StudyMed医師国家試験

ガイドラインは「法律」ではなく「羅針盤」―最新版を手に取る意味

第110回医師国家試験 C問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第110回 C問題 第6問

診療ガイドラインについて正しいのはどれか。

  1. a.患者の価値観は重視しない。
  2. b.推奨と異なる診療は違法である。
  3. c.最新版であることを確認して利用する。
  4. d.作成母体により内容が異なることはない。
  5. e.根拠はランダム化比較試験に限定される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は診療ガイドラインの性格と使い方を問う問題だ。ポイントは、ガイドラインが何のための文書で、どう付き合うべきものなのかを理解しているかどうか。まず、ガイドラインはどんなものだと思う?
医学生医学生
学会が作る「標準治療のルール」というイメージです。従わないといけないものだと思っていました。
ドクタードクター
多くの人が最初はそう思うんだ。でもMindsという日本医療機能評価機構の事業では、ガイドラインを「エビデンスのシステマティックレビューと益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義している。キーワードは「意思決定の支援」。医療者を縛る規則ではないんだ。
医学生医学生
だとすると「推奨と異なる診療は違法である」は誤りですね。
ドクタードクター
そう。ガイドラインは法令ではないから法的拘束力はない。推奨は平均的な患者さんを想定したものだから、合併症や高齢、本人の希望によっては推奨と違う選択が妥当なこともある。ただし医療訴訟では、当時の医療水準を示す資料として参照されることがある。推奨から外れるなら、その理由を診療録に残し、患者さんに説明しておくのが望ましいね。
医学生医学生
正解は「最新版であることを確認して利用する」でしょうか。
ドクタードクター
正解。医学知識は新しい臨床研究で絶えず更新されるから、ガイドラインも数年ごとに改訂され、部分改訂や追補が出ることもある。以前は推奨されていた治療が推奨されなくなったり、推奨の強さが変わったりするので、古い版のまま使うのは危ない。さらに、最新版の発行後に重要な新知見が出ていないかにも気を配る必要がある。
医学生医学生
臨床実習で、指導医の先生が「その教科書は一つ前の版だから気をつけて」と言っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその感覚だね。では残りの選択肢も見よう。「患者の価値観は重視しない」はどうかな。
医学生医学生
EBMの講義で、エビデンス、医師の専門技能、患者の価値観、臨床状況を統合すると習ったので、誤りだと思います。
ドクタードクター
その通り。ガイドラインの推奨を作る過程でも患者さんの価値観は考慮される要素で、作成委員に患者代表が参加することも推奨されている。実際の診療では、推奨を参考にしつつ患者さんと話し合って決める共有意思決定、shared decision makingが重視されるんだ。
医学生医学生
「作成母体により内容が異なることはない」は、国内と海外で推奨が違うことがあると聞いたことがあります。
ドクタードクター
そう。同じ疾患でも国内の複数の学会、米国や欧州の学会、WHOなどがそれぞれ作っていることがある。採用したエビデンスの範囲や評価方法、その国の医療制度や医療資源、人種差、作成時期の違いで、推奨や推奨の強さが異なるのは珍しくない。だから作成母体、作成方法、利益相反の管理状況も確認して吟味するんだ。
医学生医学生
最後の「根拠はランダム化比較試験に限定される」は、ちょっと迷いました。RCTが一番信頼できると習ったので。
ドクタードクター
RCTやそのメタアナリシスが質の高いエビデンスなのは確かだ。でも希少疾患や有害な曝露のように、倫理的・現実的にRCTができない領域もある。そこではコホート研究や症例対照研究などの観察研究、症例集積、さらに専門家の合意も根拠になる。
医学生医学生
エビデンスレベルの序列でいうと、システマティックレビュー、RCT、非ランダム化比較試験、コホート・症例対照研究、症例報告、専門家の意見の順でしたね。
ドクタードクター
よく整理できているね。ただ、推奨の強さはエビデンスの確実性だけで決まるわけではない。GRADEシステムでは、研究デザインに加えてバイアスのリスクや非一貫性、非直接性、不精確さなどからエビデンスの確実性を評価し、益と害のバランス、患者さんの価値観、コストも考慮して推奨を決める。だから確実性が低くても強く推奨されることがあるし、その逆もありうる。
医学生医学生
作るときはクリニカルクエスチョンをPICOの形に整理して文献を検索するんでしたよね。
ドクタードクター
そう、対象、介入、比較対照、アウトカムだ。この作られ方を知っていると、ガイドラインの推奨が「どんな患者さんの、どんな疑問に対する答えなのか」を読み取れるようになる。目の前の患者さんがその前提に当てはまるかを考えながら使うことが、ガイドラインを生かすコツなんだ。

まとめ

診療ガイドラインは、システマティックレビューと益と害のバランスの評価に基づいて、患者と医療者の意思決定を支援するための推奨を示す文書であり、法的拘束力はありません。エビデンスの更新に合わせて定期的に改訂されるため、利用時には最新版であることを確認し、発行後の新知見にも注意します。推奨は患者の価値観や臨床状況と統合して個別に適用するもので、作成母体や作成時期によって内容が異なることもあり、根拠もRCTに限らず観察研究や専門家の合意を含みます。GRADEによる推奨の決め方やPICOによる疑問の立て方を理解しておくと、ガイドラインを批判的に読み、目の前の患者に適切に生かす力が身につきます。

解答・解説

正解はcです

診療ガイドラインの性格と使い方を問う問題である。

診療ガイドラインとは

診療ガイドラインは「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義される(Minds:日本医療機能評価機構の診療ガイドライン作成支援事業による定義)。

正解を導く考え方

要点は次の3つである。 ・ガイドラインは「意思決定の支援ツール」であり、医療者を縛る規則ではない。個々の患者の病状・価値観・希望、医療資源などを踏まえて最終判断を行う。 ・エビデンスは日々更新されるため、ガイドラインも定期的に改訂される。古い版の推奨は現在では否定されていることがある。 ・推奨の根拠はシステマティックレビューで集めた多様な研究であり、作成団体や作成時期・対象地域によって推奨内容が異なることもある。 これに照らすと、「最新版であることを確認して利用する」が適切な姿勢である。

選択肢考察

  1. ×a.  患者の価値観は重視しない。

    誤り。根拠に基づく医療(EBM:evidence-based medicine)は、①最良の研究エビデンス、②医療者の臨床的専門技能、③患者の価値観・意向、④患者の臨床状況を統合して判断するものである。ガイドラインの推奨作成過程でも患者の価値観や希望は考慮される要素であり、近年は作成委員に患者代表が参加することも推奨されている。実際の診療では、推奨を参考にしつつ患者と話し合って方針を決める(共有意思決定:shared decision making)ことが重視される。

  2. ×b.  推奨と異なる診療は違法である。

    誤り。診療ガイドラインは学会などが作成する指針であり、法令ではないため法的拘束力はない。推奨は「平均的な患者」を想定したものであり、合併症、高齢、患者の希望などの個別事情によっては推奨と異なる診療を選ぶことが妥当な場合もある。ただし、医療訴訟ではガイドラインが当時の医療水準を示す資料として参照されることがあるため、推奨から外れる場合はその理由を診療録に記載し、患者に説明しておくことが望ましい。

  3. ○c.  最新版であることを確認して利用する。

    正しい。医学知識は新たな臨床研究の蓄積によって絶えず更新され、ガイドラインも数年ごとに改訂される(必要に応じて部分改訂や追補も行われる)。改訂により推奨の強さが変わったり、以前推奨されていた治療が推奨されなくなったりすることがあるため、利用時には最新版かどうかを確認し、さらに最新版の発行後に重要な新知見が出ていないかにも注意する必要がある。

  4. ×d.  作成母体により内容が異なることはない。

    誤り。同じ疾患について、国内の複数の学会、海外の学会(米国・欧州など)、WHOなど異なる団体がそれぞれガイドラインを作成していることがある。採用したエビデンスの範囲や評価方法、対象とする国の医療制度・医療資源・人種差、作成時期の違いなどにより、推奨内容や推奨の強さが異なることは珍しくない。利用する際は、作成母体、作成方法、利益相反の管理状況なども確認して吟味する必要がある。

  5. ×e.  根拠はランダム化比較試験に限定される。

    誤り。ランダム化比較試験(RCT)やそのメタアナリシスは質の高いエビデンスであるが、根拠はそれに限られない。倫理的・現実的にRCTが実施できない領域(希少疾患、有害因子への曝露など)では、コホート研究や症例対照研究などの観察研究、症例集積、さらに専門家の合意(コンセンサス)も根拠として用いられる。GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムでは、研究デザインに加えバイアスのリスク、非一貫性、非直接性、不精確さなどを評価してエビデンスの確実性を決め、益と害のバランスや患者の価値観、コストも考慮して推奨を決定する。

エビデンスレベルの一般的な序列(高い順)

1. ランダム化比較試験のシステマティックレビュー・メタアナリシス 2. ランダム化比較試験 3. 非ランダム化比較試験 4. 分析疫学的研究(コホート研究、症例対照研究) 5. 記述研究(症例報告、症例集積) 6. 患者データに基づかない専門委員会や専門家個人の意見

診療ガイドラインの作成と利用

・作成手順:臨床上の疑問(クリニカルクエスチョン:CQ)を設定し、PICO(Patient:対象、Intervention:介入、Comparison:比較対照、Outcome:アウトカム)の形に整理して文献をシステマティックに検索・評価し、推奨文と推奨の強さを決める。 ・推奨の強さは、エビデンスの確実性だけでなく、益と害のバランス、患者の価値観・希望、費用や資源なども総合して決まる。そのため、エビデンスの確実性が低くても強く推奨されることがあり、逆もありうる。 ・利用上の注意:法的拘束力はない、個々の患者への適用は医師の判断と患者の意向による、最新版を用いる、作成母体や利益相反を確認する。 ・日本ではMinds(日本医療機能評価機構)がガイドライン作成の手引きを示し、評価選定したガイドラインをウェブ上で公開している。

POINT

・診療ガイドラインは医療者と患者の意思決定を支援する文書であり、法的拘束力はない。 ・患者の価値観・希望を尊重して個別に判断する(EBMの要素の一つ)。 ・定期的に改訂されるため、最新版であることを確認して使う。 ・作成母体(学会・国・時期)によって推奨が異なることがある。 ・根拠はRCTに限らず、観察研究や専門家の合意も含まれる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。