StudyMed医師国家試験

胃は「吸収しない臓器」―それでもエタノールだけが通り抜ける理由

第110回医師国家試験 E問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第110回 E問題 第4問

胃から吸収されるのはどれか。

  1. a.鉄
  2. b.葉酸
  3. c.脂肪酸
  4. d.エタノール
  5. e.グルコース

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、消化管のどこで何が吸収されるかを問う問題だ。ポイントは「胃は本来、栄養素を吸収する場ではない」ということ。そのうえで、例外的に胃から吸収される物質の性質を考えよう。
医学生医学生
胃って、食べ物を溜めて消化する場所というイメージで、吸収の場という印象はあまりないです。
ドクタードクター
そのイメージで正しいよ。胃は食物を一時的に貯め、胃酸とペプシンで消化して少しずつ十二指腸へ送り出す臓器なんだ。では、なぜ胃では吸収が起こりにくいのか、構造の面から考えられるかな。
医学生医学生
小腸には絨毛や微絨毛があって表面積が大きいですが、胃にはそれがないから、でしょうか。
ドクタードクター
いいね、それが一つ目。加えて、胃の粘膜は厚い粘液層で覆われ、上皮細胞どうしは密着結合で強く結ばれている。胃酸から自分を守るための構造だけど、その分、物質も通りにくい。そして栄養素の多くは輸送体を使って取り込まれるから、その輸送体が揃っている小腸で吸収されるんだ。
医学生医学生
それでも胃から吸収されるものがあるとすると、輸送体を使わずに膜を通れる物質ということですか。
ドクタードクター
まさにそこが核心。細胞膜は脂質二重層だから、分子が小さくて、脂溶性があって、電荷をもたない物質は単純拡散で通り抜けられる。その代表がエタノールで、これが正解だ。分子量は約46と小さく、水にも脂質にも溶けるから、輸送体なしで胃粘膜を透過できる。
医学生医学生
お酒を飲むとすぐ酔いが回るのは、胃からも吸収されるからなんですね。
ドクタードクター
そういう面もある。ただし注意してほしいのは、吸収量としては表面積の大きい十二指腸・空腸のほうが多く、胃からはおおむね2割程度ということ。だから食事と一緒に飲むと胃に留まる時間が延びて小腸への移行が遅れ、血中濃度の上昇が緩やかになるんだ。胃粘膜にはアルコール脱水素酵素もあって、吸収前に一部が代謝される。
医学生医学生
生理学の講義で「空腹で飲むと酔いやすい」理由として聞いた気がします。ほかの選択肢も確認したいです。鉄は胃酸が大事だと習ったので、胃で吸収されるのかと迷いました。
ドクタードクター
よくある誤解だね。胃酸は鉄を溶かして還元されやすくすることで吸収を助けるけれど、吸収そのものは十二指腸から空腸上部で起こる。食物中の3価鉄が刷子縁の還元酵素で2価鉄になり、DMT1という輸送体で取り込まれるんだ。
医学生医学生
だから胃切除後に鉄欠乏性貧血が起こりやすいんですね。胃酸が減るうえに、再建法によっては食物が十二指腸を通らなくなるから。
ドクタードクター
その通り、臨床とつながったね。次は葉酸。これも空腸で、ポリグルタミン酸型が刷子縁の酵素でモノグルタミン酸型に分解されてから、輸送体で取り込まれる。グルコースも、小腸上皮のSGLT1でNa+と一緒に取り込まれ、血管側のGLUT2で血中へ出る。どちらも水溶性が高く、輸送体が必要だから胃からは吸収されない。
医学生医学生
脂肪酸は脂溶性なので、単純拡散で胃からも吸収されそうな気がするんですが…。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。胃では舌リパーゼや胃リパーゼによる消化が少し始まるけれど、吸収はほとんど起こらない。脂肪の主な消化は膵リパーゼによるもので、分解された脂肪酸とモノグリセリドは胆汁酸とミセルを作って小腸上皮まで運ばれ、主に空腸で吸収される。長鎖脂肪酸は上皮内でトリグリセリドに再合成され、カイロミクロンとしてリンパ管に入るんだ。
医学生医学生
胆汁酸や膵液が出てくるのは十二指腸以降だから、脂肪の吸収も小腸が舞台なんですね。
ドクタードクター
その理解でいい。全体を整理しておこう。十二指腸では鉄やカルシウム、空腸では糖・アミノ酸・脂肪酸・葉酸など栄養素の大部分、回腸末端ではビタミンB12と胆汁酸、大腸では水と電解質、それに腸内細菌が作る短鎖脂肪酸が吸収される。
医学生医学生
CBTの勉強でも部位別の吸収はよく出ました。臨床ではどこに気をつければいいでしょうか。
ドクタードクター
吸収部位を知っていると、手術や病気で何が欠乏するか予測できる。胃全摘後は内因子が失われ、体内の貯蔵が尽きる数年後にビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血が起こる。回腸末端の切除やCrohn病ではビタミンB12の吸収障害に加え、胆汁酸の喪失で脂肪吸収障害や胆汁酸性下痢が起こる。それから薬でいうと、アスピリンのような弱酸性薬物は胃酸の中でイオン化しにくいため、一部が胃から吸収されるんだ。
医学生医学生
胃から吸収されるのは、小さくて脂溶性で、電荷をもたない物質。だからエタノールや弱酸性薬物が例外になる、と覚えます。
ドクタードクター
完璧だ。暗記で終わらせず「なぜ吸収されるのか」を膜の性質から説明できれば、初見の選択肢にも対応できるよ。

まとめ

胃は食物を貯留・消化する臓器で、絨毛がなく粘液層と密着結合に覆われているため、栄養素の吸収はほとんど行われません。例外的に胃から吸収されるのは単純拡散で脂質二重層を通過できる物質で、代表がエタノールです(ただし吸収量は小腸のほうが多い)。鉄は十二指腸、グルコース・葉酸・脂肪酸は主に空腸で、いずれも輸送体やミセル形成を介して吸収され、ビタミンB12と胆汁酸は回腸末端で吸収されます。胃切除後のビタミンB12欠乏や鉄欠乏、回腸末端病変での胆汁酸性下痢など、吸収部位の知識は術後や疾患に伴う欠乏症の予測に直結します。「分子が小さく、脂溶性で、電荷をもたない物質ほど膜を通りやすい」という原理から理解しておくと、薬物動態を考える際の基礎にもなります。

解答・解説

正解はdです

消化管で栄養素や薬物がどこから吸収されるかを問う問題である。 胃は本来、食物を一時的に貯めて胃酸とペプシンで消化し、少しずつ十二指腸へ送り出す臓器であり、栄養素を吸収する場ではない。胃の粘膜表面は粘液層で覆われ、上皮細胞どうしは密着結合(タイト結合)で強く結ばれている。さらに小腸のような絨毛・微絨毛がないため吸収面積も小さい。そのため、糖・アミノ酸・脂質・ビタミン・ミネラルといった栄養素は、ほぼすべて小腸(十二指腸・空腸・回腸)で吸収される。 例外的に胃から吸収されるのは、細胞膜(脂質二重層)を単純拡散で通り抜けられる物質である。代表がエタノールで、分子が小さく水にも脂質にも溶けやすいため、輸送体を必要とせず胃粘膜を透過する。このほか、胃酸の中でイオン化しにくい弱酸性の薬物(アスピリンなど)も一部胃から吸収される。 したがって、「輸送体を使って小腸で吸収される栄養素」と「単純拡散で胃からも吸収される物質」を区別できれば、エタノールを選ぶことができる。

選択肢考察

  1. ×a.  鉄

    誤り。鉄は主に十二指腸から空腸上部で吸収される。食物中の非ヘム鉄の多くは3価鉄(Fe3+)であり、腸上皮の刷子縁にある還元酵素(十二指腸シトクロムb:Dcytb)で2価鉄(Fe2+)に還元されたのち、2価金属輸送体(DMT1)によって細胞内に取り込まれる。ヘム鉄はヘムのまま別の経路で取り込まれる。胃酸は鉄を溶かして還元されやすくすることで吸収を助けるが、吸収そのものは胃では起こらない。胃切除後に鉄欠乏性貧血が起こりやすいのは、胃酸の減少と十二指腸を食物が通らなくなる(再建法による)ことが原因である。

  2. ×b.  葉酸

    誤り。葉酸は主に空腸(十二指腸から空腸上部)で吸収される。食物中の葉酸はグルタミン酸が多数つながったポリグルタミン酸型であり、小腸刷子縁の酵素でモノグルタミン酸型に分解されてから、プロトン共役型葉酸輸送体(PCFT)などで取り込まれる。輸送体を介した吸収であり、胃からは吸収されない。空腸の広範な病変(セリアック病など)では葉酸欠乏が起こりうる。

  3. ×c.  脂肪酸

    誤り。食物中の脂肪(主にトリグリセリド)は膵リパーゼで脂肪酸とモノグリセリドに分解され、胆汁酸とともにミセルを形成して小腸上皮の表面まで運ばれ、主に空腸で吸収される。長鎖脂肪酸は上皮細胞内でトリグリセリドに再合成され、カイロミクロンとしてリンパ管(乳び管)に入る。中鎖・短鎖脂肪酸は水に溶けやすく、そのまま門脈に入る。胃では舌リパーゼ・胃リパーゼによる一部の消化は始まるが、吸収はほとんど起こらない。

  4. ○d.  エタノール

    正しい。エタノールは分子量が小さく(約46)、水にも脂質にも溶けるため、輸送体を必要とせず単純拡散によって胃粘膜を通過できる。そのため胃からも吸収され、飲酒後速やかに血中濃度が上昇する。ただし吸収量としては表面積の大きい小腸(十二指腸・空腸)の方が多く、胃からの吸収は全体の一部(おおむね2割程度)である。食事とともに飲酒すると胃内に留まる時間が延びて小腸への移行が遅れるため、血中濃度の上昇が緩やかになる。また胃粘膜にはアルコール脱水素酵素が存在し、吸収前に一部が代謝される(初回通過効果)。

  5. ×e.  グルコース

    誤り。グルコースは主に十二指腸から空腸で吸収される。小腸上皮の管腔側にあるナトリウム依存性グルコース輸送体1(SGLT1)によってNa+とともに細胞内へ取り込まれ(二次性能動輸送)、血管側の膜にあるグルコース輸送体2(GLUT2)で血中へ出る。グルコースは水溶性が高く脂質二重層を自由には通れないため、輸送体のない胃では吸収されない。経口補水液に糖とNa+が一緒に含まれているのは、このSGLT1の共輸送を利用して水とNa+の吸収を促すためである。

消化管各部位の主な吸収物質

・胃:エタノール、一部の弱酸性薬物(アスピリンなど)、水(わずか)。栄養素はほとんど吸収されない。 ・十二指腸:鉄、カルシウム(能動輸送は十二指腸で最も盛ん)、マグネシウムなど。 ・空腸:糖質(グルコース、ガラクトース、フルクトース)、アミノ酸・ペプチド、脂肪酸・モノグリセリド、水溶性ビタミン(葉酸など)、脂溶性ビタミン(A・D・E・K)。栄養素吸収の中心である。 ・回腸:ビタミンB12(内因子と結合した形で回腸末端から吸収)、胆汁酸(回腸末端で再吸収され腸肝循環を形成)。 ・大腸:水とNa+(電解質)、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸。

臨床との関連

・胃全摘後:内因子が失われビタミンB12欠乏(巨赤芽球性貧血)が数年後に起こる。胃酸減少と再建法により鉄欠乏性貧血も起こりやすい。 ・回腸末端切除やCrohn病:ビタミンB12吸収障害と胆汁酸の喪失による脂肪吸収障害・胆汁酸性下痢が生じる。 ・十二指腸を食物が通らない再建(Billroth II法、Roux-en-Y法)では、鉄やカルシウムの吸収が低下する。

単純拡散で吸収されやすい物質の条件

分子が小さく、脂溶性が高く、電荷をもたない(イオン化していない)ほど脂質二重層を通過しやすい。エタノールはこの条件を満たすため、胃からも吸収される。

POINT

・栄養素の吸収はほぼすべて小腸で行われ、胃からはほとんど吸収されない。 ・胃から吸収される代表はエタノール(単純拡散)である。弱酸性薬物(アスピリン)も一部吸収される。 ・鉄は十二指腸、糖・アミノ酸・脂肪酸・葉酸は空腸、ビタミンB12と胆汁酸は回腸末端で吸収される。 ・胃切除後はビタミンB12欠乏と鉄欠乏に注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。