寝酒もテレビも朝寝坊もNG―不眠の生活指導で「続けてほしい」たったひとつの習慣
第110回医師国家試験 C問題 第23問
国試問題にチャレンジ
36歳の男性。事務職。不眠を主訴に来院した。半年ほど前から寝つけない,熟睡感がないと感じている。1か月前から昼間に眠くなって集中力が続かなくなっていた。生活習慣として,就寝前,3~4時間以内にコーヒーを飲み,睡眠薬代わりに寝酒を飲み,眠くなるまでテレビを見て深夜を過ごしている。平日は起床後にしっかりと朝食をとっているが,休日は睡眠不足を補おうと3~4時間朝寝坊している。 生活指導において継続を勧めるべき習慣はどれか。
- a.就寝前,3~4時間以内にコーヒーを飲む。
- b.睡眠薬代わりに寝酒を飲む。
- c.眠くなるまでテレビを見る。
- d.しっかりと朝食をとる。
- e.休日は朝寝坊する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
慢性不眠症の初期対応は、睡眠薬より先に睡眠衛生指導などの非薬物療法を行うのが基本です。毎朝決まった時刻の起床と朝食は、朝の光が視交叉上核の中枢時計を、朝食が肝臓などの末梢時計をリセットすることで概日リズムを整えるため、継続を勧めるべき習慣です。一方、就寝前のカフェインは覚醒作用が数時間残り、寝酒は睡眠後半の中途覚醒や依存の危険を招き、夜間の画面視聴は光刺激でメラトニン分泌を抑え、休日の大幅な朝寝坊は社会的時差ぼけを生むため、いずれも改善を指導すべきです。効果が不十分なら不眠の認知行動療法を考え、薬物療法では依存や転倒に配慮した薬剤選択が求められます。体内時計の仕組みに基づいて生活習慣を評価する視点は、外来での実践的な生活指導の土台になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
36歳の事務職の男性で、半年前から寝つきが悪い(入眠困難)、ぐっすり眠った感じがしない(熟眠障害)という夜間の症状があり、1か月前からは日中の眠気と集中力低下という日中の機能障害も加わっている。不眠症状が週に何度もあり3か月以上続き、日中の支障を伴っていることから、慢性不眠症(不眠障害)を考える状況である。
原因の考え方
本例の生活歴には、睡眠を妨げる要因が多数含まれている。就寝前のカフェイン摂取、寝酒、深夜までのテレビ視聴(夜間の光曝露と覚醒刺激)、休日の大幅な朝寝坊(起床時刻の乱れ)である。これらは睡眠衛生(良い睡眠をとるための生活習慣・環境)の不良であり、不眠の背景として最も疑わしい。なお日中の強い眠気を伴う場合は、睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシー、特発性過眠症、うつ病などの鑑別も念頭に置くが、本問では生活習慣の改善が主題である。
設問の考え方
慢性不眠の治療は、睡眠薬に頼る前に睡眠衛生指導や認知行動療法などの非薬物療法から始めるのが基本である。設問は「継続を勧めるべき」習慣、すなわち良好な睡眠衛生にかなう習慣を選ばせている。体内時計(概日リズム)を整える方向に働く習慣を探せばよく、毎朝決まった時間に朝食をとることがそれにあたる。それ以外の4つはいずれも睡眠を悪化させるため、やめるよう指導すべき習慣である。
選択肢考察
- ×a. 就寝前,3~4時間以内にコーヒーを飲む。
コーヒーに含まれるカフェインは、眠気を生じさせる物質であるアデノシンの受容体を遮断して覚醒度を高める。血中半減期はおよそ数時間(個人差が大きく、3〜7時間程度)とされ、摂取後かなりの時間作用が残るため、就寝前数時間以内の摂取は入眠困難や眠りの浅さの原因となる。また利尿作用により夜間の排尿による中途覚醒も招く。睡眠衛生指導では就寝前の数時間(目安として4時間程度)はカフェインを控えるよう勧める。継続させるべき習慣ではない。
- ×b. 睡眠薬代わりに寝酒を飲む。
アルコールは一時的に寝つきを良くするものの、睡眠の後半ではアルコールが代謝されるにつれて反跳的に覚醒しやすくなり、中途覚醒や早朝覚醒が増える。レム睡眠も乱れ、全体として睡眠の質は低下する。さらに利尿作用による夜間の尿意、口渇、上気道筋の弛緩による いびき・睡眠時無呼吸の悪化も起こる。連用すると耐性が生じて飲酒量が増え、アルコール依存症につながる危険もある。睡眠薬の代わりに飲酒することは避けるよう指導すべきである。
- ×c. 眠くなるまでテレビを見る。
「眠くなってから寝床に入る」こと自体は睡眠衛生や刺激制御法の原則にかなう。しかし、その待ち時間を明るい画面の前で過ごすのは不適切である。夜間に画面からの光(特に青色光)が網膜に入ると、視交叉上核にある体内時計に情報が伝わり、メラトニンの分泌が抑えられて概日リズムが後ろにずれ、入眠がさらに遅れる。番組内容による精神的な興奮も覚醒を高める。本例のように深夜まで視聴を続ければ睡眠時間も削られる。就寝前は照明を落とし、リラックスできる静かな活動で過ごすよう勧めるべきである。
- ○d. しっかりと朝食をとる。
毎朝決まった時刻に起きて朝食をとることは、生活リズムを整え、良好な睡眠につながる習慣である。体内時計は脳の視交叉上核にある中枢時計に加え、肝臓など全身の臓器にある末梢時計からなり、朝の光は中枢時計を、朝食の摂取は末梢時計をリセットして1日のリズムを同調させる。朝食は日中の活動性を高め、夜に自然な眠気が生じやすくなる。したがって本例の平日の朝食習慣は継続を勧めるべきものである。
- ×e. 休日は朝寝坊する。
休日に3〜4時間も遅く起きると、朝の光を浴びる時刻が遅れて体内時計が後ろにずれ、その夜の寝つきが悪くなる。平日と休日の睡眠時間帯のずれは「社会的時差ぼけ(ソーシャル・ジェットラグ)」と呼ばれ、週明けの起床困難や日中の眠気を悪化させる。また休日に長く眠っても、平日に蓄積した睡眠不足(睡眠負債)は十分には解消されない。休日も起床時刻を平日と大きく変えない(ずれは2時間以内程度に抑える)よう指導するのが適切である。
睡眠衛生指導の主な内容
・起床時刻を毎日一定にし、起床後は太陽の光を浴びる(休日も大きくずらさない)。 ・規則正しく3食をとり、特に朝食をとる。就寝直前の満腹は避ける。 ・日中に適度な運動をする。 ・就寝前4時間程度はカフェインを控える。喫煙(ニコチン)も覚醒作用があるため就寝前は避ける。 ・寝酒はしない。 ・眠くなってから寝床に入り、寝床ではスマートフォンやテレビを見ない。眠れないときは一度寝床を出る。 ・昼寝をする場合は午後の早い時間に短時間(30分以内程度)とする。 ・寝室は暗く静かで、快適な温度に保つ。 ・就寝前はぬるめの入浴などでリラックスする。
不眠症の治療の流れ
慢性不眠症では、まず睡眠衛生指導を行い、効果が不十分なら不眠に対する認知行動療法(CBT-I:刺激制御法、睡眠制限法、認知再構成などを組み合わせる)を考慮する。薬物療法を行う場合は、依存や転倒のリスクを考慮して、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬などが選択肢となり、ベンゾジアゼピン系薬は漫然と長期投与しないことが求められる。
体内時計の基本
ヒトの体内時計の周期は24時間よりやや長く、毎日リセットが必要である。中枢時計は視床下部の視交叉上核にあり、朝の光で同調する。夜間の光はメラトニン分泌を抑えてリズムを後退させる。末梢時計は食事のタイミングにも影響を受け、朝食はその同調因子となる。
POINT
・慢性不眠の初期対応は睡眠衛生指導などの非薬物療法である。 ・規則正しい朝食と一定の起床時刻、朝の光は概日リズムを整える。 ・就寝前のカフェイン、寝酒、夜間の画面視聴(光刺激)、休日の朝寝坊は不眠を悪化させる。 ・寝酒は入眠を早めても睡眠後半の中途覚醒を増やし、依存の危険もある。
