StudyMed医師国家試験

使うほど「効きすぎる」薬―逆耐性現象で読み解く覚醒剤精神病

第110回医師国家試験 I問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第26問

逆耐性現象を示すのはどれか。

  1. a.大麻精神病
  2. b.LSD精神病
  3. c.覚醒剤精神病
  4. d.コカイン精神病
  5. e.アルコール精神病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、依存性物質を繰り返し使うと効き方がどう変わるかを問う問題だ。キーワードは逆耐性。普通の「耐性」との違いを整理しながら考えていこう。まず、耐性とはどういう現象だったかな。
医学生医学生
繰り返し使ううちに効きが弱くなって、同じ効果を得るのに量を増やさないといけなくなる現象ですよね。薬理学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。耐性には、肝臓での代謝が速くなる代謝耐性と、受容体の数や感受性が変わって効きにくくなる機能耐性がある。作用機序の似た別の物質まで効きにくくなるのは交叉耐性という。では「逆」耐性はどうなると思う?
医学生医学生
言葉からすると逆に、使うほど少ない量で効くようになる、ということでしょうか。
ドクタードクター
そう。感作(sensitization)とも呼ばれ、反復使用で反応がかえって強くなり、以前より少量で同じかそれ以上の症状が出るようになる。その代表が覚醒剤精神病なんだ。
医学生医学生
覚醒剤というとメタンフェタミンですね。ドパミンを放出させる薬だったと思います。
ドクタードクター
メタンフェタミンやアンフェタミンは、ドパミンなどのモノアミンの放出を促し、再取り込みも阻害して、中枢のドパミン伝達を強める。乱用を続けると、意識が清明なまま幻聴や被害妄想・追跡妄想が出てくる。使用を重ねるほど少量の再使用で短期間に精神病症状が再燃しやすくなる、これが逆耐性で、中脳辺縁系ドパミン系の過敏化が関わると考えられている。
医学生医学生
精神科の臨床実習で、統合失調症との区別が難しいと言われていた患者さんがいました。それくらい症状が似ているんですね。
ドクタードクター
そうなんだ。だから覚醒剤精神病は統合失調症との鑑別が問題になるし、治療にも抗精神病薬を使う。では他の選択肢を見ていこう。LSDはどうかな。
医学生医学生
幻覚剤なので、使うほど幻覚が強くなりそうな気がしますが……。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。LSDはセロトニン5-HT2A受容体を刺激する幻覚剤で、連用するとむしろ数日のうちに急速な耐性ができ、他の幻覚剤とも交叉耐性を示す。中止後に知覚の異常が再び現れるフラッシュバックはあるけれど、少量で効くようになる逆耐性とは別物なんだ。
医学生医学生
大麻はどうでしょう。耐性がほとんどできないと聞いたことがあります。
ドクタードクター
以前はそう言われていたけれど、現在では連用で耐性や、いらいら・不眠などの離脱症状が生じうることがわかっている。特徴として覚えたいのは意欲が低下する動因喪失症候群で、逆耐性の代表ではない。
医学生医学生
コカインは覚醒剤と同じ中枢刺激薬なので、正直迷いました。
ドクタードクター
いい迷い方だ。コカインもモノアミンの再取り込みを阻害し、動物実験では感作も報告されている。ただ臨床的には作用時間が短く、短時間の反復使用で多幸感が弱まる急性耐性が目立つ。皮膚の下を虫が這うような体感幻覚、いわゆるコカイン虫が有名だね。逆耐性の典型として扱われるのは覚醒剤のほうだ。
医学生医学生
アルコールは、肝臓が悪くなると少量で酔うようになるので、逆耐性っぽく見えます。
ドクタードクター
鋭い視点だけど、それは肝障害で代謝能が落ちて耐性が弱まっただけで、逆耐性ではない。アルコールはむしろ代謝耐性と機能耐性の両方が生じ、ベンゾジアゼピン系薬と交叉耐性を示す。この性質を利用して、振戦せん妄などの離脱症状の予防・治療にベンゾジアゼピン系薬を使うんだ。
医学生医学生
耐性、交叉耐性、逆耐性を物質ごとに整理しておけば、CBTの依存症の問題にも対応できそうです。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床で大事な点を。覚醒剤では断薬後かなりの期間が経っても、薬を使わずに飲酒・不眠・心理的ストレスをきっかけに幻覚妄想がぶり返すことがある。これをフラッシュバック(自然再燃)といい、逆耐性と同じ基盤をもつ現象と理解されている。
医学生医学生
やめた後も長く再燃のリスクが残るなら、退院後の生活の支え方が大切になりますね。
ドクタードクター
そうだね。睡眠や飲酒の管理、ストレスへの対処、自助グループなどを組み合わせた長期的な支援が欠かせない。また覚醒剤は精神依存が強い一方で身体依存は乏しく、中止後には過眠や抑うつ、脱力がみられることも押さえておこう。

まとめ

逆耐性現象(感作)とは、精神作用物質の反復使用によって反応がかえって強まり、以前より少量で症状が出るようになる現象で、その代表が覚醒剤精神病です。メタンフェタミンなどの覚醒剤は中枢のドパミン伝達を強め、中脳辺縁系ドパミン系の過敏化を背景に、意識清明下の幻聴や被害・追跡妄想が少量でも再燃しやすくなり、断薬後も飲酒やストレス、不眠を契機とするフラッシュバック(自然再燃)を起こします。これに対し、LSDは急速な耐性と他の幻覚剤との交叉耐性、アルコールは代謝・機能耐性とベンゾジアゼピン系薬との交叉耐性、大麻は動因喪失症候群、コカインは急性耐性と体感幻覚が特徴です。耐性・交叉耐性・逆耐性・フラッシュバックという用語を物質ごとに整理しておくことは、依存症の病態理解だけでなく、統合失調症との鑑別や長期的な再発予防支援を考えるうえでも役立ちます。

解答・解説

正解はcです

問われていること

精神作用物質の反復使用によって生じる「逆耐性現象」の概念と、それが典型的にみられる物質を問う問題である。

耐性と逆耐性

耐性とは、同じ物質を繰り返し使ううちに効果が弱まり、以前と同じ効果を得るためにより多くの量が必要になる現象である。肝臓での代謝が速くなる代謝耐性と、受容体の数や感受性が変化して効きにくくなる機能耐性(組織耐性)がある。また、ある物質に耐性が生じると、作用機序の似た別の物質にも効きにくくなることがあり、これを交叉耐性という。 これに対して逆耐性現象(感作、sensitization)とは、反復使用によってむしろ物質に対する反応が強くなり、以前より少ない量で同じ、あるいはより強い症状が出るようになる現象である。

覚醒剤精神病と逆耐性

メタンフェタミンやアンフェタミンなどの覚醒剤は、ドパミンなどのモノアミンの放出を促し再取り込みを阻害して、中枢のドパミン神経伝達を強める。乱用を続けると、幻覚(幻聴が多い)や被害妄想・追跡妄想を主体とする統合失調症に類似した精神病状態(覚醒剤精神病)を呈する。使用を重ねるほど、少量の再使用でも短期間で精神病症状が再燃しやすくなり、これが逆耐性現象の代表例である。中脳辺縁系ドパミン系の過敏化が関与すると考えられている。さらに、断薬後かなりの期間を経ても、覚醒剤を使わずに飲酒・不眠・心理的ストレスなどをきっかけとして精神病症状がぶり返すことがあり、これをフラッシュバック(自然再燃)とよぶ。逆耐性と同じ基盤をもつ現象と理解されている。 したがって、逆耐性現象を示す代表として覚醒剤精神病を選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  大麻精神病

    誤り。大麻(主成分のテトラヒドロカンナビノール、THC)はカンナビノイドCB1受容体に作用し、多幸感、知覚の変容、時間感覚の変化などをもたらす。乱用により幻覚・妄想などの精神病症状や、意欲が低下する動因喪失症候群をきたすことがある。かつては耐性がほとんどできないとされたが、現在では連用により耐性や離脱症状(いらいら、不眠、食欲低下など)が生じうることが知られている。逆耐性現象の代表とはされない。

  2. ×b.  LSD精神病

    誤り。LSD(リゼルグ酸ジエチルアミド)はセロトニン5-HT2A受容体を刺激する幻覚剤で、色彩の鮮明化や形の歪みなどの視覚性の幻覚・錯覚が目立つ。連用すると数日のうちに急速に耐性が生じ、シロシビンなどほかの幻覚剤と交叉耐性を示す。使用中止後に知覚の異常が再び現れるフラッシュバック(幻覚剤持続性知覚障害)はみられるが、反復使用で少量でも効くようになる逆耐性は示さない。

  3. ○c.  覚醒剤精神病

    正しい。覚醒剤(メタンフェタミン、アンフェタミン)の反復使用により、ドパミン神経系が過敏になり、以前より少ない量でも幻覚・妄想が出現し、再燃までの期間も短くなる。これが逆耐性現象の代表例である。断薬後も飲酒やストレス、不眠などを契機に精神病症状が再燃するフラッシュバック(自然再燃)を起こしやすく、これも逆耐性と共通の機序で説明される。覚醒剤精神病では意識清明下に幻聴、被害・追跡妄想が出現し、統合失調症との鑑別が問題になる。治療には抗精神病薬を用いる。

  4. ×d.  コカイン精神病

    誤り。コカインはドパミン・ノルアドレナリン・セロトニンの再取り込みを阻害する中枢刺激薬で、乱用により皮膚の下を虫が這うような体感幻覚(コカイン虫)や被害妄想などを呈する。作用時間が短く、短時間の反復使用で多幸感が弱まる急性耐性がみられる。同じ中枢刺激薬であるため動物実験などでは感作が報告されているが、臨床的に逆耐性現象の典型として扱われるのは覚醒剤であり、本問では選ばない。

  5. ×e.  アルコール精神病

    誤り。アルコールは長期の大量飲酒により代謝耐性(肝ミクロソームのエタノール酸化系の誘導)と機能耐性が生じ、ベンゾジアゼピン系薬やバルビツール酸系薬と交叉耐性を示す。この交叉耐性を利用して、離脱症状(振戦せん妄など)の予防・治療にベンゾジアゼピン系薬を用いる。アルコール関連の精神病状態には、振戦せん妄、アルコール幻覚症(意識清明下の幻聴)、嫉妬妄想、ウェルニッケ脳症に続くコルサコフ症候群などがある。進行した肝障害で少量でも酔うようになることがあるが、これは代謝能の低下による耐性の減弱であり、逆耐性現象ではない。

主な依存性物質の特徴(概要)

・アルコール:精神依存・身体依存・耐性あり。離脱で振戦せん妄。ベンゾジアゼピン系薬と交叉耐性。 ・ベンゾジアゼピン系薬・バルビツール酸系薬:精神依存・身体依存・耐性あり。急な中止で離脱症状(不安、不眠、けいれん)。 ・オピオイド(モルヒネ、ヘロイン):精神依存・身体依存・耐性とも強い。離脱で流涙、鼻漏、散瞳、下痢、立毛など。 ・覚醒剤(メタンフェタミン、アンフェタミン):精神依存が強い。身体依存は乏しい。逆耐性とフラッシュバックが特徴。中止後に過眠・抑うつ・脱力など(いわゆる反跳現象)がみられる。 ・コカイン:精神依存が強い。身体依存は乏しい。体感幻覚(コカイン虫)。 ・大麻:主に精神依存。動因喪失症候群。 ・LSDなどの幻覚剤:精神依存は比較的弱く、身体依存はない。急速な耐性、フラッシュバック。 ・有機溶剤(シンナー):精神依存、動因喪失症候群、視覚性の幻覚。

用語の整理

・耐性:反復使用で効果が減弱する。 ・交叉耐性:ある物質への耐性が、類似物質にも及ぶ。 ・逆耐性(感作):反復使用で効果・症状がかえって強く出るようになる。 ・フラッシュバック(自然再燃):使用中止後、物質を使わなくてもストレスや飲酒などを契機に以前の症状が再現する。

POINT

・逆耐性現象=反復使用で感受性が高まり、少量でも症状が出るようになる現象 ・代表は覚醒剤精神病(ドパミン系の感作) ・覚醒剤精神病は意識清明下の幻聴・被害妄想が主体で、統合失調症に類似する ・断薬後も飲酒やストレスで症状が再燃するフラッシュバック(自然再燃)を伴う ・アルコールはベンゾジアゼピン系薬と交叉耐性、LSDは急速な耐性

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。