「ケンケン」咳と吸気性喘鳴―喘鳴の聞こえ方から狭窄部位を見抜くクループ症候群
第110回医師国家試験 F問題 第25問
国試問題にチャレンジ
2歳の男児。発熱,咳嗽および喘鳴を主訴に母親に連れられて来院した。今朝から38℃台の発熱と咳嗽が出現した。数時間後には咳嗽は犬吠様となり,吸気性喘鳴と嗄声も出現したため来院した。陥没呼吸を認め胸部にstridorを聴取する。 最も考えられる疾患はどれか。
- a.肺炎
- b.気管支喘息
- c.急性気管支炎
- d.急性細気管支炎
- e.クループ症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
幼児に急性に生じた犬吠様咳嗽・嗄声・吸気性喘鳴(stridor)はクループ症候群の3主徴で、主にパラインフルエンザウイルスによる喉頭から声門下の炎症・浮腫が原因です。吸気性喘鳴は胸郭外の上気道狭窄、呼気性喘鳴(wheezes)は胸郭内の下気道狭窄を示すため、気管支喘息や急性細気管支炎、肺炎、急性気管支炎では嗄声や犬吠様咳嗽は説明できません。治療は加湿・安静(泣かせない)、ステロイド、中等症以上でのアドレナリン吸入が基本で、吸入効果は一過性のため投与後の経過観察が必要です。最も注意すべき鑑別は流涎や前傾姿勢を示し窒息の危険が高い急性喉頭蓋炎で、頸部X線のsteeple signとthumb signの違いもあわせて押さえておきましょう。喘鳴の聞こえ方から狭窄部位を推定する考え方は、小児の呼吸器救急全般で役立つ基本です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・2歳の男児。 ・今朝から38℃台の発熱と咳嗽で急性に発症し、数時間のうちに咳が犬吠様(犬が吠えるような、あるいはオットセイの鳴き声のような「ケンケン」という咳)に変化した。 ・吸気性喘鳴と嗄声(声がれ)が加わった。 ・陥没呼吸(吸気時に胸骨上窩や肋間がへこむ)を認め、stridor(吸気時に聴かれる高調な連続音)を聴取する。
診断へのプロセス
喘鳴は、気道のどこが狭くなっているかで聞こえ方が異なる。胸郭の外にある上気道(喉頭・声門下・頸部気管)が狭窄すると、吸気時に気道内が陰圧となって狭窄部がさらに虚脱するため、吸気相に目立つ喘鳴(stridor)が生じる。これに対し、胸郭内の下気道(気管支・細気管支)の狭窄では、呼気時に胸腔内圧が上がって気道が圧迫されるため、呼気相に目立つ喘鳴(wheezes)が生じる。 本例は吸気性喘鳴・stridorに加え、声帯周囲の炎症を示す嗄声、声門下の浮腫を示す犬吠様咳嗽という喉頭病変に特徴的な3つの症状がそろっている。上気道の狭窄による呼吸困難のため陥没呼吸もみられる。乳幼児にウイルス感染を契機として急性に起こったことと合わせ、クループ症候群(急性喉頭気管炎、声門下喉頭炎)と診断できる。
見逃してはならない鑑別
同じく上気道を閉塞させる疾患として急性喉頭蓋炎がある。高熱、強い咽頭痛、嚥下困難、流涎(よだれが飲み込めずに垂れる)、前かがみで顎を突き出した姿勢(sniffing position・tripod position)などが特徴で、犬吠様咳嗽は目立たない。急速に窒息に至りうるため、疑った場合は無理に咽頭を観察したり仰臥位にしたりせず、気道確保の準備を優先する。そのほか、急な発症では気道異物も鑑別に挙がる。
選択肢考察
- ×a. 肺炎
肺炎は肺胞レベルの炎症であり、発熱・咳嗽・多呼吸を呈し、聴診では主に断続性ラ音(crackles)を聴取する。重症例では陥没呼吸がみられることもあるが、喉頭の病変ではないため、犬吠様咳嗽・嗄声・吸気性喘鳴(stridor)は説明できない。
- ×b. 気管支喘息
気管支喘息は下気道(気管支)の可逆性の狭窄であり、呼気の延長と呼気性喘鳴(wheezes)が特徴である。本例でみられる吸気性喘鳴・犬吠様咳嗽・嗄声は上気道(喉頭)の病変を示しており、喘息の所見とは一致しない。また、本例は既往や反復の情報がなく、発熱を伴うウイルス感染様の急性発症である。
- ×c. 急性気管支炎
急性気管支炎は主にウイルス感染による気管支の炎症で、咳嗽(しばしば湿性)と発熱を呈し、聴診では低調性連続性ラ音(rhonchi)や水泡音を聴取することがある。病変は下気道であり、嗄声や犬吠様咳嗽、吸気性のstridorといった喉頭狭窄の所見はきたさない。
- ×d. 急性細気管支炎
急性細気管支炎は、RSウイルス(respiratory syncytial virus)を主な原因とし、主に2歳未満、とくに6か月未満の乳児に多い細気管支の炎症である。鼻汁・咳嗽に続いて多呼吸、陥没呼吸、呼気性喘鳴(wheezes)や断続性ラ音を呈する。陥没呼吸は共通するが、喘鳴は呼気性であり、嗄声や犬吠様咳嗽はみられない点で本例と異なる。
- ○e. クループ症候群
クループ症候群は、パラインフルエンザウイルスなどの感染で喉頭から声門下・気管に炎症と浮腫が生じ、上気道が狭窄する疾患であり、生後6か月〜3歳ごろに好発する。犬吠様咳嗽、嗄声、吸気性喘鳴(stridor)が3主徴で、狭窄が強いと陥没呼吸を伴う。感冒様症状に続いて急速に出現するという経過も含め、本例は典型的な臨床像を示している。
クループ症候群
・定義:喉頭・声門下を中心とした上気道の炎症性狭窄により、犬吠様咳嗽、嗄声、吸気性喘鳴をきたす疾患群の総称。狭義には急性喉頭気管炎(ウイルス性クループ)を指す。 ・原因:大部分がウイルスで、パラインフルエンザウイルスが最も多い。ほかにRSウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルスなど。 ・好発:生後6か月〜3歳ごろ。秋〜冬に多く、夜間に悪化しやすい。 ・検査:診断は臨床症状で行う。頸部X線正面像で声門下が先細りに狭窄する所見(steeple sign、尖塔状狭窄)がみられることがある。 ・治療:軽症では加湿・安静を保ち、啼泣させないよう配慮する(泣くと狭窄が悪化する)。副腎皮質ステロイド(デキサメタゾンなど)の内服・注射で浮腫を軽減し、中等症以上ではアドレナリン(エピネフリン)の吸入を行う。アドレナリン吸入は効果が一過性で再燃しうるため、投与後もしばらく経過観察する。重症例では気管挿管が必要となることがある。
急性喉頭蓋炎との比較
・原因:かつてはインフルエンザ菌b型(Hib)が主であったが、Hibワクチンの定期接種化により小児例は大きく減少した。 ・症状:高熱、強い咽頭痛、嚥下困難、流涎、こもった声、前傾姿勢で顎を突き出す姿勢。犬吠様咳嗽は乏しい。 ・画像:頸部X線側面像で腫大した喉頭蓋(thumb sign)。 ・対応:急激に窒息に至る危険があるため、刺激を避けて気道確保を最優先し、抗菌薬を投与する。
喘鳴の聞こえ方と狭窄部位
・吸気性喘鳴(stridor):胸郭外の上気道狭窄(クループ症候群、急性喉頭蓋炎、喉頭軟化症、気道異物など)。 ・呼気性喘鳴(wheezes):胸郭内の下気道狭窄(気管支喘息、急性細気管支炎など)。
POINT
・犬吠様咳嗽+嗄声+吸気性喘鳴(stridor)はクループ症候群の3主徴。原因はパラインフルエンザウイルスが最多で、生後6か月〜3歳に好発する。 ・吸気性喘鳴は上気道(胸郭外)、呼気性喘鳴は下気道(胸郭内)の狭窄を示す。 ・治療は加湿・安静(泣かせない)、ステロイド、アドレナリン吸入。 ・鑑別で最も重要なのは急性喉頭蓋炎(流涎・前傾姿勢・thumb sign)で、窒息の危険が高い。 ・頸部X線正面像のsteeple signはクループ症候群の所見である。
