黒く変色した小腸が告げるもの―開腹所見で見抜く絞扼性イレウス
第110回医師国家試験 I問題 第31問
国試問題にチャレンジ
急性腹症における開腹所見を別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.S状結腸軸捻転症
- b.絞扼性イレウス
- c.単純性イレウス
- d.腸重積症
- e.麻痺性イレウス
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
イレウス(腸閉塞)では「腸管の血流障害を伴うかどうか」を最初に判断することが最も重要です。開腹所見で、結腸ひも・腹膜垂・ハウストラを欠く小腸の一区域が腸間膜とともに黒色〜暗赤色に変色していれば、腸管と腸間膜血管がまとめて締め付けられた絞扼性イレウスによる出血性壊死を考えます。単純性イレウスは血流が保たれ、麻痺性イレウスは機能的な蠕動低下であり、いずれも区域性の壊死はきたさず、S状結腸軸捻転症は結腸の病変、腸重積症は腸管の重なり込みが特徴です。絞扼性イレウスは持続痛、腹膜刺激症状、乳酸上昇、造影CTでの腸管壁造影不良やwhirl signなどから疑い、時間とともに壊死・穿孔・敗血症へ進むため緊急手術の適応となります。腸管の色調と分布から血流障害を読み取る力は、急性腹症の初期対応全般に直結します。
解答・解説
正解はbです
急性腹症で開腹した際の術中写真から、腸管の状態を読み取って病態を判断する問題である。
写真の所見
・腸管は結腸ひも(結腸の表面を縦に走る帯状の筋束)や腹膜垂、ハウストラ(結腸膨起)を欠き、細く滑らかな腸管が連続していることから小腸と判断できる。 ・小腸の一部の区域が、その腸間膜とともに黒色〜暗赤色に変色し、緊満している。これは腸管と腸間膜の血流が途絶して生じた出血性梗塞(壊死)の所見である。 ・一方、その前後の小腸は正常のピンク色で、拡張も目立たない。変色した部分と正常部分の境界が比較的はっきりしており、壊死はある一定の区域(分節)に限られている。
考え方
イレウス(腸閉塞)を考えるときは、まず「腸管の血流障害を伴うかどうか」を判断するのが最も重要である。血流障害を伴う閉塞を絞扼性(複雑性)イレウスといい、腸管が短時間で壊死・穿孔に至るため緊急手術の適応となる。本例では、小腸の一区域が腸間膜ごと黒紫色に変色しており、索状物による締め付け、腸管の捻転、ヘルニア嵌頓などによって腸管と腸間膜血管がまとめて絞めつけられ、血流が途絶したと考えられる。したがって絞扼性イレウスが最も考えられる。 なお、小腸が広範囲に連続して壊死している場合には、上腸間膜動脈閉塞症(血栓症・塞栓症)など、太い栄養血管そのものの閉塞を考える。本例のように限られた区域の壊死であれば、局所の絞扼を考えるのが自然である。
選択肢考察
- ×a. S状結腸軸捻転症
S状結腸軸捻転症は、長く可動性の高いS状結腸が腸間膜を軸にねじれて起こる閉塞であり、高齢者や便秘傾向の人、長期臥床者に多い。病変は結腸であるため、結腸ひも・腹膜垂・ハウストラが見られ、著しく拡張した腸管が特徴である(腹部単純X線でコーヒー豆徴候)。写真の腸管にはこれらの結腸の特徴がなく、小腸の病変であるため該当しない。
- ○b. 絞扼性イレウス
写真では小腸の一部区域が腸間膜とともに黒色〜暗赤色に変色しており、腸管と腸間膜血管が一緒に締め付けられて血流が途絶し、出血性壊死に陥った状態と判断できる。これは絞扼性イレウスの典型的な開腹所見である。原因としては、手術既往による癒着や索状物(バンド)による締め付け、小腸軸捻転、内ヘルニア、外ヘルニア(鼠径ヘルニア・大腿ヘルニアなど)の嵌頓などがある。壊死した腸管は切除が必要であり、診断がつき次第緊急手術を行う。
- ×c. 単純性イレウス
単純性(閉塞性)イレウスは、癒着や腫瘍、異物などによって腸管内腔が閉塞するが、腸管の血流は保たれている状態である。閉塞部より口側の腸管が内容物とガスで拡張するのが特徴で、腸管の色調は基本的に保たれ、壊死は起こらない。写真のように一部の腸管が暗赤色に壊死している所見は血流障害を示しており、単純性イレウスでは説明できない。
- ×d. 腸重積症
腸重積症は、口側の腸管が肛門側の腸管内に入り込む(重なり込む)病態で、乳幼児の回腸末端が結腸に入り込む回腸結腸型が代表的である。重積が長引けば血流障害から腸管壊死を起こしうるが、開腹時には腸管が筒状に重なり込んだ腫瘤状の所見がみられるはずである。写真では腸管の重なり込みは認められないため該当しない。
- ×e. 麻痺性イレウス
麻痺性イレウスは、腹膜炎、開腹術後、電解質異常(低カリウム血症など)、薬剤などにより腸管の蠕動運動が低下して起こる機能的イレウスである。機械的な閉塞や血流途絶はないため、腸管は全体的にびまん性に拡張するものの、写真のような区域性の壊死はみられない。
イレウス(腸閉塞)の分類
1. 機械的イレウス:腸管内腔が物理的に閉塞するもの。 ・単純性(閉塞性)イレウス:血流障害を伴わない。原因は術後癒着が最多で、ほかに腫瘍(大腸癌など)、異物(胆石・食物塊など)、炎症性狭窄など。 ・複雑性(絞扼性)イレウス:血流障害を伴う。原因は索状物による絞扼、腸管軸捻転、腸重積症、ヘルニア嵌頓(内ヘルニア・外ヘルニア)など。 2. 機能的イレウス ・麻痺性イレウス:腸管運動の低下による。腹膜炎、開腹術後、電解質異常、薬剤、腸間膜血管閉塞など。 ・けいれん性イレウス:腸管の持続的な攣縮による。鉛中毒などでまれにみられる。 近年の診療指針では、腸管の機械的閉塞を「腸閉塞」、腸管運動の麻痺によるものを「イレウス」と呼び分ける考え方が広まっているが、国家試験では従来の分類名が用いられることも多いため、両方の用語を理解しておくとよい。
絞扼性イレウスを疑う所見
・持続的で激しい腹痛(間欠的な疝痛から持続痛への変化)、鎮痛薬で軽快しない痛み ・腹膜刺激症状(筋性防御、反跳痛)、ショック、頻脈、発熱 ・血液検査:白血球増多、CRP上昇、CK・LDHの上昇、代謝性アシドーシス(乳酸上昇) ・造影CT:腸管壁の造影効果の低下、腸間膜の浮腫や血管の渦巻き状の走行(whirl sign)、closed loop(両端が閉塞した腸管係蹄)、腹水の貯留 絞扼性イレウスは時間とともに壊死・穿孔・敗血症へ進むため、疑った時点で緊急手術を検討する。
開腹所見で腸管の生存性を判断する手がかり
絞扼を解除した後、腸管の色調の回復、蠕動の有無、腸間膜動脈の拍動、腸管壁からの出血の有無などで生存性を評価し、回復しない腸管は切除する。黒色調の壊死腸管は回復が見込めない。
小腸と結腸の見分け方
結腸には結腸ひも、腹膜垂(脂肪垂)、ハウストラ(結腸膨起)がみられ、小腸にはこれらがない。
POINT
・腸管が暗赤色〜黒色に変色していれば血流障害による壊死を考える。 ・小腸が腸間膜とともに区域性に壊死していれば絞扼性イレウスを考え、広範な壊死なら上腸間膜動脈閉塞症などを考える。 ・結腸ひも・腹膜垂・ハウストラの有無で小腸と結腸を見分ける。 ・単純性イレウスは血流障害がなく、麻痺性イレウスは機能的な腸管運動低下であり、いずれも区域性の腸管壊死はきたさない。 ・絞扼性イレウスは緊急手術の適応である。
