「男性・縊首・健康問題」―数字で読み解く日本の自殺の現状
第110回医師国家試験 G問題 第35問
国試問題にチャレンジ
我が国の自殺の現状について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.性別では女性が多い。
- b.手段では縊首が最も多い。
- c.動機では健康問題が最も多い。
- d.年間自殺者数は2万人以下になっている。
- e.人口10万人あたりの自殺者数は先進7か国で最も少ない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
我が国の自殺者は男性が女性の2倍以上で、手段は縊首(首つり)が約3分の2以上を占めて最多、原因・動機は判明したものの中で健康問題(特にうつ病などの精神疾患)が最も多いのが特徴です。自殺者数は1998〜2011年に3万人台が続いた後に減少しましたが、近年も2万人をやや上回る水準で、人口10万人あたりの自殺死亡率はG7で最も高く、若年層の死因第1位が自殺である点も日本の特徴です。自殺未遂や自殺念慮は女性に多いことと既遂者の男女比を混同しないよう注意が必要です。自殺未遂の既往は強い危険因子であり、精神疾患の早期発見・治療やゲートキーパーとしての関わりは、診療科を問わず医師に求められる役割です。統計の特徴を正確に押さえることは、国家試験対策にとどまらず、日常診療で自殺のリスクに気づく力の土台になります。
解答・解説
正解はb, cです
我が国の自殺の統計は、主に厚生労働省の人口動態統計(死亡診断書・死体検案書に基づく、日本における日本人が対象)と、警察庁の自殺統計(警察の捜査資料に基づき、在日外国人も含む)の2系統で把握されている。両者は集計対象や計上時点が異なるため数値はわずかに違うが、傾向は共通している。原因・動機は警察庁の統計で集計されている。 押さえるべき特徴は次のとおりである。 ①性別:男性が女性の約2倍以上と多い。 ②手段:首つり(縊首)が最も多く、全体の約3分の2以上を占める。 ③原因・動機:判明したもののなかでは健康問題(うつ病などの精神疾患や身体疾患の悩み)が最も多く、経済・生活問題、家庭問題、勤務問題が続く。 ④年次推移:1998年に急増して3万人を超え、2011年まで3万人台が続いた。その後は減少し、近年は2万人をわずかに上回る水準で推移している。 ⑤国際比較:人口10万人あたりの自殺死亡率は先進7か国(G7)の中で最も高い。 これらに照らすと、手段(縊首が最多)と動機(健康問題が最多)に関する記述が正しい。
選択肢考察
- ×a. 性別では女性が多い。
自殺者は男性の方が多く、例年おおむね男性:女性=2〜2.5:1程度で推移している。2014年(平成26年)の人口動態統計では、男性約1万7千人、女性約7千5百人と男性が2倍以上であった。なお、自殺未遂者や自殺念慮の訴えは女性に多い傾向がある点と混同しないようにする。
- ○b. 手段では縊首が最も多い。
縊首(いしゅ)は首つりのことで、縊頸・縊死とほぼ同義に用いられる。自殺の手段としては首つりが圧倒的に多く、全体の約3分の2以上を占める。次いで飛び降り、練炭などによるガス中毒(一酸化炭素中毒)、溺死、服毒などが続く。男女ともに首つりが最多である。
- ○c. 動機では健康問題が最も多い。
警察庁の統計では、原因・動機が特定できた自殺者のうち健康問題が最も多く、約6〜7割に関係している。健康問題の内訳ではうつ病をはじめとする精神疾患が多く、自殺と精神疾患との関連の強さを示している。次いで経済・生活問題、家庭問題、勤務問題の順である。なお原因・動機は一人について複数計上されるため、各項目の割合を合計すると100%を超える。
- ×d. 年間自殺者数は2万人以下になっている。
自殺者数は1998年に急増して初めて3万人を超え、2011年まで14年連続で3万人台が続いた。2006年の自殺対策基本法制定などの対策もあり2012年以降は3万人を下回って減少したが、2014年(平成26年)の人口動態統計では約2万4千人であった。その後も減少を続けたものの、新型コロナウイルス感染症の流行期の2020年には一時増加に転じ、近年も2万人をわずかに上回る水準で推移しており、2万人以下にはなっていない。
- ×e. 人口10万人あたりの自殺者数は先進7か国で最も少ない。
日本の自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺者数)は、G7(日本、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ)の中で最も高い。また、若い世代(15〜39歳)で死因の第1位が自殺であるのはG7の中で日本のみであり、若年層の自殺対策が重要な課題とされている。
自殺の統計の2系統
・人口動態統計(厚生労働省):日本における日本人を対象とし、死亡診断書・死体検案書に基づく。 ・自殺統計(警察庁):外国人も含めた総人口を対象とし、発見地・発見日で計上する。原因・動機や職業などの詳細が集計される。
年齢・職業などの特徴
・自殺者数は中高年(40〜50歳代)で多い一方、10〜30歳代では死因の第1位が自殺である。 ・職業別では無職者が最も多い。 ・月別では春(3〜5月頃)にやや多い傾向がある。
自殺対策
・自殺対策基本法(2006年制定、2016年改正):自殺を個人の問題ではなく社会の問題と位置付け、国・地方公共団体の責務を定めた。2016年の改正で、都道府県と市町村はそれぞれ、国の自殺総合対策大綱や地域の実情を踏まえた地域自殺対策計画を定めるものとされた。 ・自殺総合対策大綱:国の自殺対策の指針。自殺死亡率を2015年比で30%以上減少させることを数値目標としている。 ・ゲートキーパー:悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聴き、必要な支援につなげ、見守る役割を担う人。医療者だけでなく一般住民にも養成が進められている。
医療現場との関わり
自殺者の多くは死の直前に何らかの精神疾患(特にうつ病)の状態にあったとされ、精神疾患の早期発見・治療が重要である。また、自殺未遂の既往は最も強い自殺の危険因子の一つであり、救急外来を受診した自殺未遂者への精神科的介入と継続支援が再企図防止に有効とされる。
POINT
・自殺者は男性が女性の約2倍以上。 ・手段は首つり(縊首)が最多で、約3分の2以上を占める。 ・原因・動機は健康問題(うつ病など)が最多。 ・1998〜2011年は3万人超、その後減少したが、近年も2万人をやや上回る水準。 ・自殺死亡率はG7で最も高く、15〜39歳の死因第1位が自殺であるのはG7で日本のみ。
