「詰められる出血」と「詰められない出血」―経動脈的塞栓術の適応を見抜く一本の物差し
第109回医師国家試験 D問題 第8問
国試問題にチャレンジ
経動脈的塞栓術の適応でないのはどれか。
- a.出血性腸炎
- b.出血性胃潰瘍
- c.肝細胞癌の破裂
- d.出血性大腸血管異形成
- e.小腸動静脈奇形からの出血
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
経動脈的塞栓術(TAE)は、カテーテルで責任動脈を塞栓して止血する低侵襲な血管内治療で、出血源が限局した動脈性出血であること、塞栓後に臓器が広範な虚血に陥らないことが適応の条件です。出血性胃潰瘍(内視鏡止血困難例)、肝細胞癌の破裂、大腸血管異形成、小腸動静脈奇形などは責任血管や異常血管を同定でき、TAEの適応となります。一方、出血性腸炎は粘膜のびまん性炎症からの出血で責任血管を特定できず、原因薬剤の中止や絶食・補液などの保存的治療が基本です。消化管出血は循環安定化→造影CT→内視鏡的止血→TAE→手術という流れで考え、腸管では虚血を避けるため超選択的塞栓を心がけます。「一本の血管に絞れるか、詰めて臓器が保てるか」という物差しは、外傷や分娩後出血を含むIVR全般の適応判断にも通じる考え方です。
解答・解説
正解はaです
経動脈的塞栓術(TAE:transcatheter arterial embolization)は、大腿動脈などからカテーテルを挿入して目的の動脈まで進め、ゼラチンスポンジ、金属コイル、液体塞栓物質(NBCA)などで血管を詰める治療である。血管内治療(IVR:interventional radiology)の代表的手技で、開腹手術に比べて侵襲が小さい。 止血目的のTAEが有効となるのは、次の条件を満たす出血である。 ・出血源が特定の動脈(またはその分枝)に限局しており、血管造影で造影剤の血管外漏出や異常血管として同定できる。 ・その動脈を詰めても、周囲からの血流(側副血行)などにより臓器が広範な虚血・壊死に陥らない。 潰瘍の露出血管、腫瘍の破裂、血管奇形・血管異形成などはこの条件に当てはまる。 一方、粘膜が広い範囲で炎症を起こし、そこから滲み出るように出血する病態(びまん性の粘膜出血)では、責任血管を一本に絞れない。広範囲の動脈を詰めれば腸管虚血・壊死を招くため、TAEの適応にならない。出血性腸炎はまさにこのタイプであり、原因の除去と保存的治療が基本となる。
選択肢考察
- ○a. 出血性腸炎
適応でない。出血性腸炎(出血性大腸炎)は、抗菌薬(特にペニシリン系などの合成ペニシリン)投与後に生じる薬剤性の急性出血性大腸炎(Klebsiella oxytocaの関与が示唆されている)や、腸管出血性大腸菌(O157など)による感染性腸炎などで起こる。突然の腹痛と鮮血を混じた下痢が特徴で、抗菌薬起因性のものは横行結腸〜右側結腸に好発する。病変は粘膜のびまん性の炎症・びらんであり、特定の動脈から出血しているわけではないため、血管造影で出血点を同定できず塞栓の対象にならない。また腸管の広い範囲の血流を遮断すると虚血を招く。治療は原因薬剤の中止、絶食・補液などの保存的治療で、多くは数日で速やかに改善する。
- ×b. 出血性胃潰瘍
適応となる。上部消化管出血に対してはまず緊急上部内視鏡検査を行い、クリップ法、高張ナトリウム・エピネフリン液やエタノールの局注法、高周波凝固・アルゴンプラズマ凝固などの熱凝固法で止血するのが第一選択である。内視鏡で止血できない場合や再出血を繰り返す場合には、左胃動脈や胃十二指腸動脈などの責任動脈に対してTAEを行い、それでも困難なら外科手術を考慮する。胃は左右胃動脈・左右胃大網動脈・短胃動脈など血流が豊富で側副路が多いため、塞栓しても虚血を起こしにくい。
- ×c. 肝細胞癌の破裂
適応となる。肝細胞癌は血管に富む腫瘍で、肝表面に突出した腫瘍が破裂すると腹腔内に大量出血をきたし、突然の腹痛とショックを呈する。背景に肝硬変があり肝予備能が低いことが多く、緊急手術はリスクが高いため、肝動脈造影で出血部位を確認して肝動脈塞栓術(TAE)で止血するのが第一選択となる。肝臓は門脈と肝動脈の二重の血流を受けており、正常肝実質は主に門脈から、肝細胞癌は主に肝動脈から栄養されるため、肝動脈を塞栓しても正常肝への影響は比較的小さい。
- ×d. 出血性大腸血管異形成
適応となる。血管異形成(angiodysplasia)は、消化管の粘膜・粘膜下層に拡張・蛇行した細い血管が集まった病変で、高齢者の右側結腸(盲腸・上行結腸)に多く、反復する下血や鉄欠乏性貧血の原因となる。内視鏡では境界明瞭な小さな発赤斑として観察される。治療はアルゴンプラズマ凝固などの内視鏡治療が基本であるが、大量出血で内視鏡での確認・止血が困難な場合には、血管造影で出血部位を同定し、超選択的なTAEで止血を図ることがある。
- ×e. 小腸動静脈奇形からの出血
適応となる。小腸は通常の上部・下部内視鏡では観察しにくく、小腸の動静脈奇形は原因不明の消化管出血の原因として診断が難しい病変である。カプセル内視鏡、バルーン内視鏡、造影CT、腹部血管造影などで診断する。血管造影では流入動脈の拡張や早期に描出される静脈(早期静脈還流)などの異常血管として同定でき、流入動脈を選択的に塞栓して止血できる。小腸では塞栓後の虚血に注意が必要で、根治のために後日病変部の切除を行うこともある。
経動脈的塞栓術(TAE)の主な適応
・消化管出血:内視鏡止血困難な潰瘍出血、憩室出血、血管異形成、動静脈奇形など ・外傷性出血:肝・脾・腎損傷、骨盤骨折に伴う出血(循環動態が不安定でも施行されることが多い) ・腫瘍:肝細胞癌の破裂、肝細胞癌に対する肝動脈化学塞栓療法(TACE)、腎血管筋脂肪腫の出血・予防的塞栓 ・血管病変:内臓動脈瘤(脾動脈瘤など)、動静脈奇形、喀血(気管支動脈塞栓術) ・その他:分娩後異常出血(子宮動脈塞栓術)、子宮筋腫、術前塞栓(出血量の軽減)
TAEの適応を考えるうえでの原則
・出血源が限局した動脈性出血であること。血管造影で出血を捉えるには、ある程度の出血速度(おおむね0.5〜1 mL/分以上)が必要とされる。 ・塞栓後に臓器虚血をきたさないこと。胃・十二指腸や肝臓は血流が豊富で側副路が発達しているため比較的安全であるが、小腸・大腸では辺縁動脈より末梢の過度な塞栓で腸管虚血・壊死を起こしうるため、できるだけ末梢で超選択的に塞栓する。 ・びまん性の粘膜出血(出血性腸炎、虚血性腸炎、炎症性腸疾患の全体的な出血など)は、原則として適応とならない。
消化管出血の診療の流れ
循環動態の安定化(輸液・輸血)→造影CTで出血部位の推定→内視鏡的止血(第一選択)→困難例でTAE→それでも止血できなければ外科手術。
POINT
・TAEは責任動脈を同定できる限局性の出血が適応となる(潰瘍出血、肝細胞癌破裂、血管異形成、動静脈奇形、外傷、分娩後出血など)。 ・出血性腸炎はびまん性の粘膜出血で責任血管がなく、TAEの適応とならない。原因薬剤の中止と保存的治療で改善する。 ・出血性胃潰瘍は内視鏡的止血が第一選択で、困難例にTAEを行う。 ・肝細胞癌破裂は肝予備能が低い例が多く、TAEが第一選択となる。
