羊水が減ると胎児の何が育たない?―前期破水と肺低形成の深い関係
第110回医師国家試験 B問題 第45問
国試問題にチャレンジ
28歳の初妊婦。妊娠28週。前期破水のため入院中である。妊娠24週に水様帯下を自覚して受診し,前期破水の診断で入院となった。入院後安静を続けて経過観察したが,水様帯下は持続している。本日の血液検査の結果は白血球8,900,CRP 0.1 mg/dLであった。入院後週1回実施している腹部超音波検査での胎児推定体重は,正常範囲内で増加している。羊水指数〈AFI〉は1.0~3.0 cm(基準5~25)の間で推移している。 胎児の臓器で発育に注意すべきなのはどれか。
- a.脳
- b.肺
- c.肝臓
- d.小腸
- e.心臓
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胎児の肺は、羊水と気道内の肺水による内圧、胸郭の拡張、呼吸様運動に支えられて発育するため、妊娠中期の前期破水で高度の羊水過少が続くと肺低形成をきたします。特に妊娠16〜26週ごろの細管期の羊水過少は危険性が高く、出生後の重い呼吸不全や新生児遷延性肺高血圧症につながります。脳・肝臓・小腸・心臓は羊水量そのものによって発育が障害されることはなく、消化管閉鎖ではむしろ羊水過多になる点も押さえておきたいところです。羊水過少では肺低形成、Potter顔貌、四肢の変形からなるPotter sequenceを思い浮かべ、前期破水の待機中は絨毛膜羊膜炎の兆候を監視します。羊水の産生と吸収の流れを理解しておくと、羊水量の異常から胎児の病態を推論する力が身につきます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・28歳初妊婦。妊娠24週に水様帯下で受診して前期破水(PROM:premature rupture of the membranes、陣痛開始前に卵膜が破れること)と診断され、現在は妊娠28週。破水から4週間、水様帯下が続いている。妊娠37週未満の前期破水は preterm PROM(pPROM)と呼ばれる。 ・白血球8,900/μL、CRP 0.1 mg/dLで炎症反応の上昇はなく、現時点で絨毛膜羊膜炎(子宮内感染)を示す所見はない。 ・胎児推定体重は正常範囲内で増加しており、胎児発育不全(FGR)は考えにくい。 ・羊水指数(AFI:amniotic fluid index)は1.0〜3.0 cmで、基準の下限5 cmを大きく下回る高度の羊水過少が続いている。
病態の考え方
本例は、妊娠中期(24週)に起きた破水で羊水が流出し続け、高度の羊水過少が長く続いている状態である。設問は、この羊水過少で発育が妨げられる胎児臓器を問うている。 胎児の肺の発育には羊水が欠かせない。胎児は呼吸様運動で羊水を気道に出し入れしており、さらに肺胞上皮から分泌される肺水が気道内を満たして、適度な内圧で肺を内側から広げている。羊水が少ないと、①胸郭が子宮壁から圧迫されて広がらない、②気道内の肺水が羊水腔へ逃げて肺の内圧が保てない、③呼吸様運動が制限される。その結果、肺胞と気道の分岐が十分に発達しない肺低形成となる。 肺は妊娠16〜26週ごろに細管期(呼吸を担う細気管支・肺胞管の原型と毛細血管網が形成される時期)を迎える。この時期の高度の羊水過少は、肺低形成の最大の危険因子である。本例は24週から4週間続いており、まさにこの時期に重なる。肺低形成は出生直後の重い呼吸不全や肺高血圧の原因となり、新生児死亡に直結しうるため、最も注意すべき臓器は肺である。
選択肢考察
- ×a. 脳
羊水量の減少そのものが脳の器質的発育を妨げるわけではない。脳の発育(頭囲の増大)が問題となるのは、胎盤機能不全などによる胎児発育不全で、とくに発育不全が全身に及ぶ場合である。本例は推定体重が正常範囲で増えており、その状況にない。なお、早産そのものや絨毛膜羊膜炎は、出生後の脳室内出血や脳室周囲白質軟化症のリスクとなる。そのため、破水例で感染兆候を監視することは脳の予後の面でも重要である。
- ○b. 肺
胎児の肺は、羊水と気道内の肺水による内圧、胸郭の拡張、呼吸様運動に支えられて発育する。妊娠中期の前期破水で高度の羊水過少が続くと、胸郭の圧迫、肺水の流出、呼吸様運動の制限が重なり、肺低形成となる。本例は肺の細管期にあたる24週から高度の羊水過少(AFI 1〜3 cm)が4週間続いており、肺低形成のリスクが高い。出生後の呼吸不全や新生児遷延性肺高血圧症の原因となるため、最も注意すべきである。
- ×c. 肝臓
肝臓の発育は臍帯静脈から供給される酸素・栄養に依存し、羊水量の影響は受けない。羊水過少と肝臓の発育不全とのあいだに因果関係はない。
- ×d. 小腸
胎児は羊水を嚥下して消化管で吸収しているが、羊水過少によって小腸の発育が障害されることはない。消化管と羊水量の関係で問題になるのは逆向きの関係である。食道閉鎖や十二指腸閉鎖などの上部消化管閉鎖では、羊水を嚥下・吸収できないため羊水過多になる。
- ×e. 心臓
羊水過少が心臓の発育を直接障害することはない。心臓の基本構造は妊娠8週ごろまでにほぼ完成しており、その後は胎児循環によって成長する。ただし、肺低形成の新生児は出生後に肺血管抵抗が下がらず、肺高血圧から右心不全をきたしうる。これは心臓の発育障害ではなく、肺の異常による二次的な循環障害である。
羊水の産生と吸収
妊娠中期以降、羊水の主な供給源は胎児尿で、肺から出る肺水も加わる。主な吸収経路は胎児の嚥下である。このため、尿の産生や排出の障害(腎無形成、多嚢胞性異形成腎、下部尿路閉塞)や破水では羊水過少となる。嚥下・吸収の障害(食道閉鎖、十二指腸閉鎖、無脳症など中枢神経異常による嚥下障害)や胎児多尿では羊水過多となる。
羊水過少の評価と原因
・AFI:子宮腔を4つの区画に分け、各区画の最大羊水深度を合計した値である。5 cm未満(2 cm未満とする基準もある)で羊水過少、25 cm以上(24 cm以上とする基準もある)で羊水過多とする。最大羊水深度(MVP)2 cm未満を羊水過少の基準とすることもある。 ・主な原因:前期破水、胎児発育不全・胎盤機能不全、胎児の腎尿路異常、過期妊娠、薬剤(NSAIDs、ACE阻害薬・ARB)など。
Potter sequence(ポッター連鎖)
腎無形成などで高度の羊水過少が続いたときに生じる一連の変化である。肺低形成、特有の顔貌(Potter顔貌:両眼間開離、扁平な鼻、耳介低位、小顎)、四肢の変形・関節拘縮(内反足など)がみられる。いずれも羊水が少なく子宮内で胎児が圧迫されることによる。長期の前期破水による羊水過少でも同様の変形をきたしうる。
pPROMの管理の要点
・妊娠週数に応じて、待機療法(妊娠期間の延長)か娩出かを決める。待機する場合は、母体感染兆候(発熱、頻脈、子宮圧痛、帯下の悪臭、白血球増多、CRP上昇)と胎児の状態(胎児心拍数モニタリング、超音波)を継続して観察する。 ・臨床的絨毛膜羊膜炎は、母体の38.0℃以上の発熱に加えて、母体頻脈(100/分以上)、子宮の圧痛、腟分泌物・羊水の悪臭、白血球数15,000/μL以上のうち1項目以上を満たす場合に診断する(38.0℃未満でも4項目すべてを満たせば診断)。発熱時には、肺炎・腎盂腎炎・虫垂炎・インフルエンザなど他の発熱疾患との鑑別も必要である。 ・感染予防と妊娠期間延長のための抗菌薬投与、胎児肺成熟を促す母体へのステロイド(ベタメタゾン)投与を、週数に応じて行う。
POINT
・妊娠中期の前期破水で高度の羊水過少が続くと、胎児の肺低形成をきたす。 ・肺の細管期(妊娠16〜26週ごろ)の羊水過少は特に危険である。 ・羊水過少では、肺低形成、Potter顔貌、四肢の変形・関節拘縮(Potter sequence)を思い浮かべる。 ・AFIは5 cm未満で羊水過少、25 cm以上で羊水過多。 ・前期破水の待機中は、絨毛膜羊膜炎の兆候(母体発熱、頻脈、子宮圧痛、悪臭帯下、白血球増多)を監視する。
