StudyMed医師国家試験

固形物がつかえる72歳―内視鏡の「盛り上がり方」で見抜く食道進行癌

第110回医師国家試験 I問題 第61問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第61問

72歳の女性。嚥下困難を主訴に来院した。2か月前から固形物が飲み込みにくいことを自覚し徐々に増悪するため受診した。体温36.4℃。脈拍60/分,整。血圧132/72 mmHg。表在リンパ節を触知しない。腹部は平坦,軟。食道の内視鏡写真を別に示す。  考えられる疾患はどれか。

第110回 I問題 第61問の問題画像
  1. a.進行癌
  2. b.平滑筋腫
  3. c.アカラシア
  4. d.逆流性食道炎
  5. e.裂孔ヘルニア

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢女性の嚥下困難の原因を、病歴と内視鏡像から考える問題だ。ポイントは2つ。1つは嚥下困難の性質、つまり何がつかえて、どう進んでいるか。もう1つは内視鏡で見える隆起が「粘膜そのものから盛り上がっているか、それとも下から押し上げられているか」だ。まず病歴から考えてみよう。
医学生医学生
固形物から飲み込みにくくなって、2か月で徐々に悪くなっているんですよね。何か物理的に狭くなっている気がします。
ドクタードクター
いい読みだね。嚥下困難を診るときは、年齢、経過、つかえる物が固形物か液体か、体重減少の有無を確認する。高齢者で、固形物から始まって数か月単位で進行するのは、腫瘍などが内腔を狭める器質的狭窄の典型的なパターンなんだ。腫瘍が大きくなると、やがて軟らかい物や液体もつかえるようになる。
医学生医学生
逆に、最初から液体もつかえるなら、アカラシアみたいな運動機能障害を考えるんでしたよね。消化器内科の講義で対比して習いました。
ドクタードクター
その通り。では内視鏡像を言葉にしてみよう。食道の内腔に向かって大きな腫瘤が突き出し、内腔を狭めている。表面は発赤して凹凸が不整で、白苔や壊死物が付着していて、いかにももろそうだ。そして、周囲の粘膜から腫瘤が直接盛り上がっている。
医学生医学生
表面が荒れていて壊死もあるとなると、粘膜の上皮から出た悪性腫瘍、つまり癌ですね。
ドクタードクター
そう。さらに、内腔を狭めるほど大きく、嚥下困難という症状まで出ていることから、癌は粘膜下層を越えて固有筋層以深に達した進行癌と考えるのが妥当だ。正解は進行癌になる。
医学生医学生
早期癌と表在癌と進行癌の違いがいつも混乱します。CBTの前にも何度か間違えました。
ドクタードクター
食道癌取扱い規約で整理しよう。深達度が粘膜層にとどまるのが早期癌、粘膜下層までが表在癌、固有筋層以深に及ぶのが進行癌だ。どれもリンパ節転移の有無は問わない。胃癌の「早期癌は粘膜下層まで」と混同しやすいから注意してね。
医学生医学生
食道は胃と定義がずれているんですね。では平滑筋腫はどう見分けますか。隆起という点では似ている気がします。
ドクタードクター
そこが今回の一番の鑑別ポイントだ。平滑筋腫は固有筋層などの平滑筋から出る良性の粘膜下腫瘍で、正常な粘膜をかぶったまま下から押し上げるように育つ。だから内視鏡では、なだらかに立ち上がる表面平滑な隆起で、色調も周囲と同じ正常粘膜に見える。発赤や壊死を伴う不整な表面とは対照的なんだ。しかも多くは小さく無症状だよ。
医学生医学生
上皮性か粘膜下かは、表面の性状と立ち上がりで見るんですね。病理実習で、癌は上皮から、平滑筋腫は筋層から出ると確認したのとつながりました。
ドクタードクター
いい結びつけ方だ。アカラシアはAuerbach神経叢の変性で下部食道括約筋が緩まず、蠕動も消える機能性疾患。20〜50歳代に多く、内視鏡では内腔の拡張や食物残渣の貯留が見えるけれど、腫瘤はつくらない。ただし高齢者でアカラシアのような所見を見たら、食道胃接合部の癌による偽性アカラシアを除外することが大切だ。
医学生医学生
逆流性食道炎と裂孔ヘルニアも腫瘤はつくらないですよね。
ドクタードクター
その通り。逆流性食道炎は胸やけや呑酸が主症状で、内視鏡では食道胃接合部から口側に伸びる発赤やびらんが見え、ロサンゼルス分類で評価する。高度なら瘢痕狭窄でつかえることもあるけれど、腫瘤ではない。裂孔ヘルニアは胃の一部が食道裂孔から胸腔側に脱出した状態で、多くは無症状だ。
医学生医学生
このあとは生検で確定して、CTやPET-CTで病期を決める流れですね。
ドクタードクター
その通り。超音波内視鏡で深達度を評価することもある。発展知識として、日本の食道癌は約9割が扁平上皮癌で胸部中部食道に多く、喫煙と飲酒が危険因子だ。特に飲酒で顔が赤くなるALDH2活性の低い人はリスクが高い。頭頸部癌との重複も多いから、咽頭・喉頭のチェックも忘れずに。
医学生医学生
早期の段階で見つけるにはどうすればいいでしょうか。
ドクタードクター
早期癌はほとんど無症状だから、内視鏡でヨード染色の不染帯やNBIを使って拾い上げることが大事だ。粘膜内にとどまればESDなどの内視鏡治療で治せる可能性が高い。進行癌では術前化学療法と手術、あるいは根治的化学放射線療法が中心になる。嚥下困難が出てからでは進行していることが多い、という意識を持っておこう。

まとめ

高齢者で固形物から始まり数か月かけて進行する嚥下困難は、腫瘍による器質的狭窄、とくに食道癌を強く疑う所見です。内視鏡で表面が不整で発赤や壊死を伴う隆起が粘膜から直接盛り上がっていれば上皮性悪性腫瘍、正常粘膜に覆われたなだらかで平滑な隆起なら平滑筋腫などの粘膜下腫瘍と考えます。食道癌では固有筋層以深に及ぶものを進行癌とし、粘膜層までを早期癌、粘膜下層までを表在癌と呼ぶ点は胃癌と異なるため注意が必要です。初期から液体もつかえるアカラシア、胸やけが主体の逆流性食道炎、裂孔ヘルニアはいずれも腫瘤を形成しません。日本では扁平上皮癌が大半で喫煙・飲酒が危険因子であり、症状の性質と内視鏡像を結びつける考え方は、嚥下困難の診療全般の基礎となります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・72歳の女性。2か月前から固形物が飲み込みにくくなり、徐々に悪化している。 ・バイタルサインに異常はなく、表在リンパ節は触知しない。腹部所見も正常である。 ・内視鏡写真:食道の内腔に向かって大きく突出する腫瘤があり、内腔の一部を占拠して狭めている。腫瘤の表面は発赤し凹凸不整で、白色の付着物(壊死物・白苔)を伴い、もろそうな外観を呈する。周囲の正常粘膜との境界で、腫瘤は粘膜面から直接盛り上がっている。

診断へのプロセス

嚥下困難を診るときは、①年齢、②経過(急性か、進行性か)、③何がつかえるか(固形物のみか、液体も含むか)、④体重減少の有無が鑑別の手がかりとなる。 ・高齢で、数か月の単位で進行し、まず固形物から通りにくくなる嚥下困難は、内腔を物理的に狭める器質的狭窄(とくに悪性腫瘍)を示唆する典型的なパターンである。腫瘍が大きくなるにつれて、やがて軟らかい食物や液体もつかえるようになる。 ・これに対し、食道運動機能障害(アカラシアなど)では、病初期から固形物と液体の両方がつかえやすいのが特徴である。 ・内視鏡で、表面が不整で発赤・壊死を伴う隆起性腫瘤が粘膜面を破って内腔に突出していることから、粘膜由来の上皮性悪性腫瘍、すなわち食道癌が考えられる。腫瘤が大きく内腔を狭窄させるほどであり、症状も出現していることから、癌は粘膜下層を越えて固有筋層以深に達した進行癌と考えるのが妥当である。

設問の考え方

「高齢者の進行性の固形物嚥下困難」という病歴と、「表面不整な隆起性腫瘤」という内視鏡像を結びつければ、進行食道癌と判断できる。粘膜下腫瘍(平滑筋腫など)や、腫瘤を形成しない機能性・炎症性・解剖学的疾患との違いを内視鏡像から見分けることがポイントである。

選択肢考察

  1. ○a.  進行癌

    高齢者で、2か月にわたり進行する固形物の嚥下困難は、腫瘍による器質的狭窄を強く示唆する。内視鏡像では、発赤し凹凸不整で白苔・壊死物を伴う隆起性腫瘤が内腔に突出しており、粘膜上皮から発生した悪性腫瘍の所見である。腫瘤が大きく内腔を狭め、嚥下困難という症状を起こしていることから、深達度は固有筋層以深に及ぶ進行癌と考えられる。確定には生検による組織診断を行い、CTやPET-CTなどで深達度・リンパ節転移・遠隔転移を評価して病期を決定する。

  2. ×b.  平滑筋腫

    食道平滑筋腫は、固有筋層(または粘膜筋板)の平滑筋から発生する良性の粘膜下腫瘍で、食道の良性腫瘍では最も多い。腫瘍は正常な粘膜に覆われた状態で下から押し上げるように発育するため、内視鏡ではなだらかに立ち上がる表面平滑な隆起として見え、表面は周囲と同じ色調の正常粘膜である(bridging foldを伴うこともある)。本例のように表面が不整で発赤・壊死を伴う像とは異なる。また、多くは小さく無症状で、かなり大きくならない限り嚥下困難は起こさない。

  3. ×c.  アカラシア

    アカラシアは、食道壁内のAuerbach神経叢の変性により、下部食道括約筋(LES)の弛緩不全と食道体部の蠕動消失をきたす機能性疾患である。20〜50歳代に多く、病初期から固形物だけでなく液体もつかえやすい。内視鏡では食道内腔の拡張や食物残渣の貯留を認めるが、腫瘤は形成しない。本例の隆起性腫瘤とは合わない。なお、高齢者でアカラシア様の所見がみられる場合は、食道胃接合部の癌による二次性アカラシア(偽性アカラシア)を除外する必要がある。

  4. ×d.  逆流性食道炎

    逆流性食道炎は胃酸などの逆流により下部食道の粘膜が傷害される疾患で、主症状は胸やけ・呑酸である。つかえ感を訴えることもあり、高度な例では瘢痕狭窄による嚥下困難を生じうる。内視鏡では食道胃接合部から口側に伸びる発赤やびらん(粘膜傷害)がみられ、ロサンゼルス分類で重症度を評価する。腫瘤を形成する疾患ではなく、本例の内視鏡像とは一致しない。

  5. ×e.  裂孔ヘルニア

    食道裂孔ヘルニアは、胃の一部が横隔膜の食道裂孔を通って胸腔側へ脱出した状態である。高齢者や肥満者に多く、多くは無症状だが、逆流性食道炎を合併して胸やけを起こすことがある。内視鏡では食道胃接合部が横隔膜の位置より口側に移動していることや、反転観察での裂孔の開大として認識されるが、腫瘤は認めない。本例の所見とは合わない。

食道癌の概要

・日本では組織型の約9割が扁平上皮癌で、胸部中部食道に最も多い。欧米ではBarrett食道を背景とする腺癌(下部食道・食道胃接合部)が多いが、日本でも腺癌は増加傾向にある。 ・男性に多く、60〜70歳代に好発する。扁平上皮癌の危険因子は喫煙と飲酒であり、とくに飲酒で顔が赤くなる体質(アルデヒド脱水素酵素2〔ALDH2〕の活性が低い人)では、飲酒による発癌リスクが高い。熱い飲食物の摂取も危険因子とされる。腺癌の危険因子は胃食道逆流症・Barrett食道・肥満である。 ・頭頸部癌(咽頭癌・喉頭癌)との重複が多く、食道癌の患者では頭頸部の検索も重要である。

症状

・早期癌はほとんど無症状で、検診などの内視鏡で偶然発見されることが多い(しみる感じを訴えることはある)。 ・進行すると、固形物から始まり徐々に進行する嚥下困難、体重減少、胸骨後部痛を生じる。反回神経への浸潤で嗄声、気管・気管支への浸潤で食道気管支瘻(むせ、肺炎)を起こすことがある。

早期癌・表在癌・進行癌の定義(食道癌取扱い規約)

・表在癌:癌の深達度が粘膜下層までにとどまるもの(リンパ節転移の有無は問わない)。 ・早期癌:深達度が粘膜層(粘膜内)にとどまり、リンパ節転移の有無を問わないもの。 ・進行癌:癌が固有筋層以深に及ぶもの。 ・肉眼型は、表在型を0型とし、進行型は1型(隆起型)、2型(潰瘍限局型)、3型(潰瘍浸潤型)、4型(びまん浸潤型)、5型(分類不能型)に分ける。

診断

・上部消化管内視鏡と生検で確定する。表在癌の範囲診断にはヨード染色(癌部は不染帯となる)や狭帯域光観察(NBI)が有用である。 ・食道造影では、進行癌は不整な陰影欠損や狭窄、狭窄部口側の拡張として描出される。 ・深達度診断に超音波内視鏡(EUS)、転移検索にCT・PET-CTを用いる。

治療の概略

・粘膜内にとどまる癌の多くは内視鏡的切除(内視鏡的粘膜下層剥離術〔ESD〕など)の適応となる。 ・切除可能な進行癌では、術前化学療法を行ったうえで食道切除・リンパ節郭清・再建術を行うのが標準的である。手術を希望しない場合や全身状態から手術が難しい場合は、根治的化学放射線療法を選択する。 ・切除不能例では化学療法(免疫チェックポイント阻害薬を含む)や、通過障害に対する食道ステント留置などを行う。

POINT

・嚥下困難の鑑別は、年齢・経過・つかえる物(固形物か液体か)・体重減少に着目する。 ・高齢者で、固形物から始まり徐々に進行する嚥下困難は、まず食道癌(器質的狭窄)を疑う。 ・病初期から液体もつかえる嚥下困難は、アカラシアなどの運動機能障害を考える。 ・内視鏡で表面不整・発赤・壊死を伴う隆起は上皮性悪性腫瘍(癌)、正常粘膜に覆われた表面平滑でなだらかな隆起は粘膜下腫瘍(平滑筋腫など)。 ・食道進行癌は深達度が固有筋層以深に及ぶもの。日本では扁平上皮癌が大半で、喫煙・飲酒が危険因子。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。