StudyMed医師国家試験

やせた高齢女性の腸閉塞を見たら―骨盤の「狭い抜け道」に潜む大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニア

第110回医師国家試験 A問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第110回 A問題 第18問

高齢女性の占める割合が高いのはどれか。2つ選べ。

  1. a.臍ヘルニア
  2. b.大腿ヘルニア
  3. c.内鼠径ヘルニア
  4. d.閉鎖孔ヘルニア
  5. e.外鼠径ヘルニア

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腹壁ヘルニアの好発年齢と性別を問う問題だ。丸暗記に頼るより、ヘルニアを「生まれつきの抜け道が残ったもの」と「加齢で壁が弱くなったもの」に分け、さらに女性の骨盤の形を考えると、自然に答えが見えてくるよ。
医学生医学生
ヘルニアというと鼠径ヘルニアのイメージが強くて、患者さんは男性ばかりだと思っていました。
ドクタードクター
鼠径ヘルニアは確かに男性に多い。では先天性のほうから整理しよう。胎生期に精巣が下降するときにできる腹膜鞘状突起が閉じずに残ると、内鼠径輪から鼠径管に沿って腸が出てくる。これが外鼠径ヘルニアだ。
医学生医学生
小児外科を回ったとき、男の子の鼠径ヘルニアの手術を見学しました。あれは外鼠径ヘルニアだったんですね。
ドクタードクター
そう、小児のヘルニアの大部分は外鼠径ヘルニアで男児に多い。成人でも最も多い型で、やはり男性優位だ。臍ヘルニアも先天的な抜け道、つまり臍帯が取れた後の臍輪がうまく閉じないことで起こり、乳児、とくに低出生体重児に多い。多くは1〜2歳ごろまでに自然に閉じるよ。
医学生医学生
内鼠径ヘルニアは後天性のほうでしたよね。高齢者に多いなら、高齢女性にも多いのではないでしょうか。
ドクタードクター
惜しいところだね。内鼠径ヘルニアは下腹壁動静脈より内側、Hesselbach三角の筋膜が弱くなって直接出てくるタイプで、確かに中高年に多い。ただ、慢性の咳や便秘、前立腺肥大症による排尿時のいきみなど腹圧上昇が誘因となり、患者は男性が中心なんだ。
医学生医学生
なるほど、前立腺肥大症があるなら男性ですね。では高齢女性に多いのは、残りの大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアですか。
ドクタードクター
正解。ポイントは女性の骨盤だ。女性は骨盤が広いので、鼠径靱帯の下にある大腿輪や、骨盤の閉鎖孔を通る閉鎖管が男性より大きい。そこに加齢や多産、やせによる脂肪組織の減少が加わると、孔を塞いでいた組織が薄くなって腸が出てきやすくなる。
医学生医学生
解剖実習で見た骨盤標本でも、女性のほうが明らかに横に広かったのを覚えています。大腿ヘルニアは鼠径ヘルニアとどう見分けるんですか。
ドクタードクター
膨隆の位置がヒントになる。大腿ヘルニアは鼠径靱帯より下、大腿内側の上部が膨らむ。ヘルニア門は鼠径靱帯や裂孔靱帯といった硬い組織に囲まれていて狭いから、嵌頓しやすく、緊急手術になる頻度が鼠径ヘルニアより高いんだ。
医学生医学生
閉鎖孔ヘルニアは体表から見えにくそうですね。
ドクタードクター
その通り。膨隆をほとんど触れないため診断が遅れやすく、嵌頓による腸閉塞として見つかることが多い。手がかりになるのがHowship-Romberg徴候で、ヘルニア内容が閉鎖神経を圧迫して、大腿内側から膝にかけての痛みやしびれが出る。股関節の伸展・外転・内旋で強くなるのが特徴だ。
医学生医学生
腸閉塞なのに膝が痛いと言われたら、整形外科的な問題だと思ってしまいそうです。
ドクタードクター
まさにそこが落とし穴だね。やせた高齢女性の原因不明の腸閉塞では、閉鎖孔ヘルニアを必ず思い浮かべて骨盤部CTで閉鎖孔周囲を確認してほしい。また、閉鎖孔ヘルニアや大腿ヘルニアでは、腸管壁の一部だけが挟まるRichter型の嵌頓が起こりやすい。腸内容の通過が保たれて閉塞症状がはっきりしないまま、壊死が進むことがあるので要注意だ。
医学生医学生
嵌頓したら、まずは用手的に戻してみればいいんでしょうか。
ドクタードクター
嵌頓して間もなく、腹膜刺激症状や発熱、白血球増多など腸管壊死を疑わせる所見がなければ、用手整復を試みることはある。でも壊死が疑われるときは用手整復は禁忌で、緊急手術が必要だ。狭いヘルニア門をもつタイプほど慎重に判断しよう。
医学生医学生
先天的な抜け道は小児、腹圧で弱った鼠径管後壁は高齢男性、広い骨盤の狭い孔は高齢女性、と整理すると覚えやすいです。
ドクタードクター
いいまとめだね。その整理があれば、好発層だけでなく嵌頓のしやすさまで理屈で説明できるようになるよ。

まとめ

臍ヘルニアと外鼠径ヘルニアは臍輪や腹膜鞘状突起といった先天的な通路の残存で生じるため小児に多く、内鼠径ヘルニアは加齢と腹圧上昇によるHesselbach三角の脆弱化で中高年男性に多くみられます。一方、大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアは、女性の広い骨盤で大腿輪や閉鎖管が大きいことに、加齢・多産・やせによる周囲組織の菲薄化が加わって生じるため、高齢女性の割合が高いのが特徴です。どちらもヘルニア門が硬い組織に囲まれて狭いため嵌頓しやすく、Richter型嵌頓による見逃しにも注意が必要です。特に閉鎖孔ヘルニアは体表から膨隆を触れにくく、大腿内側から膝の痛み(Howship-Romberg徴候)を手がかりに骨盤部CTで診断します。ヘルニアを発生機序と解剖から整理しておくことは、高齢者の腸閉塞を見逃さないための実践的な土台になります。

解答・解説

正解はb, dです

本問は腹壁ヘルニアの好発年齢・性別を問う問題である。ヘルニアは腹壁の生来の「抜け道」(腹膜鞘状突起や臍輪の閉鎖不全)から生じる先天性のものと、加齢や腹圧上昇による腹壁の脆弱化から生じる後天性のものに分けると整理しやすい。 先天的な通路が残っていることで起こる臍ヘルニア・外鼠径ヘルニアは小児に多い。一方、後天的な腹壁脆弱化による内鼠径ヘルニアは中高年男性に多い。 女性は骨盤が広く、大腿輪や閉鎖孔が男性より大きいうえ、加齢・多産・やせ(脂肪組織の減少)によってこれらの孔を塞いでいた組織が薄くなる。このため、大腿輪から脱出する大腿ヘルニアと、閉鎖孔から脱出する閉鎖孔ヘルニアは高齢女性に多い。どちらもヘルニア門が狭く硬い(骨や靱帯に囲まれる)ため嵌頓しやすく、腸閉塞として発見されることが多い点も臨床上重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  臍ヘルニア

    臍ヘルニア(いわゆる「でべそ」)は、出生後に臍帯が脱落した後の臍輪(臍の筋膜の孔)の閉鎖が不完全なために生じ、新生児・乳児、とくに低出生体重児に多い。多くは1〜2歳頃までに臍輪が閉じて自然治癒し、嵌頓はまれである。成人では妊娠・腹水・肥満など腹圧の上昇を背景に後天的に生じることがあるが、高齢女性の占める割合が特に高いヘルニアとはいえない。

  2. ○b.  大腿ヘルニア

    大腿ヘルニアは、鼠径靱帯の下方にある大腿輪から大腿管を通って脱出し、鼠径靱帯より下(尾側)の大腿内側上部に膨隆をつくる。女性は骨盤が広く大腿輪が大きいことに加え、加齢や出産で周囲組織が脆弱化するため、中高年以降の女性に多く、右側にやや多い。ヘルニア門が鼠径靱帯・裂孔靱帯(Gimbernat靱帯)・恥骨筋膜などの硬い組織に囲まれて狭いため、嵌頓を起こしやすく、緊急手術となる頻度が鼠径ヘルニアより高い。

  3. ×c.  内鼠径ヘルニア

    内鼠径ヘルニア(直接鼠径ヘルニア)は、下腹壁動静脈より内側の鼠径管後壁(Hesselbach三角)の筋膜が脆弱化して腹膜とともに直接突出する後天性のヘルニアである。加齢による筋膜の弱化や、慢性の咳・便秘・前立腺肥大症による排尿時のいきみなど腹圧上昇が誘因となり、中高年の男性に多い。ヘルニア門が広いため嵌頓は比較的まれである。

  4. ○d.  閉鎖孔ヘルニア

    閉鎖孔ヘルニアは、骨盤の閉鎖孔のうち閉鎖神経・閉鎖動静脈が通る閉鎖管を通って腸管などが脱出するもので、やせた多産の高齢女性に典型的にみられる。脂肪組織の減少により閉鎖管周囲の隙間が広がること、女性の骨盤が広く閉鎖管も大きいことが関与する。体表から膨隆を触れにくいため診断が遅れやすく、嵌頓による腸閉塞(小腸の一部だけが挟まるRichter型も多い)で発見されることが多い。ヘルニア内容が閉鎖神経を圧迫すると大腿内側から膝にかけての疼痛・しびれが生じ、これをHowship-Romberg徴候といい、股関節の伸展・外転・内旋で増強する。診断には骨盤部CTが有用である。

  5. ×e.  外鼠径ヘルニア

    外鼠径ヘルニア(間接鼠径ヘルニア)は、下腹壁動静脈より外側の内鼠径輪から鼠径管に沿って脱出するもので、胎生期の腹膜鞘状突起が閉鎖せずに残ることが主な原因である。小児のヘルニアの大部分を占め(男児に多い)、成人でも最も頻度の高いヘルニア型で男性優位である。乳児期以降は自然治癒がほとんど期待できないため手術適応となる。高齢女性に特徴的なヘルニアではない。

主な腹壁ヘルニアの比較

・外鼠径ヘルニア:内鼠径輪から脱出(下腹壁動静脈の外側)。腹膜鞘状突起の開存が原因。小児・男性に多い。全ヘルニア中で最多 ・内鼠径ヘルニア:Hesselbach三角から直接脱出(下腹壁動静脈の内側)。中高年男性に多い。嵌頓はまれ ・大腿ヘルニア:大腿輪から脱出(鼠径靱帯の下)。中高年女性に多い。嵌頓しやすい ・閉鎖孔ヘルニア:閉鎖管から脱出。やせた高齢の多産女性。嵌頓・腸閉塞で発見されやすく、Howship-Romberg徴候 ・臍ヘルニア:臍輪から脱出。乳児(特に低出生体重児)に多く、多くは自然治癒

Hesselbach三角

下腹壁動静脈(外側)、腹直筋外縁(内側)、鼠径靱帯(下方)に囲まれた領域で、内鼠径ヘルニアの脱出部位となる。

特殊なヘルニア

・Richterヘルニア:腸管壁の一部(腸間膜対側の一部)のみが嵌頓したもの。腸内容の通過が保たれることがあり、腸閉塞症状がはっきりしないまま腸管壊死が進むことがある。閉鎖孔ヘルニアや大腿ヘルニアで起こりやすい ・Littréヘルニア:Meckel憩室がヘルニア内容となったもの ・滑脱ヘルニア:後腹膜に固定された臓器(盲腸、S状結腸、膀胱など)がヘルニア嚢の壁の一部を構成するもの

嵌頓ヘルニアへの対応

嵌頓して間もなく、腸管壊死の徴候(腹膜刺激症状、発赤、発熱、白血球増多など)がなければ用手的整復を試みることがある。壊死が疑われる場合は用手整復は禁忌で、緊急手術を行う。

POINT

・高齢女性に多いヘルニア:大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニア(いずれも嵌頓しやすい) ・閉鎖孔ヘルニア:やせた高齢多産女性、腸閉塞で発見、Howship-Romberg徴候(大腿内側〜膝の痛み)、CTで診断 ・外鼠径ヘルニア:小児・男性、腹膜鞘状突起の開存、下腹壁動静脈の外側 ・内鼠径ヘルニア:中高年男性、Hesselbach三角、下腹壁動静脈の内側 ・臍ヘルニア:乳児に多く、多くは自然治癒

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。