StudyMed医師国家試験

血糖を上げる「援軍」は誰か―低血糖で動員される拮抗ホルモンの顔ぶれ

第110回医師国家試験 E問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第110回 E問題 第40問

低血糖時に血中濃度が上昇するホルモンはどれか。3つ選べ。

  1. a.グルカゴン
  2. b.アドレナリン
  3. c.コルチゾール
  4. d.バソプレシン
  5. e.副甲状腺ホルモン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、低血糖になったときに体がどのホルモンを動員して血糖を立て直すのかを問う問題だ。着眼点は「血糖を下げるホルモンはインスリンただ一つ、上げるホルモンは複数ある」という非対称性。そして各ホルモンが何を感知して分泌されるのか、という視点で選択肢を見ていこう。
医学生医学生
血糖を上げるホルモンって、生理学の講義で「インスリン拮抗ホルモン」としてまとめて習った気がします。
ドクタードクター
そう、英語ではcounterregulatory hormonesという。脳はブドウ糖をほぼ唯一のエネルギー源にしているから、血糖が下がるのは生命に関わる事態だ。だから体は何重もの防御を用意している。その反応を拮抗調節反応と呼ぶんだ。順番に整理してみよう。血糖が下がり始めたとき、最初に起こるのは何だと思う?
医学生医学生
いきなりグルカゴンが出るのかと思っていました。
ドクタードクター
実はその前に、膵β細胞からのインスリン分泌が抑えられるのが第一段階なんだ。血糖を下げる力をまず止める。それでも下がると、膵α細胞からグルカゴン、副腎髄質からアドレナリンが数分単位で分泌される。ここが即効性の防御だね。
医学生医学生
グルカゴンは肝臓でグリコーゲン分解と糖新生を進めるんですよね。
ドクタードクター
その通り。グルカゴンは低血糖そのものが最も強い分泌刺激で、急性低血糖に対する最重要の防御ホルモンだ。臨床では、意識障害を伴う重症低血糖で静脈路が取れないときに筋注や点鼻で使う救急薬にもなっている。ただ、1型糖尿病で罹病期間が長くなると、低血糖に対するグルカゴン反応が弱まりやすい点も覚えておこう。
医学生医学生
アドレナリンは、低血糖のときの動悸や冷や汗の原因ですよね。臨床実習の糖尿病内科で、患者さんが「手が震えて汗が出たら飴をなめる」と話していました。
ドクタードクター
まさにそれが交感神経刺激症状だ。低血糖は視床下部などで感知され、交感神経を介して副腎髄質からアドレナリンが出る。肝臓での糖放出を促すだけでなく、グルカゴン分泌を促しインスリン分泌を抑え、筋の糖取り込みも減らす。グルカゴン反応が弱った患者さんでは特に頼りになる防御なんだ。では、コルチゾールはどうだろう。
医学生医学生
コルチゾールも糖新生を進めるので上がると思いますが、ストレスホルモンというイメージのほうが強いです。
ドクタードクター
低血糖は体にとって強いストレスだから、視床下部-下垂体-副腎皮質系が活性化してコルチゾールが分泌される。糖新生酵素を誘導し、筋のたんぱく分解で材料を供給し、インスリン抵抗性を高める。ただし遺伝子発現を介すので効果が出るまで数時間かかる。成長ホルモンと並んで、遷延する低血糖への遅効性の防御というわけだ。だからグルカゴン、アドレナリン、コルチゾールの3つが正解になる。
医学生医学生
残りのバソプレシンは、ストレスで上がると聞いたことがあるので少し迷いました。
ドクタードクター
いい迷い方だね。バソプレシンは強いストレス下で分泌が増えることはあるけれど、主な分泌刺激は血漿浸透圧の上昇と循環血液量や血圧の低下だ。作用も腎集合管での水再吸収と血管収縮で、血糖を上げる拮抗ホルモンには数えられない。低血糖で上がるホルモンとして挙げるのは適切ではないんだ。
医学生医学生
副甲状腺ホルモンは血中カルシウムの調節役なので、血糖とは関係なさそうですね。
ドクタードクター
その通り。副甲状腺の主細胞がカルシウム感知受容体で血中カルシウムイオンの低下を感知して分泌し、骨吸収や腎でのカルシウム再吸収、活性型ビタミンDの産生を促す。血糖調節には関わらない。各ホルモンの「何を感知して出るか」を押さえれば、迷わず切れる選択肢だ。
医学生医学生
即効性がグルカゴンとアドレナリン、遅効性がコルチゾールと成長ホルモン、という2段構えで覚えればよさそうです。
ドクタードクター
完璧だ。臨床での応用も押さえておこう。この反応を逆手に取ったのがインスリン低血糖試験で、インスリンで意図的に低血糖を起こし、ACTH・コルチゾールや成長ホルモンの分泌予備能を評価する。下垂体前葉機能検査として内分泌内科でよく出てくるよ。
医学生医学生
逆に言えば、副腎不全や下垂体機能低下症の人は援軍が来ないので低血糖になりやすい、ということですか。
ドクタードクター
その通り。Addison病や成長ホルモン分泌不全では低血糖を起こしやすい。もう一つ大事なのが無自覚性低血糖だ。低血糖を繰り返すと交感神経の警告症状が出にくくなり、突然意識障害に陥ることがある。β遮断薬も頻脈や振戦を目立たなくすることがあるから、糖尿病患者さんの処方を見るときは注意してほしい。
医学生医学生
警告症状がないから大丈夫、とは限らないんですね。血糖自己測定の指導が大事だと実感しました。

まとめ

血糖を下げるホルモンはインスリンだけですが、血糖を上げるインスリン拮抗ホルモンは複数あり、低血糖時には拮抗調節反応として動員されます。まずインスリン分泌が抑制され、次いで即効性のグルカゴン(膵α細胞)とアドレナリン(副腎髄質)、遷延すると遅効性のコルチゾール(副腎皮質)と成長ホルモン(下垂体前葉)が分泌されます。バソプレシンは血漿浸透圧や循環血液量、副甲状腺ホルモンは血中カルシウム濃度を感知して分泌されるため、血糖調節の担い手ではありません。この仕組みはインスリン低血糖試験による下垂体前葉機能評価や、副腎不全・下垂体機能低下症での低血糖、無自覚性低血糖やβ遮断薬による警告症状のマスクといった臨床の理解に直結します。

解答・解説

正解はa, b, cです

血糖値を下げるホルモンはインスリンだけであるのに対し、血糖値を上げるホルモンは複数存在し、まとめてインスリン拮抗ホルモン(counterregulatory hormones、血糖上昇ホルモン)と呼ばれる。低血糖になると、生体は脳へのブドウ糖供給を守るため、これらのホルモンを動員して血糖を回復させようとする。これを低血糖に対する拮抗調節反応という。 拮抗調節反応は、おおむね次の順で起こる。 1. 血糖が下がり始めると、まず膵β細胞からのインスリン分泌が抑制される。 2. さらに低下すると、膵α細胞からグルカゴン、副腎髄質からアドレナリンが速やかに分泌される(数分単位で作用する即効性の防御)。 3. 低血糖が持続すると、副腎皮質からコルチゾール、下垂体前葉から成長ホルモンが分泌される(数時間単位で効いてくる遅効性の防御)。 したがって選択肢のうち、低血糖で血中濃度が上昇するのはグルカゴン、アドレナリン、コルチゾールである。バソプレシンは血漿浸透圧や循環血液量を、副甲状腺ホルモンは血中カルシウム濃度を主に感知して分泌が調節されるホルモンであり、血糖調節の担い手ではない。

選択肢考察

  1. ○a.  グルカゴン

    正しい。グルカゴンは膵ランゲルハンス島のα細胞から分泌されるペプチドホルモンで、低血糖そのものが最も強い分泌刺激となる(低血糖時にインスリン分泌が減ることも、α細胞への抑制が外れて分泌増加に働く)。肝臓に作用し、グリコーゲン分解と糖新生を促進して速やかに血糖を上昇させる。急性の低血糖に対して最も重要な防御ホルモンである。臨床的には、意識障害を伴う重症低血糖で静脈確保が難しい場合の救急治療薬(筋注・点鼻製剤)として用いられる。なお1型糖尿病では病歴が長くなると低血糖に対するグルカゴン分泌反応が障害されやすい。

  2. ○b.  アドレナリン

    正しい。低血糖は視床下部などの中枢で感知され、交感神経を介して副腎髄質からアドレナリンが分泌される。アドレナリンは肝臓でのグリコーゲン分解・糖新生を促し、膵α細胞からのグルカゴン分泌を促進する一方で膵β細胞からのインスリン分泌を抑制し、さらに筋でのブドウ糖取り込みを減らし脂肪分解を進めることで、血糖を上昇させる。グルカゴン反応が障害された患者では特に重要な防御となる。動悸、頻脈、発汗、手指振戦、不安感といった低血糖の交感神経刺激症状(自律神経症状)は、このカテコラミン分泌(と交感神経活動)による。β遮断薬はこれらの警告症状を隠すことがある。

  3. ○c.  コルチゾール

    正しい。低血糖はストレスとして視床下部-下垂体-副腎皮質系(CRH→ACTH→コルチゾール)を活性化し、副腎皮質(束状層)からコルチゾールが分泌される。コルチゾールは肝臓での糖新生酵素を誘導し、筋のたんぱく分解で糖新生の材料を供給し、末梢組織のインスリン抵抗性を高めて血糖を上昇させる。作用は遺伝子発現を介するため効果の発現に数時間かかり、遷延する低血糖への防御を担う。この反応を利用したのがインスリン低血糖試験(インスリン負荷試験)で、ACTH・コルチゾールや成長ホルモンの分泌予備能を評価する。副腎不全や下垂体機能低下症では低血糖を起こしやすい。

  4. ×d.  バソプレシン

    誤り。バソプレシン(抗利尿ホルモン、ADH)は視床下部の視索上核・室傍核で産生され、下垂体後葉から分泌される。主な分泌刺激は血漿浸透圧の上昇であり、ほかに循環血液量や血圧の低下でも分泌される。腎集合管のV2受容体に作用して水の再吸収を増やし(抗利尿作用)、血管平滑筋のV1受容体を介して血管を収縮させる。強いストレス下で分泌が増えることはあるが、血糖を上昇させる拮抗調節ホルモンには数えられず、低血糖時に上昇するホルモンとして挙げるのは適切でない。

  5. ×e.  副甲状腺ホルモン

    誤り。副甲状腺ホルモン(PTH)は副甲状腺の主細胞から分泌され、細胞膜のカルシウム感知受容体(CaSR)が血中カルシウムイオン濃度の低下を感知すると分泌が増加する。骨吸収の促進、腎尿細管でのカルシウム再吸収促進とリン再吸収抑制、腎での活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシビタミンD)産生促進によって血中カルシウム濃度を上げる。血糖の調節には関与せず、低血糖で分泌が増えることはない。

インスリン拮抗ホルモン(血糖上昇ホルモン)

・グルカゴン(膵α細胞):肝グリコーゲン分解・糖新生促進。即効性。 ・アドレナリン(副腎髄質):肝グリコーゲン分解・糖新生促進、インスリン分泌抑制、グルカゴン分泌促進。即効性。 ・コルチゾール(副腎皮質):糖新生酵素の誘導、インスリン抵抗性増大。遅効性。 ・成長ホルモン(下垂体前葉):インスリン抵抗性増大、脂肪分解促進。遅効性。 ※甲状腺ホルモンも腸管からの糖吸収や糖新生を高め、血糖を上げる方向に働く。

低血糖の症状

・自律神経症状(交感神経刺激症状):発汗、動悸、頻脈、手指振戦、不安感、顔面蒼白など。おおむね血糖70 mg/dL未満から出現しうる。 ・中枢神経症状(脳のブドウ糖不足):頭痛、集中力低下、異常行動、意識障害、けいれん、昏睡など。血糖50 mg/dL前後以下で目立つ。 ・低血糖を繰り返すと、交感神経症状が出ずに突然意識障害に陥る「無自覚性低血糖」となることがある。

臨床との関連

・インスリン低血糖試験:インスリン静注で低血糖を起こし、ACTH・コルチゾール・成長ホルモンの分泌予備能をみる(下垂体前葉機能検査)。 ・副腎不全(Addison病など)、下垂体機能低下症、成長ホルモン分泌不全では拮抗ホルモンが不足し低血糖を起こしやすい。 ・薬剤:β遮断薬は低血糖時の頻脈・振戦などの警告症状を目立たなくすることがある。

POINT

・低血糖時に上昇するホルモン:グルカゴン、アドレナリン、コルチゾール、成長ホルモン。 ・即効性:グルカゴン・アドレナリン、遅効性:コルチゾール・成長ホルモン。 ・血糖を下げるホルモンはインスリンのみ。 ・バソプレシンの分泌刺激は血漿浸透圧上昇・循環血液量低下、PTHの分泌刺激は血中Ca低下。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。