乳頭の一点からにじむ赤―血性乳頭分泌が告げる「乳管の中」の病変
第110回医師国家試験 I問題 第33問
国試問題にチャレンジ
左乳頭直下の母指頭大の腫瘤を主訴とする患者で,腫瘤を指で圧迫したところ乳頭から分泌物を認めた。そのときの乳房の写真を別に示す。 考えられるのはどれか。2つ選べ。

- a.乳癌
- b.乳腺症
- c.乳腺線維腺腫
- d.乳腺乳管内乳頭腫
- e.プロラクチノーマ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳頭分泌は、性状(乳汁様・漿液性・血性)と出方(片側か両側か、単孔性か多孔性か)で鑑別するのが基本です。片側・単孔性の血性分泌はその乳管内に病変があることを示し、良性では乳管内乳頭腫、悪性では乳癌(特に非浸潤性乳管癌)が代表で、乳頭直下の腫瘤を圧迫して分泌が出る本例では両者を考えます。プロラクチノーマなど高プロラクチン血症による分泌は両側・多孔性の乳汁様で血性にはならず、線維腺腫は分泌を伴わない可動性良好な腫瘤、乳腺症は周期的な痛みや境界不明瞭な硬結が主体で典型的な原因ではありません。乳管内乳頭腫と乳癌は症状だけでは区別できないため、分泌物の細胞診やCEA、超音波、マンモグラフィ、乳管造影・乳管内視鏡を経て組織診で確定します。血性乳頭分泌を安易に良性と判断せず精査につなげる姿勢は、乳癌の早期発見に直結する重要な臨床判断です。
解答・解説
正解はa, dです
所見の整理
・左乳頭の直下(乳輪下)に母指頭大の腫瘤を触れる。 ・腫瘤を圧迫すると乳頭から分泌物が出る。 ・写真では、乳頭の一点から暗赤色〜黒褐色の液滴が出ており、血性の乳頭分泌と判断できる。分泌は乳頭全体からではなく、一つの開口部(単孔性)からと読み取れ、片側性である。
考え方
乳頭分泌は、性状(乳汁様・漿液性・血性)と出方(片側か両側か、単一乳管か複数乳管か)で鑑別を進める。両側・複数乳管からの乳汁様分泌は、高プロラクチン血症や薬剤などの全身的原因を考える。これに対し、片側・単一乳管からの血性分泌は、その乳管の中に病変があることを示し、良性では乳管内乳頭腫、悪性では乳癌(特に非浸潤性乳管癌などの乳管内に広がる癌)が代表的である。 本例は乳頭直下の腫瘤を伴い、腫瘤の圧迫で分泌が誘発されることから、腫瘤と分泌の出る乳管がつながっていると考えられる。したがって乳管内乳頭腫と乳癌の両方を考慮すべきであり、両者は症状だけでは区別できないため、分泌物の細胞診、潜血反応やCEA測定、超音波検査、マンモグラフィ、乳管造影・乳管内視鏡などで精査し、最終的には組織診で確定する。
選択肢考察
- ○a. 乳癌
乳癌の自覚症状で最も多いのはしこり(腫瘤)であるが、乳頭からの分泌、特に片側・単孔性の血性分泌も重要な症状である。とくに乳管内に沿って広がる非浸潤性乳管癌(DCIS:ductal carcinoma in situ)や乳頭近くの乳管から発生した癌では、癌組織の出血により血性分泌が生じやすい。乳頭直下の腫瘤を伴う血性分泌では乳管内乳頭腫との鑑別が必須であり、見逃してはならない疾患として考えるべきである。
- ×b. 乳腺症
乳腺症は30〜40歳代に多く、女性ホルモンの不均衡を背景として乳腺組織に増殖性・退行性の変化が混在する良性の状態である。境界の不明瞭な硬結、乳房の張り感や痛みが主な症状で、月経周期に伴って変動し、両側性に生じることも多い。漿液性などの乳頭分泌を伴うことはあり、まれに血性となることもあるが、本例のように乳頭直下に限局した腫瘤とそれに連動する単孔性の血性分泌という組合せの典型的な原因ではない。考えるべき疾患としては乳管内乳頭腫と乳癌を優先する。
- ×c. 乳腺線維腺腫
線維腺腫は10〜30歳代の若年女性に多い良性腫瘍で、乳管上皮と間質の両成分が増殖したものである。境界明瞭・表面平滑で弾性硬の腫瘤として触れ、可動性が良好であることが特徴である。乳管内に発生する病変ではないため、乳頭分泌、特に血性分泌は通常伴わない。
- ○d. 乳腺乳管内乳頭腫
乳管内乳頭腫は、乳管上皮が乳頭状に増殖する良性腫瘍で、30〜50歳代に多い。乳頭近くの太い乳管(主乳管)に発生する孤立性のものが多く、片側・単孔性の血性または漿液性の乳頭分泌が代表的な症状である。腫瘍がある程度大きくなると乳輪下に小さな腫瘤として触れ、その部分を圧迫すると分泌が出てくる。本例の所見に最もよく合う良性疾患であるが、乳癌との区別は臨床症状だけではできないため、組織学的な確認が必要である。
- ×e. プロラクチノーマ
プロラクチノーマは下垂体前葉のプロラクチン産生腺腫であり、高プロラクチン血症により乳汁漏出、無月経、不妊などを起こす。乳汁漏出は乳腺全体へのホルモン作用によるため、通常は両側性・多孔性の乳白色の乳汁様分泌であり、血性にはならない。また病変は下垂体にあるため、乳房に腫瘤を形成することもない。
乳頭分泌の鑑別
乳汁様(乳白色)・両側・多孔性:高プロラクチン血症(プロラクチノーマ、抗精神病薬・制吐薬〔ドパミン受容体遮断薬〕などの薬剤、原発性甲状腺機能低下症)、妊娠・授乳後など。 漿液性・血性、片側・単孔性:乳管内乳頭腫、乳癌(特にDCIS)、乳腺症、乳管拡張症など乳管内の局所病変。
血性乳頭分泌の検査
・分泌物の潜血反応、細胞診、CEA(癌胎児性抗原)測定(高値なら癌を疑う) ・超音波検査:拡張した乳管と乳管内の充実性病変を確認する。 ・マンモグラフィ:微細石灰化などの癌を示唆する所見を探す。 ・乳管造影:分泌のある乳管に造影剤を注入し、陰影欠損や途絶を確認する。 ・乳管内視鏡:乳管内を直接観察し、生検も可能である。 ・確定診断は針生検や外科的生検(乳管腺葉区域切除など)による組織診である。
主な良性乳腺疾患の特徴
線維腺腫:若年、境界明瞭・平滑・可動性良好な腫瘤、分泌なし。 乳腺症:30〜40歳代、境界不明瞭な硬結、周期的な痛み・張り。 乳管内乳頭腫:30〜50歳代、乳輪下の小腫瘤、片側単孔性の血性・漿液性分泌。 葉状腫瘍:急速に増大する大きな腫瘤、良性から悪性まである。
POINT
・片側・単孔性の血性乳頭分泌:乳管内乳頭腫(良性)と乳癌(特にDCIS)をまず考える。 ・両者は症状のみでは区別できず、細胞診・画像検査・組織診で鑑別する。 ・プロラクチノーマなどの高プロラクチン血症による分泌は両側・多孔性の乳汁様分泌で、血性ではない。 ・線維腺腫は可動性良好な平滑な腫瘤で、分泌を伴わない。
