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その症状、どの「心の働き」の故障?―精神症候学の地図を描き直す

第110回医師国家試験 G問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第110回 G問題 第34問

精神機能とその障害による精神症状との組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.意識 ―― 幻覚
  2. b.感情 ―― 昏迷
  3. c.気質 ―― 感情失禁
  4. d.思路 ―― 連合弛緩
  5. e.自我意識 ―― 離人症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、精神症状をどの精神機能の障害として捉えるか、という精神症候学の基本を問う問題だ。精神科では心の働きを意識、知覚、思考、感情、意欲・行動、自我意識、記憶、知能といった機能に分けて、それぞれの障害として症状を整理する。この「地図」が頭に入っているかがポイントだよ。
医学生医学生
精神医学の講義で一覧表をもらいましたが、正直、幻覚あたりは意識の障害のような気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこは典型的な引っかけだね。幻覚は「対象なき知覚」、つまり実在しないものを見たり聞いたりしてしまう現象だから、知覚の障害に分類される。幻聴や幻視、体感幻覚などがそうだ。
医学生医学生
でも、せん妄の患者さんは幻視を見ますよね。内科の実習で、夜間に「虫がいる」と訴える高齢の方がいました。
ドクタードクター
いい経験だね。確かにせん妄のような意識障害に伴って幻視が出ることはある。ただ、それは意識障害の上に知覚の障害が重なっているのであって、幻覚そのものは意識の障害ではない。意識の障害に属するのは、傾眠や昏睡などの意識混濁、せん妄やもうろう状態といった意識変容、それに意識狭窄だ。
医学生医学生
なるほど、併存するのと分類は別なんですね。昏迷はどうでしょう。うつ病で動けなくなるイメージがあるので、感情の障害かと思いました。
ドクタードクター
そう考える人は多いよ。昏迷は、意識は保たれているのに外からの刺激にほとんど反応せず、自分から話したり動いたりもしない状態だ。発動性が落ちているので、意欲・行動の障害に分類される。統合失調症の緊張病、うつ病、解離性障害などでみられる。感情の障害は、抑うつ気分、爽快気分、感情鈍麻、両価性などだね。
医学生医学生
感情失禁は感情の障害ですよね。でも組合せの相手が「気質」になっていて、ちょっと混乱しました。
ドクタードクター
ここは同音異義語の罠だ。「気質」は性格のうち生まれつきの素質的な部分を指す言葉で、精神機能の障害区分ではない。一方、感情失禁はわずかな刺激で泣いたり笑ったりして感情の表出を抑えられない状態で、脳血管性認知症など脳の「器質」性疾患でよくみられる。感情失禁は感情の調節の障害と覚えておこう。
医学生医学生
神経内科の実習で、脳梗塞後の患者さんが急に泣き出してしまうのを見ました。あれが感情失禁だったんですね。では、連合弛緩は思考の流れの障害でしょうか。
ドクタードクター
正解。思路とは、考えを筋道立ててつなげていく思考の流れのことだ。連合弛緩は観念どうしのつながりが緩んで話のまとまりが悪くなる状態で、進むと話の筋がまったく追えない滅裂思考になる。統合失調症に特徴的な思路障害だよ。
医学生医学生
思路の障害には、躁状態の観念奔逸や、うつ状態の思考制止もありましたよね。
ドクタードクター
よく整理できているね。ほかに統合失調症の思考途絶、てんかんや認知症でみられる迂遠、保続なども思路の障害だ。妄想は思考内容の障害なので、思路とは区別しておこう。最後に離人症はどうだろう。
医学生医学生
「自分が自分でない感じ」と訴える症状なので、自我意識の障害だと思います。
ドクタードクター
その通り。離人症では、自分の思考や身体、周囲の世界に対する実感が失われて、「周りがガラス越しに見えるようだ」などと訴える。自分が体験しているという能動性や実在感が損なわれているから、自我意識の障害だ。離人感・現実感消失症のほか、うつ病、統合失調症、不安症などでもみられる。
医学生医学生
つまり、正しいのは思路と連合弛緩、自我意識と離人症の組合せですね。幻覚は知覚、昏迷は意欲・行動、感情失禁は感情と、分類し直せば迷いません。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、ヤスパースの自我意識の4標識も押さえておこう。能動性、単一性、同一性、そして外界や他人との境界の意識だ。離人症は主に能動性・実在感の障害、統合失調症の作為体験、いわゆるさせられ体験は能動性と自我境界の障害として理解される。
医学生医学生
OSCEの医療面接で精神症状を聞き取るときも、どの機能の障害かを意識するとカルテに書きやすくなりそうです。
ドクタードクター
まさにそこが大事なんだ。症状を正しい機能に位置づけて記載できると、所見の共有がスムーズになり、鑑別診断の筋道も立てやすくなる。たとえば同じ「話がまとまらない」でも、意識障害による思考のまとまりのなさなのか、連合弛緩なのかで考える疾患が大きく変わるからね。

まとめ

精神症候学では、精神の働きを意識・知覚・思考・感情・意欲・行動・自我意識・記憶・知能などの機能に分け、症状をそれぞれの障害として整理します。連合弛緩は思考の流れである思路の障害で統合失調症に特徴的であり、離人症は自分や外界の実感が失われる自我意識の障害です。幻覚は知覚、昏迷は意欲・行動、感情失禁は感情の障害であり、せん妄に幻視が伴うように症状が併存しても分類自体は変わりません。また「気質(生来の性格素因)」と「器質(脳の器質的病変)」の混同には注意が必要で、感情失禁は脳血管性認知症などの器質性疾患に多くみられます。症状を正しい精神機能に位置づける力は、精神科の所見記載と鑑別診断の土台となります。

解答・解説

正解はd, eです

精神科の症候学(精神症状学)では、精神の働きを「意識」「知覚」「思考(思路・思考内容・思考体験)」「感情」「意欲・行動」「自我意識」「記憶」「知能」などの機能に分けて考え、それぞれの機能が障害されたときに現れる症状を整理する。症状をどの機能の障害として捉えるかを正しく理解しておくことは、診察所見の記載や鑑別診断の土台になる。 本問では各選択肢の症状がどの精神機能の障害に属するかを一つずつ確認すればよい。幻覚は知覚、昏迷は意欲・行動、感情失禁は感情の障害である。一方、連合弛緩は思路(思考の流れ・筋道)の障害、離人症は自我意識の障害であり、この2つの組合せが正しい。 なお選択肢cの「気質」は、性格のうち生まれつきの素因的な部分を指す言葉であり、脳の器質的病変を意味する「器質」とは別の語である。感情失禁は脳血管障害など「器質」性疾患でよくみられるため、同音異義語による引っかけに注意したい。

選択肢考察

  1. ×a.  意識 ―― 幻覚

    幻覚は、実在しない対象を知覚してしまう現象(対象なき知覚)であり、知覚の障害に分類される。幻聴・幻視・体感幻覚などがある。せん妄のように意識障害に伴って幻視が出現することはあるが、幻覚そのものは意識の障害ではない。意識の障害に属するのは、意識混濁(傾眠・昏睡など)や意識変容(せん妄・もうろう状態)、意識狭窄である。

  2. ×b.  感情 ―― 昏迷

    昏迷は、意識は保たれているにもかかわらず、外界からの刺激にほとんど反応せず、自発的な言動もみられない状態であり、意欲・行動(発動性)の障害に分類される。統合失調症(緊張病)、うつ病、解離性障害などでみられる。感情の障害としては、抑うつ気分、爽快気分、感情鈍麻、感情失禁、両価性などが挙げられる。

  3. ×c.  気質 ―― 感情失禁

    感情失禁は、わずかな刺激で泣いたり笑ったりして感情の表出を抑えられない状態であり、感情(の調節)の障害に分類される。脳血管性認知症など脳の器質性疾患で多くみられる。「気質」は性格を構成する要素のうち生来の素質的な部分を指す概念で、精神機能の障害区分として感情失禁と対応するものではない。

  4. ○d.  思路 ―― 連合弛緩

    思路とは、考えを筋道立ててつなげていく思考の流れのことである。連合弛緩は、観念どうしのつながりが緩み、話のまとまりが悪くなる状態で、さらに進むと話の筋がまったく追えない滅裂思考となる。統合失調症に特徴的な思路障害である。思路の障害には、ほかに観念奔逸(躁状態)、思考制止(うつ状態)、思考途絶(統合失調症)、迂遠(てんかん・認知症など)、保続などがある。

  5. ○e.  自我意識 ―― 離人症

    離人症(離人感)は、自分自身の思考や身体、あるいは周囲の世界に対する実感が失われ、「自分が自分でないようだ」「周りがガラス越しに見えて生き生きと感じられない」と訴える状態である。自分が体験しているという感覚(能動性・実在感)が障害されており、自我意識の障害に分類される。離人感・現実感消失症のほか、うつ病、統合失調症、不安症などでもみられる。

主な精神機能と代表的な症状

・意識:意識混濁(傾眠・昏睡)、せん妄、もうろう状態、意識狭窄 ・知覚:幻覚(幻聴・幻視・体感幻覚など)、錯覚 ・思考  思路(形式)の障害:連合弛緩、滅裂思考、観念奔逸、思考制止、思考途絶、迂遠、保続  思考内容の障害:妄想(被害妄想、誇大妄想、微小妄想など)、強迫観念、支配観念  思考体験の障害:思考吹入、思考奪取、思考伝播(これらは自我障害としても扱われる) ・感情:抑うつ気分、爽快気分、不安、感情鈍麻、感情失禁、両価性 ・意欲・行動:昏迷、精神運動興奮、無為、緊張病症状(カタレプシー、拒絶症、常同症など) ・自我意識:離人症、作為体験(させられ体験)、二重身、解離 ・記憶:健忘、作話、記銘力障害 ・知能:知的障害(知的能力障害)、認知症

自我意識の4つの標識(ヤスパース)

①能動性(自分が考え行動しているという意識)、②単一性(自分は一人であるという意識)、③同一性(過去と現在の自分は同じであるという意識)、④外界と他人に対する自我の境界の意識。離人症は主に能動性・実在感の障害、作為体験は能動性と自我境界の障害として理解される。

POINT

・幻覚は「知覚」、昏迷は「意欲・行動」、感情失禁は「感情」の障害。 ・連合弛緩・滅裂思考・観念奔逸・思考制止・思考途絶は「思路」の障害。 ・離人症・作為体験は「自我意識」の障害。 ・「気質(生来の性格素因)」と「器質(脳の器質的病変)」の混同に注意。感情失禁は器質性疾患(脳血管性認知症など)に多い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。