その数字はt-PAを止めるか―閾値で読み解く血栓溶解療法の禁忌
第110回医師国家試験 I問題 第10問
国試問題にチャレンジ
急性期の脳梗塞でt-PA〈tissue plasminogen activator〉の投与が禁忌となる検査値はどれか。
- a.血糖200 mg/dL
- b.血小板15万/mm3
- c.収縮期血圧180 mmHg
- d.PT-INR 2.0(基準0.9~1.1)
- e.NIHSS〈NIH stroke scale〉20/42点
対話形式の解説
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ドクターまとめ
t-PA(アルテプラーゼ)静注療法は発症4.5時間以内の急性期脳梗塞に行う血栓溶解療法で、最大の合併症である症候性頭蓋内出血を避けるため、出血リスクの高い患者を除外する禁忌項目が定められています。検査値では血糖50mg/dL未満または400mg/dL超、血小板10万/mm3以下、PT-INR 1.7超、aPTTの著明な延長が禁忌で、ワルファリン内服中の心原性脳塞栓症でPT-INRが延長している場合が典型例です。血圧は降圧療法後も収縮期185mmHg以上または拡張期110mmHg以上が続く場合に禁忌となり、NIHSS 26点以上の重症例は禁忌ではなく慎重投与にとどまります。t-PAが使えない場合でも主幹動脈閉塞なら機械的血栓回収療法が選択肢となります。閾値の数値と「禁忌か慎重投与か」の区別を正確に押さえることが、時間との勝負である脳卒中救急で迷わず判断するための基盤になります。
解答・解説
正解はdです
テーマの要点
t-PA(組織プラスミノゲンアクチベーター、わが国で用いられる製剤はアルテプラーゼ)の静注による血栓溶解療法は、詰まった血栓を溶かして脳血流を再開させる治療で、発症(または最終健常確認時刻)から4.5時間以内に開始できる急性期脳梗塞が対象となる。機能予後を改善する一方、最大の合併症は症候性頭蓋内出血であり、出血リスクの高い患者を除外するために、わが国の適正治療指針では「適応外(禁忌)」と「慎重投与」の項目が細かく定められている。
血液検査・バイタルに関する主な基準
適応外(禁忌) ・血糖異常:50mg/dL未満、または400mg/dLを超える ・血小板:10万/mm3以下 ・抗凝固療法中・凝固異常症:PT-INRが1.7を超える、またはaPTTが前値の1.5倍(目安として約40秒)を超える ・血圧:適切な降圧療法を行っても収縮期185mmHg以上、または拡張期110mmHg以上が持続する 慎重投与 ・NIHSS(NIH脳卒中スケール)26点以上の重症例、81歳以上の高齢者など
正解を導く考え方
各選択肢の数値を上記の閾値と照らし合わせる。境界値の向き(「以上」か「を超える」か)と、降圧後の血圧で判断する点に注意する。基準値を外れているのはPT-INR 2.0のみであり、これが禁忌となる。
選択肢考察
- ×a. 血糖200 mg/dL
禁忌となる血糖異常は50mg/dL未満または400mg/dL超であり、200mg/dLは該当しない。低血糖は片麻痺など脳卒中に似た症状を起こすことがあり(stroke mimic)、高度の高血糖は出血性変化や転帰不良と関連するため、これらの極端な値が除外基準となっている。200mg/dL程度の高血糖は投与可能であり、血糖管理を併行して行う。
- ×b. 血小板15万/mm3
禁忌となるのは血小板10万/mm3以下である。15万/mm3はほぼ正常範囲(およそ15万〜35万/mm3)であり、出血リスクは高くないため投与可能である。
- ×c. 収縮期血圧180 mmHg
禁忌となるのは、降圧療法を行っても収縮期185mmHg以上または拡張期110mmHg以上が続く場合である。180mmHgはこの閾値を下回るため投与可能である。なお、血栓溶解療法を行う場合は投与中・投与後も出血予防のため180/105mmHg未満に管理する。t-PAを使わない脳梗塞急性期では、脳灌流を保つため原則として降圧は控え、収縮期220mmHgまたは拡張期120mmHgを超える高血圧が持続する場合などに限って慎重に降圧する。
- ○d. PT-INR 2.0(基準0.9~1.1)
PT-INR(プロトロンビン時間の国際標準比)は外因系・共通系の凝固能を反映し、ワルファリン内服中の効果判定に用いられる。PT-INRが1.7を超える場合は凝固能が大きく低下しており、t-PAによる線溶亢進が加わると頭蓋内出血のリスクが著しく高まるため適応外(禁忌)とされる。2.0はこの基準を超えるため投与できない。心房細動などでワルファリンを内服している患者の心原性脳塞栓症でしばしば問題となる。この場合は血管内治療(機械的血栓回収療法)の適応を検討する。
- ×e. NIHSS〈NIH stroke scale〉20/42点
NIHSSは意識、視野、眼球運動、顔面麻痺、上下肢の運動、失調、感覚、言語、構音、消去・無視の項目からなる脳卒中の重症度評価尺度で、0〜42点で点数が高いほど重症である。投与前のNIHSSは転帰を左右する因子であり、26点以上の重症例は出血リスクが高く転帰も不良なため慎重投与とされているが、禁忌ではない。20点は慎重投与にも該当せず、むしろ中等度〜重症で治療効果が期待できる対象である。
静注血栓溶解療法の主な適応外(禁忌)項目
・発症から4.5時間を超える(発症時刻不明でも、MRIの拡散強調画像とFLAIR画像の所見の乖離〈DWI-FLAIRミスマッチ〉から発症4.5時間以内と推定できれば適応となりうる) ・既往歴:非外傷性頭蓋内出血、1か月以内の脳梗塞(一過性脳虚血発作は除く)、3か月以内の重篤な頭部・脊髄外傷または手術、21日以内の消化管・尿路出血、14日以内の大手術や頭部以外の重篤な外傷、治療薬への過敏症 ・臨床所見:くも膜下出血(疑いを含む)、急性大動脈解離の合併、出血の合併(頭蓋内・消化管・尿路・後腹膜・喀血)、コントロール不良の高血圧、重篤な肝障害、急性膵炎、感染性心内膜炎 ・血液所見:血糖50mg/dL未満または400mg/dL超、血小板10万/mm3以下、PT-INR 1.7超、aPTT延長(前値の1.5倍〈目安として約40秒〉超)、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の最終内服から4時間以内 ・画像所見:CTで広範な早期虚血性変化、圧排所見(正中構造偏位)
主な慎重投与項目
81歳以上、NIHSS 26点以上の重症例または軽症で急速に改善している例、10日以内の生検・外傷、3か月以上前の脳梗塞、蛋白製剤アレルギー、消化管潰瘍・憩室炎、脳動脈瘤・頭蓋内腫瘍・脳動静脈奇形、月経期間・妊娠分娩後早期、重篤な腎障害、コントロール不良の糖尿病、抗血栓薬投与中など。
脳梗塞急性期の再開通療法の位置づけ
主幹動脈閉塞がある場合は、t-PA静注療法に加えて、カテーテルで血栓を回収する機械的血栓回収療法を行う。血栓回収療法は原則として発症6時間以内が対象であるが、画像で救済可能な脳組織が残っていると判断されれば発症24時間以内でも適応となりうる。t-PAが禁忌の患者でも血栓回収療法は選択肢となる。
脳梗塞急性期の血圧管理
・t-PAを使用しない場合:収縮期220mmHgまたは拡張期120mmHgを超える高血圧が持続する場合、あるいは大動脈解離・急性心筋梗塞・心不全などを合併する場合に慎重に降圧する。 ・t-PAを使用する場合:投与前に185/110mmHg未満へ降圧し、投与開始後24時間は180/105mmHg未満に保つ。
POINT
・t-PA静注療法は発症4.5時間以内の脳梗塞が対象で、最大の合併症は症候性頭蓋内出血。 ・禁忌の検査値:血糖<50または>400mg/dL、血小板≦10万/mm3、PT-INR>1.7、aPTT前値の1.5倍超(約40秒超)。 ・血圧:降圧療法後も収縮期≧185mmHgまたは拡張期≧110mmHgなら禁忌。 ・NIHSS 26点以上は慎重投与であり、禁忌ではない。
