1か月健診の仕分け術―「今あって当然」と「今あってはいけない」を見抜く
第110回医師国家試験 G問題 第37問
国試問題にチャレンジ
生後1か月の健康診査で経過観察として良いのはどれか。2つ選べ。
- a.後弓反張
- b.大泉門閉鎖
- c.Moro反射陽性
- d.股関節開排制限
- e.サーモンパッチ
対話形式の解説
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ドクターまとめ
生後1か月の健康診査では、所見がその月齢の正常発達に含まれるかどうかで経過観察と精査を仕分けます。Moro反射は出生時から生後4か月ごろまで見られる原始反射で、1か月での陽性は正常であり、むしろ欠如や左右差、消失遅延が異常のサインです。サーモンパッチは顔面正中の毛細血管拡張による淡紅色斑で、多くが1〜2歳ごろまでに自然消退するため経過観察でよく、自然に消えないポートワイン母斑とは区別します。一方、後弓反張は髄膜炎や核黄疸などの中枢神経障害、1か月での大泉門閉鎖は小頭症や頭蓋縫合早期癒合症、股関節開排制限は発育性股関節形成不全を疑い、いずれも速やかな精査が必要です。正常範囲を確実に知っておくことは、異常の早期発見と保護者への適切な説明の両方に直結します。
解答・解説
正解はc, eです
この問題で問われていること
生後1か月の健康診査(1か月健診)は、出生後に初めて行う本格的な乳児健診であり、先天異常や周産期の障害を早く見つけて治療や精査につなげることが大きな目的である。本問では、5つの所見を「その月齢で正常または自然に消える所見(=経過観察でよい)」と「病気を示し、精査や治療が必要な所見」に分けることが求められている。
考え方
判断のポイントは、その所見がその月齢の正常発達に含まれるかどうかである。 ・原始反射は新生児期から乳児早期には「あるのが正常」であり、むしろ出ないことや左右差があることが異常である。 ・頭囲・大泉門(左右の前頭骨と頭頂骨の間にある菱形のすき間)は、脳の成長に合わせて開いているのが正常で、閉じる時期が早すぎることは異常である。 ・姿勢・筋緊張の異常(反り返りなど)は中枢神経の病気のサインである。 ・股関節の開き具合は発育性股関節形成不全のスクリーニング項目であり、制限があれば精査が必要である。 ・皮膚の血管性病変は、自然に消えるものと治療を考えるものとを区別する。 以上から、この月齢で正常に認められるMoro反射陽性と、多くが自然に消えるサーモンパッチが経過観察でよい所見となる。
選択肢考察
- ×a. 後弓反張
後弓反張は、頸部から背部の伸筋の緊張が強くなり、頭と踵を支点に体が弓のように後ろへ反り返る姿勢である。新生児・乳児では細菌性髄膜炎、核黄疸(ビリルビン脳症)、低酸素性虚血性脳症、破傷風、および脳性麻痺(特にアテトーゼ型や痙直型でみられる反り返り)など、中枢神経系の重い障害を示す所見である。健康な1か月児にはみられないため、経過観察は不適切で、速やかに原因検索(血液検査、髄液検査、画像検査など)を行い、必要な治療やリハビリテーションにつなげる。
- ×b. 大泉門閉鎖
大泉門は出生時に約2〜3cm大で開いており、生後しばらくは脳の成長に合わせて大きさを保ったのち、おおむね1歳6か月ごろまでに閉鎖する(遅くとも2歳ごろ)。生後1か月で閉じているのは明らかに早すぎ、脳の発育不良による小頭症や、頭蓋縫合が早期に癒合する頭蓋縫合早期癒合症(狭頭症)を疑う。頭囲の測定、頭部X線・CTによる縫合の評価などの精査が必要であり、経過観察の対象ではない。なお、逆に大泉門の膨隆は頭蓋内圧亢進(髄膜炎、水頭症など)、陥凹は脱水を示唆する。
- ○c. Moro反射陽性
Moro反射は、仰臥位で頭部を支えて急に少し落とすなどの刺激を与えると、両上肢を伸ばして外側に開き(外転・伸展)、続いて抱きつくように内側へ閉じる(内転・屈曲)原始反射である。出生直後から認められ、生後4か月ごろ(遅くとも5〜6か月ごろ)までに消失する。したがって生後1か月で陽性であるのは正常であり、経過観察でよい。むしろこの時期にMoro反射が出ない場合は中枢神経の障害(低酸素性虚血性脳症など)や筋疾患を、左右差がある場合は分娩麻痺(腕神経叢麻痺)や鎖骨骨折などを疑う。また消失すべき月齢を過ぎても残る場合は脳性麻痺などを考える。
- ×d. 股関節開排制限
開排とは、仰臥位で股関節と膝関節を90°曲げた状態から両膝を外側に倒し、股関節を開く動作である。正常の乳児では膝の外側が床近くまで倒れるが、これが十分にできない状態(開排制限)は、発育性股関節形成不全(かつて先天性股関節脱臼と呼ばれた)を疑う重要なサインである。早期に診断できれば、リーメンビューゲル装具などの保存的治療で整復しやすいため、1か月健診では見逃してはならない。超音波検査(Graf法など)やX線検査で精査し、整形外科へ紹介する必要があり、経過観察は不適切である。
- ○e. サーモンパッチ
サーモンパッチ(正中部母斑)は、前額部の正中、眉間、上眼瞼、鼻の下(人中)など顔面の正中付近にみられる、境界が不明瞭で淡い紅色の平らな斑である。真皮の浅い層の毛細血管が拡張したもので、腫瘍として増殖することはない。新生児の2〜3割程度にみられるありふれた所見で、顔面のものは多くが1〜2歳ごろまでに自然に薄くなり消えるため、1か月の時点では治療の必要はなく経過観察でよい。啼泣時に赤みが強くなるのも特徴である。なお、後頸部(うなじ)にできる同様の斑はウンナ母斑と呼ばれ、成人まで残ることがある。
1か月健診の主なチェック項目
・身体計測:体重増加(1日あたりおおむね25〜30g以上の増加が目安)、身長、頭囲 ・栄養状態と哺乳の様子 ・黄疸の遷延(胆道閉鎖症のスクリーニングとして便色カードで便の色を確認する) ・頭部:大泉門の大きさ・膨隆・陥凹、頭の形 ・神経:筋緊張、姿勢、原始反射(Moro反射、把握反射、吸啜反射など) ・股関節:開排制限、大腿皮膚溝の非対称、脚長差(発育性股関節形成不全) ・心雑音、臍の状態(臍ヘルニア、臍肉芽腫)、外性器(停留精巣、陰嚢水腫) ・皮膚:血管腫・母斑など ・ビタミンK2シロップの投与(新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症の予防)
主な原始反射と消失時期の目安
・Moro反射:出生時〜生後4か月ごろ ・手掌把握反射:出生時〜生後3〜4か月ごろ ・足底把握反射:出生時〜生後9〜10か月ごろ ・非対称性緊張性頸反射(ATNR):出生時〜生後4〜6か月ごろ ・吸啜反射・探索反射:出生時〜生後4〜6か月ごろ 消失すべき時期を過ぎても残る場合、または本来出るべき時期に出ない場合は中枢神経系の異常を疑う。
新生児・乳児の代表的な血管性皮膚病変
・サーモンパッチ:顔面正中の淡紅色斑。多くは1〜2歳ごろまでに自然消退する。 ・ウンナ母斑:後頸部の同様の斑。残存することがある。 ・ポートワイン母斑(単純性血管腫、毛細血管奇形):境界明瞭な赤色斑で自然には消えない。三叉神経第1枝領域にあればSturge-Weber症候群を考える。治療は色素レーザー。 ・乳児血管腫(いちご状血管腫):生後まもなく出現し、数か月かけて隆起・増大したのち、数年で自然退縮する。眼や気道周囲など機能に影響する部位ではプロプラノロール内服などの治療を検討する。
大泉門
出生時は約2〜3cm大で、1歳6か月ごろまでに閉鎖する。小泉門は生後1〜2か月ごろまでに閉じる。早期閉鎖は小頭症・頭蓋縫合早期癒合症、閉鎖遅延は水頭症・くる病・甲状腺機能低下症・Down症候群などを示唆する。
POINT
・1か月健診では、先天異常や中枢神経障害を早期に見つけることが最も重要である。 ・Moro反射は出生時から生後4か月ごろまでみられる原始反射で、1か月で陽性は正常。出ない・左右差がある場合が異常。 ・サーモンパッチは顔面正中の毛細血管拡張で、多くが自然消退するため経過観察でよい。 ・後弓反張は髄膜炎・核黄疸・脳性麻痺など中枢神経障害のサイン。 ・大泉門は1歳6か月ごろに閉鎖する。1か月での閉鎖は小頭症・頭蓋縫合早期癒合症を疑う。 ・股関節開排制限は発育性股関節形成不全を疑い、超音波検査などで精査する。
