StudyMed医師国家試験

染まる線維と染まらない線維―モザイクが語るDuchenne型筋ジストロフィー保因者の素顔

第110回医師国家試験 I問題 第74問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第74問

25歳の女性。健康診断で左室肥大を指摘され,精査を希望して来院した。筋力低下は自覚していない。両親は血族婚ではない。弟は幼少時から走るのが遅く,9歳ころから車椅子を使用するようになり,21歳の現在,マスク式人工呼吸器を使用し寝たきりである。意識は清明。身長158 cm,体重46 kg。体温36.2℃。脈拍72/分,整。血圧112/70 mmHg。呼吸数16/分。筋萎縮はないが両下肢の近位筋に徒手筋力テストで4程度の筋力低下を認める。血液生化学所見:CK 200 IU/L(基準30~140)。右大腿四頭筋生検のジストロフィン免疫染色標本を別に示す。  この免疫染色の異常所見の原因はどれか。2つ選べ。

第110回 I問題 第74問の問題画像
  1. a.Lyon現象
  2. b.X染色体trisomy
  3. c.X染色体短腕欠失
  4. d.21染色体trisomy
  5. e.ジストロフィン遺伝子小欠失

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、筋生検のジストロフィン免疫染色に現れた異常パターンの原因を考える問題だ。カギは弟さんの病歴と、本人が女性であること。まず弟さんの経過から、どんな病気が思い浮かぶかな。
医学生医学生
幼少時から走るのが遅くて、10歳前後で車椅子、今は人工呼吸器ですよね。男の子でこの経過なら、Duchenne型筋ジストロフィーだと思います。
ドクタードクター
その通り。Duchenne型はXp21にあるジストロフィン遺伝子の変異によるX連鎖劣性遺伝疾患だ。では、そのお姉さんである本人はどういう立場になる?
医学生医学生
X連鎖劣性なので、保因者の可能性があります。でも保因者は普通、症状が出ないんじゃないでしょうか。
ドクタードクター
多くは無症状だね。でも本人には軽い近位筋の筋力低下、CKの軽度上昇、そして左室肥大がある。こうした症状を示す保因者を症候性保因者、manifesting carrierと呼ぶ。ジストロフィン異常症では心筋も障害されるから、骨格筋症状が軽くても心臓に異常が出ることがあるんだ。
医学生医学生
なるほど、健診の左室肥大が入り口だったんですね。では免疫染色はどう見えるんですか。
ドクタードクター
正常な筋では、すべての筋線維の細胞膜直下がぐるりと均一に染まる。Duchenne型の男児では、大部分の線維で染色が抜けてしまう。今回の標本では、膜が染まる線維と染まらない線維が混在していて、モザイク状になっている。これが女性保因者に特徴的な所見だ。
医学生医学生
同じ人の筋肉なのに、線維によって作れたり作れなかったりするのは不思議です。
ドクタードクター
そこがこの問題の本質だね。理由は2つある。基礎の遺伝学で習ったLyon現象を覚えているかな。
医学生医学生
女性の細胞では2本のX染色体のうち1本がランダムに不活化される、という現象ですよね。Barr小体として見えると習いました。
ドクタードクター
完璧だ。発生初期にどちらのXを不活化するかが細胞ごとにランダムに決まり、それが娘細胞に引き継がれる。本人は一方のXにだけジストロフィン遺伝子の変異を持っているから、正常なXが働いている領域ではジストロフィンが作られ、変異のあるXが働いている領域では作られない。だから染まる線維と染まらない線維が混在するんだ。
医学生医学生
つまり、Lyon現象と、片方のX上にあるジストロフィン遺伝子の変異、この2つがそろって初めてモザイクになるということですね。
ドクタードクター
その通り、これが正解の2つだ。ジストロフィン遺伝子の変異は約6〜7割がエクソン単位の欠失で、ほかに重複や点変異がある。そして変異Xが働く細胞の割合が偏ると、今回のように症状が出る。これをskewed X-inactivationという。
医学生医学生
X染色体短腕欠失も、ジストロフィン遺伝子がXp21にあるなら当てはまりそうに思えてしまいました。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。X染色体短腕欠失というのは、核型分析で見えるほど大きな構造異常のことで、Turner症候群の亜型として低身長や原発性無月経などの性腺機能不全を伴う。本人は身長158 cmで、そうした所見もない。弟さんの病気の原因は、染色体検査で見える欠失ではなく、遺伝子内のエクソン単位の分子レベルの変異なんだ。
医学生医学生
X染色体トリソミーはどうでしょう。Xが多い分、何か影響が出るんでしょうか。
ドクタードクター
47,XXXは目立った身体的特徴がないことが多く、高身長や軽い学習・言語の遅れを伴う程度で、妊孕性も多くは保たれる。余分なXは不活化されるだけだから、ジストロフィン遺伝子に変異がなければ発現は正常で、モザイクの原因にはならない。21トリソミーはDown症候群の原因で、ジストロフィン遺伝子とは無関係だね。
医学生医学生
臨床実習で小児科を回ったとき、Duchenne型の子がGowers徴候を見せてくれました。CKもすごく高かったです。
ドクタードクター
男児の患者さんではCKは発症前から数千〜数万と著明に高いことが多い。保因者の上昇は軽度〜中等度にとどまるから、今回の200という値もそれに合うね。発展として押さえてほしいのは、読み枠説だ。読み枠がずれる欠失ではジストロフィンがほぼ作られずDuchenne型に、読み枠が保たれる欠失では短縮した蛋白が作られて軽症のBecker型になる。
医学生医学生
エクソン・スキッピング治療は、その読み枠を整えるという考え方ですか。
ドクタードクター
まさにそう。特定のエクソンを飛ばして読み枠を戻し、Becker型に近い短縮型ジストロフィンを作らせる治療で、エクソン53スキップのビルトラルセンが使われている。そして臨床で特に大事なのは、保因者の心臓だ。骨格筋の症状がなくても拡張型心筋症様の心筋障害を起こしうるから、定期的な心機能評価が勧められる。弟さんの病気をきっかけに、姉や母の心臓もフォローする視点を持っておこう。

まとめ

Duchenne型筋ジストロフィーはXp21のジストロフィン遺伝子変異(エクソン単位の欠失が最多)によるX連鎖劣性遺伝疾患で、女性保因者の筋生検ではジストロフィン陽性線維と陰性線維がモザイク状に混在します。このモザイクは、一方のX染色体上の遺伝子変異と、細胞ごとにどちらかのXがランダムに不活化されるLyon現象の組み合わせで生じ、不活化が変異X側に偏ると筋力低下やCK上昇、心筋障害を示す症候性保因者となります。核型で見えるX短腕欠失やXトリソミー、21トリソミーはこのモザイクの原因にはなりません。読み枠がずれる変異はDuchenne型、保たれる変異はBecker型という読み枠説や、保因者でも心機能評価が必要な点も臨床上重要です。X連鎖遺伝とX不活化の理解は、保因者の診療や遺伝カウンセリングに直結する知識です。

解答・解説

正解はa, eです

所見の整理

・25歳女性。健康診断で左室肥大を指摘された。筋力低下の自覚はない。 ・弟(21歳):幼少時から走るのが遅く、9歳ころから車椅子、現在はマスク式人工呼吸器(非侵襲的陽圧換気)を使用して寝たきり。男児に発症し、幼児期に始まり10歳前後で歩行不能となる経過は、Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)に典型的である。 ・両親は血族婚ではない(常染色体劣性遺伝を積極的に示唆する情報はない)。 ・本人の診察:筋萎縮はないが、両下肢近位筋に徒手筋力テスト(MMT)4程度(重力と若干の抵抗に抗して動かせる)の軽度筋力低下。CK 200 IU/Lと軽度上昇。

診断へのプロセス

DMDはX染色体短腕(Xp21)にあるジストロフィン遺伝子の変異によるX連鎖劣性遺伝疾患である。弟がDMDであることから、姉である本人は保因者である可能性がある。軽度の近位筋筋力低下、CKの軽度上昇、さらに心筋障害を示唆する左室肥大があり、症状を呈する保因者(manifesting carrier、症候性保因者)と考えられる。ジストロフィン異常症では心筋も障害され、保因者でも拡張型心筋症様の心筋障害を起こすことがあるため、心臓の評価が重要である。

免疫染色の読み方

筋生検のジストロフィン免疫染色では、正常筋では全ての筋線維の細胞膜直下が均一に染まる。DMD患者では大部分の筋線維で染色が欠如する。本例では、膜が染まる筋線維と染まらない筋線維が混在するモザイク状のパターンを示しており、女性保因者に特徴的な所見である。

設問への考え方

このモザイクが生じるには、二つの要素が必要である。一つは、一方のX染色体上のジストロフィン遺伝子に変異(DMDでは欠失が最も多い)があること。もう一つは、女性の各細胞で2本のX染色体のうち1本がランダムに不活化されること(Lyon現象)である。正常アレルを持つX染色体が活性な筋核の領域ではジストロフィンが発現し、変異アレルを持つX染色体が活性な領域では発現しないため、染まる線維と染まらない線維が混在する。変異Xが活性な細胞の割合が偏って多いと、本例のように症状が出る。

選択肢考察

  1. ○a.  Lyon現象

    正しい。Lyon現象(X染色体不活化)とは、女性の体細胞で発生初期に2本のX染色体のうち1本がランダムに不活化され、その状態が娘細胞に引き継がれる現象である。不活化されたX染色体は凝縮して核膜近くにBarr小体(性クロマチン)として観察される。ジストロフィン遺伝子変異の保因者では、正常アレルが働く細胞と変異アレルが働く細胞がモザイク状に存在するため、ジストロフィン染色陽性の筋線維と陰性の筋線維が混在する。不活化の比率が変異X側に偏ると(skewed X-inactivation)、本例のような軽度の筋力低下や心筋障害が出る。

  2. ×b.  X染色体trisomy

    誤り。X染色体トリソミー(47,XXX、トリプルX症候群)は女性に起こる性染色体数的異常である。かつては「超女性」と呼ばれたが、実際には目立った身体的特徴を示さないことが多く、高身長や軽度の学習・言語発達の遅れを伴うことがある程度で、多くは妊孕性も保たれる。X染色体の本数が増えても、余分なXは不活化されるだけであり、ジストロフィン遺伝子に変異がなければ発現は正常で、モザイク状の染色欠損の原因にはならない。

  3. ×c.  X染色体短腕欠失

    誤り。X染色体短腕欠失(46,X,del(Xp))は染色体検査(核型分析)で確認できる規模の構造異常で、Turner症候群の亜型として低身長や性腺機能不全(原発性無月経など)といった特徴を伴う。本例の身長は158 cmで、性腺機能不全を示す所見もなく、この染色体異常を疑う根拠はない。ジストロフィン遺伝子はXp21に位置するが、弟と同じDMDの原因は、染色体検査で見える欠失ではなく、ジストロフィン遺伝子内のエクソン単位の欠失などの分子レベルの変異である。なお、「短腕欠失があればジストロフィンは全く作られない」と考えるのも誤りである。女性ではもう1本の正常なX染色体が残るため、正常Xが活性な細胞ではジストロフィンが合成される。

  4. ×d.  21染色体trisomy

    誤り。21トリソミーはDown症候群の原因であり、特徴的顔貌、知的障害、先天性心疾患(心内膜床欠損症など)、筋緊張低下などを呈する。21番染色体はジストロフィン遺伝子と無関係で、本例にDown症候群を示す所見もない。

  5. ○e.  ジストロフィン遺伝子小欠失

    正しい。DMDの原因はXp21に位置するジストロフィン遺伝子の変異で、約6〜7割がエクソン単位の欠失、残りが重複や点変異などである。読み枠(フレーム)がずれる欠失ではジストロフィンがほぼ作られずDMDとなり、読み枠が保たれる欠失では短縮した蛋白が作られ軽症のBecker型となる(読み枠説)。弟がDMDであり、本人も一方のX染色体にこの家系の遺伝子変異を受け継いでいるため、変異Xが活性な筋線維ではジストロフィンが発現しない。Lyon現象と組み合わさって、モザイク状の染色パターンが生じる。

Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)の概要

・遺伝形式:X連鎖劣性遺伝。男児約3,500人に1人とされる。約3分の1は新生突然変異による。 ・原因:Xp21のジストロフィン遺伝子変異。ジストロフィンは筋細胞膜直下で細胞骨格(アクチン)と細胞膜のジストロフィン結合糖蛋白複合体をつなぐ蛋白で、欠損すると筋収縮のたびに膜が傷み筋線維が壊死する。 ・臨床経過:2〜5歳ころに転びやすい・走れないなどで気づかれ、登はん性起立(Gowers徴候)、動揺性歩行、腓腹筋の仮性肥大を示す。10歳前後で歩行不能となり、側弯、呼吸不全、心筋症が進行する。呼吸管理(非侵襲的陽圧換気など)の普及で生命予後は改善し、現在は心不全が主要な死因の一つである。 ・検査:CKは発症前から著明高値(数千〜数万IU/L)。確定は遺伝子検査(MLPA法などでの欠失・重複検索)や筋生検のジストロフィン染色による。 ・治療:副腎皮質ステロイド、心保護薬(ACE阻害薬、β遮断薬)、呼吸管理、リハビリテーション。特定のエクソン欠失に対してはエクソン・スキッピング治療薬(ビルトラルセン:エクソン53スキップ)も用いられている。

女性保因者

・多くは無症状だが、CKが軽度〜中等度上昇することがある。 ・X染色体不活化の偏りにより、一部は軽度の筋力低下や筋痛を示す(症候性保因者)。 ・骨格筋症状がなくても心筋障害(拡張型心筋症、左室機能低下など)を起こしうるため、定期的な心機能評価が推奨される。 ・筋生検ではジストロフィン陽性線維と陰性線維がモザイク状に混在する。 ・まれに、Turner症候群(45,X)の女性や、X;常染色体転座で正常Xが優先的に不活化された女性がDMDを発症することがある。

Becker型筋ジストロフィーとの違い

読み枠が保たれる変異で、量や大きさが不完全なジストロフィンが作られる。発症が遅く進行も緩やかで、15歳以降も歩行可能なことが多い。染色では膜の染色が淡く不均一になる。

POINT

・DMDはXp21のジストロフィン遺伝子変異(欠失が最多)によるX連鎖劣性遺伝疾患。 ・女性保因者の筋生検:ジストロフィン染色陽性線維と陰性線維のモザイク → 原因はLyon現象(X染色体のランダムな不活化)と、一方のX上のジストロフィン遺伝子変異。 ・X不活化が変異X側に偏ると症候性保因者となり、筋力低下・CK上昇・心筋障害を呈しうる。 ・保因者でも心筋障害のスクリーニングが重要。 ・読み枠がずれる変異 → DMD、読み枠が保たれる変異 → Becker型。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。