軟骨輪で前後を決めろ―気管支鏡像に浮かぶ喀血の犯人
第111回医師国家試験 A問題 第59問
国試問題にチャレンジ
68歳の女性。喀血を主訴に来院した。気管支内視鏡像(A)(B)を別に示す。なお,BはAの①の腔内に内視鏡を進めたものである。 図の①~④について,正しいのはどれか。3つ選べ。

- a.①は右主気管支である。
- b.②には軟骨組織が存在する。
- c.③の腹側には上行大動脈が存在する。
- d.④は腫瘍性病変である。
- e.④は閉塞性肺炎の原因になる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
気管支鏡像は、C字形の気管軟骨による輪状のひだが見える側を前壁、軟骨を欠く平坦な膜様部を後壁として前後を確定し、そこから左右を判定するのが基本です。本問では輪状のひだのある壁が前壁、平坦な壁が軟骨のない膜様部で、①は左主気管支にあたり、前壁の腹側には上行大動脈・大動脈弓・肺動脈・上大静脈や縦隔リンパ節が位置します。左主気管支内の発赤した不整な隆起は中枢型肺癌(とくに扁平上皮癌)を疑う腫瘍性病変で、喀血の原因となり、内腔閉塞によって閉塞性肺炎や無気肺を引き起こします。中枢型肺癌は早期に胸部エックス線写真で捉えにくく、繰り返す同部位の肺炎や血痰が診断の手がかりになります。気道と縦隔の立体的な位置関係の理解は、気管支鏡やEBUS-TBNAといった手技を安全に行う土台となります。
解答・解説
正解はc, d, eです
問題の要点
喀血を訴える68歳女性の気管支鏡像を読み、気管・気管支の解剖と病変の性状を判断する問題である。気管支鏡像を読む際は、まず「どちらが前(腹側)で、どちらが後ろ(背側)か」を確定させ、そこから左右を決めるのが基本である。
像Aの読み方
・気管の前壁と側壁は、C字(馬蹄形)の気管軟骨が輪状に並ぶため、内腔から見ると横方向の輪状のひだ(軟骨輪)が確認できる。軟骨と軟骨の間は輪状靱帯でつながっている。③はこの軟骨輪が見える壁で、気管の前壁(腹側)にあたる。 ・気管の後壁には軟骨がなく、平滑筋(気管筋)と結合組織からなる平らな膜様部となっている。②は輪状のひだを欠く平坦な壁で、膜様部(背側)である。 ・前後が決まれば、内視鏡を患者の頭側から挿入した視野での左右が定まる。①は気管分岐部(カリーナ)の先に開く左側の内腔で、左主気管支である。
像Bの読み方
①(左主気管支)の中へ内視鏡を進めると、気管支壁から内腔へ突出する発赤した隆起性病変④がみられる。表面は正常粘膜に覆われておらず不整で、内腔をほぼ塞いでおり、その先の末梢気管支は観察できない。中枢気道に発生した肺癌(扁平上皮癌など)が疑われる所見であり、腫瘍表面からの出血が喀血の原因と考えられる。
設問の考え方
②・③の前後関係(膜様部と軟骨部)を正しく判断し、気管周囲の縦隔臓器との位置関係、および気道内腫瘍が末梢に及ぼす影響を考えれば正解を選べる。
選択肢考察
- ×a. ①は右主気管支である。
軟骨輪の見える③を前壁、平坦な②を膜様部(後壁)として向きを合わせると、①は左側の主気管支にあたる。なお右主気管支は左より太く短く、気管からの分岐角度も急で、入口のすぐ近くで右上葉支が分かれる。一方左主気管支は細く長く(約4〜5cm)、大動脈弓の下をくぐるように走行する。
- ×b. ②には軟骨組織が存在する。
②は輪状のひだを持たない平らな後壁であり、膜様部である。膜様部は気管軟骨のC字の開いた部分を埋める構造で、平滑筋(気管筋)と弾性線維を含む結合組織からなり、軟骨は存在しない。膜様部のすぐ背側には食道が接している。軟骨組織が存在するのは前壁・側壁の③の側である。
- ○c. ③の腹側には上行大動脈が存在する。
③は気管の前壁である。気管下部から分岐部の前方(腹側)には、上行大動脈、大動脈弓、肺動脈幹・右肺動脈、上大静脈、および縦隔リンパ節(気管前リンパ節など)が位置している。したがって③の腹側に上行大動脈が存在するという記述は正しい。このような位置関係から、超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)では気管前壁越しに血管を避けながらリンパ節を穿刺する。
- ○d. ④は腫瘍性病変である。
④は左主気管支の壁から内腔に向かって盛り上がる結節状の隆起で、発赤を伴い、表面は正常な気管支粘膜で覆われていない。気道内にこのような腫瘤を形成し、喀血を伴う場合は、中枢型肺癌、とくに扁平上皮癌が強く疑われる。確定診断は気管支鏡下の生検で行う。カルチノイドなども気道内腫瘤の鑑別に挙がるが、いずれにしても腫瘍性病変である。
- ○e. ④は閉塞性肺炎の原因になる。
④は左主気管支の内腔をほぼ閉塞しており、腫瘍より末梢の気管支が観察できない。気道が閉塞すると末梢の分泌物が排出されずに貯留し、細菌が増殖して閉塞性肺炎を起こす。また空気の流入が途絶えて無気肺も生じうる。中枢型肺癌では、こうした閉塞性肺炎や無気肺が発見の契機になることが多い。
気管・気管支の構造
・気管は輪状軟骨の下(第6頸椎の高さ)から始まり、第4〜5胸椎の高さで左右の主気管支に分かれる。長さは約10〜12cm。 ・壁は16〜20個ほどのC字状の気管軟骨と、それらをつなぐ輪状靱帯、後壁の膜様部(平滑筋+結合組織)からなる。膜様部があることで、背側に接する食道が食塊の通過時に前方へ広がることができる。 ・粘膜は線毛を持つ多列線毛円柱上皮で覆われ、杯細胞や気管腺が粘液を分泌して異物を排出する(粘液線毛クリアランス)。
左右主気管支の違い
・右主気管支:太く短い(約2.5cm)、垂直に近い角度で分岐する。誤嚥した異物は右側に入りやすい。 ・左主気管支:細く長い(約4〜5cm)、水平に近い角度で分岐し、大動脈弓の下、食道・下行大動脈の前を通る。
気管周囲の位置関係(前方から後方へ)
・気管の前方:胸腺(成人では脂肪化)、腕頭静脈、上大静脈、上行大動脈・大動脈弓、肺動脈幹・右肺動脈、気管前リンパ節。 ・気管の後方:食道、さらに後方に椎体。 ・左側には大動脈弓と左反回神経、右側には奇静脈弓がある。
中枢型肺癌の特徴
・肺門部の太い気管支に発生し、扁平上皮癌や小細胞癌が多い。喫煙との関連が強い。 ・症状:咳嗽、血痰・喀血、喘鳴、閉塞性肺炎、無気肺。 ・初期には胸部エックス線写真で異常を指摘しにくいため、喀痰細胞診や気管支鏡検査が診断に有用である。
POINT
・気管支鏡像では、軟骨輪(輪状のひだ)が見える側が前壁、平坦な面が膜様部(後壁)。前後を決めてから左右を判定する。 ・膜様部には軟骨がなく、背側は食道に接する。 ・気管下部〜分岐部の腹側には上行大動脈・大動脈弓・肺動脈・上大静脈・縦隔リンパ節がある。 ・気管支内腔の隆起性病変は中枢型肺癌(扁平上皮癌など)を疑い、喀血や閉塞性肺炎・無気肺の原因となる。
