1滴の血液で何がわかる?―タンデムマス法が見ているのは「アミノ酸」と「アシルカルニチン」
第110回医師国家試験 B問題 第12問
国試問題にチャレンジ
タンデムマス法による新生児マススクリーニングの検査対象となるのはどれか。
- a.核酸代謝異常
- b.金属代謝異常
- c.有機酸代謝異常
- d.ムコ多糖体代謝異常
- e.ミトコンドリアDNA異常
対話形式の解説
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ドクターまとめ
新生児マススクリーニングは、生後4〜6日ごろに踵から採った乾燥ろ紙血を用いて、発症前に先天代謝異常症や内分泌疾患を見つけ、早期治療で障害や突然死を防ぐための事業です。タンデムマス法は血中のアミノ酸とアシルカルニチンを一括測定する方法で、対象はアミノ酸代謝異常症、有機酸代謝異常症(プロピオン酸血症、メチルマロン酸血症など)、脂肪酸代謝異常症の3群です。核酸代謝異常、Wilson病などの金属代謝異常、ムコ多糖症、ミトコンドリアDNA異常はこれらの指標に特異的な異常を示さないため対象外であり、先天性甲状腺機能低下症や先天性副腎過形成症、ガラクトース血症は別の方法で測定されます。「何を測定しているか」から対象疾患を導く考え方を身につけると、スクリーニング全体の仕組みを体系的に理解でき、保護者への説明や陽性例の初期対応にも役立ちます。
解答・解説
正解はcです
新生児マススクリーニングは、症状が出る前の新生児期に先天代謝異常症や内分泌疾患を見つけ出し、早期治療によって知的障害・突然死・重い代謝クリーゼなどを防ぐことを目的とした公的事業である。生後4〜6日ごろ(哺乳が確立した時期)に踵から少量の血液をろ紙に採取し(乾燥ろ紙血)、これを検体として測定する。 タンデムマス法(タンデム質量分析法、MS/MS)は、質量分析計を2台直列につないだ装置で、1枚のろ紙血から多数のアミノ酸とアシルカルニチン(脂肪酸とカルニチンが結合した物質)を一度に定量できる。わが国では2014年度から全国で導入された。 考え方の要点は、「タンデムマス法で測っているのは血中のアミノ酸とアシルカルニチンである」という点である。 ・アミノ酸の上昇 → アミノ酸代謝異常症(フェニルケトン尿症など)や尿素サイクル異常症の一部 ・アシルカルニチンの異常 → 有機酸代謝異常症(有機酸がアシルCoAとして蓄積し、カルニチンと結合して血中に出る)および脂肪酸代謝異常症(脂肪酸β酸化の障害で特定の鎖長のアシルカルニチンが増える) したがって、検査対象は大きく「アミノ酸代謝異常症」「有機酸代謝異常症」「脂肪酸代謝異常症」の3群となり、選択肢の中では有機酸代謝異常が該当する。
選択肢考察
- ×a. 核酸代謝異常
誤り。核酸(プリン・ピリミジン)代謝異常の代表はLesch-Nyhan症候群(ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ〔HGPRT〕欠損)で、高尿酸血症や自傷行為を呈する。診断は尿酸値や酵素活性・遺伝子検査で行い、アミノ酸やアシルカルニチンを指標とするタンデムマス法の新生児スクリーニングの対象には含まれていない。
- ×b. 金属代謝異常
誤り。金属代謝異常には銅代謝異常のWilson病(肝・脳への銅蓄積)やMenkes病(銅の吸収障害による銅欠乏)、鉄過剰のヘモクロマトーシスなどがある。これらは血清セルロプラスミン・血清銅・尿中銅などで診断し、タンデムマス法によるスクリーニングの対象ではない。Wilson病は発症が幼児期以降で、新生児期の検査では見つけにくい点も対象外の理由である。
- ○c. 有機酸代謝異常
正しい。有機酸代謝異常症では、アミノ酸の分解経路の途中にある酵素が欠損し、上流の有機酸がアシルCoAの形でたまる。これがカルニチンと結合したアシルカルニチンとして血中に増えるため、タンデムマス法で検出できる。例としてプロピオン酸血症・メチルマロン酸血症(いずれもプロピオニルカルニチン〔C3〕が上昇)、イソ吉草酸血症(C5が上昇)、グルタル酸血症1型(C5-DCが上昇)、メチルクロトニルグリシン尿症、HMG-CoAリアーゼ欠損症、複合カルボキシラーゼ欠損症などが対象である。新生児期に代謝性アシドーシスや高アンモニア血症で急激に悪化することがあり、早期発見の意義が大きい。
- ×d. ムコ多糖体代謝異常
誤り。ムコ多糖症(Hurler症候群〔I型〕、Hunter症候群〔II型〕など)はライソゾーム酵素の欠損によりグリコサミノグリカン(ムコ多糖)が組織に蓄積するライソゾーム病である。診断は尿中ムコ多糖の測定や白血球などでの酵素活性測定で行う。公費で全国一律に行われるタンデムマス法の新生児マススクリーニングの対象疾患には含まれていない(一部地域で任意の拡大スクリーニングとして酵素活性測定が行われている)。
- ×e. ミトコンドリアDNA異常
誤り。ミトコンドリアDNAの変異による疾患(MELAS、MERRF、Leigh脳症の一部、慢性進行性外眼筋麻痺など)は、乳酸・ピルビン酸の上昇、筋生検、遺伝子解析などで診断する。血中アミノ酸やアシルカルニチンに特異的な異常パターンを示さないため、タンデムマス法による新生児スクリーニングの対象ではない。なお、脂肪酸β酸化はミトコンドリアで行われるが、脂肪酸代謝異常症は核DNAにコードされた酵素の異常であり、ミトコンドリアDNA異常とは別物である。
わが国の新生児マススクリーニングの対象疾患(公費で全国実施の基本20疾患)
1. アミノ酸代謝異常症(タンデムマス法): フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、シトルリン血症1型、アルギニノコハク酸尿症 2. 有機酸代謝異常症(タンデムマス法): メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、イソ吉草酸血症、メチルクロトニルグリシン尿症、HMG-CoAリアーゼ欠損症(ヒドロキシメチルグルタル酸血症)、複合カルボキシラーゼ欠損症、グルタル酸血症1型 3. 脂肪酸代謝異常症(タンデムマス法): 中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症、極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症、三頭酵素(TFP)欠損症、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)欠損症、CPT2欠損症 4. タンデムマス法以外で測定するもの: 先天性甲状腺機能低下症(TSH測定)、先天性副腎過形成症(主に21-水酸化酵素欠損症、17-OHP測定)、ガラクトース血症(ガラクトース・酵素活性測定)
歴史
わが国では1977年にフェニルケトン尿症など5疾患を対象にガスリー法(細菌の発育阻止を利用した方法)などで開始された。その後、先天性甲状腺機能低下症・先天性副腎過形成症が追加され、2014年度からタンデムマス法の全国導入によって有機酸・脂肪酸代謝異常症まで対象が広がった。近年は脊髄性筋萎縮症(SMA)や重症複合免疫不全症(SCID)などの拡大スクリーニングも各地で進められている。
脂肪酸代謝異常症の臨床的意義
空腹や感染で脂肪酸をエネルギー源として使えず、低ケトン性低血糖、急性脳症、横紋筋融解、乳幼児突然死の原因となる。診断後は長時間の空腹を避ける指導で予後を大きく改善できる。
POINT
・タンデムマス法はろ紙血中のアミノ酸とアシルカルニチンを一括測定する。 ・対象は「アミノ酸代謝異常症」「有機酸代謝異常症」「脂肪酸代謝異常症」の3群。 ・先天性甲状腺機能低下症・先天性副腎過形成症・ガラクトース血症は別法で測定する。 ・核酸代謝異常、金属代謝異常(Wilson病など)、ムコ多糖症、ミトコンドリアDNA異常は対象外。 ・採血は生後4〜6日ごろ、踵からのろ紙血。
