ゆがむ中心視野と黄斑の出血―滲出型加齢黄斑変性は「VEGFを断つ」が第一選択
第111回医師国家試験 A問題 第24問
国試問題にチャレンジ
76歳の男性。左眼の視力低下を主訴に来院した。視力は右0.8(1.2×+1.0D),左0.1(0.3×+0.5D)。眼圧は右15mmHg,左18mmHg。眼底写真(A)と光干渉断層計〈OCT〉の結果(B)とを別に示す。 治療法はどれか。

- a.抗菌薬点眼
- b.ステロイド薬硝子体内注射
- c.抗VEGF薬硝子体内注射
- d.汎網膜光凝固
- e.硝子体手術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高齢者の片眼に矯正しても改善しない中心視力低下があり、黄斑部に出血を伴う灰白色病変、OCTで脈絡膜新生血管と網膜内浮腫・漿液性網膜剝離を認めれば滲出型加齢黄斑変性と考えます。病態の中心はVEGFによる新生血管の形成と漏出であり、治療の第一選択は抗VEGF薬の硝子体内注射で、導入後もOCTで滲出を確認しながら継続します。汎網膜光凝固は増殖糖尿病網膜症など網膜虚血疾患、ステロイド局所注射は糖尿病黄斑浮腫やぶどう膜炎の治療であり、硝子体手術は大量出血例などに限られます。日本ではポリープ状脈絡膜血管症が多く光線力学的療法の併用もあり、喫煙は重要な修正可能危険因子です。眼底出血を「どの層の、どんな病態か」で整理する視点は、眼科疾患の治療選択全般に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・76歳男性。左眼のみの視力低下。 ・視力表記の読み方:「左0.1(0.3×+0.5D)」は、裸眼視力0.1、+0.5ディオプトリーの凸レンズで矯正した視力(矯正視力)が0.3という意味である。右眼は矯正1.2と良好である。左眼は軽い遠視を矯正しても0.3にしか届かず、屈折異常(眼鏡で矯正できる見え方の問題)では説明できない病変がある。 ・眼圧は両眼とも正常範囲(10〜21mmHg)であり、緑内障発作など眼圧上昇による視力低下は考えにくい。 ・眼底写真(A):視神経乳頭の耳側にある黄斑部に、灰白色〜黄白色の隆起性病変とその周囲の網膜出血を認める。 ・OCT(B):網膜色素上皮の下から網膜下にかけて高反射の隆起性病変(脈絡膜新生血管と考えられる)があり、その上の網膜には嚢胞状の網膜内浮腫と、網膜下に液体がたまる漿液性網膜剝離を認める。
診断へのプロセス
高齢者の片眼に生じた中心視力の低下で、黄斑部に出血を伴う灰白色病変があり、OCTで網膜の外側(網膜下・色素上皮下)に新生血管とそこからの滲出(浮腫・網膜剝離)を認めることから、滲出型(新生血管型)加齢黄斑変性と診断できる。眼底出血は糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、高血圧網膜症、網膜細動脈瘤などでもみられるが、これらは主に網膜内の血管の病変であり、本例のように脈絡膜側から色素上皮を越えて伸びてくる新生血管の像は加齢黄斑変性に特徴的である。
治療の考え方
滲出型加齢黄斑変性では、脈絡膜新生血管の発生・成長と血管からの漏出に血管内皮増殖因子(VEGF)が中心的な役割を担っている。そのため、VEGFの働きを抑える抗VEGF薬を硝子体内に注射する治療が第一選択である。放置すると新生血管からの出血・滲出を繰り返し、最終的に黄斑部が瘢痕化して中心視力が回復不能になるため、早期に治療を始める必要がある。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬点眼
抗菌薬点眼は細菌性結膜炎、角膜炎、眼科手術前後の感染予防などに用いる。加齢黄斑変性は感染症ではなく、黄斑部の加齢性変化と脈絡膜新生血管による病態であるため効果はない。また点眼薬は眼球の後方にある網膜・脈絡膜まで十分に届かない。
- ×b. ステロイド薬硝子体内注射
ステロイド薬(トリアムシノロンなど)の硝子体内注射やTenon嚢下注射は、糖尿病黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、ぶどう膜炎などで用いられる。加齢黄斑変性では他の治療との併用で補助的に使われることはあるが、単独では新生血管を退縮させる効果が乏しく、第一選択ではない。さらに眼圧上昇(ステロイド緑内障)や白内障の進行、眼内炎などの副作用もある。
- ○c. 抗VEGF薬硝子体内注射
滲出型加齢黄斑変性の第一選択の治療である。ラニビズマブ、アフリベルセプト、ブロルシズマブ、ファリシマブ(VEGFとアンジオポエチン2の両方を阻害)などの薬剤を硝子体内に注射し、VEGFの作用を阻害して新生血管の活動性を抑え、出血・滲出(網膜浮腫や網膜剝離)を減らす。視力の維持や改善が期待できる。通常は導入期として月1回を3回行い、その後はOCTで滲出の有無を確認しながら注射を続ける。再発しやすいため長期の継続投与が必要になることが多い。注射に伴う合併症として感染性眼内炎などに注意する。
- ×d. 汎網膜光凝固
汎網膜光凝固は、黄斑部を除く網膜全体にレーザーを照射し、虚血網膜の酸素需要を減らしてVEGFの産生を抑える治療である。増殖糖尿病網膜症や虚血型の網膜静脈閉塞症など、網膜が広く虚血に陥る疾患で行う。加齢黄斑変性の病変は黄斑部の脈絡膜新生血管であり、網膜周辺部を凝固しても効果はない。なお、加齢黄斑変性でも中心窩から離れた新生血管に限局して凝固することはあるが、汎網膜光凝固とは異なる治療である。
- ×e. 硝子体手術
かつては脈絡膜新生血管を手術で取り除く方法が試みられたが、視力改善効果が乏しく、現在は一般的に行われない。硝子体手術は、加齢黄斑変性では大量の網膜下出血や硝子体出血を合併した場合などに限って検討される。本例はそのような状態ではなく、まず抗VEGF薬による治療を行うべきである。
加齢黄斑変性(AMD)の概要
・加齢に伴い、網膜の中心にある黄斑部の網膜色素上皮・Bruch膜・脈絡膜に変化が生じ、中心視力が低下する疾患である。日本の中途失明原因の上位を占める。 ・危険因子:加齢、喫煙(最大の修正可能な危険因子)、遺伝的素因、高血圧など。日本では男性に多い。 ・症状:変視症(物がゆがんで見える)、中心暗点、視力低下。Amslerチャート(方眼紙状の表)で変視や暗点を自覚的に確認できる。
病型
・滲出型(新生血管型):脈絡膜から新生血管が色素上皮下・網膜下に伸び、出血や滲出液により急速に視力が低下する。日本ではポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の割合が高い。 ・萎縮型:網膜色素上皮と脈絡膜毛細血管板がゆっくり萎縮し(地図状萎縮)、緩徐に視力が低下する。 ・前駆病変としてドルーゼン(色素上皮下にたまる黄白色の沈着物)がある。
検査
・眼底検査:黄斑部の出血、灰白色の新生血管病変、硬性白斑、ドルーゼン。 ・OCT:網膜内浮腫、漿液性網膜剝離、色素上皮剝離、新生血管の描出。治療効果の判定にも用いる。 ・フルオレセイン蛍光眼底造影・インドシアニングリーン蛍光眼底造影:新生血管の範囲・タイプやPCVのポリープ状病巣の検出。
治療
・抗VEGF薬硝子体内注射:滲出型の第一選択。 ・光線力学的療法(PDT):光感受性物質ベルテポルフィンを静注し、新生血管に集積したところへ弱いレーザーを当てて選択的に閉塞させる。PCVで抗VEGF薬と併用されることが多い。 ・レーザー光凝固:中心窩から離れた新生血管に限って行う(中心窩にかけると視力が大きく損なわれる)。 ・萎縮型:確立した治療は少なく、禁煙、抗酸化ビタミン・亜鉛・ルテインなどのサプリメントによる進行予防が中心である。
視力表記
「0.1(0.3×+0.5D)」は裸眼視力0.1、+0.5Dの凸レンズで矯正して0.3を意味する。+は凸レンズで遠視、−は凹レンズで近視の矯正を示す。
POINT
・高齢者の片眼の中心視力低下+黄斑部の出血・灰白色病変+OCTで網膜下新生血管・浮腫・漿液性網膜剝離→滲出型加齢黄斑変性。 ・治療の第一選択は抗VEGF薬硝子体内注射。PDTやレーザー光凝固(中心窩外病変)が選択肢となることもある。 ・汎網膜光凝固は増殖糖尿病網膜症など網膜虚血疾患の治療である。 ・ステロイド薬の局所注射は糖尿病黄斑浮腫・網膜静脈閉塞症・ぶどう膜炎で用いられ、眼圧上昇の副作用がある。 ・喫煙は加齢黄斑変性の重要な危険因子である。
