一生枯れない血液の泉―造血幹細胞を支える「多分化能」と「自己複製能」
第110回医師国家試験 G問題 第36問
国試問題にチャレンジ
造血幹細胞について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.多分化能を有する。
- b.自己複製能を有する。
- c.次第に老化し枯渇する。
- d.骨髄微小環境との相互関係はない。
- e.ほとんどが細胞周期の分裂期にある。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
造血幹細胞は骨髄に存在し、すべての血球系統へ分化できる多分化能と、分裂しても幹細胞自身を維持できる自己複製能という2つの性質をもちます。大部分は細胞周期の静止期(G0期)にとどまって消耗を避け、需要が高まると一部が細胞周期に動員されるため、加齢による機能的変化はあっても通常の生涯で枯渇することはありません。また、ストローマ細胞・骨芽細胞・血管内皮細胞などからなる骨髄ニッチとの接着やSCF・CXCL12などの因子を介した相互作用により、その性質が維持・制御されています。造血幹細胞移植で少数の細胞から全血球系の造血が長期に再構築されるのは、これらの性質とニッチへのホーミングによるものです。幹細胞の基本的性質を理解することは、移植医療や再生不良性貧血、骨髄系腫瘍など幅広い血液疾患を学ぶ土台となります。
解答・解説
正解はa, bです
造血幹細胞(hematopoietic stem cell:HSC)は、骨髄に存在し、すべての血球の源となる細胞である。幹細胞を定義する2つの性質が「多分化能」と「自己複製能」であり、本問はこの基本を問うている。 ①多分化能:赤血球、顆粒球・単球、血小板(巨核球)、リンパ球といったすべての血球系統へ分化できる能力。 ②自己複製能:分裂した際に、少なくとも一方の娘細胞が元と同じ幹細胞としての性質を保つ能力。これにより幹細胞の数(プール)が維持される。 さらに、造血幹細胞の生理的な特徴として、③大部分は細胞周期の静止期(G0期)にとどまっており、必要に応じて一部が細胞周期に入って分裂・分化すること、④骨髄の微小環境(ニッチ)を構成する細胞との接着やサイトカインのやりとりによって、静止状態や幹細胞性が維持・制御されていること、が挙げられる。 これらの性質があるため、通常の生涯を通じて造血幹細胞が使い果たされることはない。また、造血幹細胞移植で少数の幹細胞を輸注するだけで全血球系の造血が長期にわたって再構築されるのも、多分化能と自己複製能、そして骨髄ニッチへの生着によるものである。
選択肢考察
- ○a. 多分化能を有する。
造血幹細胞は、骨髄系前駆細胞(赤血球・顆粒球・単球・巨核球系へ向かう)とリンパ系前駆細胞(T細胞・B細胞・NK細胞へ向かう)の双方を生み出し、最終的にすべての血球へ分化できる。この多分化能があるため、造血幹細胞移植では赤血球・白血球・血小板の全系統の造血が回復する。
- ○b. 自己複製能を有する。
造血幹細胞は、分裂時に幹細胞自身を再生しながら(非対称分裂、あるいは状況に応じた対称分裂)、分化へ向かう細胞も生み出す。もし自己複製能がなければ、分化するたびに幹細胞が減り、やがて造血は途絶えてしまう。移植後に造血が一時的でなく永続的に維持されるのは、この自己複製能によるものである。
- ×c. 次第に老化し枯渇する。
造血幹細胞は自己複製能をもち、大部分が静止期にあって無駄な分裂を避けているため、通常の生涯の間に枯渇することはない。テロメア長を保つ酵素であるテロメラーゼの活性をある程度有することも、分裂寿命の維持に寄与している。なお、加齢に伴い造血幹細胞にも機能的な変化(骨髄系への分化の偏り、遺伝子変異をもつクローンの拡大など)は生じるが、「老化して枯渇する」ものではない。
- ×d. 骨髄微小環境との相互関係はない。
造血幹細胞は、骨髄の微小環境(造血ニッチ)を構成するストローマ細胞(間葉系間質細胞、細網細胞)、骨芽細胞、血管内皮細胞などと密接に関わっている。これらの細胞との接着分子を介した結合や、SCF(幹細胞因子)、CXCL12(SDF-1)などの因子のやりとりによって、静止状態の維持、自己複製、分化が制御されている。経静脈的に輸注された幹細胞が骨髄に戻って生着(ホーミング)できるのも、この相互作用による。
- ×e. ほとんどが細胞周期の分裂期にある。
造血幹細胞の大部分は細胞周期から離れた静止期(G0期)にあり、ゆっくりとしか分裂しない。出血や感染、骨髄抑制などで血球の需要が高まると、造血因子の刺激によって一部が細胞周期に動員され、分裂・分化して血球産生に加わる。静止期にあることは、DNA複製に伴う損傷の蓄積や幹細胞の消耗を防ぐうえで重要であり、細胞周期依存性の抗がん薬に比較的抵抗性である理由の一つでもある。
造血の階層構造
造血幹細胞 → 多能性前駆細胞 → 骨髄系共通前駆細胞(CMP)/リンパ系共通前駆細胞(CLP)→ 各系統の前駆細胞 → 成熟血球、という階層をなす。分化が進むほど自己複製能と多分化能は失われ、増殖して数を増やす役割が中心となる。
造血幹細胞の表面マーカー
ヒトの造血幹細胞はCD34陽性の細胞分画に含まれる。造血幹細胞移植の際、移植片に含まれる幹細胞量の指標としてCD34陽性細胞数が用いられる。
造血幹細胞の採取源
・骨髄:腸骨から骨髄液を採取する。 ・末梢血:G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)などで幹細胞を骨髄から末梢血へ動員し、アフェレーシスで採取する。G-CSFによる動員は、骨髄ニッチとの結合(CXCL12-CXCR4系など)が緩むことを利用している。 ・臍帯血:出生時の臍帯・胎盤血から採取・凍結保存する。
造血幹細胞の異常と疾患
・再生不良性貧血:造血幹細胞の減少(多くは免疫学的機序による)により汎血球減少をきたす。 ・骨髄異形成症候群、骨髄増殖性腫瘍、慢性骨髄性白血病など:造血幹細胞レベルの遺伝子異常によるクローン性疾患である。 ・加齢に伴い、白血病関連遺伝子の変異をもつ造血幹細胞クローンが拡大する現象(CHIP:clonal hematopoiesis of indeterminate potential)が知られている。
POINT
・幹細胞の2大特性は「多分化能」と「自己複製能」。 ・造血幹細胞の大部分は静止期(G0期)にあり、必要時に細胞周期へ動員される。 ・骨髄微小環境(ニッチ)のストローマ細胞・骨芽細胞・血管内皮細胞との相互作用で維持・制御される。 ・通常の生涯で枯渇することはない。 ・造血幹細胞移植が成立するのは、多分化能・自己複製能と骨髄ニッチへの生着(ホーミング)による。
