止血→TAE→手術という流れで考え、腸管では虚血を避けるため超選択的塞栓を心がけます。「一本の血管に絞れるか、詰めて臓器が保てるか」という物差しは、外傷や分娩後出血を含むIVR全般の適応判断にも通じる考え方です。

解答・解説

正解はaです

経動脈的塞栓術(TAE:transcatheter arterial embolization)は、大腿動脈などからカテーテルを挿入して目的の動脈まで進め、ゼラチンスポンジ、金属コイル、液体塞栓物質(NBCA)などで血管を詰める治療である。血管内治療(IVR:interventional radiology)の代表的手技で、開腹手術に比べて侵襲が小さい。 止血目的のTAEが有効となるのは、次の条件を満たす出血である。 ・出血源が特定の動脈(またはその分枝)に限局しており、血管造影で造影剤の血管外漏出や異常血管として同定できる。 ・その動脈を詰めても、周囲からの血流(側副血行)などにより臓器が広範な虚血・壊死に陥らない。 潰瘍の露出血管、腫瘍の破裂、血管奇形・血管異形成などはこの条件に当てはまる。 一方、粘膜が広い範囲で炎症を起こし、そこから滲み出るように出血する病態(びまん性の粘膜出血)では、責任血管を一本に絞れない。広範囲の動脈を詰めれば腸管虚血・壊死を招くため、TAEの適応にならない。出血性腸炎はまさにこのタイプであり、原因の除去と保存的治療が基本となる。

選択肢考察

  1. ○a.  出血性腸炎

    適応でない。出血性腸炎(出血性大腸炎)は、抗菌薬(特にペニシリン系などの合成ペニシリン)投与後に生じる薬剤性の急性出血性大腸炎(Klebsiella oxytocaの関与が示唆されている)や、腸管出血性大腸菌(O157など)による感染性腸炎などで起こる。突然の腹痛と鮮血を混じた下痢が特徴で、抗菌薬起因性のものは横行結腸〜右側結腸に好発する。病変は粘膜のびまん性の炎症・びらんであり、特定の動脈から出血しているわけではないため、血管造影で出血点を同定できず塞栓の対象にならない。また腸管の広い範囲の血流を遮断すると虚血を招く。治療は原因薬剤の中止、絶食・補液などの保存的治療で、多くは数日で速やかに改善する。

  2. ×b.  出血性胃潰瘍

    適応となる。上部消化管出血に対してはまず緊急上部内視鏡検査を行い、クリップ法、高張ナトリウム・エピネフリン液やエタノールの局注法、高周波凝固・アルゴンプラズマ凝固などの熱凝固法で止血するのが第一選択である。内視鏡で止血できない場合や再出血を繰り返す場合には、左胃動脈や胃十二指腸動脈などの責任動脈に対してTAEを行い、それでも困難なら外科手術を考慮する。胃は左右胃動脈・左右胃大網動脈・短胃動脈など血流が豊富で側副路が多いため、塞栓しても虚血を起こしにくい。

  3. ×c.  肝細胞癌の破裂

    適応となる。肝細胞癌は血管に富む腫瘍で、肝表面に突出した腫瘍が破裂すると腹腔内に大量出血をきたし、突然の腹痛とショックを呈する。背景に肝硬変があり肝予備能が低いことが多く、緊急手術はリスクが高いため、肝動脈造影で出血部位を確認して肝動脈塞栓術(TAE)で止血するのが第一選択となる。肝臓は門脈と肝動脈の二重の血流を受けており、正常肝実質は主に門脈から、肝細胞癌は主に肝動脈から栄養されるため、肝動脈を塞栓しても正常肝への影響は比較的小さい。

  4. ×d.  出血性大腸血管異形成

    適応となる。血管異形成(angiodysplasia)は、消化管の粘膜・粘膜下層に拡張・蛇行した細い血管が集まった病変で、高齢者の右側結腸(盲腸・上行結腸)に多く、反復する下血や鉄欠乏性貧血の原因となる。内視鏡では境界明瞭な小さな発赤斑として観察される。治療はアルゴンプラズマ凝固などの内視鏡治療が基本であるが、大量出血で内視鏡での確認・止血が困難な場合には、血管造影で出血部位を同定し、超選択的なTAEで止血を図ることがある。

  5. ×e.  小腸動静脈奇形からの出血

    適応となる。小腸は通常の上部・下部内視鏡では観察しにくく、小腸の動静脈奇形は原因不明の消化管出血の原因として診断が難しい病変である。カプセル内視鏡、バルーン内視鏡、造影CT、腹部血管造影などで診断する。血管造影では流入動脈の拡張や早期に描出される静脈(早期静脈還流)などの異常血管として同定でき、流入動脈を選択的に塞栓して止血できる。小腸では塞栓後の虚血に注意が必要で、根治のために後日病変部の切除を行うこともある。

経動脈的塞栓術(TAE)の主な適応

・消化管出血:内視鏡止血困難な潰瘍出血、憩室出血、血管異形成、動静脈奇形など ・外傷性出血:肝・脾・腎損傷、骨盤骨折に伴う出血(循環動態が不安定でも施行されることが多い) ・腫瘍:肝細胞癌の破裂、肝細胞癌に対する肝動脈化学塞栓療法(TACE)、腎血管筋脂肪腫の出血・予防的塞栓 ・血管病変:内臓動脈瘤(脾動脈瘤など)、動静脈奇形、喀血(気管支動脈塞栓術) ・その他:分娩後異常出血(子宮動脈塞栓術)、子宮筋腫、術前塞栓(出血量の軽減)

TAEの適応を考えるうえでの原則

・出血源が限局した動脈性出血であること。血管造影で出血を捉えるには、ある程度の出血速度(おおむね0.5〜1 mL/分以上)が必要とされる。 ・塞栓後に臓器虚血をきたさないこと。胃・十二指腸や肝臓は血流が豊富で側副路が発達しているため比較的安全であるが、小腸・大腸では辺縁動脈より末梢の過度な塞栓で腸管虚血・壊死を起こしうるため、できるだけ末梢で超選択的に塞栓する。 ・びまん性の粘膜出血(出血性腸炎、虚血性腸炎、炎症性腸疾患の全体的な出血など)は、原則として適応とならない。

消化管出血の診療の流れ

循環動態の安定化(輸液・輸血)→造影CTで出血部位の推定→内視鏡的止血(第一選択)→困難例でTAE→それでも止血できなければ外科手術。

POINT

・TAEは責任動脈を同定できる限局性の出血が適応となる(潰瘍出血、肝細胞癌破裂、血管異形成、動静脈奇形、外傷、分娩後出血など)。 ・出血性腸炎はびまん性の粘膜出血で責任血管がなく、TAEの適応とならない。原因薬剤の中止と保存的治療で改善する。 ・出血性胃潰瘍は内視鏡的止血が第一選択で、困難例にTAEを行う。 ・肝細胞癌破裂は肝予備能が低い例が多く、TAEが第一選択となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。