StudyMed医師国家試験

「まず何をする?」―排尿障害の初手はプローブ一本、腹部超音波の実力

第110回医師国家試験 C問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第110回 C問題 第7問

排尿障害の診断で,まず行うのはどれか。

  1. a.遺伝子検査
  2. b.神経伝導検査
  3. c.膀胱内視鏡検査
  4. d.腹部超音波検査
  5. e.腹部エックス線撮影

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、排尿障害の患者さんを前にして、最初にどの検査を選ぶかという問題だ。診断の手順を問う問題では、「非侵襲的で簡便なものから始め、侵襲的・専門的なものへ進む」という原則が軸になる。そのうえで、最初の検査でどれだけ多くの情報が得られるかにも注目してほしい。
医学生医学生
排尿障害というと前立腺肥大症のイメージが強いので、前立腺を直接見られる膀胱内視鏡かなと一瞬思いました。
ドクタードクター
直接見たくなる気持ちはわかるよ。でも、まず排尿障害の原因の全体像を押さえよう。大きく分けると、前立腺肥大症や尿道狭窄のような下部尿路の閉塞、糖尿病や腰部脊柱管狭窄症などによる神経因性膀胱で膀胱の収縮力が落ちる場合、そして抗コリン薬や総合感冒薬などによる薬剤性がある。
医学生医学生
泌尿器科の講義で、風邪薬を飲んだ高齢男性が急に尿閉になった症例を聞いたことがあります。
ドクタードクター
まさに典型例だね。だから最初は問診で症状や服薬歴を確認し、IPSSのような症状スコアや排尿日誌、直腸診、尿検査を行う。そして検査では尿流測定と残尿測定が基本になる。この残尿測定に使うのが腹部超音波検査で、これが今回の正解だ。
医学生医学生
超音波だと、残尿がどれくらいあるかが分かるということですね。
ドクタードクター
そう。しかも1回の検査で得られる情報が多いのが強みだ。排尿直後の膀胱内の残尿量を推定できるし、前立腺の大きさや形も測れる。膀胱壁の肥厚や膀胱結石・腫瘍の有無も見られるし、腎臓までプローブを当てれば水腎症の有無も確認できる。痛みも被曝もなく、外来ですぐに繰り返し行えるんだ。
医学生医学生
水腎症まで見るのは、閉塞が強いと腎臓にまで影響が出るからでしょうか。
ドクタードクター
その通り。高度の下部尿路閉塞が続くと、尿が上流に逆流・うっ滞して腎機能障害につながることがある。それを早く拾えるのは大事なポイントだ。では、膀胱内視鏡検査はどう位置づけられるかな。
医学生医学生
尿道から内視鏡を入れるので、痛みや感染のリスクがありますよね。最初にやるには負担が大きい気がします。
ドクタードクター
そうだね。膀胱尿道鏡では前立腺部尿道の狭小化、尿道狭窄、膀胱壁の肉柱形成や憩室、腫瘍・結石などを直接観察できて有用だけど、侵襲的な検査だ。血尿を伴う場合や尿道狭窄が疑われる場合、手術を考える場合などに追加で行うものなんだ。
医学生医学生
神経伝導検査は、糖尿病で神経因性膀胱を疑うときには使いそうな気がするのですが。
ドクタードクター
よくある誤解だね。神経伝導検査は末梢神経障害の評価に使う検査で、排尿障害の初期評価には使わない。神経因性膀胱が疑われるときにまず行うのは、膀胱内圧測定を中心とした尿流動態検査、いわゆるウロダイナミクスだ。それも基本評価の後に行う専門的検査という位置づけだよ。
医学生医学生
遺伝子検査は、排尿障害のほとんどが前立腺肥大症や神経因性膀胱だと考えると、初手としてはまず出番がないですね。
ドクタードクター
そうだね。特定の遺伝性疾患が強く疑われる場合に後から検討されることがある程度だ。腹部エックス線撮影はどうだろう。
医学生医学生
尿路結石なら写りそうですけど、残尿や前立腺の大きさは分からないですよね。
ドクタードクター
その通り。腹部単純撮影は結石や二分脊椎など仙骨部の骨の異常が見えることはあるけれど、残尿も前立腺も水腎症も評価できず、しかも被曝がある。情報量の面でも安全性の面でも超音波に劣るんだ。
医学生医学生
まとめると、問診・尿検査・直腸診に続いて、尿流測定と超音波による残尿測定で重症度をつかみ、必要なら内視鏡やウロダイナミクスに進む、という流れですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。発展として目安の数字も覚えておこう。最大尿流率が10 mL/秒未満なら閉塞か排尿筋収縮障害が強く疑われる。残尿は50 mL以上で臨床的に有意とされることが多く、100 mL以上なら明らかな排出障害と考える。残尿量は膀胱の長径×短径×前後径×0.5でおおよそ概算でき、病棟では専用の膀胱用超音波装置もよく使われているよ。
医学生医学生
病棟実習で看護師さんが小さな機械をお腹に当てて残尿を測っているのを見ました。あれがそうだったんですね。
ドクタードクター
そう、ベッドサイドで導尿せずに測れるのは患者さんにとっても大きなメリットだ。それから男性の場合は、前立腺癌との鑑別のため必要に応じて血清PSAも測る。排尿障害の背景に何が隠れているかを、負担の少ない検査から順に探っていく姿勢が大切だよ。

まとめ

排尿障害の診療は、問診(症状スコア・服薬歴)、排尿日誌、直腸診、尿検査といった基本評価から始め、検査は非侵襲的なものを優先します。腹部超音波検査は痛みや被曝がなく、残尿量の推定、前立腺の大きさ、膀胱壁肥厚や結石、水腎症の有無を一度に評価できるため、最初に行う検査として最適です。膀胱尿道鏡や尿流動態検査は侵襲的・専門的であり、血尿や尿道狭窄の疑い、神経因性膀胱の精査、手術検討時などに追加します。神経伝導検査や遺伝子検査、腹部単純エックス線撮影は初期評価としての意義が乏しい検査です。最大尿流率10 mL/秒未満や残尿50〜100 mL以上といった目安とともに、「低侵襲から段階的に」という検査の組み立て方を身につけることが、日常診療での適切な判断につながります。

解答・解説

正解はdです

排尿障害の初期評価として最初に選ぶべき検査を問う問題である。

排尿障害の評価の流れ

排尿障害(排尿症状:尿勢低下、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿、残尿感など)の診療では、まず非侵襲的で簡便な検査から始め、必要に応じて侵襲的・特殊な検査へ進むのが原則である。基本評価は次のとおりである。 ・問診(症状質問票:国際前立腺症状スコア〈IPSS〉など)、排尿日誌、既往歴・服薬歴(抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、感冒薬など) ・身体診察(直腸診による前立腺の評価、下腹部の膀胱触知、会陰部の感覚や反射) ・尿検査(血尿・膿尿の有無) ・尿流測定(排尿量、最大尿流率、尿流パターン) ・残尿測定(排尿直後の膀胱内尿量)

なぜ腹部超音波検査か

腹部超音波検査は痛みも放射線被曝もなく、外来ですぐに繰り返し施行できる。1回の検査で、①排尿後の残尿量の推定、②前立腺の大きさ・形態(前立腺肥大症の評価、前立腺体積の計測)、③膀胱壁の肥厚や膀胱結石・膀胱腫瘍の有無、④上部尿路の水腎症の有無(高度の下部尿路閉塞による腎機能障害の危険の評価)を確認できる。したがって排尿障害の診断で最初に行う画像検査として最適である。

選択肢考察

  1. ×a.  遺伝子検査

    誤り。排尿障害の大部分は前立腺肥大症、神経因性膀胱(下部尿路機能障害)、尿道狭窄、薬剤性などであり、原因検索の初期段階で遺伝子検査を行うことはない。遺伝性の神経疾患など特定の先天性・遺伝性疾患が強く疑われる場合に限って、後から検討されることがある程度である。

  2. ×b.  神経伝導検査

    誤り。神経伝導検査は末梢神経障害(糖尿病性ニューロパチーなど)の評価に用いる電気生理学的検査で、排尿障害の初期評価には用いない。神経因性膀胱が疑われる場合には、まず膀胱内圧測定を中心とした尿流動態検査(ウロダイナミクス)を行い、必要に応じて外尿道括約筋・肛門括約筋筋電図や球海綿体反射の評価を加える。いずれも基本評価の後に行う専門的検査である。

  3. ×c.  膀胱内視鏡検査

    誤り。膀胱尿道鏡検査では、前立腺部尿道の狭小化、尿道狭窄、膀胱壁の肉柱形成(排尿筋の過剰な収縮による壁の凹凸)、膀胱憩室、膀胱腫瘍・結石などを直接観察でき、診断上有用な場面はある。しかし尿道から内視鏡を挿入する侵襲的検査で、痛みや尿路感染症のリスクを伴うため、初めに行う検査ではない。血尿を伴う場合、尿道狭窄が疑われる場合、手術を考慮する場合などに追加で行う。

  4. ○d.  腹部超音波検査

    正しい。非侵襲的かつ簡便で、排尿後の残尿量の推定、前立腺の大きさ・形態の評価、膀胱壁肥厚・膀胱結石などの観察、水腎症の有無の確認を同時に行える。尿流測定と組み合わせることで排尿障害の程度を把握でき、排尿障害の初期評価で最初に行うべき検査である。残尿量は膀胱の長径・短径・前後径から概算でき(およそ長径×短径×前後径×0.5)、専用の自動残尿測定装置(膀胱用超音波装置)も普及している。

  5. ×e.  腹部エックス線撮影

    誤り。腹部単純エックス線撮影(KUB:腎・尿管・膀胱部単純撮影)は尿路結石や、二分脊椎などの仙骨部の骨異常を描出できることがあるが、残尿や前立腺の大きさ、水腎症は評価できず、排尿障害の初期評価としての情報量は少ない。被曝も伴うため、最初に行う検査としては超音波検査に劣る。上部尿路の詳細な評価が必要な場合は、かつては排泄性尿路造影が用いられたが、現在はCTなどが用いられることが多い。

下部尿路症状(LUTS:lower urinary tract symptoms)の分類

・蓄尿症状:頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、尿失禁 ・排尿症状:尿勢低下、尿線分割・散乱、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿、終末滴下 ・排尿後症状:残尿感、排尿後尿滴下

排尿障害の主な原因

・下部尿路閉塞:前立腺肥大症、前立腺癌、尿道狭窄、膀胱頸部硬化症 ・排尿筋収縮力の低下:神経因性膀胱(糖尿病、腰部脊柱管狭窄症、骨盤内手術後、二分脊椎など)、加齢 ・薬剤性:抗コリン薬、三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、総合感冒薬など

検査の進め方の目安

1. 問診・症状スコア(IPSSなど)、排尿日誌、身体診察(直腸診)、尿検査 2. 尿流測定、超音波による残尿測定・前立腺体積測定、必要に応じて血清PSA(前立腺特異抗原) 3. 専門的検査:尿流動態検査(膀胱内圧測定、内圧尿流検査)、括約筋筋電図、膀胱尿道鏡、尿道造影、CT・MRIなど

参考となる目安

・最大尿流率が10 mL/秒未満は排尿障害(閉塞または排尿筋収縮障害)の存在が強く疑われる。 ・残尿量は50 mL以上で臨床的に有意とされることが多く、100 mL以上では明らかな排出障害と考える。

POINT

・排尿障害の評価は非侵襲的検査から始める。 ・腹部超音波検査で残尿量、前立腺の大きさ、膀胱壁・結石、水腎症を一度に評価できる。 ・尿流測定と残尿測定の組み合わせが排尿障害の重症度評価の基本である。 ・膀胱尿道鏡や尿流動態検査は侵襲的・専門的であり、基本評価の後に行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。