StudyMed医師国家試験

肝臓を取り替えても治らない病気―肝移植の適応と「免疫抑制下の再発」という壁

第110回医師国家試験 E問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第110回 E問題 第22問

肝移植の適応でないのはどれか。

  1. a.肝硬変
  2. b.劇症肝炎
  3. c.肝内胆管癌
  4. d.胆道閉鎖症
  5. e.原発性硬化性胆管炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肝移植の適応になる疾患とならない疾患を見分ける問題だ。考え方の軸は2つ。「その病気は肝臓を丸ごと取り替えれば治るのか」と、「移植後に必要な免疫抑制が病気を悪化させないか」。この視点で選択肢を見ていこう。
医学生医学生
肝移植というと、肝硬変の末期というイメージがまず浮かびます。
ドクタードクター
それは正しいイメージだね。肝硬変が進んで非代償期、つまり腹水や肝性脳症、黄疸、静脈瘤出血を繰り返して内科的に管理できなくなった状態では、肝移植が根本的な治療になる。成人の肝移植の原因として最も多い群で、ウイルス性、アルコール性、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)、自己免疫性肝疾患などが原因になる。重症度の評価にはChild-Pugh分類やMELDスコアを使う。
医学生医学生
消化器内科の臨床実習で、MELDスコアは移植の優先度判定にも使うと教わりました。劇症肝炎はどうでしょう。急性の病気なので、移植まで考えるのか少し迷います。
ドクタードクター
いい疑問だね。劇症肝炎は急激な広範肝細胞壊死で、昏睡Ⅱ度以上の肝性脳症とプロトロンビン時間40%以下の高度な凝固障害をきたす病態で、現在は急性肝不全の昏睡型として扱われる。血漿交換や血液濾過透析といった人工肝補助療法をしても救命率は低く、特に亜急性型は予後が悪い。予後予測で救命困難と判断されれば緊急肝移植の適応で、脳死肝移植では最優先の対象になるんだ。
医学生医学生
急性でも、肝臓そのものが失われてしまえば取り替えるしかない、ということですね。胆道閉鎖症は小児外科の講義で葛西手術と一緒に習いました。
ドクタードクター
そう、胆道閉鎖症は新生児期から乳児期早期に肝外胆管が炎症性に閉塞する病気で、灰白色便や遷延性黄疸、肝腫大で気づかれる。まず葛西手術、つまり肝門部空腸吻合術を行うけれど、黄疸が消えなかったり、術後に胆管炎を繰り返して胆汁性肝硬変や門脈圧亢進症が進んだりする例が少なくない。そうなると肝移植が必要で、小児の肝移植の原因疾患としては最多だ。
医学生医学生
原発性硬化性胆管炎は潰瘍性大腸炎に合併する病気ですよね。胆管の病気なのに肝移植でいいんですか。
ドクタードクター
鋭い視点だ。PSCは肝内外の胆管に慢性炎症と線維化が起こり、多発狭窄で胆汁うっ滞が進む原因不明の疾患だ。胆管造影で数珠状や枯れ枝状の所見が出る。進行を確実に止める薬物療法がなく、胆汁性肝硬変に至れば根本的治療は肝移植になる。肝内の胆管ごと取り替えられるからね。我が国でも成人生体肝移植の主要な対象疾患の一つだよ。ただし移植後に再発することがある点は覚えておこう。
医学生医学生
そうなると、残るのは肝内胆管癌です。肝細胞癌は移植の適応になる場合があると聞いたので、同じ肝臓の癌なら適応になりそうな気もしますが。
ドクタードクター
そこが引っかかりやすいところだ。ここで2つ目の軸、免疫抑制の問題が効いてくる。移植後は拒絶反応を防ぐために免疫抑制薬を飲み続けるから、体内に残った癌細胞が増えやすくなる。肝内胆管癌は胆管上皮から発生する癌で、リンパ節転移や神経周囲浸潤を起こしやすく、移植しても再発率が高い。成績が不良なので、原則として肝移植の適応外なんだ。これが正解だね。
医学生医学生
肝臓を取り替えても、すでに外へ広がっている癌細胞は取り除けないうえに、免疫抑制でかえって育ててしまうわけですね。
ドクタードクター
その通り。だから肝内胆管癌の治療は、可能なら外科的切除が第一選択で、切除不能ならゲムシタビンとシスプラチンを基本とした化学療法が中心になる。近年は免疫チェックポイント阻害薬の併用も行われている。海外ではごく小さな腫瘍など限られた症例で移植を検討した報告もあるけれど、一般的な適応ではないと理解しておこう。
医学生医学生
では肝細胞癌の移植は、どんな条件なら認められるんですか。
ドクタードクター
代表的なのがMilan基準で、単発なら5cm以下、多発なら3個以下でそれぞれ3cm以下、かつ脈管侵襲や肝外転移がないこと。この範囲なら移植後の成績が良好だ。我が国では2019年から、腫瘍径5cm以内・腫瘍数5個以内・AFP 500 ng/mL以下という「5-5-500基準」を満たす例も保険適用になった。癌でも「再発しにくい範囲」に絞れば適応になる、という考え方だね。
医学生医学生
逆に、移植の禁忌にはどんなものがありますか。
ドクタードクター
肝外に転移・浸潤した悪性腫瘍、コントロールできない活動性感染症、重篤な心肺疾患、それに断酒・断薬ができていないアルコールや薬物依存などが挙げられる。それから我が国では生体肝移植が大多数を占めるから、健康なドナーの安全確保が大前提になることも忘れないでほしい。
医学生医学生
移植は「肝臓を替えれば治るか」「免疫抑制に耐えられるか」に加えて、ドナーの安全まで含めて判断する治療なんですね。

まとめ

肝移植は、内科的・外科的治療で救命や改善が見込めない肝疾患に対し、病気の肝臓を健康な肝臓に置き換える治療で、劇症肝炎などの急性肝不全、非代償性肝硬変、PSCや胆道閉鎖症などの胆汁うっ滞性疾患、代謝性肝疾患、Milan基準内の肝細胞癌が主な適応です。一方、肝内胆管癌はリンパ節転移や神経周囲浸潤をきたしやすく、移植後の免疫抑制下で再発しやすいため原則として適応外で、切除や化学療法が治療の中心となります。小児の肝移植の原因疾患では胆道閉鎖症が最多であり、肝細胞癌ではMilan基準に加え5-5-500基準も保険適用となっています。「臓器を替えれば治るか」と「免疫抑制が病気を悪化させないか」という2つの視点は、肝移植に限らず臓器移植全般の適応を考える基本になります。

解答・解説

正解はcです

肝移植は、内科的治療や他の外科的治療では救命・改善が見込めない肝疾患に対し、病気の肝臓を健康な肝臓(脳死ドナー肝、または生体ドナーからの部分肝)に置き換える治療である。適応は大きく次のように整理できる。 1.急性肝不全:劇症肝炎など、短期間で肝機能が失われ、内科的治療で回復が望めない場合。 2.慢性肝疾患の末期(非代償性肝硬変):ウイルス性肝炎、アルコール性肝疾患、脂肪性肝疾患などによる肝硬変、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)など。 3.先天性胆道疾患:胆道閉鎖症(Kasai手術後に肝不全や胆汁うっ滞が進行した例)など。 4.先天性代謝異常症:Wilson病、尿素サイクル異常症、家族性アミロイドポリニューロパチーなど。 5.肝悪性腫瘍:肝細胞癌のうち、肝硬変などで切除が難しく、腫瘍の進展度が一定の基準(Milan基準など)内のもの。 一方、悪性腫瘍に対する移植では、移植後に必要な免疫抑制薬によって残存した癌細胞が増殖しやすく、再発率が高いことが大きな問題となる。肝外転移のある癌や、再発率の高い胆管癌は原則として適応外である。本問では「適応でないもの」を問われており、肝内胆管癌がこれに当たる。

選択肢考察

  1. ×a.  肝硬変

    肝硬変が進行して非代償期(腹水、肝性脳症、黄疸、食道・胃静脈瘤出血などを繰り返す状態)に至り、内科的治療で管理できなくなった場合には、肝移植が根本的な治療となる。成人の肝移植の原因疾患として最も多い群であり、B型・C型肝炎ウイルス、アルコール、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD、旧NAFLD)、自己免疫性肝疾患などによる肝硬変が対象となる。重症度評価にはChild-Pugh分類やMELDスコアが用いられる。適応であるため、本問の正解ではない。

  2. ×b.  劇症肝炎

    劇症肝炎は、急激な広範肝細胞壊死により肝性脳症(昏睡Ⅱ度以上)と高度の凝固障害(プロトロンビン時間40%以下)をきたす病態であり、現在は急性肝不全(昏睡型)として分類される。内科的治療(血漿交換、血液濾過透析などの人工肝補助療法を含む)での救命率は低く、特に亜急性型では予後不良である。予後予測スコアで救命困難と判断されれば緊急肝移植が適応となり、脳死肝移植では最優先の対象となる。適応であるため、本問の正解ではない。

  3. ○c.  肝内胆管癌

    肝内胆管癌(胆管細胞癌)は、肝内の胆管上皮から発生する悪性腫瘍である。リンパ節転移や神経周囲浸潤をきたしやすく、肝移植を行っても再発率が高く、移植後の免疫抑制下では再発・進行がさらに助長される。移植成績が不良であるため、原則として肝移植の適応とはならない。治療の第一選択は可能であれば外科的切除であり、切除不能例では化学療法(ゲムシタビン+シスプラチンを基本とし、近年は免疫チェックポイント阻害薬の併用も行われる)が中心となる。したがって「適応でないもの」として本問の正解である。なお、海外ではごく小さな腫瘍などの限られた症例で移植を検討する報告もあるが、一般的な適応ではない。

  4. ×d.  胆道閉鎖症

    胆道閉鎖症は、新生児期~乳児期早期に肝外胆管が炎症性に閉塞し、胆汁が流れなくなる疾患である。灰白色便、遷延性黄疸、肝腫大が特徴で、まず葛西手術(肝門部空腸吻合術)を行う。しかし黄疸が消えない例や、術後に胆管炎を繰り返し胆汁性肝硬変・門脈圧亢進症が進行する例が少なくなく、その場合は肝移植が必要となる。小児の肝移植の原因疾患として最も多い。適応であるため、本問の正解ではない。

  5. ×e.  原発性硬化性胆管炎

    原発性硬化性胆管炎(PSC)は、肝内外の胆管に慢性の炎症と線維化が生じ、多発性の狭窄をきたして胆汁うっ滞が進行する原因不明の疾患である。潰瘍性大腸炎の合併が多く、胆管造影で数珠状・枯れ枝状の所見を示す。ウルソデオキシコール酸などで病勢進行を止める確実な薬物療法はなく、胆汁性肝硬変に至った場合の根本的治療は肝移植である。我が国の成人生体肝移植の主要な対象疾患の一つである(移植後に再発することがある点も知っておくとよい)。適応であるため、本問の正解ではない。

肝移植の種類

我が国では生体肝移植が大多数を占め、脳死肝移植は2010年の臓器移植法改正以降増加しているものの、なお少数である。生体肝移植では、ドナーの安全性確保が大前提となる。

小児と成人の主な原因疾患

小児:胆道閉鎖症が最多。ほかに代謝性肝疾患、急性肝不全、肝芽腫など。 成人:ウイルス性肝硬変、肝細胞癌、胆汁うっ滞性疾患(PBC、PSC)、急性肝不全、アルコール性肝硬変など。

肝細胞癌に対する肝移植の基準

Milan基準:単発で5cm以下、または3個以下でそれぞれ3cm以下、かつ脈管侵襲・肝外転移がないもの。この基準内の症例は移植後の成績が良好である。我が国では2019年から、Milan基準に加えて「5-5-500基準」(腫瘍径5cm以内かつ腫瘍数5個以内かつAFP 500 ng/mL以下)を満たす症例も保険適用となった。

肝移植の主な禁忌

肝外に転移・浸潤した悪性腫瘍、コントロールできない活動性の感染症、重篤な心肺疾患、断酒・断薬ができていないアルコール・薬物依存などが挙げられる。肝内胆管癌は再発率の高さから原則適応外である。

POINT

・肝移植の適応:急性肝不全(劇症肝炎)、非代償性肝硬変、胆汁うっ滞性疾患(PBC、PSC、胆道閉鎖症)、代謝性肝疾患、Milan基準内の肝細胞癌。 ・肝内胆管癌は移植後の再発率が高く、原則として肝移植の適応外である(治療は切除や化学療法)。 ・小児の肝移植の原因疾患で最多は胆道閉鎖症である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。