顔のぶつぶつと発作は一本の線でつながる―結節性硬化症を「過誤腫」で理解する
第110回医師国家試験 A問題 第15問
国試問題にチャレンジ
結節性硬化症でみられるのはどれか。2つ選べ。
- a.てんかん
- b.脊柱側彎
- c.聴覚障害
- d.血管線維腫
- e.性腺機能低下
対話形式の解説
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ドクターまとめ
結節性硬化症はTSC1またはTSC2遺伝子の変異によりmTOR経路が過剰に活性化し、全身に過誤腫が多発する常染色体顕性遺伝の神経皮膚症候群で、顔面血管線維腫・てんかん・知的障害が古典的なVogtの3主徴です。てんかんは皮質結節を焦点として高頻度にみられ、乳児期にはWest症候群で発症することが多く、葉状白斑は早期発見の手がかりになります。脊柱側彎は神経線維腫症1型、聴覚障害は神経線維腫症2型やAlport症候群、性腺機能低下はKlinefelter症候群やPrader-Willi症候群に特徴的な所見です。腎血管筋脂肪腫、心横紋筋腫、肺リンパ脈管筋腫症、上衣下巨細胞性星細胞腫などの臓器病変も重要で、mTOR阻害薬が治療に用いられます。各神経皮膚症候群の代表所見を比較して整理しておくことが、鑑別と長期管理の両方に役立ちます。
解答・解説
正解はa, dです
結節性硬化症(tuberous sclerosis complex:TSC)は、TSC1遺伝子(ハマルチンをコード)またはTSC2遺伝子(チュベリンをコード)の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の神経皮膚症候群(母斑症)である。ハマルチンとチュベリンは複合体を作ってmTOR(mammalian target of rapamycin)経路を抑制しているため、変異によりmTORが過剰に活性化し、全身の臓器に過誤腫(その臓器に本来ある組織が無秩序に増えた良性病変)が多発する。患者の多くは家族歴のない新生突然変異による孤発例である。 古典的には「顔面の血管線維腫・てんかん・知的障害」がVogtの3主徴として知られる。本問はこの3主徴を思い出せば、てんかんと血管線維腫を選ぶことができる。 残りの選択肢は、他の神経皮膚症候群や遺伝性疾患に特徴的な所見を並べたひっかけである。脊柱側彎は神経線維腫症1型、聴覚障害は神経線維腫症2型やAlport症候群、性腺機能低下はPrader-Willi症候群やKlinefelter症候群などで問われる所見であり、各疾患の「顔」となる所見を整理しておくと迷わない。
選択肢考察
- ○a. てんかん
結節性硬化症の患者の大部分(おおむね8〜9割)にてんかん発作がみられ、最も頻度の高い神経症状である。原因は大脳の皮質・皮質下結節(tuber)で、神経細胞の遊走障害や過誤腫性の異常組織がてんかん原性焦点となる。乳児期にはWest症候群(点頭てんかん:シリーズ形成するてんかん性スパズム、脳波のヒプスアリスミア、発達の停止・退行を特徴とする)で発症することが多く、West症候群の基礎疾患として結節性硬化症は代表的である。なお、2012年の国際診断基準では、てんかんや知的障害は特異性が低いため診断項目から外されているが、臨床的には極めて重要な所見である。
- ×b. 脊柱側彎
脊柱の側彎・後彎は神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1:NF1、von Recklinghausen病)に特徴的な骨格異常である。NF1ではほかに蝶形骨大翼の形成不全、脛骨の偽関節(先天性下腿偽関節)などの骨病変がみられる。結節性硬化症では骨硬化像や骨嚢胞様変化がみられることはあるが、脊柱側彎は特徴的な所見ではない。
- ×c. 聴覚障害
聴覚障害は神経線維腫症2型(NF2)で典型的にみられる。NF2では両側の前庭神経鞘腫(いわゆる聴神経腫瘍)が生じ、感音難聴・耳鳴・めまいをきたす。NF2では脊髄神経鞘腫や髄膜腫も多発しやすい。また、感音難聴はAlport症候群(IV型コラーゲン異常による遺伝性腎炎に難聴・眼病変を伴う)でも重要な所見である。結節性硬化症の特徴的所見には含まれない。
- ○d. 血管線維腫
顔面の血管線維腫(angiofibroma)は結節性硬化症の代表的な皮膚所見で、患者の約7〜8割にみられる。幼児期から学童期にかけて、鼻の周囲から両頬部に左右対称性に多発する紅色〜常色の小丘疹として現れ、思春期にかけて目立ってくる。かつては「脂腺腫(adenoma sebaceum)」と呼ばれたが、組織学的には皮脂腺の腫瘍ではなく、血管と線維性結合組織の増生からなる過誤腫であるため、現在は血管線維腫と呼ぶ。診断基準の大症状の一つであり、治療にはmTOR阻害薬(シロリムス)の外用ゲルが用いられる。
- ×e. 性腺機能低下
性腺機能低下は結節性硬化症の特徴的所見ではなく、診断基準にも含まれない。性腺機能低下が問われる代表的な疾患には、Prader-Willi症候群(15番染色体q11-q13の父由来遺伝子の欠失などによる。新生児期の筋緊張低下、過食・肥満、低身長、知的障害、性腺機能低下)、Klinefelter症候群(47,XXY。高ゴナドトロピン性性腺機能低下)、Kallmann症候群(嗅覚障害を伴う低ゴナドトロピン性性腺機能低下)などがある。
結節性硬化症の主な臓器病変
・皮膚:顔面血管線維腫、白斑(葉状白斑:ash-leaf spot。乳児期から認め、最も早期に気づかれやすい)、シャグリンパッチ(粒起革様皮:腰仙部の結合織母斑)、爪囲線維腫(Koenen腫瘍)、前額部線維性局面(forehead plaque)、紙吹雪様白斑 ・中枢神経:皮質・皮質下結節、上衣下結節(脳室壁に沿った石灰化結節)、上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA。Monro孔付近に生じ水頭症の原因となる)。てんかん、知的障害、自閉スペクトラム症などの神経精神症状(TAND)を伴う ・腎:腎血管筋脂肪腫(angiomyolipoma:AML。成人期の主要な合併症で、出血の危険がある)、多発腎嚢胞 ・心:心横紋筋腫(胎児期・新生児期に発見されることが多く、成長とともに自然退縮しやすい) ・肺:リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis:LAM。主に成人女性) ・眼:網膜過誤腫
治療
mTOR阻害薬(エベロリムス)がSEGAや腎血管筋脂肪腫に、シロリムスがLAMや皮膚病変(外用)に用いられる。てんかんには抗てんかん薬が用いられ、West症候群にはACTH療法やビガバトリンが選択される。
主な神経皮膚症候群の比較
・NF1:カフェオレ斑、皮膚の神経線維腫、雀卵斑様色素斑、虹彩小結節(Lisch結節)、視神経膠腫、脊柱側彎・蝶形骨形成不全・脛骨偽関節。17番染色体のNF1遺伝子 ・NF2:両側前庭神経鞘腫による難聴、髄膜腫、脊髄神経鞘腫、若年性白内障。22番染色体のNF2遺伝子 ・結節性硬化症:顔面血管線維腫、葉状白斑、皮質結節、上衣下結節の石灰化、SEGA、腎血管筋脂肪腫、心横紋筋腫 ・Sturge-Weber症候群:三叉神経第1枝領域を含む顔面のポートワイン母斑(毛細血管奇形)、脳軟膜血管腫、脳回に沿ったレール状(tram-track)石灰化、てんかん、緑内障。遺伝性はなく、GNAQ遺伝子の体細胞モザイク変異による ・von Hippel-Lindau病:網膜・小脳の血管芽腫、腎細胞癌、褐色細胞腫
POINT
・結節性硬化症の古典的3主徴:顔面血管線維腫・てんかん・知的障害(Vogtの3主徴) ・TSC1/TSC2遺伝子変異→mTOR過剰活性化→全身の過誤腫。治療にmTOR阻害薬 ・乳児期のWest症候群の代表的基礎疾患 ・皮膚:血管線維腫、葉状白斑、シャグリンパッチ、爪囲線維腫 ・内臓:腎血管筋脂肪腫、心横紋筋腫、肺LAM、SEGA ・脊柱側彎→NF1、両側聴神経腫瘍による難聴→NF2、性腺機能低下→Prader-Willi症候群・Klinefelter症候群
